クリギング入門 - 空間データ推定の確率論的アプローチ -

クリギング入門 - 空間データ推定の確率論的アプローチ -

空間データ分析ソフトウェアに組み込まれているクリギングについて理論から応用まで解説

ジャンル
発行年月日
2021/04/23
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-05275-6
クリギング入門 - 空間データ推定の確率論的アプローチ -
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【クリギングとは】
クリギングとは,異なる位置で測定,分析して得られたデータの分布から,別の位置における値を推定する空間内挿推定法の一つであり,自然・社会科学における様々な空間データ,例えば,大気や水中に広がる物質の濃度,ある地域における農作物の収量,地下深くに眠る鉱物の賦存量,ある都市の地価や住宅価格,環境汚染やウィルス感染数などの分布推定に広く用いられています。
クリギングは,ある現象によって発生したデータを,あたかもサイコロを振るように確率的に発生したと仮定します。その際,データは,サイコロのように完全にランダムにではなく,それぞれの現象に応じた空間的な特性を反映して発生したと考え,この特性をデータからモデル化し,最良な値を推定します。その確率論的アプローチは,他の推定法と根本的に異なり,データ分析に基づき様々な現象に対応する汎用性こそ,クリギングの特徴と言えます。

【本書の狙い】
本書は,クリギングの入門書として,空間データを扱う研究者,実務者,学生の方々が,その確率論的アプローチの本質を理解し,実際に研究や実務で使えるようになることを目標としています。このため,平易な文章と図表による具体的な解説に気を配り,推定式だけでなく,具体的な計算手順,エクセルを用いた計算法,実践上の留意点などをまとめています。クリギングを学ぼうと考える多くの方々に,ぜひ手にしていただくことを期待しています。

【各章の内容】
本書は,全6章で構成されます。1章では,空間内挿推定法の一般的な分類を説明した後,簡単な例題を用意し,他の推定法と比較しながら,クリギングの特徴を述べます。そのほか,クリギングの適用実績や,更なる学習に向けた他の参考書も紹介します。2章では,本書を読み進めるために必要な確率統計の基礎をまとめています。3章は,空間データの確率論と題し,多くの方々に馴染みの少ない用語である領域変数,空間相関性,定常性,バリオグラムについて,解説します。4章は,クリギングを解説する章です。最初に,クリギングに共通する特徴をまとめ,続いて,単純クリギング,通常クリギング,普遍クリギング,外生ドリフトクリギング,コクリギング,ブロッククリギング,インディケータクリギングについて順に解説します。それぞれの解説では,実際に用いる手引きとして,まず推定に用いる式をまとめ,続いて式の導出過程や推定の際の補足・留意点を記載しています。また理解の助けとなるよう,各解説では,1章の例題に対する具体的な計算例を示しています。5章では,クリギングの応用として,推定の妥当性評価や最良の推定条件を選定する交差検証法,対象領域全体を推定するマッピング,クリギングの特徴である推定誤差分散を利用したマルチ推定であるシミュレーションについて解説します。6章では,クリギングを用いるガイドラインとして,空間内挿推定法の選定およびクリギングの選定の手順・フローを示すとともに,各段階での実践上の留意点を記載しています。また,読者が自ら計算できるようエクセルを用いた計算法や,著者らによる3つの実践例なども紹介します。

本書は,空間データの内挿推定法,クリギングの入門書である。クリギングは,20世紀半ばに,南アフリカの鉱山開発における鉱床の推定法として開発され,その後,理論的な体系化を経て,現在では地球統計学の中核をなす手法として,もともとの目的である資源探査にとどまらず,理学,工学,農学における自然科学全般,さらには社会科学や医学などさまざまな分野における空間データ分析の研究,実務に幅広く活用されている。

ある調査の結果,いくつかの地点において異なる値のデータを得たとき,別の地点の値を知りたい,さらには調査範囲における全体の分布を推定したいと考えることは自然であろう。この場合,クリギングも含め多くの推定法から,どの方法を選択すべきかという課題に直面する。それぞれの推定法が適用可能かどうかは,推定のために仮定する現象の空間特性が実際に適合するかによって決まる。しかし,現象が複雑になるほど,その現象をあらかじめ理解する程度には限りがあり,現象に適した推定方法の選択は難しくなる。現象に対する知識や理解が限られる中,どのようにして,最良の推定を行うことができるであろうか。

クリギングは,決定論的には捉えきれない複雑な現象をある確率的な事象とし,データをその実現値とみなす点において,ほかの推定法と本質的に異なる。その確率論的なアプローチにおいては,データのばらつきは確率的に発生するため予測することはできないが,位置が近いほどたがいに値が近くなりやすいという空間相関性の仮定に基づき,推定が行われる。そして,データの分析を通じ,その空間相関性の有無を判別し,データに応じた空間相関性のモデル化を行う。さまざまな現象に対する,この適用の柔軟性こそクリギングの特徴であり,ほかの推定法に対する優位性といえる。

