多変数の制御・解析・最適化に使える行列論

多変数の制御・解析・最適化に使える行列論

多変量解析において,解決したい行列操作の提示・議論という順序で必要な知見を示した。

ジャンル
発行年月日
2022/01/17
判型
B5
ページ数
286ページ
ISBN
978-4-339-06124-6
多変数の制御・解析・最適化に使える行列論
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定価

5,060(本体4,600円+税)

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多変量解析,最適化,システム制御などの分野では多変数が関わる問題がよく扱われる。そのため,これらの分野では行列が用いられることが多い。これらの分野にはじめて触れたとき,以下のような経験をされたことは無いだろうか?「逆行列や固有値が計算できれば十分だと思っていたため,行列が出てきても特に困難は感じなかった。しかし,内容が進むにつれ,正定行列や特異値,疑似逆行列,行列のノルムなどの聞き慣れないものが次から次へと現れることに戸惑った。これらのことを知ろうと大学初年度に使った線形代数の教科書を見てみたが,該当するものはほとんど扱われていない。仕方なく他の本を探し,ようやく見つけた本を読んでみると,それらの定義や定理,その証明などが書かれていることはわかるが,上記の道具が一体何のためのもので,どのように使われるのかよくわからない。わからないなりに読んでいけばわかっていくのかと思いきや,読んだ分だけわからないことが増えていき,途中で読み進められなくなってしまった。」何を隠そう,私もそうした経験をした者の一人だ。本書は,このような方々に少しでも学習の効率を高めてもらえることを目指して書いたものだ。

本書は,各概念の目的や必要性などを十分に説明することを重視して執筆した。目的や必要性がわかれば動機づけが高まり,そうした動機づけがあれば,多少,内容が難しくなっても独力で読み進められると考えたためである。本書では,動機づけとなるような課題や目的を,例を挙げながら具体的に説明し,そこを出発点として段階的に各概念の内容に進むようにしている。そうすることで新しい概念や枠組みのねらいを自然に理解できるようにしたつもりである。本書によって学習がよりスムーズに進むようになれば幸甚である。

なお,このような説明を可能にするために,本書では数学的概念の順序とは異なる順序で説明を与えている部分がある。さらに,同じことを2回説明している部分もある。これらのことが気になる方は他書で順序をご確認頂きたい。また,既知の内容の確認に時間を割かれないように,逆行列や固有値など,大学初年度に学習した主な内容は既知のものとして説明を与えている。もしこれらの内容について不安を感じるのであれば,まずそれらを復習されてからのほうがよいであろう。

多変量解析,最適化,システム制御などの分野では,多変数が関わる問題をおもな対象とするため,行列を用いることが多い。その際,できる限り行列の成分に踏み込まないように,行列そのものを1つの単位として扱うと見通し良く考えることができる。また,行列に基づいて問題を解決するためには,行列でできることを理解しているだけではなく,目前の問題を行列を用いた手法で解決できそうだとイメージできることが重要である。

このようなイメージを持てるほどの知識を得るには,大学初年度の線形代数の授業だけでは質・量ともに不十分である。例えば,実用上は正定行列や特異値分解などが多用されるが,それらを大学初年度の限られた時間で教えることは不可能である。そこで,実用上必要な知識を追加で勉強する必要がある。また,そのための書籍も出版されている。しかしながら,それらの書籍を独力で理解することが困難であるか,あるいは読めても非常に長い時間がかかる,というのが,ごくごく一部の学生を除いた多くの学生の現実である。そのため,例えば卒業研究などにおいて行列を活用した問題解決に取りかかれるようにするためには,教員による補足説明が不可欠である。しかしながら,このような補足説明に時間を取られると,当然,研究を進める時間は減ってしまう。すなわち,学習の非効率さが研究のボトルネックとなり,得られる研究成果を制約してしまう。これでも学生には教員がついているだけマシで,社会人技術者の場合は,周囲に勉強を補助してくれる人がいなかったり,勉強に割ける時間が厳しく制限されたりするなど,状況はさらに悪いことが多い。

こうした状況を改善するためには,学習の効率を高めることが必要不可欠である。そこで,本書は独力で効率良く学習できることを主目的とした。筆者のこれまでの経験から,学習が非効率になる原因は,学習者と書籍の間の以下のミスマッチにあると思われる。

