天然物化学

天然物化学

生合成を基盤に体系化した解説を行うとともに,ケミカルバイオロジーの観点を重視した天然物化学の学部生向け教科書。

ジャンル
発行年月日
2019/01/21
判型
A5
ページ数
220ページ
ISBN
978-4-339-06758-3
天然物化学
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定価

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現代の天然物化学では,生合成遺伝子解析やケミカルバイオロジーの進歩によって従来とは全く異なる発見がされるようになってきた。本書では生合成を基盤に体系化した解説を行うとともに,ケミカルバイオロジーの観点を重視した。

有機化学は,自然界に存在しない化学繊維や染料をはじめとする多くの物質をつくり出し(=化学合成),私達の生活の質の改善・向上におおいに役立っている。その一方で,天然物化学は,自然界に存在する低分子化合物から高分子化合物までの,多様な化合物を標的として研究されてきた。中でも生物に強い活性を示す化合物は,生理活性物質として研究者の興味の中心となり,よりよい医薬,農薬,香料などを目指して新しい化学構造(=新規な天然物の探索)や,構造の改変(=分子設計,構造活性相関)などの研究開発が進められてきた。増え続ける世界の人々に対する食料を確保するための安全・安心な農薬,劣悪な環境下で発生する感染症や伝染病に有効な薬剤の研究・開発が,積極的に続けられている。

平成28(2016)年の日本人の死亡原因は,悪性新生物(がん)(1位,28. 5%),心疾患(2位,15. 1%),肺炎(3位,9.1%),脳血管疾患(4位8.4%),老衰(5位,7.1%)となっており,このことが抗がん剤開発などが精力的に進められている理由である。発酵医薬(低分子)は,生産菌の探索,医薬開発候補化合物の探索,合成法の開発,活性と毒性など,多くの評価(安全と効果)を経て上市されるため,長い開発期間(平均17年)が要求される。一方,オプジーボ(2018年ノーベル生理学・医学賞)などの抗体医薬(高分子)は,遺伝子組換え技術などのバイオ技術を使って製造され,開発期間が数年と短い。そのため今世紀になり,世界規模の製薬企業の多くは発酵医薬品の開発を終了し,抗体医薬品に開発の焦点を絞っている。このような状況下にもかかわらず,低分子医薬品の重要性は明らかである。

新種の放線菌Streptomyces avermitilisの培養液から得られた天然物を改変したイベルメクチンは,寄生虫による風土病の治療薬としてアフリカなどで無償供与され,世界で年間3億人を失明から救っている(2015年ノーベル生理学・医学賞)。海綿(クロイソカイメン)から単離された,ハリコンドリンBの大環状ケトン合成アナログ(構造類縁体)エリブリンは,日本では「手術不能または再発乳がん」に対する治療薬として認可されている。単剤で延命効果が示された初めての例である。

20世紀後半から革新的な進歩を遂げた分子生物学や細胞生物学の研究手法や情報は,天然物化学の分野にも大きな影響をもたらしている。現在の天然物化学の研究論文には生合成遺伝子の同定・解析結果が記述されることも稀ではなく,化学構造の新規性の議論とともに生合成に関わる遺伝子構造と機能がしばしば議論される。また,多くの生物のゲノム解析が進む中,生理活性天然物の受容体研究も頻繁に行われている。その結果,生理活性天然物が受容体を介して機能を発現する機構は,ヒト性ホルモンに代表されるような,「生理活性物質と受容体の結合=機能の発現」という簡単な様式ではないということがわかってきている。生化学が酵素や核酸,糖,脂質などを物質レベルで取扱い,そこに物理学が加わり分子生物学となった。その生化学や分子生物学に化学的な手法を取り入れ,未解明の生命機能の解析に挑戦し,新たな現象とメカニズムの発見に大きく貢献している研究が,ケミカルバイオロジー(化学生物学)として注目される新しい分野である。核酸やタンパク質などの生体高分子と特異的に作用する化合物(生理活性物質)を利用し,生体機能に関わる分子の振る舞いを理解しようとする学問である。

