適応制御

システム制御工学シリーズ 10

適応制御

モデル規範系適応制御系の,理想的な条件下での安定論から,ロバスト制御,逆最適性に基づく適応制御系等を解説した。

ジャンル
発行年月日
2018/03/26
判型
A5
ページ数
248ページ
ISBN
978-4-339-03310-6
  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

モデル規範形適応制御系に関して,理想的な条件下での安定論から,現実的な不確定性のもとでのロバスト適応制御,離散時間形式の適応制御,非線形制御とも関連の深いバックステッピング法,逆最適性に基づく適応制御系まで解説した。

適応制御とは,生物が環境に対して適応する機能を制御器の設計に応用する技術のことである。具体的には,制御対象の未知パラメータや環境の変化に伴う変動パラメータについて,制御系全体の性能がつねに良好な状態に保たれるように,制御装置の特性を運転中に自動的に調整するのが,適応制御の考え方である。これに対して,ロバスト制御では,不確定性の範囲を特定して,原則として時不変の制御装置で一定の制御仕様を満足させようとする。適応制御はロバスト制御とは大きく異なる方針をとり,時変制御器を用いて積極的に制御対象の不確定性に対処する制御手法であり,さまざまな変遷を経ながら現在に至るまで研究が続けられている。

本書は,この不確定性に対する能動的制御法としての適応制御について,基礎事項を中心にまとめたものである。特に,これまで多く研究されてきたモデル規範形適応制御系に関して,理想的な条件下での安定論の確立から,現実的な不確定性のもとでのロバスト適応制御,離散時間形式の適応制御,非線形制御とも関連の深いバックステッピング法,逆最適性に基づく適応制御系の設計と解析に至るまでの一連の話題について,わかりやすく説明することに留意して執筆した。
本書の構成は以下のとおりである。まず1章では,適応制御の概要を述べるとともに,MIT方式に基づいてモデル規範形適応制御を簡単な制御対象に適用する方法を説明する。ついで2章では,安定解析に必要な最低限の基礎事項に触れた後に,簡単な制御対象について,安定論に基づいてモデル規範形適応制御系を構成する方法を紹介し,モデル規範形適応制御の基礎を概観する。これに続く3章では,一般的な線形の制御対象に対してモデル規範形適応制御系を構成する方法について説明を行い,直接法と間接法により安定性の解析を行う。

4章では,3章で述べた理想的な条件に,未知の外乱やモデル化できない不確定要素が加わったときの,ロバスト適応制御の基礎事項について説明する。特にパラメータの発散を抑える適応則の修正方法を紹介し,不確定要素が存在しても有界性が保証される適応制御系の構成法について述べる。続く5章では,それまでの議論を離散時間形式に拡張して,確定的な問題設定としてのモデル規範形適応制御と,確率的な問題設定としてのセルフチューニングコントロールの統一的な説明を与える。6章と7章は,5章までの基礎的な事項に対して先端的な成果を紹介する。まず6章では,相対次数の大小にかかわらず,つねに出力誤差に基づいて適応制御系を構成するバックステッピング法について述べ,線形系の適応制御問題だけでなく,一部の非線形系の制御にもバックステッピング法を適用できることを示す。7章では,逆最適化の概念を用いることで安定性の確保だけでなく,意味のある評価関数に対して最適性が保証される適応制御系の構成法について説明する。最後に,8章では,本書のより深い理解に繋がる数学的な補遺として,適応制御の有界性の証明(厳密な解析)に関わる事項を与える。

なお,本書を執筆するにあたって,もう一つ,さまざまな読者の要求に対して多種多様な読み方ができるように配慮した。まず,適応制御とその数理について必要最小限のことを知りたい場合は,最初のステップとして1.3節と(2.1節を準備として)2.2節を対比させて読むことを勧める。さらに,もう少し一般化した内容を追加したいのなら,最初のステップに加えて3.1~3.5節に目を通すことを出発点とすればよいだろう。その上で,連続時間形式のモデル規範形適応制御全般の基礎を知りたいのであれば,3.6節を読めばよい。また,適応制御の研究に深入りしたい場合は,8章の安定性の証明(厳密な解析)と3章を3.7節まで目を通すことで,研究の基礎としての重要な知見が得られるだろう。4章のロバスト制御についても,最小限の知識を速習するときは4.1~4.4節にまず目を通し,そのあとは必要に応じて4.5節と4.6節に移っていけばよい。離散時間適応制御は確定系と確率系について書かれており,まず確定系について最小限の知見を得る場合は5.1節と5.2節に目を通し,その後,必要に応じて5.3節の確率系の説明へ移っていけばよい。5 章までの基礎事項から若干外れる6章と7章では,それぞれの事項について必要最小限の感触をつかむのであれば,6.1節と6.2.1項,および7.1~7.3節を読めばよい。さらに進んだ成果に興味がある場合は,必要に応じておのおのの章のその後の節を読んでいけば,重要な知見が得られる。

