フラックス結晶育成法入門

フラックス結晶育成法入門

  • 橘 信 物質・材料研究機構

物性研究のための良質な結晶をつくるフラックス法について、基礎からわかりやすく解説

  • 口絵
ジャンル
発行年月日
2020/07/17
判型
A5
ページ数
174ページ
ISBN
978-4-339-06651-7
フラックス結晶育成法入門
在庫あり

定価

2,750(本体2,500円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

【書籍の特徴】
本書は,フラックス結晶育成法の一般原理と実用知識を体系的に解説した入門書です。物性研究のために自分で単結晶試料をつくろうとする学生をおもな読者対象にしていますが,目で見えて手に持てる大きさの結晶を調べる学問に興味をもっている人にとっても有益な内容になっています。
フラックス法は,1000℃程度でフラックス(融剤)に溶かし込んだ状態から目的の結晶を成長させる方法で,近年では最先端の物性研究において広く利用されています。
フラックス法の特長としては,(1)遷移金属酸化物や金属間化合物など多種類の結晶育成に適用でき,(2)普通の電気炉を使って,多くの物性測定に必要な数ミリ角程度の良質結晶をつくることができる,などが挙げられます。結晶をつくるには結晶成長の基本的な理論と実験技術の具体的な知識を頭の中で結びつけることが大切で,本書の目標は読者にそのような理解を与えることにあります。

【各章について】
1章は,結晶(単結晶)の説明をして,物性研究で必要とされる結晶の種類や大きさの具体例を挙げています。
2章は,フラックス法の一般的な特徴を述べたあとに,ほかの結晶育成法との比較を行っています。
3章は,物性測定においても重要な問題となる結晶の外形についての説明です。
4章は,結晶がフラックス溶液から成長するメカニズムを解説しています。結晶が成長するイメージをもつことは,実際に手を動かして結晶をつくる際にも重要になります。
5章は,相図(状態図)について,フラックス法で利用する視点から解説を進めています。
6章は,理想的なフラックスの性質を述べたあと,実際に広く利用されている代表的なフラックスについて説明しています。
7章は,電気炉,るつぼ,および原料試薬について,フラックス法で実験を進めていく視点から解説しています。
8章の前半では,実験の具体的な手順について,酸化物と金属間化合物の場合に分けて説明しました。また,後半では得られた結晶の評価法について概観しました。

【著者からのメッセージ】
良質な単結晶の試料を手に入れることは物性科学の研究において非常に重要ですが,結晶育成の問題はいろいろな分野に関連しており,初学者は何をどのように勉強してよいか分からないことが多いと思います。また,文献などで「この結晶はこうやって育成した」という記述を見ても,そういう実例の意味や背景をよくイメージできないことも多いと思います。
そこで本書は,代表的な結晶育成法であるフラックス法に焦点を絞り,初学者に系統的な学習の手助けをすることを目的として執筆しました。基礎概念から実験手順まで重要な基本知識をまとめたので,本書を読めば容易に実験に入っていけると思います。読者の手によって,世界をアッと言わせるような結晶が現れることを楽しみにしています。

本書は,フラックス法による結晶育成の一般原理と実用知識を解説した入門書である。これから自分で結晶をつくって物性科学の研究を進めようとする学生や,そのような研究に興味をもっている人たちを念頭に置いて本書を執筆した。

新しい種類の磁性や電気伝導性,あるいは特異な相転移現象といった物質の性質を調べる物性研究では,主として結晶試料が使われる。ここで良質の試料を使うことは優れた研究を進めるうえでの必要条件であり,独創的な研究はオリジナルな結晶を用いて行われることが非常に多い。

一方,固体物理学や固体化学の教科書には結晶育成に関する記述がほとんどなく,多くの学生は結晶育成を学ぶ機会がないまま研究を始めることになる。そのため,研究室にある実験設備を活用してオリジナルな結晶をつくるのが難しくなり,独創的な研究へと発展させる可能性も低くなってしまう。

そこで本書では,物性研究で広く利用されているフラックス結晶育成法に焦点を絞り,その基礎概念から実験手順までを体系的に説明する。細かな理論や特殊な技術の問題には立ち入らないようにして,読者が本書の全体を容易に読み通し,フラックス法の全体像をつかめるように努めた。

なぜフラックス法が物性研究で広く利用されているかには,二つの大きな理由がある。

1) フラックス法では,目的の物質を700~1300℃程度の温度でフラックス(融剤)に溶かし込み,1週間ほどの徐冷によって結晶を成長させる。適切なフラックスの選択により,遷移金属酸化物や金属間化合物など,物性研究のおもな対象になる多くの無機結晶をつくることができる。

2) フラックス法は特殊な装置を必要とせず,普通の実験室にあるような汎用の電気炉とるつぼ(耐熱性の容器)を使って実験を始められる。また,実験には高度な熟練技能を必要とせず,初心者でも多くの物性測定に必要な数mm角程度の良質結晶をつくることができる。

つまり,フラックス法は物性研究者にとって適用範囲が広いだけでなく,労力や経費の点で負担の少ない結晶育成法と位置付けられる。本書を読まれて,「それでは自分も結晶をつくってみよう」という気分になったなら,それは著者にとって大きな喜びである。

