新コロナシリーズ 63
微生物パワーで環境汚染に挑戦する
微生物の生態から利用のしくみまで,基本が理解できるよう構成。
- 発行年月日
- 2017/07/06
- 判型
- B6
- ページ数
- 144ページ
- ISBN
- 978-4-339-07713-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
従来から土壌汚染などの環境汚染対策は埋立てや焼却,化学処理などが主流であった。微生物による環境修復技術はこれらよりも低コストで環境への負担が比較的小さい。本書では微生物の生態から利用のしくみまで,基本が理解できる。
環境汚染は、現代社会体系の推移や国の発展とともに、その汚染の種類と状態、および程度や規模が変化してきました。また、同時に環境汚染対策も、修復技術と法律・行政の面から推移してきています。しかし、世界的に見れば、環境汚染の厳しい現状にその対策が十分に取られているとはいえない状態です。環境修復技術は現在、埋立てや焼却などの物理処理、界面活性剤やフェントン反応などを用いた化学処理が主流ですが、これらの処理を原因とした環境二次汚染を引き起こすリスクもあります。また、これらの物理または化学処理はコストが高く経済的なメリットも少ないため、特に発展途上国や経済優先の国々では、その対策が後回しになっています。そのため、環境汚染が拡大している地域もあります。
それに対して、バイオレメディエーションなど微生物や植物などの生物による環境修復技術は、比較的低コストで環境負荷が小さいというメリットがあり、これまで以上に利用されるようになると期待されてきました。しかし、これらの方法は、処理時間がかかること、天候や気象、土壌条件などにも影響され効果が安定しないことなどの大きな欠点があります。これらの欠点を克服する技術も開発されてきていますが、微生物という存在が目に見えないだけに、従来の土木技術関係者にとって取扱いが難しく、評価しにくいことも技術的に普及が進まない原因の一つになっているように思われます。
この本では、まず微生物とはなにかということ、その微生物を利用するにはどうしたらよいかという基本的なことを踏まえて、微生物による環境修復技術の基本原理とその技術を用いた具体的な例について、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。
二〇一七年四月 椎葉 究
1. 環境汚染の現状について
土壌の汚染
地下水や海洋水など水系の汚染
大気の汚染
2. 環境汚染対策の現状といろいろな環境修復技術
環境汚染対策
環境修復技術の比較
3. 微生物を用いた環境修復技術について
微生物とはどのような生物か
微生物を用いる環境修復技術とは
栄養の調整
温度の調整
pH(水素イオン濃度)の調整
酸素濃度(または酸化還元電位)の調整
生育促進/阻害剤の調整
コンポスト化(堆肥化)
下水処理
バイオレメディエーション
バイオレメディエーションの浄化効果の評価
大気中の汚染物質の微生物による浄化
微生物による大気中の二酸化炭素固定化とバイオマスエネルギー生産技術
光合成する微生物
バイオマスエネルギー変換技術
4. 微生物を用いた新しい環境修復技術の具体事例
建設廃棄物(汚泥や建設発生材)の再資源化
石油汚染土壌のバイオレメディエーション
六価クロム汚染土壌のバイオレメディエーション
1,4-ジオキサンとテトラヒドロフランの微生物による分解
二酸化炭素固定による地球温暖化の抑止技術とバイオマスエネルギーの生産
微生物による環境修復の評価技術
5. 微生物による環境修復技術開発の課題と今後について
効果の安定性確保
環境負荷の少ない(環境二次汚染がない)環境修復コストの低減
地球温暖化防止につながる技術の開発
環境評価技術の開発
おわりに
引用・参考文献
木村俊範 北海道大学名誉教授
人間社会の発展と共に環境汚染が深刻化し、それが地球全体の問題となっていることに誰も異論を唱えないであろう。しかし、我が国の高度成長期にもあったように、環境保全対策は利益を生むものではなく、金食い虫と見なされ、後回しにされるのが今日なお発展途上国などにおいて普通だと言えよう。その克服には、初期投資やランニングコストが低く、かつ安定した機能を持続できる技術が必要とされる。
本書の著者も同様な理解に立っているようであり、現状では反応速度が遅く、不安定で再現性も高くはないという欠陥はあるが、技術の熟成によっては克服要件を具備できると思われる微生物機能を活用する環境修復技術を取り上げて紹介している。
本文1において環境汚染の現状を示した上、2においては主要な環境修復技術、取り分け3においては微生物を用いた環境修復技術のあれこれを平易に解説しており、初心者にも理解しやすい。次いで4では、著者らが実際に取り組んだ、あるいは取り組みつつある新しい環境修復技術の開発や実用化について比較的詳しく例示しており、技術資料としても参考にできるものと思われる。最終章の5においては、当該技術の課題と今後の展望などが述べられているが、著者が挙げている4つの課題の②が開発技術の実用化に不可欠な論点であろう。如何に技術の持つ性能が高いとしても、コストの妥当性がないと実用化、商業化レベルの持続性は保持できず、間もなく消えゆく運命を辿ることになる。
本書を読み終えて感ずるのは、著者が自身の活動を手前みそに述べるのではなく、技術の弱みやコストについてしっかり目配りされていて、公平性の高い内容であり、好感の持てる入門書の一つであると言えるようである。
今井伸二郎 東京工科大教授 博士(医学)
今年世間を騒がせている社会的問題に関連して土壌汚染問題がクローズアップされている。日本の工業化は一段落し、工場の移転も多くなってきた。工場の種類によっては土壌汚染の程度が深刻であり跡地の利用は担当者にとって頭痛の種であろう。工場移転跡地に限らず、我が国国土の土壌汚染は深刻な状況に陥っている。まさに高度成長時代のつけを払わされている現状だ。土壌を入れ換えたとしても廃棄した土壌が汚染している事に変わりは無い。安価に効率的に汚染物質を無害化する方法が求められている。この問題を解消できる唯一の方法は微生物パワーであろう。本書はタイトルのとおり環境汚染対策に微生物が如何に有効に働くかを解説した良書である。本書は環境汚染の克服を目指す土木技術関係者に限らず、一般の読者の方々にも微生物の有用性を知っていただくために有用な一冊と思いここに推薦する。
読売新聞夕刊10月17日付けのREAD&LEADコーナーにて書籍紹介が掲載