環境と社会 - 人類が自然と共生していくために -

環境と社会 - 人類が自然と共生していくために -

誰一人取り残さず、誰もが幸せになる=「公共性」尊重の環境倫理と持続可能な共生社会とは

ジャンル
発行年月日
2022/04/28
判型
A5
ページ数
206ページ
ISBN
978-4-339-06660-9
環境と社会 - 人類が自然と共生していくために -
在庫あり

定価

2,860(本体2,600円+税)

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 科学の必要性を先人の言葉から考えると、1945年寺田寅彦は,「科学者と芸術家の生命とする所は創作である。・・・科学者の研究の目的物は,自然現象であって,その中に何らかの未知の事象を発見し,未知の見解を見出そうとするのである。」と書き残している。私たちは、何を知っていて、何を知らないのか?何を学習したら良いのか?を常に問い続ける必要がある。それは、自然があまりにも複雑で多様性があり、神秘だから、知りたいと願う気持ちが生まれるのである。
国際情勢による環境とエネルギーを取り巻く課題は、極めて多様化しつつある。特に、国家レベルでの迅速な対応、技術開発が切望されており、再生可能エネルギー導入は、避けては通れない時代を切り開くロードである。回顧すると、これまでの技術革新も人類が幸せになるためにと先人達が信じて少しずつ積み上げながら創り上げてきた現代社会であるが、振り返ってみると決して、幸せに、平和には繋がっていないこともあり、人類を脅かす事象も創り上げてきたことを忘れてはならない。未来における持続可能な再生可能エネルギー技術開発も公共性を重んじながら、導入していくことの意義をこの教科書を通して学習してもらいたい。
このための到達目標がSDGsに他ならない。加えて言うならば、「誰も取り残さず、自然と共生していくために」何を学ぶかを真に考えることである。本書は、その解に辿り着くために役立つと信じる視点から多面的に書き記している。
 最初に、エネルギーと社会のゆくえでは、科学者および技術者にとって、環境を整える「保全」という考え方について、倫理を尊ぶうえで必須であることを述べている。この考え方は、使用・作業する人間だけではなく、自然環境を汚染・破壊から保護するために自然との共生において、地球上のすべての健全化を進めることに他ならない。
 生体に影響を及ぼしている環境問題と社会では、私たちの生活を便利で豊かにする目的で開発された化学物質が、残留性、食物連鎖、そして生物濃縮という脅威となって、大気や海洋を巡って地球に暮らす全ての生命体に襲い掛かっている現実を紹介している。また、放射線については、どのように共存するかという視点からも学習できるように組み立てられている。
 また、危機的な世界情勢の中で持続可能な社会を支えるエネルギー備蓄についても学習する。エネルギー備蓄は、各国で様々な取り組みがなされている。石油資源は、社会の成長を支え、発展の基盤となっている。その重要性が認識されたのは、1970年代のオイルショックにあり、エネルギー備蓄がまだ始まったばかりであることを忘れてならない。
さらに、人類の食を支える農業は、地球上の生物の一員である人類が生存を続けていくために必須の活動であるが、環境破壊を最小限に抑えながら社会を維持する視点が欠かせない。そのためには、生物の生命を維持するためのしくみに加えて、気候や気象という地球の地理的・周期的なしくみをよく理解し、どのような取り組みが持続可能と言えるかを深く考え、世界が抱える課題、社会が抱える課題を学習し、理解し、解決するための能力を養うための素養が学習できる。

著者らの恩師でもある故大竹一友 教授は,座右の銘であった「脱・常識」を後世の研究者に残した。ここでいう常識とは,人類が研究を積み重ねて継承し,科学で知り得た自然の仕組みのことである。科学とは,「普遍的な真理や法則の発見を目的として,一定の方法に基づいて得られた体系的知識」(『精選版 日本国語大辞典1巻』(小学館,2005年))のことである。恩師は,この体系的知識につねに疑問をもって自然を見つめる姿勢を説かれていたと著者らは受け止めている。

ニュートン力学が,相対性理論の発見によって限定的な範囲で成立する力学として認識し直されたように,現在われわれが体系づけて学習している知識も,まだまだ不完全であるかもしれない。この点において,学問を探究するモチベーションが存在するものと考える。

本書では,化石資源によるエネルギー基盤から科学による新しいエネルギー基盤への変化が,人口増加,食糧自給などの地球規模での課題に応えられるかどうかが焦点となる。この議論をする際には,地球の再生回復可能性や地球の有限性についても言及することを忘れてはならない。科学者達は新しいエネルギー基盤を実現しようと,地上の太陽と称される核融合エネルギー,究極の再生可能エネルギーとなる人工光合成によるバイオマス資源の創生などに不屈の精神で取り組んでいる。

「環境と社会」の問題点を徹底的に掘り起こすと「科学の発展により人類は自然と共生ができるのか」に尽きる。食物連鎖の頂点に位置する人類が自然と共生する難しさを乗り越えるためには,精神論や宗教的な考えも組み入れる必要性を感じる。

