自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -

自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -

実務経験者が初学者と実務者のために,数式の展開だけでなくその物理的な解釈も示した。

ジャンル
発行年月日
2021/10/15
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-04674-8
自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -
在庫あり

定価

3,850(本体3,500円+税)

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  • 内容紹介
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【本書の特徴】
本書が扱う内容は,自動車の操縦安定性(以下「操安性」)です。優れた同類書籍が出版されている中,あえて本書を執筆した理由は,読者の方々に操安性を『深く理解=学んだ内容を実務で活かせる』ようになっていただきたいとの願いからです。その際重要なことは,『問題に対して,数式を解くだけにととどまらず,解の力学的な意味まで理解する』ということです。そのための例としては,「車が不安定になるときの力学的つりあい状態」まで丁寧に説明をしている点などが特徴として挙げられます。そのレベルまで『深く理解』できていれば,問題発生時にどうすれば良いかは容易に判断できます。
次の特徴はコラムです。「式の解釈から見えてくる新しい見方」や「意外と勘違いしている人が多い内容」など,知っておいて損はないと思われることをまとめました。
本書は基礎から解説していますが,実務経験を積んだ方々にも参考になるように,できるだけ踏み込んだ解説を心がけました。第7章の「車線変更時に小さな車体横すべり角の方が良い理由」などはその例です。また,線形域での解析を主としていますが,飽き足らない読者のために,非線形解析手法も解説しており,著者らが提案している「状態速度ベクトル図法」や「等高線法」等も加えました。

【各章の概要】
第0章では,操安性の考え方の基本となる「旋回運動に必要な力の理想形」を復習し,第1章では,理論の基本となる「モデルと運動方程式」について解説します。
第2章では,車両諸元から直に読み取れる「車両固有の性質を表す各種評価指標」について,第3章では,さらに運動を詳しく見るために伝達関数から導いた「車両の応答特性」を整理して,各々解説します。
第4章では,各種の運動制御システムについて,操安性理論を背景に,その「狙いと具体的な制御方法,力学的な意味」を解説します。
第5章以降は非線形域での話に入り,「タイヤが出す力の発生メカニズム」について解説し,第6章では,「タイヤ非線形域での車両の運動を解析する手法」について,代表的な手法の特徴と解析できる内容を解説します。
第7章では,それまでに解説してきた,より良い操安特性が,「ドライバの運転しやすさ」にどのように作用しているかについて解説します。

【著者からのメッセージ】
本書は,当面必要な知識は備えているものの,「操安性の全体像を俯瞰的に眺めたい」,「なぜそうなるのかの理由も知りたい」方々にも役立つ内容も盛り込みました。また,旋回運動を三つの係数で表現した「宮田の式」という,本書独自のものも入れてあります。「これから操安性を学ぼうとしている」方はもちろん,「既に担当業務で活躍している」エンジニアも含めて多くの方々に読んでいただきたいと考えています。執筆する上で著者らは「細部までできる限り,深く・詳しく解明しよう」と努力して来ました。減衰比ζが負となる振動領域を3D図で表した図3.14は,著者らの姿勢を端的に表しているものですので,ぜひご覧いただけたら幸いです。
本書を読むことで,研究開発の現場での次の一歩を,的確に見出せるようになれることを願っています。

【キーワード】
二輪モデル,ヨーレイト,車体横すべり角,横加速度,コーナリングフォース,伝達関数,状態方程式,スタビリティファクタ,操安キャパシティ,アンダーステア,オーバーステア,安定性,操舵応答特性,運動制御,状態速度ベクトル,等高線法,非線形特性,ビークル,予防安全

本書は,自動車の運動性能である「走る」,「曲がる」,「止まる」の3要素のうち,「曲がる」性能を表す操縦安定性(以下,操安性)について解説したものである。操安性理論は,自動車がこれだけ普及した現在でも,その重要性はおろか存在さえも知らない人が多いのが現状である。著者の中には,大学のソーラーカー開発の現場で,直進性の改善に必要なのは「前輪キャスタ角の変更」であると思い込んでいる工学部の先生方に,「後輪の横剛性の改善」の重要性をわかってもらうのに苦労した者もいる。本書が,操安性理論の普及に少しでも役立つことを願っている。

