電波システム工学

電子情報通信レクチャーシリーズ D-15

電波システム工学

技術の変遷がめまぐるしい分野にあっても、時代に不変な内容・根幹に横たわる技術を解説。

ジャンル
発行年月日
2020/09/30
判型
B5
ページ数
228ページ
ISBN
978-4-339-01875-2
電波システム工学
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定価

4,290(本体3,900円+税)

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火星基地局と通信をしたい、無線にしますか?有線(光ファイバー)にしますか?という質問にどう答えますか。 “火星と地球を光ファイバーで結ぶことはできっこないのだから有線は無理、無線しかない” という答えは横に置いておいて、もし、物理的にそれができたら、ということで。光ファイバーが低損失(1kmで数%の損失)で、きわめて優れた伝送媒体であることは良く知られている。それが火星まで引けるのなら、可能性もあると思うだろう。

ここにA地点とB地点を結ぶ回線があり、A地点から送った信号は受信点Bで1/1000の電力になるとする。その距離を2倍にして、受信強度を同じにしたいなら、送信電力をどれだけ増やせばよいか。ファイバーは1000倍にしなければいけないのに、無線(電波)は4倍ですむ(フリスの伝達公式)。さらにその2倍の距離にすると・・・。このようにして火星まで結ぶには、光ファイバーであれば、とんでもない数値になり、それゆえ、弱くなった信号を増幅する装置が一定間隔で膨大な数必要になるのに対し、電波の減衰はそれほどでもない。

これは、伝搬メカニズムの違いである。光ファイバー通信路は距離dに対して、10^-αd (α: 媒質に依存する減衰係数)のように、指数関数的に減衰するのに対して、電波ではd^-2で、すなわち、距離の2乗に反比例して減衰する。無限の彼方に情報を伝送するには、すなわち、冒頭の質問の答えとしては、電波が適している(=電波しかない)ということになる。このように、電波は宇宙の果てまでもメッセージを届ける力を持っている。宇宙のどこかに知的生命体がいるなら、そのメッセージを受け取ることができる。電波のチカラである。映画「コンタクト(Contact)」の世界が、まったく荒唐無稽(SF)とも言い切れない。

本書はこのような電波が活躍するシステムを扱っている。基礎固めなくして、応用編に位置づけられる「電波システム」を語れない。基礎編は、レクチャーシリーズの他書で触れられることが少なかった電波伝搬やアレーアンテナ技術を中心にまとめている。応用編では、多岐にわたる電波システムを総花的に紹介することを避け、電波の役割が現代に生き未来に続く主要な六つのシステム技術に絞っている。技術の変遷がめまぐるしい分野にあっても、時代に左右されない内容・根幹に横たわる不易の技術を取り上げ、20年後(2040年代)に学ぶ学生に「この本は内容が古くて役に立たない」と言わせない、と言うのが筆者等の意気込みである。

もう一点。電磁気学を含めて電波技術の発展には、その折々に道を切り開くパイオニアがいて、彼等は総じて意思も個性も桁外れであった。その生き様に触れる意味で、テーマに関連するコラム(談話室)を随所に入れている。学生諸君に、人生はこうありたいと燃えるものを感じて欲しい願いを込めて。

本書のタイトルは「電波システム工学」,電子情報通信レクチャーシリーズの一巻であり,大学の学部や大学院での授業の際の教科書としてまとめたものである.この執筆を引き受けてから脱稿までに極めて長い時日を費やしてしまった.もとより著者の怠惰なところではあるが,そればかりではなかった.電波システムからイメージされるものは,マルコーニ以来百有余年かんという歴史の長さ(縦の長さ)と電波利用分野の広がり(横の長さ)に対して,全体を俯瞰することへの力量不足のほか,限られたスペースの中に納めることの難しさ,さらには,今日の移動通信に代表される情報通信技術の目まぐるしい進化に対して,まとめるなら“今だ”というタイミングのつかみにくさにあった.レクチャーシリーズ全体を見渡すと,他書において本書のテーマにかぶる部分が多々あり,そのような中でどう特長を出すかという悩みもあった.そこで,意を決し,次のような態度で本書を執筆することにした.