仏典において説かれる「功徳」と「廻向」の仕組みの考えには,科学的,工学的な考えとの共通点が存在する。例えば,仏典の教えには,「徳を積む」,「徳を分け合う」などの考えがある。ここでは,「徳」が物質として存在していると考えられている。その物質が「廻向」により移動し,全体として保存されて,また元に戻るのである。すなわち,物質の保存法則とエネルギー保存の法則が成立していることになる。さらに,「輪廻」により世代を超えて循環するのである)。

そう考えると,長くても300年ほどが化石資源社会だとすると,その化石資源により社会を形成している期間は宇宙の歴史から見れば一瞬であり,化石資源のない時間が全体としては流れている。少なくとも,化石資源を発見するまでは,牛や馬で耕作し,水車で脱穀し,薪を熱源とした自然と共生した暮らしが成立していたことは事実である。したがって,化石資源社会の後には,また自然との完全なる共生が実現するのかもしれない。

国際連合(United Nations,以下,国連と略記)が掲げる持続可能な開発目標(sustainable development goals,SDGs)の大命題である「誰一人取り残さない」社会の実現は,誰しもが願うことであり,誰しもがその困難さを感じている究極の前提である。その前提を実現するために17の目標が掲げられている。その難しさの本質は,国連難民高等弁務官事務所(The office of the United Nations High Commissioner for Refugees,UNHCR)の弁務官として,世界中の宗教や民族間の対立により生じた難民救済に真正面から取り組んだ,わが国が世界に誇れる「小さな巨人」こと故緒方貞子先生の著書『共に生きるということ』2)から学ぶことができる。先生は「歴史を学び,他者を学び,つねに先のことを考える」という教訓とともに,「be humane」(人間らしさに徹底せよ)という思想(哲学)を後世に残し,「100年後のみなさんへ」というメッセージを紡つむいでいる。

われわれは,よい環境とは何か,よい社会とは何かをつねに振り返りながら(ルックバック),身近な環境の変化から地球規模(気候変動,異常気象など)の変化まで,あらゆる業界,分野や領域において,その本質を見極め,興味をもって知ることが重要である。

未来社会は,新しいエネルギーを基盤とする「環境」と「経済」のバランスをいかにとるかにかかっているといっても過言ではない。われわれはその両立の難しさを,Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の悲痛な経験を通して学んでいるはずである。緒方先生は,「100年後のみなさんへ」のメッセージを「他を引っ張っていける立派な人々と,国であってほしいと思っております」と結んでいる。

学ぶことのモチベーションをしっかりもち,多くの知識と正しい判断ができる能力を身につけられることを切に願う。

本書は,全学部全学科の共通教養として,科学技術,公共哲学,環境倫理など幅広く大学・高専で学び始める自然との共生を実現するための素養の礎を身につけることを念頭に書かれている。特に,著作の機会となった近畿大学オンデマンド講義の関係機関・関係者に敬意を表する。また,コロナ社には本書の出版にあたり,その意義をご理解頂き,懇切丁寧に校正等を行って頂きましたこと,ここに深く感謝申し上げる。

2022年2月
著者

〔執筆分担〕
井田 民男:下記以外
川村 淳浩:2.2節,5.1節,5.3節,11.3節,14章
杉浦 公彦:4章,13章

1. 環境と社会の目指すところ
1.1 環境と社会の目指すところ
1.2 SDGsの目指すところ
1.3 科学と文化の目指すところ
演習問題

2. 環境と社会の問題点
2.1 人口増加とその予測
2.2 化石資源
2.3 二酸化炭素リサイクルシステム
2.4 科学と社会
演習問題

3. 地球システム
3.1 持続可能な再生可能エネルギー
3.2 再生可能エネルギーの科学
演習問題

4. 自然に影響を及ぼしている環境問題と社会
4.1 エネルギーと社会のゆくえ
4.2 再生可能エネルギーによる自然環境への影響
 4.2.1 太陽光発電について
 4.2.2 風力発電について
 4.2.3 海洋エネルギーについて
演習問題