・知識そのものは,定理や証明の形で過不足なく示されている。一方,それらの知識を活用する者にとっては,その知識の必要性の説明や結果の意味の説明などが必要である。しかしながら,多くの場合そのような説明が不足している。

・各話題が数学的には正しい順序で並べられているが,それらが学生にとって必ずしも必要性を感じる順序や,結果の意味を理解しやすい順序ではない。

これらのミスマッチが,独学では理解に至らない,あるいは,理解が積み上がっていかない,動機が持続しない,などの事態をもたらしている理由と考えられる。そこで,本書では,まず各話題の動機づけを与える問題や疑問を示した上で,問題の本質とその解決法を理解するための議論を進めることとした。また,本書の内容を学ぶことで問題解決能力が高まることを実感できるように,本書の内容を中級,かつ実用上重要なものに絞ることとした。そのため,大学1年の線形代数で比較的理解が浸透しているであろう項目については,説明を割愛した。具体的には,1次結合,1次独立・1次従属,行列式,正則行列,逆行列,固有値・固有ベクトルについては既知のものとした。また,行列自身の理解には必要であっても,応用される頻度が少ないものは取り扱っていない。一方,数学的にはやや高度であっても,実用上必要なものは取り上げた。

上記の2つ目のミスマッチを解消するために,本書では必要に応じて数学的概念の順序とは異なる順序で説明を与えている。順序が逆になっている部分もあれば,同じことを2回説明している部分もある。また,線形代数の講義を受講したことがある読者には,行列の階数(ランク)は既習の概念であるが,本書では階数をよく用いられるものとは異なる方法で定義している。その定義は,よく用いられるものよりも,階数の幾何学的な意味を理解しやすいものである。以上のことを踏まえて,本書を読んでいただきたい。

本書に限らず,数学的な内容を理解するには,集合と述語論理の理解が必要である。工学向けの書籍では,述語論理を避けて記述されているものもある。しかしながら,述語論理が必要な内容を述語論理を用いずに説明すると,説明が曖昧,かつ回りくどくなり,それが理解を妨げる。本書では,述語論理が必要な部分は述語論理を用いて記述している。そのため,例えば以下のような理解は最低限必要である。

・集合X,Yが述語P(x),Q(y)を用いて
X={x:P(x)}, Y={y:Q(y)}
と定義されているときに,X⊆YやX=Yを証明するにはどうすればよいかを理解している。

・以下の2つの述語論理
∀x∈X ∃y∈Y P(x,y)
∃y∈Y ∀x∈X P(x,y)
を,“∈X”,“∈Y”を読み飛ばすことなく読み取り,さらに両者の意味の違いを理解している。

これらについては,例えば中島著『集合・写像・論理』などにわかりやすく説明されている。
なお,改めていうまでもないことであるが,書いてあることを鵜呑みにせず,自分で手を動かして確認することがなによりも重要である。

本書は,研究室の輪講に用いるために執筆を始めたテキストがもとになっている。その後,輪講時の学生からの意識的・無意識的なフィードバックを反映して改訂を繰り返した結果である。

2021年11月
浅井 徹

1. ブロック行列PartI

2. 線形方程式PartI
2.1 線形方程式Ax=bの可解性と行列の像空間
2.2 列基本変形と像空間
2.3 線形空間の基底・次元と列フルランクな行列
2.4 線形方程式の解の集合と核空間(零化空間)

3. 正定行列と最小2乗法
3.1 2次形式と行列の正定性
3.2 正定行列の固有値と直交行列による対角化
3.3 2次形式の幾何学的性質
3.4 正定行列を用いた平方完成と最小2乗法

4. 線形方程式PartII
4.1 行の関係に基づく線形方程式Ax=bの可解条件
4.2 線形空間の演算
4.3 補空間
4.4 補空間に基づく線形空間の分解
4.5 直交補空間と線形方程式の可解条件
4.6 行列のランクとランク分解
4.7 ランク分解に基づく線形方程式AXB=Cの解

5. ブロック行列PartII
5.1 ブロック三角行列の行列式とラプラス展開
5.2 ブロック行列の行列式とブロック基本変形
5.3 ブロック行列の逆行列と再帰的最小2乗法
5.4 シュールコンプリメントとシルベスターの判定法

