3DCAD時代における 幾何公差の表し方と測定
幾何公差を主体とした図面の見方・書き方,機械加工した部品を評価検証する測定方法を解説
- 発行予定日
- 2024/12/下旬
- 判型
- A5
- ページ数
- 138ページ
- ISBN
- 978-4-339-04693-9
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
【書籍の紹介】
ソリッドモデルをカーネルとする3DCADが市販されてから半世紀が経過しました。3DCADは,解析(CAE),CNC加工(CAM),3次元測定(CAT),デジタルモックアップ(Web3D),積層造形(AM),データ管理システム(PDM,PLM)などと連携を図り,モノづくりのソリューションの中心的な役目を果たしています。
3DCADには,部品,アセンブリ,図面の三つの機能があります。部品の機能は,設計のコンポーネントを3Dで表現するもので,フィーチャベースモデリングとパラメトリック機能により,部品の形体を正確に定義し,かつ,部品の形体を容易に編集・修正することができます。アセンブリの機能は,部品の自由度を拘束することで部品の動きや位置を定義して複数の部品を組付けるものです。図面の機能は,モノづくりに必要な製品製造情報(PMI)を定義するものです。部品,アセンブリ,図面は,異なるデータ形式ですが,相互の関連性を保持しています。部品の形体を変更するとアセンブリ,図面も自動的に更新されます。これまで,図面を中心に行われてきたモノづくりは,3DCADの導入により3Dの形体と製品製造情報によるモノづくりに移行しています。
このような状況の中で,ものづくりの基準をデータムで示し,理論的に正確な寸法(TED),理論的に正確な形体(TEF),形状公差,姿勢公差,位置公差,振れ公差で曖昧な表現がない製品製造情報を図面や3Dモデルに規制する重要性が,モノづくりの現場や機械設計の教育に求められています。さらに,それらの公差をどのように測定し,どのように良否を評価するか,それらについても求められています。
設計製図の教科書には公差の定義と表し方が,計測の教科書には測定機の原理や測定の信頼性が,それぞれ詳細に説明されています。それらを関連付けて理解するためには,モノづくりの経験が不可欠で,特に,機械設計と精密測定を実務で経験する必要があります。
著者は,公設試験研究機関で精密測定(三次元測定,真円度測定,表面粗さ測定)と機械設計に必要な解析(静解析,動解析,非線形解析)を担当し,高専で3DCADによる機械設計,大学で3DCADによるモノづくりについて学生に教育してきました。その経験をもとに,幾何公差の表し方と測定を一冊の書籍にまとめ,モノづくりの実務で対応する公差について,3DCADをベースに図面と測定をわかりやすく解説いたしました。
【モノづくりの実務に携わる技術者に】
モノづくりの現場では,面を基準とする部品,穴を基準とする部品,軸を基準とする部品,経済的に製作するために最大実体公差を導入している部品など,いろいろな製品製造情報があります。それらを一つ一つ経験することで,理解度は深まりますが,全体を俯瞰的に見るまでには時間がかかります。そこで,本書は,著者が経験したものを整理して,短時間で公差の全容が理解できるようにいたしました。さらに,演習問題で理解を深める工夫もしてありますので,実務で経験をされる前に,是非,ご一読していただけることを期待いたします。
【大学・高専で機械設計の授業をご担当の教員の皆様に】
本書は,機械製図,機械要素,工業力学,材料力学,計測工学などの専門基礎科目を学習された後に開講される機械設計製図の授業で使用できるように記述しました。機械設計では,多くの教育機関で軸の設計から開始されていると考えます。モータの動力(kW)からトルクを計算し,そのトルクに耐える軸の直径をせん断応力から求めたり,ねじり剛性から軸の直径を求めたりします。その軸に軸受を取り付ければ直径の異なる多段の軸になります。図面や3Dモデルの形体でこの多段の軸に製品製造情報をどのように規制し,それをどのように測定するか,そこが,実務者を育成するキーポイントになると考えます。本書では,基準であるデータムの考え方,三次元測定機でデータムを測定する方法から記述いたしましたので,是非,ご一読していただき,演習問題でご理解を深めていただきたいと考えています。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
