スライディングモード制御入門
スライディングモード制御の基本的考え方から,きわめて実用的で有益な設計法までを解説
- 発行年月日
- 2024/02/16
- 判型
- A5
- ページ数
- 240ページ
- ISBN
- 978-4-339-03245-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
本書は,ロングセラーとなった『スライディングモード制御-非線形ロバスト制御の設計理論』を大幅に刷新し,基本的な考え方や基本構造から解説し,きわめて実用的で有益な最近の設計法とその成果までをまとめた専門書である。
1994年にコロナ社から出版した野波健蔵・田宏奇共著の「スライディングモード制御―非線形ロバスト制御の設計理論―」は,日本語で出版されたスライディングモード制御関係書籍としては唯一の専門書であり,長い間ロングセラーとなっていた。特に,例題を通して設計の流れが理解できるように配慮した書籍であったため,たいへん好評であり現在も電子書籍として出版を継続している。本書「スライディングモード制御入門」は,この書籍の改訂版として最近の基本的な成果も含めてまとめた専門書である。特に,1994年以降に出版されたスライディングモード制御関係の英語の書籍や論文などを参照して,基礎的な部分で重要と思われる内容を本書に包括しながら刷新している。一方,Mathwork 社からMATLABベースのSliding Mode Control Toolboxも現在では提供されており,1994年ごろの環境とは激変し容易に制御系設計が実行できる状況にある。
現実の制御対象の多くは非線形な要素を含むなど,強い非線形システムであるため,近年,非線形制御が注目を集めている。さまざまな非線形制御理論および設計論がある中で,最も実用的な非線形制御系設計理論の一つにスライディングモード制御理論がある。スライディングモード制御の最大の特徴は,制御入力を切り換えて制御構造を変化させるという点であり,可変構造制御理論の最も有力な設計理論である。制御入力の切換指針として,スライディングモード制御では切換関数を定義し,その正負によって切換を行っている。このため,切換関数の選定が,スライディングモード制御理論において制御性能を決定する重要な要素である。高速での制御入力の切換を行うということは,高周波振動いわゆるチャタリングを発生させるという問題が生じるため,この抑制に関する多くの研究がなされており,最近では高次スライディングモード制御が提案され,体系化されている。
さらに,スライディングモード制御の重要な特徴は,所望の超平面に状態を拘束すれば低次元なシステムになること,さらにマッチング条件が成立する場合には強いロバスト性能が発揮できることであり,他の制御系では見られないたいへんユニークな制御系の構造を有している。この点がスライディングモード制御がロバスト制御と呼ばれるゆえんでもある。こうしたスライディングモードの優れた制御性能はすべての状態量を観測できることが大前提であるが,そのような理想的なシステムは現実には少ない。このため,出力フィードバックのみによるスライディングモード制御や,スライディングモードオブザーバによる制御系設計法が確立されている。
本書では1章から3章は旧版の内容を基本的に踏襲しながら一部を刷新している。1章では「スライディングモード制御とはなにか」について解説する。2章では,「スライディングモード制御の基本構造」について解説する。3章では,「スライディングモード制御系の設計法」について述べる。
4章から6章の内容はすべて新しい内容になっており,最新の成果も追加されている。4章では,「出力フィードバックスライディングモード制御」について述べる。5章では「スライディングモードオブザーバ」について述べる。6章では「高次スライディングモード制御」について解説する。
著者はこれまで40年間近く,優れた非線形ロバスト制御法であるスライディングモード制御理論を実システムに応用する立場から,正確にいえば,多くの制御対象に対してスライディングモード制御系設計の立場から関わってきた。そして,それらの多くは実験により有効性の検証までなされている。さらに,その中にはハイテク製品化までなされているものも存在する。これらを総合すると,著者の多くの経験知から,本書「スライディングモード制御入門」に書かれている内容は,きわめて実用的で有益な設計法であることを示唆しているといえる。本書に記載されていない他の有益なスライディングモード制御系設計法も多々存在すると考えられるが,そこは著者の未経験の分野であることから浅学としてご容赦いただきたい。
最後に,本書の出版に関してはコロナ社に多大なる忍耐と寛容のご配慮をいただきました。ここに厚く御礼申し上げます。
2023年12月
野波健蔵
1.スライディングモード制御とはなにか
1.1 スライディングモード制御の基本的考え方
1.1.1 スライディングモード制御の基本的考え方
1.1.2 最短時間制御(Bang–Bang制御)とスライディングモード制御
1.1.3 スライディングモード制御問題の記述
1.1.4 スライディングモード制御の理論的背景
1.1.5 スライディングモード制御の歴史
1.2 線形系に対するスライディングモード制御
1.2.1 基本的な定義
1.2.2 切換方式
1.2.3 到達条件と到達モード
1.2.4 制御則
1.3 スライディングモード制御の性質
1.3.1 到達モードの特性
1.3.2 スライディングモードの特性
1.3.3 スライディングモードのチャタリングと定常状態モード
1.4 サーボ系などへの拡張
1.5 非線形系のスライディングモード制御
1.5.1 正準系
1.5.2 正準系のスライディングモード制御
1.6 スライディングモード制御理論の拡張
1.6.1 大規模システム
1.6.2 離散時間系
1.6.3 分布定数系
1.6.4 むだ時間系