6. ユニタリ行列による対角化と正規行列
6.1 C^n上の内積とユニタリ行列
6.2 数ベクトル空間とシュミットの直交化法
6.3 シュール分解と定理6.1の証明
6.4 正規行列の固有値・固有ベクトル

7. 特異値分解
7.1 ユニタリ行列による対角化・ランク分解から特異値分解へ
7.2 擬似逆行列と線形方程式・最小2乗問題
7.3 1次変換の増幅率と行列の最大特異値

8. ノルム
8.1 行列の「大きさ」とノルム
8.2 行列のノルム
8.3 ノルムに基づく行列の近似・誤差解析
8.4 線形空間上の点列の収束性とノルム
8.5 コーシー列に基づく収束性の判定
8.6 ノルムの幾何学的性質

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【かわひろ 様(ご専門:制御工学)】

本書では,行列の性質を幾何学的な観点から丁寧に説明しています.
導入では制御工学などでよく現れるブロック行列から解説を行なっており,行列の解析が必要となった方にとって取り組みやすい参考書でした.
特に定理などの解説では,定理の証明だけでなく解析の際の利用方法を踏まえた導出の理由まで解説があるため,自身の研究での利用シーンを考えながら楽しく学習を進められます.
私は、マルチエージェントシステムの解析で大きなブロック行列の性質を調べているのでじっくり読み進めていこうと思います.

読者モニターレビュー【よっしー 様(ご専門:制御工学・機械学習)】

本書は線形代数の力を底上げするような1冊であると感じました.
まえがきにもありますが実体験として制御・機械学習の分野で研究活動を始めた際に実際に用いるのは大学初年度の線形代数では取り扱わない内容がほとんどであるといえます.このような講義で得た知識と研究で必要な知識のギャップを埋めるために本書は大学初年度の線形代数で取り扱う内容は既知とするものの,実用上必要な正定値,ブロック行列の性質や特異値分解などについて詳細に説明してくれています.

読んでみて良かった点は話題となっている問題に対してのアプローチの説明がわかりやすいところです.
定義定理の後に平易な日本語でその意味を説明されている箇所が多く,定義を導入した理由や定理からいえることが理解しやすいです.また具体的な数値例が豊富にあるので手計算で性質を確認しながら読み進められるところが良かったです.このような理由から研究室の輪講などで活用すれば学生らの研究活動がスムーズになる有用な一冊だと感じました.

読者モニターレビュー【細田 和音 様 山口大学大学院(ご専門:制御工学)】

以前から同社の「システム制御のためのマトリクス理論(児玉慎三、須田信英)」や「システム制御のための数学 線形代数編(太田快人)」は愛読させていただいており、研究の際にも活用させていただいています。今回、浅井徹先生の研究室で輪読用に用いていた素材を書籍にされたということで、学生が研究をしていくための最低限の基礎事項を読みやすい形でまとめられた書籍になっているのではないかという期待から読者モニターに応募させていただきました。
本書の構成と特徴に関しての学生目線の感想を述べます。まず全体を通して具体的な例から必要な概念が導入されていく流れになっている点は、応用を扱う立場からは非常に理解しやすいと感じました。例えば、第2のように行列のランクや核空間といった概念からではなく、線形方程式という具体例からそれらの概念が導入されていくといった部分です。また、第3章など最適化問題を解く際に用いる行列の性質を線形代数の立場から体系的に詳細に論じている点は他の書籍にあまりなく非常に有用と感じました。また、第 8 章では多くの線形代数や行列論の教科書で扱われるノルムの議論にとどまらず、関数解析などの基礎部分とつながる範囲まで述べられている点などは、タイトルにもあるように最適化や制御を意識した結果といえると思います。研究室に配属されたばかりの学生など、考える土台を固めたい場合、また学生以外でも数学としてではなく応用指向で行列論を整理し直したい方などにはお勧めできる一冊であると感じました。

浅井 徹(アサイ トオル)

専門は制御工学。小学校の朝礼で「スピーカーの音をマイクが拾ったら変なことが起きないのかな」と、ふと疑問に思ったことが、この分野に進んだ最初のきっかけ。

掲載日:2022/03/14

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「計測と制御」2022年3月号広告

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