自動車の運動力学の書籍として優れたものがすでに出版されている中,あえて本書を執筆した理由は,読者の方々に操安性をより「深く」理解していただきたいという想いからである。本書では二輪モデルという最もシンプルなものを基にしており,しかも線形特性を主としているため,話せる内容はすでに語り尽くされていると見られることがほとんどである。しかし詳しく見ていくと,まだまだ新しい発見の多い世界である。ちょうど囲碁が,ほんの数個のルールだけで構成されているシンプルな世界でありながら,現在も新しい定石が生まれ続けているのと少し似ている。また,本書は大学の教科書としても使えるように基礎から説き起こしてはいるが,実務経験を積んだ方々にも参考となるよう,著者らが気づいた「重要でありながら,まだあまり知られていないこと」についても解説している点が,特徴の第1である。具体的にはつぎに挙げるものなどである。

① 操安性が担当する「曲がる」という運動は,タイヤが横方向の力を出すことで生じているが,それではその力の理想の形とはどのようなものかということは,当たり前の結論ではあるが,あまり意識されてはいない。とはいえ必須の概念なので,第0章という変則的な章立てではあるが,初めに詳しく説明した。

② スタビリティファクタについては,安定性との関係こそ十分知られているものの,振動/非振動との関係は想像以上に複雑で,詳しく理解している人は少ない。そこで,その関係を図3.14(p.108)に表した。

③ 車体横すべり角を小さくすると良い理由については,あまり比重を置いていない書籍が多いが,本書では重要な概念であるととらえ,第7章で詳しく説明した。

④ 操安性に必要な安定性についても,非線形域においては従来の条件だけでは不十分であることを第6章で説明した。

特徴の第2としては,数式の扱いである。本書では,問題を解ければよしとするのではなく,実作業に当たったときに本書の知見を役立てられるようにしたいと考えている。設計する場面を考えたとき,連立方程式の解を導き出せることは必要条件だが,実務においてはそれだけでは不十分である。鶴亀算で例えると,「鶴は何羽か?」の答えだけなら連立方程式を立てて解ければよいが,実務の場合では「場合によっては足が2本増えるかもしれないし,頭が一つ増えるかもしれないので,そのときの対応も考えておくように」といわれることもある。このような場合,方程式が解けるだけでなく,その答えの「鶴が1羽減る。鶴が2羽増える」や,それ以外の変化への対応策もイメージできるように,条件の周辺を俯瞰できることが重要になる。先の囲碁の例えでいうと,「石の死活が読めるだけでなく,どちらの方向に向かうべきかの大局観も養う必要がある」ということである。しかし,書の内容すべてを鶴亀算的に理解できるようになるには,著者らもまだ十分理解できていない部分もある。そこで,次善の策として将来そうなれるように,「式の物理的な意味の理解」のための解説を多く加えている。例としては,第2章の安定判別に使う式の説明では,制御理論の適用で終わりにせず,力学的な見方による解釈も加えている。

特徴の第3はコラムである。「式の解釈をさらに追及すると,こういう見方もできる」や「意外と勘違いしている人が多い内容」など,重要度は少し下がるかもしれないが,知っておいて損はないと思われることを,本文の流れを乱さないようにまとめてある。会社でまだ半人前だった頃,先輩の「こう考えるとわかりやすいんだよな」という何気ない一言が理解に大いに役立った経験をもつ者として,読者にもそのように思ってもらえることを願って綴っている。

なお,本書を読むために前提となる知識としては,一般的な機械力学,振動工学や制御工学が挙げられるが,これらの参考とすべき良書はすでに多数出版されているので,それらを参照されたい。

本書の構成はつぎのとおりである。

全体としては,タイヤが力を出す特性により,「線形」と「非線形」の二つのテーマを扱うが,第0,1章が線形/非線形によらない共通の内容で,第2~4章がタイヤの線形特性での内容,第5,6章がタイヤの非線形特性での内容となっている。前述のように,教科書としての利用も想定して,第1~4章には例題および章末問題も記載してある。

