
初歩から学ぶ無機化学
無機化学は「モノづくりのための学問」を志す人にとって,重要!
- 発行年月日
- 2024/09/26
- 判型
- A5
- ページ数
- 260ページ
- ISBN
- 978-4-339-06671-5
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
【対象読者】
本書は,高等学校で学ぶ化学の一歩先を扱っています。読者の皆様には,工学部や理学部,医学部,歯学部,薬学部,農学部などを含めた理系大学生の主に1~2年生,高等専門学校における専攻科生,文系の大学生で教養科目として化学を学ぶ学生,各種資格試験などで大学卒業程度の無機化学を学ぶ必要がある方,化学を学びなおしたい社会人の方を想定しています。
化学を初めて勉強する方の場合,本書のみを読み進んで頂くこともできますが,高等学校の教科書と併用することで無機化学を一から大学卒業レベルまで学ぶことができます。
また,専門用語にはできるだけ英語を併記しています。化学を含む理系や技術系の学術用語は,日本語と英語が一対一で対応しているという特徴があります。そこで本書を英語の勉強にも役立てて頂けると幸いです。大学院入試の英語の対策に使えますし,技術系の国際的な仕事に就かれる方の役に立つと思います。
【書籍の内容】
本書の1~5章で理系大学生1~2年生や大学教養課程レベルの化学や無機化学が身につく内容となっています。1章では,原子の構造やその性質について述べています。原子の世界を理解するためのツールとして量子力学(量子化学)の基本的な内容を含みます。2章では,周期表を扱っています。無機化学は,この世界に存在する全ての元素を扱う学問です。したがって,元素を整理している周期表の扱いは重要です。3章では,原子の結合について,主に固体を中心に述べています。原子は単独で存在することが少なく,結合することで新たな物質が作られますが,その基本について扱っています。4章では,原子の結合で形成される分子を扱っています。分子の形成を理解すると様々な物質の性質がわかってきます。我々が呼吸している酸素分子の特殊さや酸素によって酸化された物質がなぜ体に良くないかなども理解することができます。4章までは,無機物質を理解するために必要な化学全般の基本をまとめています。5章からは,いわゆる無機化学を感じられる内容になります。5章では,典型元素の主な性質をまとめています。典型元素とは,元素の周期表の中で分類された元素のグループを示しています。単なる暗記ではなく,なぜその元素がそのような性質をもつのかを理解することを目指しています。
6~8章では,無機化学を大学の専門レベルに近いところまで学ぶことができます。6章では,遷移元素について述べています。遷移元素とは,典型元素に対する元素のグループを指します。遷移元素は全て金属であり,金属原子や金属イオンは錯体と呼ばれる化合物を形成することがあるので,錯体についても説明しています。7章では,固体について,3章などで扱った内容をさらに掘り下げています。金属,半導体などは工業的,日常的に重要ですが,それらは固体です。そこで,固体について専門的に扱った内容となっています。8章は,溶液化学を扱っています。液体,特に水溶液は,化学変化が起こる場として重要です。そこで溶液を扱う章を加えました。
9章と10章は,さらに専門的または応用的な内容を含みます。9章は,核化学,原子力工学の基本を扱っています。放射性物質や核燃料物質は主に無機物質に分類されることから無機化学のトピックスとして重要です。10章では,生物無機化学の概要とその雰囲気を感じとれる内容となっています。生物と名が付くと有機化学や生化学が重要と考えられますが,無機物質に分類される多くの物質が生命の営みに重要な役割を果たしています。さらには,医薬品としても無機物質は重要です。この章では,無機化学と生命や医学との関わりを感じて頂ければ幸いです。
【キーワード】
元素,周期表,典型元素,遷移元素,原子核,陽子,中性子,同位体,電子,電子配置,量子化学,原子軌道,分子軌道,エネルギー,熱力学,イオン,気体,液体,固体,結晶,金属,半導体,絶縁体,金属錯体,溶液,酸と塩基,酸化還元,核化学,原子力,放射線,生物無機化学
現在の元素周期表には,人工的に合成された元素を含め118種類の元素が記されています。無機化学は,宇宙全体に存在するすべての元素について学び,研究する学問です。
日常の食事や飲み水に含まれる元素の種類を想像してみましょう。水には,水素と酸素,食物には,水の構成元素に加え,炭素,窒素,硫黄,リンあたりが主で,その他,ナトリウム,カルシウム,マグネシウム,鉄などがすぐに思い浮かぶかと思います。実際には,微量元素まで含めると周期表の大部分の元素が含まれる可能性があり,分析の精度を上げれば,天然に存在するすべての元素が検出されるのでないかといわれています。また,日常的な電化製品に使われている元素も同様に多岐にわたり,不純物の効果(影響)までを考慮すると,これもまた周期表の中でかなり多くの元素が関わっているといえます。
