造林樹木学ノート

造林樹木学ノート

  • 上原 巌 東京農大教授 博士(農学)

日本の代表的な造林樹木を取り上げ,その特徴や成長特性、相性などをわかりやすく説明。

  • 口絵
ジャンル
発行年月日
2021/04/12
判型
B5
ページ数
130ページ
ISBN
978-4-339-05276-3
造林樹木学ノート
在庫あり

定価

2,420(本体2,200円+税)

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 科学は現在細分化の傾向がさらに進行し、森林分野においてもそれは例外でない。森林の各事象が様々に細切れ、細分化されているため、各論は進むものの、樹木そのものをとらえる現実の視点からは乖離していく傾向もみられる。
 時代は21世紀に入り、森林は脚光を様々な事象で浴びるようになった。木材、林産物の生産をはじめ、土砂崩れや水害の防止などの環境保全は特に注目を受けるようになり、水源涵養、大気清浄などの作用はその重要性を増している。また、森林浴、森林療法に代表されるように保健休養の環境や地域活性化としての意義も高まっている。けれども、その森林環境を形成、構築している主幹、主柱は、やはり樹木である。しかしながら、昨今では、個々の樹木本来の特性を配慮せず、機械的に、あるいは前例を単に踏襲する形で林木を植栽することが多くなった。
 「適材適所」という言葉があるように、「適地適木」という言葉がある。個々の人間に個性があるように、個々の樹木にも個性がある。造林、森づくりとは、各木々の消長の確率の事象でもあり、木々同士の組み合わせでもある。つまり、各樹木の特性、そして相性を考えることは基本的に重要なことなのである。特に今後の造林は、従来の植林手法による人工造林だけではなく、そこに加わる自然散布の樹木、つまり「人工更新+天然更新」による手法が考えられる。
 そこで、本書では、現在までの日本の代表的な造林樹木の特性を再考して、われわれ日本人の森林、自然、風景を構成し、日常生活にとっても関係の深い代表的な造林樹木をとりあげ、その木々を知り、親しんでもらうことを目的とした。
 本書の大きな特徴としては、
・各章のはじめにイントロダクションをもうけ、講義運営の導入をはかったこと
・また、各章の章末問題も充実させ、自学自習や試験対策の充実をはかったこと
・各樹種の生育特性をはじめ、その効用、用途まで記述し、それぞれの樹木の育成、造林の意義とモティベーションを高めたことなどがあげられる。

現在,科学は細分化の傾向がさらに進行し,森林分野においてもそれは例外でない。森林の各事象がさまざまに細分化されているため,各論は進むものの,森林,樹木そのものをとらえる現実の視点から乖かい離していく傾向もみられている。

時代は21世紀に入り,森林はさまざまな領域,分野,事象で脚光を浴びるようになった。木材,林産物の生産をはじめ,土砂崩れや水害の防止などの環境保全はとりわけ注目を受けるようになり,水源涵かん養よう,大気清浄などの作用もその重要性を増している。また,森林浴,森林療法に代表されるように,保健休養の環境や地域活性化としての森林の意義も高まっている。

けれども,それらの事象をもたらす森林環境を形成,構築する主幹,主柱は,やはり個々の樹木である。しかしながら,昨今の林業界では,それぞれの樹木の本来の特性を配慮せず,単に機械的に,あるいは前例をそのまま踏襲する形で植栽することも多い。

「適材適所」という言葉があるように,「適地適木」という言葉がある。個々の人間に個性があり,それぞれ向いている場所があるように,個々の樹木にもやはり個性があり,適地がある。造林,森づくりとは,各木々の生存や消長の確率を扱う事象でもあり,木々どうしの組合せを考慮することでもある。つまり,各樹木の特性や相性を考えることは,基本的に重要なことなのである。

