農業・食料生産分野における バイオマス利用工学 - 循環型社会のための生物資源利用 -
農林業の現場からの視点で,生物資源利用の課題解決のための手がかりを得られる。
- 発行年月日
- 2023/04/20
- 判型
- A5
- ページ数
- 326ページ
- ISBN
- 978-4-339-06665-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
バイオマス利用の基礎理論と,特にマテリアル利用とエネルギー利用のための実際の技術,生物資源の生産や収穫などに関わる機械作業や乾燥操作,食の安全,環境影響評価,SDGsとの関わりなど,社会実装に至る話題を取り上げた。
「蜻蛉を翅ごと呑めり燕の子(沢木欣一)」
農学の視点を有する生物資源利用(バイオマス利用)では,この俳句に示されるような生物の命の循環とともに,微生物による有機物分解をも含む意識が必要であり,地球環境と人間社会との調和,生命すべてを対象とした倫理的対応が求められる。
本書は,2019年に農業食料工学会に発足した生物資源部会によって企画された。その後,生物資源部会員の関係者を中心に執筆者が選定され,コロナ社の協力を得て刊行された。本書は,基礎編として「Ⅰ編 生物資源利用の基礎」,応用編として「Ⅱ編 生物資源の応用技術」によって,生物資源利用の基礎から応用まで学ぶことができる構成としている。
Ⅰ編では,生物資源利用の基礎理論と基礎技術を扱った。なかでも,生物資源利用に関わる背景や基礎的な事項とともに,堆肥化,メタン発酵,廃水浄化,微細藻類生産を取り上げた。さらに,炭化,半炭化,燃焼に加えて,多様なバイオリファイナリープロセスに関する基礎理論と基礎技術の解説を行った。
Ⅱ編では,生物資源利用のための応用技術,農作業や農業機械との関わりを扱い,環境影響や循環型社会の構築に向けた解説をした。特に,マテリアル利用,エネルギー利用の実際の利用のための技術,生物資源の生産や収穫などに関わる機械作業や乾燥操作,食の安全,環境影響評価,SDGsとの関わりなど,バイオマス利用の社会実装に至る広範かつ現実的な課題を取り上げた。
1990年代以降,世界中でバイオマスの積極的利用が叫ばれ,さまざまな取組みが行われてきた。しかし,バイオマスはエネルギー密度が低いこと(収集,濃縮が困難),含水率が高い(燃焼に向かない)こと,エネルギーや純物質の抽出が難しいこと,強い臭気が発生するといった場合があること,農業生産の持続性から限られた面積での資源循環を考える必要があること,バイオマス供給量の時間的な変動から稼働が不安定になりがち,といった多様な課題が依然として残されている。
しかし,バイオマスは,農林業現場や自然環境の多い場所では,最も身近でかつ普遍的に存在していることから,単なるエネルギー利用だけでなく,副産物としての資源利用や炭素貯留利用など,期待が大きい。さらに,バイオマス利用の研究や技術は日進月歩であることから,研究結果の速報的な内容も含め,なるべく早く刊行したいという執筆者らの思いから作業が進められた。
本書は,おもに農学系の研究に関わる方々によって執筆されたことから,農学分野に従事されている方々,農学系の大学生や大学院生に読んでもらいたい。また,本書は農林業の現場からの視点を含むことから,生物資源利用を目指している農学系以外の分野の方々にもぜひ読んでもらいたい。そして,本書を読んだ多くの方々が本書から生物資源利用の課題解決の手がかりを得ることを期待している。
最後に,本書の刊行にあたって,農業食料工学会,ならびに生物資源部会から,多くのご協力をいただいたことに深く感謝申し上げる。さらに,お忙しいなかにもかかわらず原稿を執筆いただいた方々,本書刊行を支えていただいたコロナ社に深くお礼申し上げる次第である。
2023年2月
編集委員長
野口良造
Ⅰ編 生物資源利用の基礎
1.生物資源
1.1 資源循環の基礎
1.1.1 生物資源循環の意味
1.1.2 地球環境保護への取組みの歴史
1.1.3 持続性のある地球環境のために人類がなすべきこと
1.2 対象となる生物資源
1.2.1 代表的な生物資源
1.2.2 生物資源利用の歴史
1.3 生物資源の変換技術
1.3.1 変換技術の分類
1.3.2 バイオ燃料生産のための変換技術
1.3.3 バイオリファイナリーのための変換技術
1.4 バイオマスエネルギー
1.4.1 再生可能エネルギーとしてのバイオマス
1.4.2 バイオマス発電
1.4.3 バイオ燃料
1.5 再生可能エネルギー
1.5.1 再生可能エネルギーの導入拡大に向けた取組み
1.5.2 再生可能エネルギー電源の系統連系の課題
1.6 環境への影響
1.6.1 生物資源利用による環境影響評価
1.6.2 生物資源利用におけるプロセス設計,プロセス解析
1.6.3 ライフサイクルアセスメント
1.6.4 環境ビジネスモデル
引用・参考文献
2.生物学的変換技術の理論
2.1 堆肥化
2.1.1 堆肥化の理論
2.1.2 堆肥化施設
2.2 メタン発酵(ふん尿,食品廃棄物)
2.2.1 家畜ふん尿のメタン発酵
2.2.2 食品廃棄物のメタン発酵
2.3 廃水浄化(畜産廃水)
2.3.1 活性汚泥法
2.3.2 固液分離
2.4 微細藻類
2.4.1 微細藻類によるオイル生産(培養~オイル抽出プロセス)
2.4.2 微細藻類によるオイル生産(水熱液化)
2.4.3 微細藻類からの高付加価値物質生産
引用・参考文献
3.物理・化学的変換技術の理論
3.1 半炭化
3.1.1 半炭化とは
3.1.2 半炭化物の理化学的性質