本書は学部学生を対象にして企画されているが,バイオテクノロジー教科書シリーズ17『天然物化学』(瀬戸治男東京大学名誉教授)コロナ社(2006年)に触発された内容と構成になっている。よく知られた天然物の構造や活性などは紹介程度に留め,生合成遺伝子と経路による化合物の分類を試みた。本書では,新しい天然物と生合成遺伝子の解析法についても若干の記載を加えた。受容体に関する最新の知見を記載するとともに,新しい分野でもあるケミカルバイオロジーは特に重要なため,大学院生も十分に興味をもつことのできるよう配慮した。

本書の出版に当たり,真摯なご助言を下さった中嶋正敏先生(東京大学)と企画段階からお世話になったコロナ社に,執筆者一同を代表して感謝するものです。

2018年11月 菅原二三男(著者代表)

1. 天然物化学の技術
1.1 生物と天然物化学
 <Coffee Break>“ケミカルバイオロジー”
1.2 単離と構造決定
 1.2.1 抽出
 1.2.2 精製
 1.2.3 構造決定
 1.2.4 立体化学の決定
1.3 有機合成
 1.3.1 天然物の構造決定
 1.3.2 天然物の絶対立体配置の決定
 1.3.3 生合成経路の傍証
 <Coffee Break>“受容体を決める有機合成の技術”
1.4 一次代謝産物と二次代謝産物を定義する
 1.4.1 一次代謝産物
 1.4.2 二次代謝産物
 <Coffee Break>“細菌の生合成遺伝子と天然物(D型とL型)”
1.5 天然物のスクリーニング
 1.5.1 天然物スクリーニングの歴史
 1.5.2 天然物スクリーニングにおけるアッセイ系
 <Coffee Break>“次世代スクリーニング”
1.6 生合成から天然物を見る
 1.6.1 天然物化学と生合成研究
 1.6.2 生合成遺伝子の同定
 1.6.3 生合成経路の決定
 <Coffee Break>“天然物化学とノーベル生理学・医学賞”
章末問題

2. 生合成経路と天然物
2.1 ポリケチド
 2.1.1 ポリケチド生合成機構と出発単位
 2.1.2 III型ポリケチド生合成機構
 2.1.3 II型ポリケチド生合成機構
 2.1.4 I型ポリケチド生合成機構
 2.1.5 非リボソーム型ペプチド合成機構
 2.1.6 リボソーム翻訳系翻訳後修飾ペプチド合成機構
 <Coffee Break>“遺伝子組換えと新しい化合物”
2.2 テルペノイド
 2.2.1 テルペノイドと出発物質
 2.2.2 メバロン酸経路
 2.2.3 MEP経路
 2.2.4 テルペノイド生合成機構
 <Coffee Break>“メバロン酸経路とMEP経路の分布”
2.3 トリテルペンとステロイド
 2.3.1 スクアレンからの環化反応
 2.3.2 2,3-オキシドスクアレンからの環化反応
2.4 テトラテルペン(カロテノイド)
2.5 シキミ酸経路
 2.5.1 シキミ酸経路
 2.5.2 p-アミノ安息香酸
 2.5.3 フェニルアラニンからの生合成
 2.5.4 ユビキノンの生合成
 2.5.5 リグナンとネオリグナンの生合成
 2.5.6 シキミ酸類似経路(メタC7N経路)
2.6 フラボノイド
 2.6.1 フラボノイドの生合成
 2.6.2 花の色とフラボノイド
 2.6.3 フラボン
 2.6.4 オーレウシジン,オーロン
 2.6.5 イソフラボン類
 <Coffee Break>“Japanese Unlock Mysteries of Plant Color”
2.7 香料と芳香化合物
 2.7.1 バニリン:芳香族アルデヒド類
 2.7.2 イソチオシアン酸アリル:イソチオシアネート類
 2.7.3 サリチル酸メチル:エステル類
 2.7.4 リナロール,ゲラニオール,ネロール:アルコール類
 2.7.5 メントール:モノテルペンアルコール類
 2.7.6 樟脳(カンファー):モノテルペンケトン類
 2.7.7 ムスク(麝香):ケトン類
章末問題