1)【第I部基礎編】,【第II部応用編】の二部構成とする.基礎固めなくして,応用編に位置づけられる「電波システム」は語れない.基礎編では,レクチャーシリーズの他書で触れられることが少なかった電波伝搬やアレーアンテナ技術を中心にまとめる.応用編では,多岐にわたる電波システムを総花的に紹介することは避け,電波の役割が現代に生き,未来に続く主要な六つのシステム技術に絞る.

2)技術の変遷が目まぐるしい分野にあっても,時代に左右されない内容・根幹に横たわる不易の技術を取り上げ,その時代だけのシステムを追うことはしない.20年後(2040年代)の学生に「内容が古くて役に立たない」といわれたくない.

3)基本的なこと,原理的なことを重点的に取り上げ,数式などその導出も含めて丁寧な記述に徹する.学部生が学ぶときは,数式にとらわれず流れをつかむ形での理解が,大学院では,数式を含めて技術の真髄を味わうことができるようにする.本書で不十分なところはその勉強のための専門書を挙げ,この教科書を入り口として,技術の深みをさらに探求していく道を示す.

4)電波システムを学ぶ基盤には,電磁気学・電磁波工学,情報理論,確率・統計,ディジタル信号処理などがあり,これらの素養を有する学生を対象としていて,これを繰り返すことはしない.この部分は本レクチャーシリーズ等で各自学習し,準備万端であって欲しい.

5)電磁気学を含めて電波技術の発展には,その折々に道を切り開いたパイオニアがいて,彼等は総じて意思も個性も桁外れであった.その生き様に触れる意味で,人となりの紹介やテーマに関連するコラムを随所(談話室)で取り上げる.学生諸君に,人生はこうありたいと燃えるものを感じて欲しいという願いを込めている.

電波は,情報やエネルギーを離れているところに運ぶ乗り物(キャリヤ)としての働きや,探索物の状態を探る目の役割をする.それが,無線(ワイヤレス)通信,テレビやラジオの放送,無線電力伝送,レーダ・リモートセンシング・測位などさまざまな電波システムとして,我々の生活の中に溶け込んでいる.一つひとつのシステムには,生まれ,発展し,やがてその使命を閉じる栄枯盛衰がある.しかし,生物の進化と同様に,大局的に見れば,技術も常に進化の道を歩んでいる.そして,その技術革新は,先達のたゆまぬ努力によって成し遂げられてきたが,未来は次世代を担う学生諸君の肩にかかっている.本書によって学んだことが電波技術の発展に役立つことを願ってやまない.

なお,本書は,1章~5章および10章~13章を唐沢が,6章~9章を藤井が担当した.本書執筆に対して遅々として進まぬ状態を,我慢強くご支援いただいたコロナ社の関係各位に感謝する.

2020年7月
唐沢好男
藤井威生

1.電波システムとは
1.1 電波とは
 談話室 マクスウェルとキャベンディッシュ
1.2 電波の働き
1.3 無線通信早わかり
 談話室 マルコーニの挑戦
1.4 本書で学ぶこと
本章のまとめ
理解度の確認

第I部 基礎編
2.無線伝送の基本モデル
2.1 アンテナの概要
2.2 フリスの伝達公式
2.3 通信回線の性能指標
 2.3.1 EIPPとG/T
 2.3.2 受信系における熱雑音の算定
2.4 伝搬モード
2.5 基本伝搬モデル
 2.5.1 直接波伝搬とフレネルゾーン
 2.5.2 大気ガスによる吸収
 2.5.3 平面大地の2波モデル伝搬
 2.5.4 粗面散乱:コヒーレント成分とインコヒーレント成分
 2.5.5 降雨中の電波伝搬
本章のまとめ
理解度の確認