5. 生体に影響を及ぼしている環境問題と社会
5.1 『沈黙の春』から学ぶ
5.2 海洋汚染と保全について
5.3 放射能汚染と保全について
演習問題

6. 地球環境保全に向けた環境と社会
6.1 マテリアル循環とエネルギー
6.2 環境保全とISO
6.3 法工学
演習問題

7. エネルギー資源を取り巻く環境と社会
7.1 エネルギー備蓄
7.2 バイオエネルギー
7.3 核融合エネルギー
演習問題

8. 技術開発を取り巻く環境と社会
8.1 科学とは
8.2 地球規模課題対応国際科学技術協力の取組み
8.3 ムーンショット型研究開発
演習問題

9. 環境倫理と技術開発
9.1 環境哲学
9.2 環境倫理
9.3 環境倫理と技術開発
演習問題

10. 共生の生態学
10.1 共生の生態学とは
10.2 共生システム
10.3 共生へ向かって
演習問題

11. 環境保全に向けた社会の在り方
11.1 持続可能なエネルギー
11.2 炭素循環
11.3 未来の自動車
演習問題

12. 廃棄物の資源化による持続可能な社会形成に向けて
12.1 廃棄物とは
12.2 廃棄物処理
12.3 廃棄物の資源化
演習問題

13. 水素エネルギーによる持続可能な社会形成に向けて
13.1 水素エネルギー
13.2 燃料電池
13.3 従来型燃料電池
13.4 新型燃料電池
演習問題

14. 農業による持続可能な社会形成に向けて
14.1 農業と気象
14.2 生物環境と農業
14.3 農業とエネルギー
演習問題

15. バイオエネルギーによる持続可能な社会形成に向けて
引用・参考文献
演習問題の解答例
索引

読者モニターレビュー【 あめ色玉ねぎ 様(ご専門:システム工学)】

昨今、カーボンニュートラルやSDGsなどが話題に上がり、地球規模での環境問題が改めて見直されている。そのような中で、現代人にとって環境問題への知見は最早教養レベルになりつつある。本書は、そんな現代に生きる全ての人が読むべきと言っても過言ではない環境社会学の入門書である。

エネルギーや生態学をはじめとして、全体を通して科学的な内容が多いが、専門的な内容はグラフや図等を用いながらわかりやすく解説されているため、通読するのに理系的な専門知識は不要である。また、章ごとに内容が完結しているため順不同で読むことができ、一つひとつが簡潔にまとめられているので隙間時間にも読みやすい。

本書で取り扱われているのは環境問題に留まらず、人類が環境と共生し、より良い社会を作るためにはどういうことが必要となるか、ということが全体のメインテーマとなっている。疫病に戦争と、先行きが不透明で前途多難な時代において、地球規模で問題と向き合い自然と共生しながら社会をより良くしていくためにも、現代社会の構成員である全ての人に読んでもらいたいと思える一冊であった。

井田 民男

井田 民男(イダ タミオ)

1962年(大阪府)生まれ。学部の卒業研究は、レーザ計測を開発し、乱流拡散火炎構造の実験的研究に携わり、研究の面白さ、奥深さを体験し、師の導きもあり研究者への道へと進んだ。研究では、レーザ診断による乱流拡散火炎構造の解明で博士号を取得し、マイクロフレームと言うミクロな燃焼科学へと発展していった。が、人生の岐路を契機にバイオエネルギーの研究開発に従事し、バイオコークスへと導かれ、国内初の固体バイオエネルギーを研究する近畿大学バイオコークス研究所創設に至った。大学時代は、ヨット部に所属し、セーリングとバイクツーリングを楽しんだ。座右の銘「堪え難きを耐え、忍び難しを忍ぶ」「脱常識」を尊び、自然の中にある真理を見つめる研究を楽しんでいる。

川村 淳浩

川村 淳浩(カワムラ アツヒロ)

1964年(北海道)生まれ。博士(工学)、技術士(機械部門)
 大学院修士課程修了後、農業用ビニールハウスやガラス温室向けの暖房機を主力製品とする業界最大手メーカーに勤務し、石油、ガス、またはバイオマスなどを燃料とする各種の燃焼器の開発および製品化に従事した。この間、大手食品メーカーが立ち上げた当時国内最大級の太陽光利用型植物工場に納入したエネルギー供給・二酸化炭素施肥システムの開発から運用実証に携わり、エネルギー統合化による持続可能な農業という視点の研究に昇華させて博士の学位を取得した。
 国土交通省所管の研究所では、トラック用水素エンジンシステムの研究開発とDME(ジメチルエーテル)自動車の実用化促進に携わり、運輸部門における多様なエネルギーへの対応、総合環境負荷の低減、そして安全性の確保などを目的とした技術基準整備に取り組んだ。
 母校である釧路工業高等専門学校では、化学物質、放射線、そして地域資源なども研究対象に加え、環境とエネルギーに係るシステム・機器などを通して、地域の環境、産業、そして社会に貢献できる研究および教育を目指している。

杉浦 公彦

杉浦 公彦(スギウラ キミヒコ)

1964年(大阪府)生まれ。
 大学での研究は、某鉄鋼メーカーとの共同研究で粉コークス充填層燃焼の反応工学的研究と燃焼工学に基づく研究を行った。その後、鴻池組中央研究所で極限作業用ロボットの調査研究、三洋電機機能材料研究所にて溶融炭酸塩形燃料電池の開発に従事した後、現在の大阪府立大学工業高等専門学校へ赴任。赴任後も溶融炭酸塩形燃料電池の研究を産業技術総合研究所関西センターとの共同研究で進め燃料電池の研究で学位を取得する。
 現在では世界で初の高機能ダイレクトカーボン燃料電池の開発、固体高分子形燃料電池の低コスト化に資する研究やCO2選択促進輸送膜の開発などを進めている。
 大学時代ではプロレス同好会を結成し、学園祭シーズンは巡業を行っていた。現在なお体を鍛えることに邁進している。

掲載日:2022/05/07

読売新聞広告掲載(2022年5月7日)

掲載日:2022/04/12

日本エネルギー学会機関誌「えねるみくす」2022年3月号広告