なお,本書は著者が以前に出した『Beginner’s Guide to Flux Crystal Growth』(NIMS Monographs, Springer, 2017)をもとにして,日本の読者向けに書き直したものである。図の転載を許可していただいた国立研究開発法人物質・材料研究機構とSpringer社,そして本書の出版にあたってご協力をいただいたコロナ社の方々に厚い感謝の意を表したい。

2020年5月     橘 信

1.物性研究と単結晶
1.1 なぜ単結晶か
 1.1.1 単結晶と多結晶の違い
 1.1.2 物性研究と結晶育成
1.2 物性研究で必要になる結晶の大きさ
1.3 物性研究のおもな対象になる化合物の例
1.4 本書の構成

2.フラックス法の特徴
2.1 フラックス法の実験例
 2.1.1 ルビーのフラックス育成
 2.1.2 フラックスに要求される性質
 2.1.3 徐冷法以外の方法
2.2 フラックス法の特徴
2.3 フラックス法で得られる結晶の例
2.4 ほかの結晶育成法
 2.4.1 融液法
 2.4.2 溶液法
 2.4.3 気相法
2.5 結晶育成法の比較

3.結晶の形態
3.1 結晶の成長と形態
3.2 結晶面と結晶の対称性
 3.2.1 結晶軸の決め方
 3.2.2 結晶面の決め方
 3.2.3 ブラベー格子
 3.2.4 点群と空間群
3.3 結晶形とブラベーの法則
 3.3.1 結晶形の定義
 3.3.2 結晶形の例
 3.3.3 ブラベーの法則とその拡張
3.4 結晶形における閉形と開形
3.5 結晶の多様な外形
 3.5.1 晶相と晶癖
 3.5.2 結晶面の成長速度と大きさの関係

4.結晶の成長メカニズム
4.1 結晶成長の過程
4.2 溶解度曲線と過飽和度
 4.2.1 溶解度曲線の性質
 4.2.2 過飽和度の定義
4.3 核形成
 4.3.1 水滴形成のモデル
 4.3.2 溶液中における核形成
4.4 層成長機構
4.5 渦巻成長機構
4.6 骸晶と樹枝状結晶の成長
4.7 結晶成長機構のまとめ
4.8 結晶に見られる不完全性
 4.8.1 双晶と平行連晶
 4.8.2 内包物
 4.8.3 成長縞
 4.8.4 小傾角粒界

5.相図の利用
5.1 フラックス法と相図
5.2 2成分共晶系
 5.2.1 共晶系の特徴
 5.2.2 共晶系の相図における結晶成長の経路
 5.2.3 共晶系の相図とフラックス法の特徴
 5.2.4 共晶系の具体例
5.3 分解溶融と分解飽和
 5.3.1 分解溶融化合物
 5.3.2 他成分のフラックスを加えた場合の相図
 5.3.3 分解溶融化合物の例
5.4 固溶体
 5.4.1 完全固溶体の相図
 5.4.2 適切なフラックスからの固溶体の成長
 5.4.3 部分固溶する場合の相図
5.5 酸素圧と酸化物の安定性
5.6 相図の決定
 5.6.1 急冷法
 5.6.2 溶解度決定法
 5.6.3 高温顕微鏡法
 5.6.4 示差熱分析法

6.フラックスの選択
6.1 相図だけでは見えない結晶成長
6.2 理想的なフラックスの性質
6.3 酸化物系の代表的なフラックス
 6.3.1 鉛およびビスマスの酸化物とフッ化物
 6.3.2 ネットワーク構造を形成する酸化ホウ素
 6.3.3 錯形成するモリブデン酸塩とタングステン酸塩
 6.3.4 単純イオン性のアルカリ塩
 6.3.5 酸化剤としてのアルカリ水酸化物
 6.3.6 ほかに考慮する点
6.4 金属間化合物系の代表的なフラックス

7.電気炉,るつぼ,および原料試薬
7.1 電気炉
 7.1.1 フラックス法に利用するうえでの注意点
 7.1.2 縦型管状炉
 7.1.3 箱型炉
 7.1.4 発熱体
7.2 るつぼ
 7.2.1 白金
 7.2.2 石英ガラス
 7.2.3 アルミナ
 7.2.4 タンタル
7.3 原料試薬
 7.3.1 酸化物系の試薬
 7.3.2 金属間化合物系の試薬

8.フラックス結晶育成の基本的な実験手順
8.1 はじめに
8.2 空気中での酸化物の育成
 8.2.1 準備
 8.2.2 結晶育成
 8.2.3 結晶の取り出し
 8.2.4 白金るつぼの洗浄法と修理法
8.3 石英封入管を使った金属間化合物の育成
 8.3.1 石英封入管の特徴
 8.3.2 石英管への封入
 8.3.3 タンタルるつぼの使用
8.4 結晶の評価
 8.4.1 物質の同定
 8.4.2 質の評価
8.5 結晶を扱う際の注意点

付録
A.1 口絵の解説
A.2 1975年以降に報告されたフラックス育成の例

引用・参考文献
索引

橘 信(タチバナ マコト)

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