1.6.5 その他のシステム
2.スライディングモード制御の基本構造
2.1 スライディングモードの存在条件
2.2 等価制御法による解析
2.3 スライディングモードにおける低次元化
2.4 システムの正準系
2.5 対(A,B)の可制御性と対(A11,A12)の可制御性
2.6 スライディングモードのロバスト性
2.7 スライディングモードの不変零点
2.8 スライディングモード領域
2.9 スライディングモードと切換周波数
2.10 単一入力のスライディングモード制御系
3.スライディングモード制御系の設計法
3.1 切換超平面の設計法
3.1.1 極配置法を用いた設計法
3.1.2 固有ベクトル配置による設計法
3.1.3 最適な切換超平面の設計法
3.1.4 不変零点を用いた設計法
3.1.5 周波数整形による設計法
3.1.6 ロバスト超平面を有する設計法
3.1.7 ゲインスケジュール型超平面の設計法
3.2 スライディングモード制御器の設計法
3.2.1 対角化法による設計法
3.2.2 固定階層制御法
3.2.3 自由階層制御法
3.2.4 最終スライディングモード制御法
3.2.5 線形制御法と非線形制御法
3.2.6 非線形な系に対する制御法
3.3 チャタリングの防止策
3.3.1 飽和関数を用いる設計法
3.3.2 平滑な関数を用いる設計法
3.3.3 非線形連続制御法
3.4 スライディングモードサーボ制御系の設計法
3.5 モデル規範型(モデルフォロイング)制御系の設計法
3.5.1 モデル規範型スライディングモード制御系の設計法
3.5.2 モデル規範型スライディングモードサーボ制御系の設計法
4.出力フィードバックスライディングモード制御
4.1 出力フィードバック制御問題の定式化
4.2 制御入力と観測出力の数が一致している特別な場合
4.3 一般的な出力フィードバック型スライディングモード制御系
4.3.1 スライディングモード超平面の設計法
4.3.2 スライディングモード制御則の設計法
4.4 動的補償器による不確かな系の出力フィードバックスライディングモード制御
4.4.1 オブザーバに基づく動的補償器による超平面の設計法
4.4.2 スライディングモード制御則の設計法
4.5 パラメータ最適化による出力フィードバック超平面の設計法
4.6 ある制約を有する場合の設計法
5.スライディングモードオブザーバ
5.1 Utkin オブザーバ
5.2 Walcott–Zak オブザーバ
5.3 不連続オブザーバ
5.3.1 オブザーバ設計に関する正準系
5.3.2 スライディングモードの存在条件
5.4 改良型 Walcott–Zak オブザーバ
6.高次スライディングモード制御
6.1 高次スライディングモード(HOSM)の考え方
6.2 ツイスティングスライディングモード(TSM)制御
6.3 ツイスティングスライディングモード制御の安定性の考察
6.4 スーパーツイスティングスライディングモード(STSM)制御
6.5 一般化されたスーパーツイスティングスライディングモード制御
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【 たか 様(業界・専門分野:制御工学(産業応用) )】
本書は,1994年に出版された書籍の改訂版である.
本書の大きな特徴は,スライディングモード制御の内容(第1章)から基本構造(第2章),設計法(第3章)と,内容の理解から設計手順までの説明が書籍の半分以上を占めており,まさに入門書としての書籍である点であると考えられる.特に第3章の設計方法は,70ページ近くにわたって説明がされており,非常に説明が手厚いという印象を受けた.
また,冒頭に記述されているスライディングモード制御の基本的な考え方や最短時間制御との比較も直感的でわかりやすく,「スライディングモード制御?なんか切換面使う制御だよね」と,なんとなくのイメージを持っている人や,スライディングモード制御を使った制御系の設計に興味のある人にぜひ薦めたい書籍であると思う.
また,4章以降では,出力フィードバックやオブザーバへの応用など,実用的な内容が解説されている.
各内容について,順序だてて説明がなされており,また,関連文献も明示されていることから,スライディングモード制御の応用に興味のある方にも有用な書籍である.
読者モニターレビュー【 マサアキ 様(業界・専門分野:制御工学 )】
本書『スライディングモード制御入門』は、実用的な非線形制御であるスライディングモード制御について、体系的に学べる書籍です。私は大学生で、クワッドローターの制御について研究しています。クワッドローターの制御においてスライディングモード制御を利用した論文をよく見かけます。しかし論文では断片的な知識しか得られないことも多いです。そのため、私は本書のようにスライディングモード制御の基本的な考え方から、丁寧にかつ体系的に学べる書籍を待望していました。さらに、本書では多数の論文・文献に触れているため、スライディングモード制御を深く学ぶことも可能であると思います。
読者モニターレビュー【 mado 様(業界・専門分野:制御工学 )】
本書は『スライディングモード制御-非線形ロバスト制御の設計理論』の改訂版であり、以前の内容に加え、最近の成果についても言及がなされている。通常のスライディングモード制御設計はもちろんのこと歴史やオブザーバについて書かれており、非常に実用的である。
スライディングモード制御についての文献は数多く存在するが、ここまで広範囲に取り扱っている文献はお目にかかったことがない。また、スライディングモード制御の論文を読んでも設計することは困難であるが、本書を熟読することで設計をマスターすることができる。初学者から実務経験者まで是非とも、本書を手にとって一度読んでもらいたい。
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