第0章では,車両の運動を通して,本書で扱う「操安性」における旋回運動についての復習をする。

第1章では,理論の基本となるモデルと運動方程式について解説する。

第2章では,車両諸元が決まると,そこからじかに読み取ることができる,車両固有の性質を表す各種評価指標について解説する。

第3章では,運動方程式から導かれた伝達関数に基づいて,車両の定常特性,過渡特性などの基本的な事項を数学的に整理して解説する。

第4章では,各種の運動制御システムについて,その狙いと具体的な制御の内容を解説する。

第5章では,どのようなメカニズムによってタイヤが力を出すかについて,簡単なモデルを用いて解説する。

第6章では,タイヤの非線形域における車両の運動を考えるための解析手法について,代表的なものを解説する。

第7章では,それまでに解説してきたより良い操安特性が,ドライバの運転しやすさにどのように作用しているかについて解説する。

また,紙面の都合で本文には紹介しきれなかったものの,ぜひ知っておくべき内容をWeb付録としてまとめた。

第1章の「運動方程式」から第3章の「運動方程式に基づく操舵応答特性」までは,それ以前の内容を前提として説明しているので,順を追って読むことをお勧めする。この三つの章が理解できれば,操安性の基礎理論は習得できており,ほかの章は順番を気にせず,辞書のようにして読むことができる。ただし,第6章の「非線形解析」を読むためには,第5章の「タイヤ特性」を理解しておいた方が良い。

本書を上梓するにあたり,多くの方々にご協力いただいた。

横浜ゴム株式会社の宮下直士博士,東京大学の平岡敏洋特任教授からは,資料をご提供いただいた。株式会社三栄書房(現株式会社三栄),株式会社グランプリ出版および公益社団法人自動車技術会には,車両特性,タイヤ特性および解析法に関する貴重な図の転載許可をいただいた。本書の計算結果については,日本大学大学院生産工学研究科の横田武氏,大明洋輝氏(いずれも当時)に多大なるご支援をいただいた(両氏の助けなくして,本書が世に出ることはなかったものと著者一同確信している)。これらの方々に心から感謝の意を表する。

最後に,本書の出版企画を提案してからすでに10年の歳月が経過し,遅々として進まない執筆作業に対して,寛大な心でご尽力いただいたコロナ社に厚く御礼申し上げる。

2021年8月
著者一同

0.イントロダクション
0.1 操安性に期待されている性能
0.2 時間応答波形
0.3 タイミング
0.4 系の安定性

1.運動方程式
1.1 座標系,名称,記号
1.2 車両固定座標系
1.3 タイヤが出すコーナリングフォース
1.4 二輪モデル
1.5 運動方程式の導出
 1.5.1 剛体の運動を表す式
 1.5.2 コーナリングフォースを表す式
 1.5.3 横加速度を表す式
 1.5.4 運動方程式
1.6 操安性におけるメカニカルなフィードバックループの構成
1.7 運動方程式の行列表現
 1.7.1 ヨーレイトが各運動に及ぼす影響(a11とa21)
 1.7.2 車体横すべり角が各運動に及ぼす影響(a12とa22)
章末問題
第1章コラム
コーナリングスティフネス等を左右二輪分にしている理由
タイヤ横すべり角の符号の定義
\.{β}のもつ別の物理的な意味
なぜγとβを使って,a_yを使わないのか?
a_21の中にある「−1」のもつ意味

2.車両固有の力学的性質
2.1 評価指標の概要
2.2 スタビリティファクタ
2.3 ステア特性
2.4 ニュートラルステアポイントとスタティックマージン
2.5 操安キャパシティ
2.6 収束係数
2.7 制振係数
2.8 旋回応答係数
2.9 評価指標のまとめ
章末問題
第2章コラム
カウンタステア走行中タイヤはどちらを向いているか
加速円旋回試験と定常円旋回試験の違いの本質
慣性モーメントの前後非連成近似
宮田の式(旋回を支配する三つの基本物理量)
安定性を力学的つりあいで考える

