エネルギー環境経済システム
エネルギー環境に関わる行政・企業のプロジェクト指標である,エネルギー,環境,経済の三点について,数多くの事例を通して解説。
- ジャンル
- 発行年月日
- 2018/06/18
- 判型
- A5
- ページ数
- 260ページ
- ISBN
- 978-4-339-06646-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
エネルギー環境に関わる行政・企業のプロジェクト指標である,エネルギー,環境,経済という三つのキーワードについて,数多くの事例を通して丁寧に解説。電気系学生や社会科学系学生だけでなく,事業立案者にも読んでほしい一冊。
本書は筆者が東京大学や横浜国立大学で行ってきたエネルギーシステムに関する講義のノートやスライドを整理したものである。これらの講義は,両大学の電気系工学科の学生を対象として20年近く前に始めたものであるが,最近では文理融合の総合工学を目指すシステム創成学の学部生や社会科学系の大学院生の聴講も想定した分野横断の講義へと変化してきている。そのため読者の専門分野にかかわらず,エネルギー,環境,経済の広範な分野に関する基礎的事項を系統的に学べる教科書ができればと思い本書を執筆することにした。また,大学生だけでなく,エネルギー環境にかかわる行政の政策立案者や企業のプロジェクト立案者にも,業務の参考書として利用してもらえればと思い,比較的多くのコラムを挿入するなどし,実社会での課題などもできるだけ記述するようにした。ただ,筆者の能力不足や思い込みで,説明が不足していたり偏っていたりする箇所も多いと思われる。最近はインターネットでの検索が容易になったことから,本書で示したキーワードなどを手掛かりに,読者自身で必要な情報を探し出し,さらに深く勉強していただければと思う。
ところで6章では,2015年12月に採択されたパリ協定を考慮したエネルギーの長期シナリオを示したが,そのシナリオを描くために,世界エネルギーモデルDNE21(Dynamic New Earth 21)の計算コードを用いた。このモデルは,1995年に筆者が横浜国立大学の電子情報工学科の専任講師の頃に,前身のNE21(New Earth 21)を改良する形で開発したものである。その後DNE21はいくつかの改良を経て,国内の研究機関において2015年頃まで現役の統合評価モデルとして活用された。開発当初は1回の数値計算に1週間くらいの時間を要したこともあったが,ハードの進歩と商用ソフト(IBM 社のCPLEX)の利用で,今回の計算ではそれが数秒に短縮された。この所要時間の変化に,20年以上の長い年月が経ってしまったことを思い知らされた。
この20年の間に,京都議定書の採択・発効,シェールガスや再生可能エネルギーの利用拡大,原子力発電所の過酷事故,原油価格の乱高下,中国経済の躍進など,さまざまな出来事が起きた。ただその中で,筆者の予想が大きくはずれたことといえば,それは温室効果ガスの濃度上昇による気候変動問題が,日本だけでなく世界的にも,これほどまでに継続的にかつ広範に社会の関心を集め続けていることである。低炭素社会の実現などを標語に,いまでは小中学生にも当然のように知られる問題となった。しかし,1988 年以来この気候変動問題を見続けている古参の研究者としては,この問題に付随する科学的な不確実性が一般にはあまり認識されていないような気がして,逆に少し心配になることもある。本書ではこの不確実性の問題についても随所で意識して触れることにした。
さらに本書の執筆過程で意識せざるを得なかったことは原子力発電の扱いである。2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降,日本の世論調査では,本書執筆時点でも原子力発電に反対する意見が過半数を超えている。世界的にも脱原発を決定した国も少なくない。ただ,筆者自身は原子力発電を火力発電に代わる発電技術として将来的にも確保すべき重要な選択肢の一つであると考えている。原子力工学は筆者の本来の専門分野ではないが,本書ではやや詳しく記述することにした。少しでも多くの読者に原子力について知ってもらえればと思うからである。改めて調べてみると,筆者自身もそうであったが,原子力に関する予想外の事実にいろいろと気付くのではないかと思う。
本書の執筆にあたり,コロナ社のご担当の方々にはいろいろとご迷惑をお掛けした。関係者のご尽力がなくては本書の発刊は実現できなかったと思う。心より御礼申し上げたい。
2018年4月藤井康正
1. 序論
1.1 超長期の地球的規模の課題
1.1.1 地球の有限性
1.1.2 持続可能な開発
1.2 エネルギー環境経済システムとは
1.2.1 三つのシステム
1.2.2 視点や価値指標としてのエネルギー,環境,経済
1.2.3 エネルギー環境経済システムの対象