3. 情報を伝達する物質
3.1 植物ホルモン
 3.1.1 オーキシン
 3.1.2 サイトカイニン
 3.1.3 エチレン
 3.1.4 ジベレリン
 3.1.5 アブシシン酸
 3.1.6 ストリゴラクトン
 3.1.7 ブラシノステロイド
 3.1.8 ジャスモン酸
 3.1.9 サリチル酸
 <Coffee Break>“ブラシナゾール”
3.2 昆虫のホルモンとフェロモン
 3.2.1 昆虫のホルモン
 3.2.2 昆虫の脱皮変態のクラシカルスキーム
 3.2.3 ペプチド性ホルモンの性質と生合成
 3.2.4 脂溶性ホルモン
 3.2.5 幼若ホルモンの生合成
 3.2.6 エクジソンの生合成
 3.2.7 ホルモンの受容体
 3.2.8 昆虫のホルモンの利用
 3.2.9 昆虫のフェロモン
 3.2.10 フェロモン受容体および結合タンパク質
 3.2.11 昆虫のフェロモンの農薬利用
章末問題

4. 生物活性を有する微生物代謝産物と海洋天然物
4.1 抗生物質,医療用抗生物質
 4.1.1 抗生物質の発見
 4.1.2 抗生物質の選択性
 4.1.3 β-ラクタム系抗生物質
 4.1.4 アミノグリコシド(アミノサイクリトール)系抗生物質
 4.1.5 ポリケチド系抗生物質
 4.1.6 その他の抗生物質
4.2 抗がん抗生物質
4.3 農業用抗生物質
4.4 その他の薬理学的活性を有する微生物産物
4.5 生理活性海洋天然物
 <Coffee Break>“エンジイン系化合物”
 <Coffee Break>“ハリコンドリンBとエリブリン”
章末問題

5. 受容体と結合タンパク質の決定法
5.1 抗生物質の作用機構
 5.1.1 細胞壁合成阻害
 5.1.2 細胞膜機能阻害
 5.1.3 タンパク質合成阻害
 5.1.4 核酸合成阻害
 5.1.5 葉酸合成阻害
5.2 抗がん剤の作用と受容体
 5.2.1 核酸に作用する天然物
 5.2.2 トポイソメラーゼ阻害剤
 5.2.3 微小管作用薬
5.3 植物ホルモン受容体
 5.3.1 オーキシン,ジャスモン酸,ジベレリン,ストリゴラクトン受容体
 5.3.2 サイトカイニン受容体
 5.3.3 アブシシン酸受容体
 5.3.4 エチレン受容体
 5.3.5 ブラシノステロイド受容体
 5.3.6 サリチル酸受容体
 <Coffee Break>“植物ホルモン受容体の応用例”
章末問題

6. 天然物スクリーニングと天然化合物ケミカルバイオロジー
6.1 表現型スクリーニングの最前線
6.2 タンパク質相互作用解析法とタンパク質相互作用スクリーニング
 6.2.1 共免疫沈降法
 6.2.2 プルダウンアッセイ法
 6.2.3 ツーハイブリッド法
 6.2.4 タンパク質補完法
 6.2.5 Alphaテクノロジー法
 6.2.6 Fluoppi法
6.3 ケミカルバイオロジーと化合物標的同定
6.4 さまざまなケミカルバイオロジー研究
章末問題
 <Coffee Break>“世界の趨勢とわが国の現状”

引用・参考文献
索引

菅原 二三男(スガワラ フミオ)

「化学」2019年4月号(化学同人) 掲載日:2019/04/16

「現代化学」2019年3月号(東京化学同人) 掲載日:2019/02/19

掲載日:2021/12/27

「生物工学会誌」2021年12月号広告

掲載日:2021/02/17

「現代化学」2021年3月号広告

掲載日:2019/10/01

月刊「化学」2019年10月号広告