造林学フィールドノート

造林学フィールドノート

  • 上原 巌 東京農大教授 博士(農学)

森林科学を学ぶ人に贈る手引書。現在の日本の森林や林業の状況を踏まえた具体的かつ実践的な一冊

ジャンル
発行年月日
2018/05/01
判型
B5
ページ数
176ページ
ISBN
978-4-339-05258-9
造林学フィールドノート
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定価

2,970(本体2,700円+税)

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 現在、森林が注目を集めている。それは木材や林産物の生産だけではなく、生物多様性や遺伝子保存、環境保全、そして保健休養など、多面的に着目されていることが現在の特徴である。
 森林に興味を持つ人、「森林が好きだ」という人は、数多い。しかしながら、いざ森林について学んでみたい、一から勉強をしてみたいと思っても、意外にそのハードルは高いかも知れない。 
 そこで本書は、そのような森林に興味を持っている、森林について知りたいという人が手に取り、学んでいく際のまさしくノート代わりになる指針書、手引書として書いたものである。
 通常の造林学の教科書では、森林帯、森林分布など、「森林」の大枠から論じていくものが圧倒的に多い。しかし、本書では、森林は個々の樹木の集合体であることから、樹木の特性を冒頭におき、まずは樹木を知ることから、順次、森林環境、森林土壌、育苗、更新、今後の造林学の課題へという流れをとった。森林に出かける前に、まずは日常空間の中にも見られる身近な樹木に親しむことから始めてみてはいかがか?という提案である。このことは、造林という一連のシステムが定式化してしまっている現在のわが国において、いつの間にか、個々の樹木の特性を顧みることが忘れ去られてしまっている感があり、そのため、その樹種の適地ではない場所に植林がなされ、あまりにも安易に樹木、樹種が、ルーティンワークの造林として取り扱われてしまっていることへの疑問も同時に呈している。

 森林は、多様な生命によって形成される生命集合体である。無機物の土壌の上に、個々の木本植物をはじめとした植物が成立、生育し、森林を形成している。その個々の植物、樹木が有機的に相互関係を持つことによって、当初の計画とは異なった森林の姿となっていくことが時に見受けられることも、森林環境の持つ特徴である。いわば、森林が成立するということは、高度に多重な組み合わせ(combination)、確率(probability)のことでもある。そして、それらを一つの系(system)として考えた場合、まさしく森林は「複雑系:complex system」である。森林が多様、複雑であるならば、それに伴った多様、複雑なアプローチが必要とされるのだ。

 これらの背景を考えると、造林学を考え、進める上では、生物学、数学などをはじめ、地理学、気象学、物理学、化学など多様な科学的アプローチが必要とされることが自明である。
 また、森づくりは、空間形成、環境創造でもあり、その地域の風景、景観をも創出し、美学、芸術、アートとしての側面、要素もあわせ持っている。

 本文には、ところどころに、コーヒーブレイクなどのコラムやクイズもちりばめ、単調な学習とならないように心掛けた。
 タイトルを「フィールドノート」としたのは、森林をめぐり歩きながらの手引書、ノートであり、造林学の理論体系の本ではないことが一番の理由である。けれども、このノートが読者の森林への興味の発芽、伸長成長の一つの糧、雨滴となり、やがて大きな森林の世界へとその枝葉が伸びていくことを願っている。

1. 樹木のおもな特性 ―樹木の生長,生理,生態の特徴―
1.1 「樹木」とはなにか
1.2 樹木の歴史
1.3 樹木と人間の共通点
1.4 樹木の種類
1.5 樹木の生長の特性
1.6 樹木の耐陰性
1.7 温度,季節変化の影響
1.8 休眠
1.9 紅葉・黄葉・褐葉・落葉
1.10 樹木の根系
1.11 菌類との共生
1.12 その他の根の形状
1.13 繁殖
1.14 樹木のストレス診断
1.15 アレロパシーとフィトンチッド
1.16 樹木にまつわるその他の研究トピックス