3.マルチパス伝搬
3.1 移動通信の伝搬構造
3.2 レイリーフェージング
 3.2.1 振幅・位相変動とその確率分布
 3.2.2 遅延プロファイルと周波数相関特性
 談話室 学校の運動会とワイヤレス通信
 3.2.3 到来角度プロファイルと空間相関特性
 3.2.4 ドップラースペクトル
3.3 仲上・ライスフェージング
 3.3.1 仲上・ライスフェージング環境
 3.3.2 振幅変動とその確率分布
本章のまとめ
理解度の確認

4.アレー信号処理
4.1 アレーアンテナとその働き
4.2 スペースダイバーシチ
 4.2.1 ダイバーシチの分類
 4.2.2 ダイバーシチ合成によるSN比の向上
 4.2.3 最大比合成
 4.2.4 送信ダイバーシチ
4.3 アダプティブアレー
 4.3.1 構成と機能
 談話室 伝言ゲーム
 4.3.2 MMSE規範と最適化アルゴリズム
本章のまとめ
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5.MIMO伝送技術
5.1 MIMOとは
5.2 MIMOの魅力
5.3 MIMOチャネルの表現
5.4 通信路容量
5.5 MIMO情報伝送
 5.5.1 固有モード伝送
 5.5.2 空間多重伝送
 5.5.3 ビームフォーミング伝送
 5.5.4 時空間ブロック符号化伝送
 5.5.5 レイリーフェージング環境での各伝送方式の通信路容量比較
本章のまとめ
理解度の確認

6.ディジタル変復調
6.1 アナログ信号とディジタル信号
6.2 バイナリ系列の無線伝送
6.3 変調と復調
6.4 ディジタル変調の基本構成
6.5 FSK
 6.5.1 FSK変調方式
 6.5.2 FSK復調方式
 6.5.3 FSKの帯域利用効率の改善
6.6 PSK
 6.6.1 PSK変調方式
 6.6.2 PSK復調方式
 6.6.3 PSKの帯域利用効率の改善
6.7 多値変調
 6.7.1 多値FSK
 6.7.2 多値PSK
 6.7.3 QAM
本章のまとめ
理解度の確認

7.ディジタル変調の誤り率
7.1 熱雑音とマルチパスフェージング
7.2 AWGN環境下でのビット誤り率
 7.2.1 FSKのビット誤り率
 7.2.2 PSKのビット誤り率
 7.2.3 QAMのビット誤り率
7.3 フェージング環境下でのビット誤り率
 7.3.1 熱雑音による誤り
 7.3.2 位相変動による誤り
 7.3.3 符号間干渉による誤り
7.4 適応変調
本章のまとめ
理解度の確認

第II部 応用編
8.移動通信システム
8.1 大ゾーン方式とセルラ方式
 8.1.1 大ゾーン方式
 8.1.2 セルラ方式
8.2 多元接続方式と複信方式
 8.2.1 多元接続方式
 8.2.2 複信方式
8.3 スペクトラム拡散
 8.3.1 スペクトラム拡散の概要
 8.3.2 直接拡散方式(DS方式)
 8.3.3 周波数ホッピング方式(FH方式)
8.4 マルチキャリヤ通信およびOFDM通信
 8.4.1 マルチキャリヤ通信
 8.4.2 OFDM通信
 8.4.3 OFDMのマルチパス耐性
 8.4.4 OFDMの応用
本章のまとめ
理解度の確認

9.自律分散無線ネットワーク
9.1 自律分散無線ネットワークとその評価規範
9.2 MACプロトコル技術
 9.2.1 ALOHA方式
 9.2.2 CSMA方式
 9.2.3 CSMA/CA方式
 9.2.4 RTS/CTS方式
本章のまとめ
理解度の確認