クリギングは現在,空間データ分析を目的とするさまざまなソフトウェアに,その計算ルーチンが組み込まれている。こうしたソフトウェアを用いれば,データを入力するだけで容易にクリギングを行うことが可能である。このため,論文や報告書では,推定の前提となる仮定や条件が説明されることなく,結果のみ示されることも多い。しかし,クリギングでは,データの分析を通じ,データに内在する空間相関性の有無を判断し,モデル化する過程こそが重要なプロセスとなる。このため,クリギングを推定に用いる際には,その理論や適用性への理解のもと,ソフトウェアにあらかじめ用意されたデフォルト条件に頼ることなく,対象とする現象に応じた仮定や条件を自ら吟味,設定し,そのうえで得られた結果の妥当性を判断することが求められる。しかしながら,これまで出版されたクリギングの解説書の大半は洋書であり,気軽に手にとって読むことのできる和書は限られていた。そのため,これからクリギングを学ぼうとする研究者や学生,実務に携わる技術者の方々が,その基礎から応用までを学ぶための入門書として執筆したのが本書である。

本書の構成として,まず初めに単純化した空間内挿推定の問題を設定し,その考察を通じて,推定に伴う一般的な問題とその解決に向けたクリギングの特徴を解説している。ついで,本書を読み進めるうえで必要な確率統計の基礎をまとめ,そのうえでクリギングの前提となる空間データに対する仮定や概念を空間データの確率論として解説している。そして,クリギングの解説では,よく使われる代表的な方法に絞り,まず実際に計算に用いる数式をまとめたうえで,それらの導出過程や推定の際の補足・留意点,さらに実際の計算手順がわかるよう例題に対する計算例を示している。また,クリギングの応用技術として,交差検証法,マッピング,シミュレーションを解説し,最後に実践のガイドラインやExcelを用いた計算法,著者らによる実践例を紹介している。

本書は,入門書としての位置づけであり,それぞれの解説においては,できるだけ平易に,かつ具体的な計算例を示すことに重きを置いて執筆した。このため,統計的な概念の解説や式の証明において厳密さを欠くと感じる箇所もあると思われるが,本書の趣旨に免じて,ご容赦願いたい。また,クリギングは,これまで多方面に長く使われた実績があり,著者よりも見識が深く,それぞれの研究や実務において経験の多い方々も多いと思われる。今後,本書について,機会あるごとに忌憚ないご意見を賜れば幸いである。

最後に,本書の執筆にご協力いただいた方々に,この場を借りて御礼を申し上げたい。まず,クリギングを学ぶきっかけとなった北海道大学大学院における博士研究において,懇切にご指導くださった北海道大学名誉教授の池田隆司先生,そして本執筆にご理解いただき,多くの助言をくださった北海道大学工学研究院教授の長野克則先生,そして本書の出版企画に賛同いただき,脱稿に至るまで辛抱強くご協力いただいたコロナ社に,心より感謝申し上げる。本書で紹介する実践例は,国土交通省国土政策局および同北海道開発局,産総研地質調査総合センター,一般社団法人全国さく井協会北海道支部からの貴重なデータに基づいて行われた成果である。また,本文中の図表作成には,研究室(執筆時)の日下稜氏および明山雄真君,沖原峻君らによるところが大きい。彼らに加え,日本工営株式会社の小泉謙氏,北海道大学工学部の谷内翔氏の両名には,時間を割いて通読いただき,彼らからの意見に沿って,修正,改善がなされた。ここに記し,深く感謝申し上げる。

2021年2月 札幌にて
阪田 義隆

1.はじめに
1.1 クリギングの歴史
1.2 空間内挿推定法の分類
1.3 空間内挿推定の例題
1.4 推定法の比較
1.5 クリギングの適用分野
1.6 関連図書
1.7 本書の構成

2.確率統計の基礎
2.1 確率の定義
2.2 確率の公理
2.3 期待値と分散
2.4 標本と母集団
2.5 確率密度関数と累積分布関数
2.6 標準正規分布
2.7 同時確率
2.8 確率変数の関数
2.9 回帰分析
2.10 統計的推定

3.空間データの確率論
3.1 領域変数
3.2 空間相関性
3.3 定常性
3.4 バリオグラムの推定手順
3.5 バリオグラムの推定例

4.クリギング
4.1 クリギングの概要
4.2 単純クリギング
4.3 通常クリギング
4.4 普遍クリギング
4.5 外生ドリフトクリギング
4.6 コクリギング
4.7 ブロッククリギング
4.8 インディケータクリギング