「造林」といえば,一般には,林地に人が木を植える,「植栽造林」のイメージが強い。しかしながら,この植栽による造林は,たとえ郷土種を植えることであっても,もともとその土地に生えていなかった樹木を人為的に植え付けることであり,いわば人工の行為であって,人の手による営みである。それに対してその土地の持つ力,その土地自身が自然の森に還ろうとする力も存在する。草本植物や,陽樹の芽生えなどにその土地の力は垣間見ることができる。それは,そこに潜在していた埋土種子や,風や動物によってもたらされた自然散布による種子の発芽と成長という力である。

つまり造林,森づくりとは,人の手による「人為の力」と,風,動物,埋土種子などによる「自然の力」の双方のバランスをいかにとるかということである。特に再造林の場合には,コントロールや制御の方策と並行して,その土地の自然が本来の姿に戻ろうとする力を応用し,出現する樹木の応用方法を考えることが得策となる場合もある。

現在,日本では,戦後の拡大造林による人工林が林齢70年を超え,伐期,収穫期を迎えている。収穫後は,いうまでもなく再造林する必要があるが,一体これからの日本は,どのような樹木を植え,森林を造っていくべきなのだろうか?また,伐採し,収穫の終わった林地に新たに植える苗木は十分にあるのだろうか?造林上の大きな課題は山積している。

森づくり,造林で基本的に大切なことは,個々の樹木の特徴をよく知り,その成長特性を生かすことである。

そこで,現在までの日本の代表的な造林樹木の特性を再考し,われわれ日本人の森林,自然,風景を構成し,日常生活にとっても関係の深い代表的な造林樹木を取り上げ,その木々を知ってもらい,親しんでもらうためにこの本を編んだ。

なお,本書の口絵で紹介できなかった写真,そして動画をコロナ社のWebサイト上にアップロードしてある。併せてご高覧いただきたい。

2021年2月
新型コロナウイルス影響下の信州の寓居にて
上原 巌

1.スギ ヒノキ科 スギ属(Cryptomeria japonica)
1.1 スギの特徴
1.2 スギの生育上の特性
1.3 スギの育苗
1.4 スギ材の特徴と用途
1.5 スギの産地
1.6 スギの造林上の留意点
1.7 スギの林業品種
1.8 スギの樹形
1.9 スギの香り
レポート課題

2.ヒノキ ヒノキ科 ヒノキ属(Chamaecyparis obtusa)
2.1 ヒノキの葉
2.2 ヒノキの開花と結実
2.3 ヒノキの分布
2.4 ヒノキの生育上の特性
2.5 ヒノキの樹形
2.6 ヒノキの育苗
2.7 ヒノキの造林上の留意点
2.8 ヒノキ材の特徴
2.9 ヒノキの病獣害
レポート課題

3.アカマツ,クロマツ
3.1 アカマツ(マツ科 マツ属)(Pinus densiflora)
 3.1.1 アカマツの性質
 3.1.2 アカマツの造林上の特質
 3.1.3 アカマツの用途
3.2 クロマツ(マツ科 マツ属)(Pinus thunbergii)
 3.2.1 クロマツの性質
 3.2.2 クロマツの造林上の特質
 3.2.3 クロマツの耐塩性
 3.2.4 クロマツの用途
レポート課題

4.カラマツ マツ科 カラマツ属(Larix kaempfrei)
4.1 カラマツの分布
4.2 カラマツの性質
4.3 カラマツの造林上の特徴
4.4 カラマツとオオバアサガラとの混生
4.5 カラマツの用途
レポート課題

5.広葉樹造林について
5.1 広葉樹,針葉樹のそれぞれの特徴
5.2 広葉樹造林への期待
5.3 広葉樹造林の目的
5.4 広葉樹造林の課題
レポート課題

6.ケヤキ ニレ科 ケヤキ属(Zelkova serrata)
6.1 ケヤキの性質
6.2 ケヤキの造林上の特性
6.3 ケヤキの保育作業
6.4 ケヤキ材の特性
レポート課題