このように無機化学は,人間の生活の根幹に密接に関わる学問です。著者は,現在,工学部に所属していますが,特に「モノづくりのための学問」を本分とする工学部の学生にとって,無機化学は本質的に重要な分野です。学ぶ側の学生からすれば,周期表のすべての元素について勉強することを考えると気が遠くなるかもしれません。受験勉強から解放された大学1年生にとっては,大学に入ってからもまた暗記が待っていると思うかもしれません。しかし,恐れないでください。大学の無機化学は,決して暗記科目ではありません。全118種類(天然に存在している元素はもっと少ないですが)の元素の性質について,交通整理する術を人類は開発してきました。本書は,先人たちが開拓し,まとめあげた元素についての知識を「暗記」ではなく,「理解」することで学ぶことを目的としています。
1章から4章までは,物理化学の基礎や一般化学と重複する内容が多いですが,無機化学を学ぶための基本的な事項をまとめています。5章では,元素の各論を扱い,典型元素の中で一部の主要な元素を中心にその基本的な性質をまとめています。元素の性質について,暗記ではなく,系統だった規則性を理解してほしいと考えます。6章では錯体化学,7章では固体化学を扱い,専門の無機化学に進むための導入的な内容をなるべく広く記しています。8章では溶液化学を扱い,無機物質の関わる化学反応や分析化学の基礎を説明しています。9章では核化学を扱っています。原子力発電や放射線治療などに関わる元素は数多く,無機化学の重要なテーマとなっています。最後に10章では生物無機化学の入門的な内容をまとめています。生物というと有機化学が重要と考えるかもしれませんが,実は無機物質に分類されるさまざまな物質が生命に必須であることがわかっています。そこで生命と数多くの元素との関わりについて,基本的な内容を簡単に扱っています。
本書で学んだ事柄によって,資格試験や大学院入試などの試験の合格につながるのみならず,その内容が,最先端の研究を行うための基礎としても役立つことを願っています。また,工学部や理学部など理系の学生だけでなく,化学に興味をもつ文系の学生を含め,教養課程の教科書や参考書などとしてもご活用いただければ幸いです。
なお,本書執筆にあたり,冨田靖正教授(静岡大学工学部)から貴重なご意見を頂戴しました。最後になりますが,ここに厚く御礼申し上げます。
2024年8月
著者
1. 原子
1.1 原子とは
1.1.1 原子を構成する粒子
1.1.2 元素の存在状態と成因
1.1.3 原子と元素の違い
1.2 元素の電子状態
1.2.1 水素原子とボーアモデル
1.2.2 量子力学(量子化学)入門
1.2.3 原子軌道
1.2.4 多電子原子の構造
1.3 イオン化エネルギーと電子親和力
1.4 有効核電荷
1.5 電気陰性度
まとめ
章末問題
2. 周期表
2.1 周期表とは
2.1.1 現代の周期表,周期と族
2.1.2 周期表とブロック分類
2.2 周期表と元素の性質
2.2.1 原子半径
2.2.2 イオン半径
2.2.3 周期表と原子,イオンの大きさ
2.2.4 ランタニド(ランタノイド)収縮
2.2.5 周期表とイオン化エネルギー,電子親和力,電気陰性度
2.3 周期表と元素の存在状態
まとめ
章末問題
3. 固体の形成
3.1 凝集力
3.2 共有結合と分子性化合物
3.3 金属結合と金属結晶
3.4 最密充填構造
3.5 イオン結合
3.5.1 イオン結晶の構造
3.5.2 イオン半径比と配位数
3.6 格子エンタルピー
3.6.1 ポテンシャルエネルギー
3.6.2 ボルン・ハーバーサイクル
3.7 分子間力
3.8 水素結合
まとめ
章末問題
4. 分子
4.1 共有結合
4.1.1 ルイス構造とローンペア
4.1.2 オクテット則
4.1.3 2中心2電子結合と電子不足結合
4.1.4 形式電荷・共鳴
4.1.5 酸化数
4.2 分子軌道法入門
4.2.1 原子軌道と分子軌道
4.2.2 水素分子とヘリウム分子イオン
4.2.3 結合次数
4.2.4 多電子原子の分子とさまざまな軌道
4.2.5 フロンティア軌道
4.2.6 等核二原子分子1:フッ素分子
4.2.7 等核二原子分子2:酸素分子と三重項状態
4.2.8 等核二原子分子3:窒素分子
4.2.9 異核二原子分子1:フッ化水素
4.2.10 異核二原子分子2:一酸化炭素
4.2.11 混成軌道
4.2.12 不飽和結合
4.2.13 バンド理論
4.2.14 金属(導体)・半導体・絶縁体
4.2.15 量子ドット
まとめ
章末問題
5. 典型元素
5.1 元素の各論
5.2 水素
5.2.1 水素の同位体