また,本書を通じて,それぞれの適応制御手法について,定理を示すだけでなく,表としてまとめる形式をとった。これらの表は,各方式に基づく適応制御系の構成にあたって役立ち,また表だけ目で追っていっても適応制御全般のおおよその感覚を体得できるだろう。

本書を手にした制御工学の学修者の方々や,産業界で現実の問題に直面する制御技術者の方々に,適応制御に関心を持っていただき,理論と応用の両面から適応制御に関連する分野で多くの成果が生まれる契機となれば,著者にとって望外の喜びである。

最後に,著者が学生時代からご指導いただいている北森俊行先生(東京大学名誉教授),池田雅夫先生(大阪大学名誉教授)をはじめとする本シリーズ編集委員の皆様,およびコロナ社の皆様に,心より御礼を申し上げます。

2018年1月 宮里義彦

1. 適応制御とは
1.1 未知の制御対象の制御
1.2 適応制御の概要
 1.2.1 適応システムと適応制御
 1.2.2 モデル規範形適応制御
 1.2.3 セルフチューニングコントロール
1.3 MIT方式に基づくモデル規範形適応制御系の構成
 1.3.1 定常ゲインの調整(1次系の場合) 
 1.3.2 定常ゲインと時定数の調整(1次系の場合) 
 1.3.3 定常ゲインと動特性の調整(2次系の場合) 
演習問題

2. モデル規範形適応制御の基礎
2.1 安定解析の基礎
 2.1.1 関数空間
 2.1.2 正実関数とKalman-Yakubovichの補題
 2.1.3 適応システムの安定解析
2.2 安定論(リアプノフ法)に基づくモデル規範形適応制御系の構成
 2.2.1 定常ゲインの調整(1次系の場合) 
 2.2.2 定常ゲインと時定数の調整(1次系の場合) 
 2.2.3 定常ゲインと動特性の調整(2次系の場合) 
演習問題

3. 一般的なモデル規範形適応制御
3.1 理想条件下の適応制御
3.2 モデル追従制御の基本構造
3.3 モデル追従制御の別の導出
3.4 モデル規範形適応制御の問題設定
3.5 モデル規範形適応制御系の構成法:状態変数または出力の微分が既知の場合
 3.5.1 状態変数と出力の微分が既知の場合
 3.5.2 状態変数が未知で出力の微分が既知の場合
3.6 モデル規範形適応制御系の構成法:入出力信号のみを用いた構成
 3.6.1 相対次数が1次の場合
 3.6.2 相対次数が2次以上の場合
3.7 間接法に基づくモデル規範形適応制御
 3.7.1 相対次数が1次の場合
 3.7.2 相対次数が2次以上の場合
 3.7.3 考察
演習問題

4. ロバスト適応制御
4.1 適応制御のロバスト化
4.2 問題の発端
4.3 ロバスト化の方針
4.4 有界外乱に対するロバスト適応制御
 4.4.1 σ-修正法
 4.4.2 射影法
 4.4.3 不感帯法
4.5 有界外乱に対するロバスト適応制御(一般形式) 
 4.5.1 システムの表現と誤差方程式の導出
 4.5.2 σ-修正法
 4.5.3 射影法
 4.5.4 不感帯法
4.6 有界外乱と寄生要素に対するロバスト適応制御
4.7 ロバスト適応制御の考察
演習問題

5. 離散時間適応制御
5.1 離散時間形式の適応制御
5.2 モデル規範形適応制御系
 5.2.1 問題設定
 5.2.2 dステップ予測器
 5.2.3 モデル追従制御の別の導出法
 5.2.4 モデル規範形適応制御系
5.3 セルフチューニングコントロール
 5.3.1 基本概念
 5.3.2 問題設定
 5.3.3 dステップ予測器
 5.3.4 最小分散制御
 5.3.5 セルフチューニングコントロールの構成
演習問題

6. バックステッピング法
6.1 出力誤差に基づく適応制御系の構成
6.2 バックステッピング法による適応制御
 6.2.1 相対次数が3次の場合
 6.2.2 一般形式
6.3 バックステッピング法と正実化
6.4 非適応化システムのロバスト性とκ-補償
6.5 バックステッピング法による非線形系の安定化
6.6 バックステッピング法の考察
演習問題

7. 逆最適適応制御
7.1 適応制御と最適性
7.2 2次形式評価関数に対して最適な適応制御系
7.3 外乱を含む評価関数に対して最適な適応制御系
7.4 最適な適応制御系の考察
7.5 一般の場合の最適な適応制御系
 7.5.1 問題設定と対象の入出力表現
 7.5.2 入力項を評価に加えない場合
 7.5.3 2次形式評価関数に対する最適制御の場合
 7.5.4 適応H1制御の場合
演習問題

8. 数学的補遺
8.1 安定解析の基礎
8.2 定理3.4の厳密な有界性の証明
 8.2.1 入出力安定性
 8.2.2 Bellman-Gronwallの補題とswappingの補題
 8.2.3 有界性の証明(厳密な解析)(定理3.4の証明) 

引用・参考文献
演習問題の解答
索引

宮里 義彦(ミヤサト ヨシヒコ)