7.ブナ ブナ科 ブナ属(Fagus crenata)
7.1 ブナの性質
7.2 ブナの造林上の生育特性
7.3 ブナの天然更新
7.4 ブナの人工造林
7.5 ブナ材の用途
レポート課題

8.ブナ科の樹木
8.1 コナラ(ブナ科 コナラ属)(Quercus serrata)
8.2 ミズナラ(ブナ科 コナラ属)(Quercus crispula)
8.3 カシワ(ブナ科 コナラ属)(Quercus dentata)
8.4 クヌギ(ブナ科 コナラ属)(Quercus acutissima)
8.5 アベマキ(ブナ科 コナラ属)(Quercus variabilis)
8.6 クリ(ブナ科 クリ属)(Castanea crenata)
8.7 シラカシ(ブナ科 コナラ属)(Quercus myrsinifolia)
8.8 ウバメガシ(ブナ科 コナラ属)(Quercus phillyraeoides)
8.9 スダジイ(ブナ科 シイ属)(Castanopsis sieboldii)
レポート課題

9.カエデ
9.1 イロハモミジ(ムクロジ科 カエデ属)(Acer palmatum)
9.2 イタヤカエデ(ムクロジ科 カエデ属)(Acer pictum)
レポート課題

10.特用樹木
10.1 キリ(キリ科 キリ属)(Paulownia tomentosa)
 10.1.1 キリの育成
 10.1.2 栽培上のキリの長短所
 10.1.3 キリの用途
10.2 コウゾ(クワ科 コウゾ属)(Broussonetia kazinoki)
10.3 ウルシ(ウルシ科 ウルシ属)(Toxicodendron vernicifluum)
10.4 クスノキ(クスノキ科 ニッケイ属)(Cinnamomum camphora)
10.5 クロモジ(クスノキ科 クロモジ属)(Lindera umbellata)
10.6 アブラチャン(クスノキ科 クロモジ属)(Lindera praecox)
レポート課題

11.薬用樹木
11.1 キハダ(ミカン科 キハダ属)(Phellodendron amurense)
11.2 ヤツデ(ウコギ科 ヤツデ属)(Fatsia japonica)
11.3 ナンテン(メギ科 ナンテン属)(Nandina domestica)
11.4 イチイ(イチイ科 イチイ属)(Taxus cuspidate)
11.5 ヤマグワ(クワ科 クワ属)(Morus bombycis)
11.6 マタタビ(マタタビ科 マタタビ属)(Actinidia polygama)
11.7 ムクゲ(アオイ科 フヨウ属)(Hibiscus syriacus)
11.8 ヤドリギ(ビャクダン科 ヤドリギ属)(Viscum album subsp.coloratum)
11.9 タラノキ(ウコギ科 タラノキ属)(Aralia elata)
11.10 メグスリノキ(ムクロジ科 カエデ属)(Acer maximowiczianum)
11.11 コブシ(モクレン科 モクレン属)(Magnolia kobus)
11.12 その他
レポート課題

12.林地でよくみる樹木
レポート課題

13.現在の研究の取組み
13.1 森林・樹木の数学的表現
13.2 森林の複雑性に対するアプローチの検討
13.3 樹木と菌との共生
13.4 系(system)へのアプローチ
13.5 集合の考え方
13.6 圏(category)の考え方
13.7 不等式
13.8 ベクトル
13.9 行列
13.10 つる植物
13.11 波構造
13.12 ランダム・無作為
13.13 カオス

引用・参考文献
おわりに
索引

上原 巌

上原 巌(ウエハラ イワオ)

所属:東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科 教授
専門分野:森林科学、造林学、森林療法
研究室名:造林学研究室 Silviculture Lab.