5.2.2 水素分子と原子核のスピン
5.2.3 水素原子の電子配置と化学的性質
5.2.4 水素の化合物1:塩類似水素化物
5.2.5 水素の化合物2:分子性水素化物
5.2.6 水素の化合物3:金属類似水素化物
5.3 希ガス(貴ガス)
5.4 アルカリ金属
5.4.1 アルカリ金属単体の性質
5.4.2 アルカリ金属単体の製法
5.4.3 アルカリ金属のイオン化傾向
5.4.4 アルカリ金属のイオンの大きさと水和半径
5.4.5 アルカリ金属のアンモニアへの溶解
5.4.6 アルカリ金属イオンを有機溶媒に溶かす方法
5.4.7 アルカリ金属の酸化物とその他の化合物
5.5 アルカリ土類金属(第2族元素)
5.5.1 アルカリ土類金属(第2族元素)単体の一般的な性質
5.5.2 対角関係:アルカリ金属元素,第2族元素,第13族元素の類似性
5.5.3 第2族元素の化合物
5.6 ホウ素とアルミニウム
5.6.1 ホウ素の同位体
5.6.2 ホウ素の化学的性質
5.6.3 ボランの構造
5.6.4 ホウ素のその他の化合物
5.6.5 アルミニウム
5.6.6 アルミニウム単体の製法
5.6.7 アルミニウムの化合物
5.7 炭素とケイ素
5.7.1 炭素の同位体
5.7.2 炭素の単体と同素体
5.7.3 炭素の化合物
5.7.4 ケイ素の単体と製法
5.7.5 ケイ素の化合物
5.8 窒素とリン
5.8.1 窒素の単体と化合物
5.8.2 リンの単体と化合物
5.8.3 窒素またはリンを含む錯体
5.9 酸素と硫黄
5.9.1 酸素の単体とイオン
5.9.2 活性酸素と過酸化水素の製法
5.9.3 硫黄の単体
5.9.4 硫黄の化合物の例
5.10 ハロゲン
5.10.1 ハロゲンの単体
5.10.2 ハロゲン単体の製法
5.10.3 フッ素の特徴
5.11 オキソ酸
5.11.1 周期表とオキソ酸
5.11.2 おもな典型元素のオキソ酸
5.11.3 ハロゲンのオキソ酸
まとめ
章末問題
6. 遷移元素と錯体化学
6.1 遷移元素とは
6.2 配位化合物
6.2.1 配位結合
6.2.2 錯体の命名法
6.2.3 錯体の構造
6.3 原子価結合理論と錯体の磁性
6.4 結晶場理論
6.5 配位子場理論
6.6 金属錯体の電子状態と分光学
6.6.1 金属錯体の色
6.6.2 分光化学系列
6.7 金属錯体の安定性と反応
6.8 遷移金属元素の各論
6.8.1 スカンジウム・イットリウム
6.8.2 チタン・ジルコニウム・ハフニウム
6.8.3 バナジウム・ニオブ・タンタル
6.8.4 クロム・モリブデン・タングステン
6.8.5 マンガン・テクネチウム・レニウム
6.8.6 鉄・コバルト・ニッケル
6.8.7 白金族元素
6.8.8 銅・銀・金
6.8.9 ランタノイド
まとめ
章末問題
7. 固体化学
7.1 固体化学とは:結晶について
7.2 無機化合物の結晶構造
7.2.1 イオンの最密充填と配位多面体
7.2.2 晶系と単位格子,ブラベ格子
7.2.3 代表的な結晶構造
7.3 結晶によるX線回折
7.3.1 X線回折についての基礎知識
7.3.2 空間群と消滅則
7.4 固体の電気伝導
7.5 固体の熱伝導
7.6 誘電体と関連する物性
7.7 格子欠陥
7.8 ナノ材料
まとめ
章末問題
8. 溶液化学
8.1 溶液化学とは
8.2 理想溶液と非理想溶液
8.3 酸と塩基
8.3.1 酸と塩基の定義
8.3.2 pHとpK_a
8.3.3 HASB
8.3.4 緩衝溶液
8.3.5 水和
8.3.6 加水分解
8.4 酸化還元
8.4.1 酸化剤と還元剤
8.4.2 標準酸化還元電位
まとめ
章末問題
9. 核化学
9.1 核化学とは
9.2 自然界の力と放射性同位体
9.3 放射線と放射能:関係する物理量
9.4 放射性同位体の半減期
9.5 アクチノイド
9.6 原子力発電の概要
9.7 核医学の概要
まとめ
章末問題
10. 生物無機化学
10.1 生物無機化学とは
10.2 酸素
10.2.1 酸素と活性酸素
10.2.2 活性酸素の除去と生体防御
10.2.3 窒素酸化物
10.3 アルカリ金属
10.4 第2族元素(アルカリ土類金属)
10.5 金属錯体
10.5.1 金属錯体と酵素
10.5.2 血液における酸素運搬
10.5.3 金属錯体と光合成
10.6 金属が示す毒性
10.6.1 重金属の毒性
10.6.2 金属発がん
10.7 無機物質の薬理作用の例:抗がん剤
まとめ
章末問題
付録
索引
上記リンク先にレビュー記事がございます。
『現代化学』2024年11月号(東京化学同人) 掲載日:2024/10/17
PICK UP「BOOKS & INFORMATION」にて掲載いただきました。
-
掲載日:2024/11/05
関連資料(一般)
- 章末問題解答例