5.交差検証法・マッピング・シミュレーション
5.1 交差検証法
5.2 マッピング
5.3 シミュレーション

6.クリギングの実践
6.1 実践のためのガイドライン
6.2 Excelを用いた計算
6.3 実践例の紹介
 6.3.1 回帰クリギングによる地下水面推定
 6.3.2 インディケータクリギングによる地質の推定
 6.3.3 シミュレーションによる地盤物性値の推定

記号解説
引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【青木健一 様(ご専門:データ分析)】

技術の入門書に必要な事項として,分野全体の俯瞰図,理論解説,手法選択の判断基準,手法の実装方法,実問題への適用例,次へ進むための参考図書等が必要と考える。本書にはそれがある。

・分野全体の俯瞰図
本書は地理・空間データ解析の中でも特に「クリギング」に絞っている。そのため俯瞰図の優先度は低めだがそれでも入門者は類似手法との違いの見極めができない状態であり,俯瞰図は欲しい。本書では冒頭に「空間内挿推定法の分類」として決定論的方法と確率論的方法としてのクリギングとして俯瞰的な説明がある。

・理論解説
重積分,行列の知識が必要とはなる。ただ,それに対応した手法の実装方法としてExcelでの実装例があり分かりやすい。

・手法選択の判断基準
フローチャートで明確な説明がある。似ていて違いが分かりにくい手法についても分かりやすい解説がある。

・手法の実装方法
クリギングの実践としてExcelによる計算例がある。セルに記述する関数の説明も丁寧である。

・実問題への適用例
そもそもクリギングは何に使えるのだろうか。この疑問に答えられない人に伝えたい。本書では地質学に関連する適用例ではあるが,COVID-19禍で人流データの重要性が高まっており,そういった事例にも適用できると考えられる。類書が少ないとっつきにくい分野だが本書により,容易に入門できる。

・次へ進むための参考図書
引用・参考文献が充実している。

阪田 義隆

阪田 義隆(サカタ ヨシタカ)

 北海道札幌市出身。団塊ジュニア世代。幼少期は友人らと日々外で遊び,山や川が身近にありました。中学の頃は,8ビットパソコンの最盛期で,廉価なMSXを購入し,ゲームの自作にのめりこみました。カセットテープにデータを磁気記録していた時代です。高校では,数学や物理の論理性,明快さに惹かれました。同じ数学でも確率統計は結論が曖昧に感じ,地学も知識の詰め込みのように感じましたが,今ではそれらを専門にしています。大学では,自然現象の再現を試みたいと考え,地球物理コースを選択,大型計算機上でFortranプログラムを組み,シミュレーションしていました。当時の計算レベルは現在,安価なパソコンでも容易に可能で,計算技術の進歩に驚かされます。また大学生活の4年間,吉田寮という,よく言えば歴史ある,悪く言えばお化け屋敷のような学生寮で過ごしました。個性豊かな仲間らとの寮生活に加え,生活費の足しにする日々のアルバイトも,振り返ると貴重な経験でした。
 大学卒業後,北海道に本社を構える建設コンサルタントにUターン就職し,約17年間,地質調査に従事しました。広大な北海道各地にある道路やトンネル,堤防やダム,処理場,発電所など,様々な工事現場を回りました。興味ある地球科学に仕事として携わりながら,社会に貢献できる仕事でした。地質調査の目的は,一言でいえば地質の分布や地盤の構造を推測することですが,更に踏み込めば,データから地下をモデル化し,そのモデルに基づき,工事によって起きる現象を説明あるいは予測することです。しかし,実際に観測されるデータと計算で得られる結果が合わないことがしばしばあります。地下で起こる現象は既に理論的に体系化されているとすれば,計算が合わない原因は,モデルが実際の状態をうまく再現できていないためと考えられます。このような経験を繰り返すうち,限られたデータから,いかにして地盤の複雑さをモデル化するかに関心を持つようになり,縁あって社会人で大学院博士課程に入学。データ分析アプローチとして地球統計学に着目し,その地盤モデリングの研究成果により学位を取得しました。
 現在は大学教員となり,培った地盤モデリングの応用研究として,再生可能エネルギーである地中熱利用に関する研究を行っています。地球上どこにでも地下には,熱エネルギーが蓄えられています。その効率的利用に向けて,複雑な地下構造の推定方法から,日本全国の地質と物性値の推定データベース化,それに基づくエネルギー賦存量評価まで,ローカルとグローバル,理学と工学双方の視点から,国内外の研究機関や企業の方々と連携し,研究を進めています。

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