1.2.4 エネルギー環境経済システムのモデル化
1.2.5 複合的な学問領域とさまざまな関連トピック
1.3 本書の構成
2. エネルギー技術
2.1 エネルギーの物理的な分類
2.1.1 熱エネルギー
2.1.2 化学エネルギー
2.1.3 力学エネルギー
2.1.4 電気・磁気エネルギー
2.1.5 光量子エネルギー
2.1.6 核エネルギー
2.2 エネルギー変換
2.2.1 熱機関とヒートポンプ
2.2.2 電動機と発電機
2.2.3 燃料電池と電気分解
2.2.4 発光ダイオードと太陽電池
2.2.5 電力変換
2.2.6 燃料合成
2.3 エネルギー輸送
2.3.1 エネルギー輸送技術
2.3.2 各種燃料の輸送
2.3.3 熱エネルギーの輸送
2.3.4 電気・磁気エネルギーの輸送
2.4 エネルギーの貯蔵
2.4.1 エネルギー貯蔵技術
2.4.2 電気・磁気エネルギーの貯蔵
2.4.3 熱エネルギーの貯蔵
3. エネルギーシステム
3.1 エネルギーシステムの概要
3.1.1 社会におけるエネルギーの分類
3.1.2 エネルギーバランス表
3.2 化石燃料のエネルギーシステム
3.2.1 化石燃料資源の埋蔵量
3.2.2 石炭資源
3.2.3 石油資源
3.2.4 天然ガス資源
3.3 核燃料のエネルギーシステム
3.3.1 核燃料資源
3.3.2 原子炉
3.3.3 使用済燃料の再処理
3.3.4 核融合炉
3.4 再生可能エネルギー資源と利用システム
3.4.1 再生可能エネルギーの利用可能量
3.4.2 水力エネルギー
3.4.3 地熱エネルギー
3.4.4 太陽エネルギー
3.4.5 風力エネルギー
3.4.6 バイオマスエネルギー
3.4.7 海洋エネルギー
3.5 電力システム
3.5.1 電力システムの構成
3.5.2 火力・原子力・水力発電の種類と特性
3.5.3 電力システムの周波数制御
3.5.4 大規模集中電源と小規模分散電源
3.5.5 自然変動電源
3.6 石油製品供給システム
3.7 ガス供給システム
3.8 最終エネルギー消費
3.8.1 需要部門と省エネルギーの概要
3.8.2 日本の産業部門におけるエネルギー消費
3.8.3 日本の民生部門におけるエネルギー需要
3.8.4 日本の運輸部門におけるエネルギー需要
3.8.5 廃棄物利用による省エネルギー
4. エネルギーと環境
4.1 エネルギー利用による環境問題
4.2 大気汚染問題
4.2.1 酸性雨
4.2.2 硫黄酸化物・窒素酸化物の排出削減
4.2.3 その他の大気汚染と対策技術
4.3 気候変動問題
4.3.1 気候変動問題のこれまでの動向
4.3.2 温室効果と気候変動問題
4.3.3 炭素循環
4.3.4 CO2排出量削減技術
4.3.5 CO2回収貯留技術
4.4 放射能汚染
4.4.1 放射線の単位
4.4.2 放射線被曝の人体への影響
4.4.3 放射性廃棄物の処理
5. エネルギー環境と経済
5.1 概要
5.2 経済性評価
5.2.1 資金の時間的価値
5.2.2 投資判断の方法
5.2.3 最適化計算
5.3 最適電源計画
5.3.1 発電コスト
5.3.2 スクリーニングカーブ法による最適電源構成の導出
5.3.3 数理計画法による最適電源構成の導出
5.3.4 最適電源計画モデル
5.4 エネルギー市場のモデル
5.4.1 エネルギー供給の費用曲線
5.4.2 エネルギー需要関数
5.4.3 社会厚生
5.4.4 独占・寡占市場
5.5 エネルギー経済モデル
5.5.1 部分均衡と一般均衡
5.5.2 産業連関表
5.5.3 生産関数と効用関数
5.5.4 一般均衡モデル
5.6 不確実性のモデル化
5.6.1 レジリエンス向上施策と不確実性
5.6.2 確率動的計画法
5.7 環境と経済
5.7.1 外部不経済
5.7.2 環境価値の評価
5.7.3 環境政策の分類
6. エネルギーの長期シナリオ
6.1 エネルギーモデル
6.1.1 定式化によるエネルギーモデルの分類
6.1.2 目的によるエネルギーモデルの分類
6.2 エネルギー消費の長期シナリオ
6.2.1 GDPとエネルギー
6.2.2 最終需要のエネルギー種別シェア
6.3 DNE21モデルによる長期シナリオ
6.3.1 DNE21モデルの概要
6.3.2 基準シナリオ
6.3.3 気温制約を考慮に入れた最適エネルギーシステム構成
7. バランスのとれたエネルギーの利用を目指して
7.1 エネルギーベストミックス
7.2 今後のおもな課題
引用・参考文献
索引
新電力ネット「電力・エネルギー書籍」 掲載日:2023/06/02
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掲載日:2022/04/12
-
掲載日:2020/01/29