私の造林学研究室では、種子、挿し木などの育苗から、森林環境における樹木、土壌、動物に至るまで多様性に富んだ研究テーマに取り組んでいます。
造林学は、森林生態、樹木生理、森林土壌、森林美学などの幅広い分野と関連する学問・研究体系です。そのため、研究室では、日本および海外における森林・林業の課題、問題点を踏まえた造林学の意義、目的、各手法について学び、課題解決能力を養うことを目的として、幅広い基礎トレーニングをおこなっています。
研究室のモットーは、「歩く」「考える」「育てる」の3つです。

「森林技術」No.952(一般社団法人日本森林技術協会 会誌) 掲載日:2021/08/16

「森林技術」No.952内の「本の紹介」にて,東京大学 齋藤暖生先生に書評いただきました。

民族生物学(ethnobiology)という分野がある。民族学・文化人類学から派生した一分野で,身の回りの生物を人々はどのように認識し,つきあっているのかを読み解こうとするものである。本書は『造林樹木学ノート』という名のとおり,造林対象となる樹木の解説に主眼があるが,私は,民族生物学の視点から興味深く読んだ。つまり,日本人が造林という行為をするにあたって,その対象となる樹木の特性をどのように評価し,造林上の工夫を凝らしてきたのか捉え直すことができる書物でもあるからだ。例えば,「なぜスギを植えるのか」と問われたとき,どう答えるだろうか?「スギ材の市場が確立されているから」というのはすぐ思いつく答えの一つだろう。これに対し本書は,スギ材の持つ特性まで掘り下げて解説し,スギが木材として確固たる評価を得ている理由を理解させてくれる。さらに,葉の用途なども紹介し,造林がより有利な営為となるようなヒントも示してくれる。

“人にとっての”という視点から樹木の特性をまとめて解説してくれる書物は,意外と少ない。本書の内容は,造林学を学ぶ人に限らず,森に関わる全ての人にとっての「教養」となるようなものだと思う。ぜひ,さまざまな立場の方に,手にとってもらいたい。ただ,本書での解説につまずきを覚える人もいるかもしれない。というのも,大学の専門課程で学ぶ用語が多く使われているが,その説明があるわけではないからである。用語辞典などを傍らに「教養」を深めてもいいだろうし,わからないままにしていても樹木の特性に関する知識は十分に得られることだろう。

巻末では,樹形と数学の関係など,著者らしい独特の切り口が展開されている。自然に潜む不思議を素直に感じ,知ることの喜びを教えてくれる本でもある。そういう心を忘れずに,森と付き合っていきたいものだ。

(東京大学/齋藤暖生)

「適地適木」の造林に親しむ 『グリーン・パワー』2021年5月号(公益財団法人 森林文化協会) 掲載日:2021/05/01

 人間の個性を活かす「適材適所」と同様に、樹木にもその個性を活かす「適地適木」という言葉がある。造林・森づくりでは、各樹木の特性と相性を考えることが基本だ。しかし従来の人工造林では樹木の特性を見ず機械的に、あるいは前例を踏襲する形で林木を植栽することも多い。これからは人工造林だけではなく、自然散布の樹木の「人工更新+天然更新」を合わせる手法が重要になると説く。
 本書は、森林科学を学ぶ大学生向けの教科書だが一般の方でも読みやすい。外国語を学ぶ際に単語ノートを増やすように、森林科学のどのテーマにも共通する造林の単語、つまり各樹木の特性を再考し、親しんでもらうのが狙いだ。
 日本の代表的な造林樹種であるスギが実は、恐竜の時代から生き残る「未分化の古代樹種」であること、森林を研究する際には数学的な視点が欠かせないことなど、様々なうんちくも楽しめる。 (編集部)

※誌面PDFをこちらからご覧いただけます。

掲載日:2021/06/01

「電子情報通信学会誌」2021年6月号広告

☆☆☆ YouTubeに付録の動画がございます ☆☆☆
本書に関わる著者の撮影した写真,スライドの動画(全14本)をアップしました。