近年,ものづくりのデジタル化が急速に展開している。機械設計ではドラフターから2DCAD・3DCADに,製造部門では汎用工作機械からNC・CNC工作機械に,検査では測長機から接触式三次元測定機・非接触式三次元測定機・計測用X線CT装置に移行している。機械製図の教育では,サイズ公差を主体とする図面から,幾何公差を主体とする図面へと,徐々に移行しつつある。そのため,教科書の製図例や演習の図面には,今でもサイズ公差が主体のもの,サイズ公差と幾何公差が混在するもの,幾何公差が主体のものなどがある。
ものづくりで大切なことは,あいまいさがなく,明確な定義である。例えば平行な2平面がサイズ公差(例えば,50±0.1)で定義されていれば2平面の距離(この例では,49.9~50.1mm)はわかるが,どちらの平面が基準なのかまではわからない。一般に,工作機械で平行な2平面のブロックや溝を加工すると,平面にはある程度の凹凸やゆがみが生じ,2平面は平行からずれる。その程度を測定によって確認することになるが,図面上に基準(例えば基準とする平面)の明示がなければ,設計者が意図していたのとは異なる基準で測られた数値を検証することになる。これでは測定で得られた数値の信頼性が低くなり,測定の再現性も乏しくなる。このような事態を避けるために,機械図面には明確な定義が求められる。
現在,中小企業を含め多くのものづくりの企業では三次元測定機を導入し,その測定機で出荷検査や受入れ検査を実施している。一方で,図面にはデータムや幾何公差が記入されるが,それらをどのように測定すればよいかの具体的な指示はない。機械製図の教科書には,幾何公差の説明はあっても,その測定方法までは記載がないことが多い。同様に,精密測定の教科書には測定機器の説明はあるが,データムや幾何公差の測定に関する記載は僅かである。
機械加工や測定の基準となる平面や軸を接触式三次元測定機でどのように測定するのか,直線や平面,穴や軸の直径と中心の位置を離散点の座標値(x,y,z)からどのように計算するのか,それを理解して平面度,真円度,位置度などの幾何公差を3Dの形状モデルや図面に規制することができれば,製造情報や図面の明確さがさらに高まる。
3DCADによる設計が主体の現在では形状モデルと図面の両者が発注者から受注者に支給される。形状モデルは理論的に正確な形体である。この形体から許容できる誤差を定義したものが輪郭度である。検査では,非接触式三次元測定機で形体の表面を計測して点群データを求め,形状モデルと点群データを比較することで誤差を検証する。点群データで検証する方法が普及してくると,当然ではあるが図面に輪郭度が多用される。ISOの規格もこの流れに対応するように,規格の内容を変更している。
そこで,本書では,幾何公差を主体とする図面と,機械加工した部品を評価検証する測定の両者を学ぶ内容とした。具体的には,幾何公差に関わる用語や公差域,三平面データム系とワーク座標系,平面や穴の測定と最小二乗法による計算,面基準や穴基準の図面とその評価,回転体の図面とその評価,輪郭度の図面とその評価および3D単独図についてそれぞれ説明し,演習問題でそれらの理解度を深める内容とした。
なお,本書に記載した図面は,SOLIDWORKS 2023(SOLIDWORKS EDUCATION 2023)の「部品」で形状モデルを作成し,「図面」で作図したものである。最後に,本書の読者対象は,機械設計の実務者から機械工学を専攻している学生まで幅広い技術者である。機械設計や機械製図を担当している教員にもぜひ一読していただきたい。
2024年11月
望月達也
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.形体と幾何公差
1.1 形体
1.2 幾何公差
1.3 普通幾何公差
2.三平面データム系とワーク座標系
2.1 三つの直交する面を基準とする図面
2.2 一つの平面と二つの貫通穴を基準とする図面
2.3 一つの平面,軸直線,中心平面を基準とする図面
3.円・平面・軸の測定
3.1 最小二乗法:直線
3.2 最小二乗法:円
3.3 最小二乗法:平面
3.4 最小二乗法:円筒
3.5 最小領域法
4.三平面をデータムとする穴の図面と評価
4.1 穴の定義
4.2 三つの面をデータムとする貫通穴の図面
4.3 最大実体公差による貫通穴の図面
4.4 位置度の測定と評価
5.穴の軸直線をデータムにする図面とその評価
5.1 穴の軸直線をデータムにする図面
5.2 位置度の測定と評価
5.3 機能ゲージと最適化計算
6.回転体と振れ公差
6.1 全振れと公差域
6.2 円周振れと公差域
6.3 振れ公差の測定
6.4 評価
7.輪郭度とその評価
7.1 曲面の形体
7.2 形体公差の輪郭度
7.3 非接触式三次元測定による測定データの検証
7.4 輪郭度とその他の幾何公差との関係
8.3D単独図とPMI
8.1 3DCADのファイル形式
8.2 製造情報(PMI)
8.3 図面規格とモデルデータの形式
演習問題
演習問題解答
索引