10.衛星通信システム
10.1 衛星通信の歴史
 談話室 October Sky
10.2 衛星通信システムの基本
 10.2.1 衛星の構成
 10.2.2 衛星通信回線
10.3 衛星軌道
10.4 回線設計
 10.4.1 電波の窓
 10.4.2 リンクバジェット
10.5 パーソナル衛星通信
本章のまとめ
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11.衛星航法システム
11.1 衛星航法システムとは
11.2 GPSの概要
 11.2.1 システム構成
 11.2.2 GPS電波
 11.2.3 測位の方法
11.3 単独測位
 11.3.1 測位原理
 11.3.2 測位誤差要因
 談話室 身近なところに相対性理論(アインシュタイン)
11.4 ディファレンシャルGPS(DGPS)
11.5 搬送波位相による測位・測量
 11.5.1 スタティック法
 11.5.2 キネマティック法
11.6 その他の衛星航法システム
11.7 電子基準点と測地系
 11.7.1 電子基準点
 11.7.2 測地系
本章のまとめ
理解度の確認

12.レーダシステム
12.1 物標探査レーダ
 12.1.1 レーダ断面積
 12.1.2 レーダ方程式
 12.1.3 目標物の位置評定
12.2 合成開口レーダ
 12.2.1 合成開口レーダとは
 12.2.2 グランドレンジ方向の高分解能化
 12.2.3 クロスレンジ方向の高分解能化
12.3 合成開口レーダを用いたリモートセンシング
 12.3.1 リモートセンシング
 12.3.2 日本の合成開口レーダ搭載衛星
本章のまとめ
理解度の確認

13.ワイヤレス電力伝送
13.1 ワイヤレス電力伝送の歩み
 談話室 テスラの波乱万丈
13.2 伝送方式の分類
13.3 短距離送電:磁界結合と電界結合
 談話室 ファラデーの生き様
13.4 中距離送電:共鳴送電
 13.4.1 共鳴送電の原理
 13.4.2 伝送の実際
13.5 遠距離送電:電磁波方式(マイクロ波送電方式)
 13.5.1 原理
 13.5.2 レクテナ
 13.5.3 伝送の実際
本章のまとめ
理解度の確認

引用・参考文献
理解度の確認;解説
索引

唐沢 好男

唐沢 好男(カラサワ ヨシオ)

1950年(長野県)生まれ。学部の卒研テーマは結晶成長、就職した会社の部署は半導体課。量子力学を本格的に学びたく大学院受験。合格するも希望の研究室は満杯。このとき、シュレーディンガーを神様とする世界からマックスウェルを神様とする世界に宗旨替え(24歳)。偶然が導いてくれた電波の道であったが、40年以上を歩き続けてみると面白いことがいっぱい。研究者(KDD(現KDDI))、研究マネージャー(ATR)、研究教育者(大学)を経てフリーに。今は、次世代を担う若者に向け、培った電波技術の継承を願って技術レポートをせっせと書いている。唐沢研究室HPより公開中(下記リンク:唐沢研究室,技術レポートの公開)。
好きな言葉は「セレンディピティ」。周りの人(主に学生)にやたらそれを説くので「セレンディピティ馬鹿」と呼ばれていた。偶然の出会いを重ねながら今日ここまで歩み来た人生そのものに、それを強く感じている(下記リンク:セレンディピティ)。

藤井 威生

藤井 威生(フジイ タケオ)

1974年生まれ、学生時代から鉄道趣味とアマチュア無線といった当時は日陰者の趣味にいそしむも、いつしか世の中は鉄道ブームやらスマートフォンやら、こんなにメジャーになるとはつゆ知らず、大学研究室で無線通信の研究室を選択、以来20年以上にわたり無線通信の研究に携わっています。特に周辺環境に適応してフレキシブルな無線通信に興味を持ち、自律的な無線ネットワークの研究や、無線に利用する周波数をオンデマンドにダイナミックな割り当てを行う研究など、携帯電話などの主流な研究を少し外したところに面白さがあると思っての研究テーマを選んできました。いつしか、人工知能や機械学習を無線通信にも使うという話が出てきて、いつの間にかこちらもブームになりつつありますが、常に新しいもの、人が取り組んでいないものに興味を持つ研究姿勢を心がけたいものです。鉄道趣味も形を変えて、今でも国内外の旅行が趣味となり、忙しい合間を縫って出かけています。

『電子情報通信学会誌』104巻,8号,2021/8/1,939頁,copyright(c)2021 IEICE 掲載日:2021/08/16

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