3.運動方程式に基づく操舵応答特性
3.1 伝達関数
3.2 定常特性
 3.2.1 定常ヨーレイトゲイン
 3.2.2 定常車体横すべり角ゲイン
 3.2.3 定常横加速度ゲイン
3.3 過渡特性
 3.3.1 ステア特性の影響
 3.3.2 車速の影響
 3.3.3 ステア特性と振動限界
 3.3.4 車両諸元の影響
3.4 状態速度ベクトル図
章末問題
第3章コラム
車速に関連する特性値に頻出するスタビリティファクタ
特性方程式の定数項とスタビリティファクタとの関係
市販車はなぜみなUSなのか(安定性だけではない役割)

4.運動制御
4.1 制御方式の分類
 4.1.1 フィードフォワード制御
 4.1.2 フィードバック制御
 4.1.3 条件付きフィードバック制御
 4.1.4 2自由度制御系(モデルマッチング制御)
 4.1.5 フィードフォワード制御とフィードバック制御の得失
4.2 車両運動制御の一般形(操舵制御,ヨーモーメント制御を例にして)
4.3 フィードフォワード制御の例(後輪操舵システム)
 4.3.1 後輪操舵制御
 4.3.2 一般的なフィードフォワード制御器の求め方
 4.3.3 前後輪操舵制御(フィードフォワードの組み合わせ制御)
4.4 フィードバック制御
 4.4.1 ヨーレイトフィードバック(後輪操舵制御)
 4.4.2 フィードバック制御による直感的な性能設計法(ブロック線図の等価変換)
 4.4.3 車体横すべり角フィードバック(ヨーモーメント制御)
章末問題
第4章コラム小さい制御入力でも効く微分制御

5.タイヤ特性
5.1 用語の定義
5.2 タイヤが力を出すメカニズム
 5.2.1 横力およびコーナリングフォース
 5.2.2 セルフアライニングトルク
 5.2.3 制駆動力の発生メカニズム
5.3 タイヤ摩擦円
5.4 コーナリングスティフネスの変化
 5.4.1 コンプライアンスステアによる変化(等価コーナリングスティフネス)
 5.4.2 接地荷重変動による変化
5.5 キャンバによる横力の発生
第5章コラム止まるためだけではないABS
じつはすべっていないタイヤ横すべり角

6.非線形解析
6.1 ハンドリング線図法
 6.1.1 線形域(旋回半径と横加速度の関係)
 6.1.2 非線形域
6.2 車体横すべり角・モーメント線図法(bメソッド)
6.3 状態速度ベクトル図法
6.4 等高線法
6.5 ハンドリング線図法,bメソッド,等高線法の3解析法の関係
第6章コラム図による解法で俯瞰的な理解を

7.車両特性と運転しやすさ
7.1 車体横すべり角と運転しやすさ
 7.1.1 横加速度の遅れの減少
 7.1.2 運動エネルギーの減少
 7.1.3 オーバーシュートの減少
7.2 位相遅れと運転しやすさ
7.3 安定性と運転しやすさ
第7章コラムシミュレータ実験を実車走行で行えるシミュレータビークル
操安性に必要な安定性とは?(収束できればOKか)
違和感の元はロール角かロール角速度か

引用・参考文献
章末問題解答
索引

読者モニターレビュー【 めっくろぐ 様(業界:自動車業界、自動運転、制御工学)】



本書は、車両運動の基礎的な解析ツールである「二輪モデル」について徹底的に掘り下げ、クルマの操縦安定性を解説する1冊である。自動運転時代が始まり、ハンドルを自動で回すために、クルマが曲がる運動を理解することは非常に重要であるはずだが、車両運動は独学では取っ付き難い世界である。本書では、運動方程式の立式についてイチから順番に解説されているため、制御工学を履修済みであれば初学者でも理解することができるだろう。また個人的には,特に既修者に読んで頂き、二輪モデルがシンプルでありながら実際の現象を良く捉えている優れた表現方法なのだということを、再確認して頂きたいと思う。

車両運動について名著とされる教科書がいくつかあるが、それらに対する本書の特色としては、図をふんだんに使った丁寧な解説が挙げられるだろう。例えば、二輪モデルをブロック線図で表現し、横運動とヨー運動の相互作用について、各成分の効果を一つ一つひも解いていく解説は、多くの読者へ新しい視点を与えると思う。また各所に散りばめられたコラムは、実務家としての本音のように読みやすくまとめられており、おかげで本文の理解も進みやすい。車両運動は、学問のための理論ではないということ、逆に理論を使えば現象を体系的に説明しながらクルマを作れるのだということを、本書を読んで思い知らされた。