3.1.3 半炭化プロセスにおける評価指標
3.1.4 半炭化技術の分類
3.2燃焼理論,固形燃料化,PM2.5 対策
3.2.1 燃焼・熱分解ガス化理論の基礎
3.2.2 バイオマスの固形燃料化
3.2.3 PM2.5低減化
3.3 バイオリファイナリー
3.3.1 バイオリファイナリーの概要
3.3.2 リグノセルロースを原料としたバイオリファイナリー
3.3.3 藻類を原料としたバイオリファイナリー
3.3.4 バイオリファイナリーの展開に向けて
3.4 バイオマスマテリアル
3.4.1 木質ボード
3.4.2 草本系ファイバーボード
引用・参考文献
Ⅱ編 生物資源の応用技術
1.マテリアル利用技術
1.1 ほ場還元
1.1.1 堆肥,消化液およびスラリ
1.1.2 バイオ炭
1.1.3 臭気由来アンモニアの利用技術
1.2 その他のマテリアル利用(バイオマスボード)
1.2.1 木質ボードの利用
1.2.2 草本系ボードの利用
1.2.3 草本系バイオマスのその他の応用
引用・参考文献
2.エネルギー利用技術
2.1 バイオガス発電,熱利用
2.1.1 コージェネレーションを用いたバイオガスの電力・熱利用
2.1.2 温水ボイラを用いたバイオガスの熱エネルギー利用
2.2 農業残渣の熱エネルギー利用
2.2.1 籾殻燃焼
2.2.2 木質チップの燃焼による熱利用
2.2.3 畜ふん燃焼
2.2.4 木質・草本ペレット燃焼
2.2.5 木質ガス化
2.2.6 燃焼灰利用
2.3 堆肥化熱
2.3.1 堆肥化熱の回収技術
2.3.2 堆肥化熱の利用技術
2.4 バイオリファイナリー産物
2.4.1 バイオリファイナリーで生成する物質の概要
2.4.2 発酵阻害物存在下での物質生産
2.4.3 キシロースからの物質生産
2.4.4 CO2からの物質生産
2.4.5 バイオリファイナリーの進展に資する新しいバイオ技術
引用・参考文献
3.生物生産機械・農業機械・フィールドロボティクス・農作業システム
3.1 作業機械
3.1.1 刈取り機
3.1.2 コンディショナ
3.1.3 反転用機械(テッダ)・集草用機械(レーキ)
3.1.4 梱包用機械(ベーラ,ラッピングマシン)
3.1.5 フォレージハーベスタ
3.1.6 運搬機械(フロントローダ)
3.1.7 木質バイオマスの作業機械
3.2 収集・運搬・乾燥調製
3.2.1 農業系未利用資源の収集・運搬
3.2.2 前処理としての乾燥調製
引用・参考文献
4.環境・社会への貢献
4.1 資源循環利用における安全性確保
4.1.1 堆肥化による病原菌の制御
4.1.2 メタン発酵による病原菌の制御
4.1.3 メタン発酵による抗生物質と耐性菌の制御
4.2 バイオベース社会
4.2.1 バイオベース社会に向けたさまざまな取組み
4.2.2 SDGs,ESG投資
4.2.3 技術者倫理,世代間倫理
4.3 循環型社会・生態系・持続可能性
4.3.1 循環型社会に向けたバイオマス利用の環境影響評価
4.3.2 土壌炭素資源
4.3.3 生態系サービス
4.3.4 農業生産における多様性と景観
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【 N/M 様 (専門分野:総合情報学(情報科学))】
本書は,タイトルにもある通り,農業・食料生産分野におけるバイオマス利用工学についての記述がなされている.最近何かと耳にする機会が多い,SDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)や,某議員が急に取り上げてSNS等で賛否両論はあるがコオロギ等の昆虫食等,環境・資源・農業・食糧生産分野に関する話題を考えるきっかけにもなるのではないかと思われる.
なお,本レビューを書いていている私自身,学生時代に本書に関連のある分野として,一般教養科目「環境学入門」を一応学習はしているが,農学・食品生産分野の専門的な知識は全く持ち合わせていないので,その点,詳しくは言及できないことを予め断っておく.とは言いつつ,このように書いたものの,前提知識がなくても基礎から順を追って解説がなされているため,理解は比較的にしやすい部類の書籍であろうと思われた.
本書の特徴の一つとして,「生物資源利用の基礎」と「生物資源の応用技術」という2編構成になっている.先程挙げたように,基礎から学びたい読者にも,基礎知識はある程度既に持ち合わせており,応用技術から深めたい読者にも応じられるようになっており,取捨選択して読むことができるようになっている.更に,関連知識を深めたい読者にも応じられるように,各章末には,引用・参考文献リストも洋書や和書,各種論文等も数多く記載されている.
Ⅰ編の第1章から,中学・高校の理科でも出てくるであろう,生物資源の循環の話から始まり,地球環境などの一般常識的にも知っておいた方がいい問題から紐解き,生物資源利用の歴史やバイオマスエネルギー・再生可能エネルギーなど,ニュース記事等で耳にする機会が多い用語が次から次へと出てくるので,それらの用語の理解とイメージは比較的理解しやすいのではとも思った.
まえがきに『本書を読んだ多くの方々が本書から生物資源利用の課題解決の手がかりを得ることを期待している』と記述されているように,本書に取り上げられる各種用語の意味や原理を理解しつつ,生物資源利用の課題解決を考える際のガイドブック(参考書)として充分に活用できる,ちょうどいい情報量なのではないか,と個人的には思った次第である.
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