2. 森林環境
2.1 森林とは
2.2 森林の種類
2.3 森林を形成する因子
2.4 森林の変化予測:四次元スケールでの手法
2.5 森林・林分構造のモデル解析アプローチ
2.6 「健全な森林」の林学的意義
2.7 身近な樹木の観察
2.8 森林・林地に出かける
2.9 森林の中に入ってみる
2.10 森林の有機物生産
2.11 森林の意義

3. 森林土壌
3.1 土壌の定義
3.2 森林土壌
3.3 森林土壌の性質
3.4 土壌の生成
3.5 土壌呼吸
3.6 リターの分解と温度環境
3.7 土壌生物
3.8 土壌動物
3.9 土壌微生物
3.10 土壌の堆積様式と土壌断面
3.11 菌根菌
3.12 土壌養分
3.13 森林土壌の物質循環

4. 育苗
4.1 実生苗の育成
 4.1.1 種子
 4.1.2 苗畑
 4.1.3 よい苗木の条件
 4.1.4 育苗容器
4.2 挿し木苗の育成
 4.2.1 挿し木の長所と短所
 4.2.2 挿し木の容易な樹種と困難な樹種
 4.2.3 挿し木の種類
 4.2.4 挿し木の実際
 4.2.5 挿し木苗育苗上の課題
4.3 その他の無性繁殖
4.4 林木育種

5. 造林学とは
5.1 造林とはなにか
5.2 「造林学」とはなにか
5.3 造林学の意義
5.4 造林の特質
5.5 造林・育林の成果モデル
5.6 造林の方法:更新
5.7 人工更新:人工造林
 5.7.1 人工林の林木の健全な生長
 5.7.2 造林樹種の選び方
 5.7.3 地拵え
 5.7.4 苗木の植栽
 5.7.5 植栽時の留意点
 5.7.6 コンテナ苗
 5.7.7 人工更新,人工造林の課題
5.8 天然更新
 5.8.1 天然更新の種類
 5.8.2 天然更新における課題

6. 森林保育
6.1 下刈り
6.2 ツル切り
6.3 枝打ち
6.4 除伐
6.5 間伐
 6.5.1 諸外国における間伐の意義の相違
 6.5.2 欧米諸国における樹型級
 6.5.3 寺崎の樹型級編成に至るまでの経緯
 6.5.4 間伐種の分類
 6.5.5 寺崎の樹型級のモデルとなった浅間山国有林の現況
 6.5.6 寺崎の樹型級における問題点

7. その他の造林の方法
7.1 広葉樹造林
 7.1.1 広葉樹の特徴
 7.1.2 広葉樹の樹形
 7.1.3 日本における広葉樹造林
 7.1.4 広葉樹造林の種類と目的
7.2 省力造林
7.3 ゾーニング
7.4 複層林施業
7.5 林分施業法
7.6 森林美学

8. 新たな造林の手法
8.1 “多様な森づくり”のニーズと模索
8.2 人工更新+天然更新+遷移→針広混交林および複層林
8.3 天然更新の樹木の持つ可能性
8.4 天然更新の今後
8.5 日本における造林学の課題

付録 森林・樹木と数学
A.樹の形:樹形
B.森林と数学
C.「古典造林学」から「現代造林学」へ
D.まとめ

引用・参考文献
おわりに
索引

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上原 巌

上原 巌(ウエハラ イワオ)

所属:東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科 教授
専門分野:森林科学、造林学、森林療法
研究室名:造林学研究室 Silviculture Lab.

私の造林学研究室では、種子、挿し木などの育苗から、森林環境における樹木、土壌、動物に至るまで多様性に富んだ研究テーマに取り組んでいます。
造林学は、森林生態、樹木生理、森林土壌、森林美学などの幅広い分野と関連する学問・研究体系です。そのため、研究室では、日本および海外における森林・林業の課題、問題点を踏まえた造林学の意義、目的、各手法について学び、課題解決能力を養うことを目的として、幅広い基礎トレーニングをおこなっています。
研究室のモットーは、「歩く」「考える」「育てる」の3つです。

「森林技術」2018年6月号 No,915 掲載日:2018/06/12

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