著者らは、車両運動の解析を通じて数々の新技術を生み出してきた先駆者であり、その知見が「秘伝のタレ」のように凝縮され、誰でも入手できるようになったことは大変喜ばしい。

読者モニターレビュー【 Hernia Baby 様(ご専門:自動車業界)】

本書は自動車の三大運動性能要素のひとつ「曲がる」を表す操縦安定性について詳細かつ簡潔に書かれたものである。

大きな流れは以下のとおりである。まず0章で旋回運動について必要な性能を説明し、2~3章では車両諸元や運動方程式から各パラメータが車両の挙動にどのような影響を及ぼすのか、そして操安性をどのように評価すればよいか少しずつ粒度を細かくしながら解説している。4章では上記の車両性能を大きく変える制御技術についてわかりやすく説明している。5章からはタイヤがどのようにして曲がるための力を出しているのか解説し、6章では非線形域における車両運動を考えるための解析手法を紹介している。7章では今まで解説してきた操安性が運転しやすさ(ドライバの感覚)にどう影響しているかを図と官能を結びつけながら説明している。

ここからが感想となるが、今まで読んできた本の中でトップ3には絶対入るほどの実用的な名著である。その大きな特徴として図で俯瞰的に見せる工夫やイメージでどのような動きをするのか直感的に理解できるための気遣いが多く散りばめられている点が挙げられる。大体の本が数式で説明して終了とする中、本書では着目しているパラメータを増減させて、図にその変化を示し、車両としてどんな動きになるのかを非常に丁寧に説明している。また2輪モデルやタイヤのモデルから影響する理由をわかりやすく説明してくれるおかげで、感覚的にも腹落ちできるような工夫が随所にみられる。これだけでも十分素晴らしいのだが、加えて長年の経験からくる「相場感」もある程度の根拠を基に書いているので実用性にさらに磨きが入っている。

加えて素晴らしいのがコラムである。「カウンタステアのときタイヤはどこを向いているか」「市販車はなぜみなアンダステアなのか」など実は気になっていた部分を各章の最後で面白く紹介しており、読者を飽きさせない粋な計らいまでしてくれている。

極み付けは関連資料である。ページの都合上まとめきれなかったものをWeb上に置いているが、総ページ数は107ページである。本書が240ページなので半分弱もある。ここでも図やグラフ(しかもカラー!)がこれでもかと用意されている。わかりやすさと簡潔さを優先して240まで本書を切り詰めたのだろう。伝えるストーリーを大事にしている著者は相当な実務経験者であることが、この姿勢からうかがえる。

デザインもこだわっており、これだけ優れているのにも関わらず、価格は税抜き3,500円である。1万円でも買う価値がある。それほど素晴らしい本であった。自動車の操安を専門としていこうと思う人や車がどうして曲がるのか知りたいと思った人はぜひこの本を手に取っていただきたい。絶対に損はさせないと約束できる。

菅沢 深

菅沢 深(スガサワ フカシ)

【学歴】
1975 千葉大学大学院工学研究科 修士課程修了
1995 東京農工大学大学院工学研究科 博士後期課程修了  博士(工学)
【職歴】
1975~1997 日産自動車
1997~2016 玉川大学
2016  玉川大学名誉教授
【受賞など】
・受賞:1985 Oliver Lucas automotive electronic engineering award(英;The Institution of Electrical Engineers)
1986 Arch T. Colwel Merit Award (米;SAE)
2012 日本機械学会交通・物流部門業績賞(日;日本機械学会)
・フェロー等:日本機械学会フェロー,自動車技術会フェロー,JSAE フェローエンジニア
・特許:減衰力制御方法の特許の北米独占使用権を,GOODYEARに有償許諾
【研究開発歴】
日産自動車では,主にシャシー制御システムの開発を担当し「1984年:スーパーソニックサスペンション」「1989年:スーパーHICAS」等を実用化する。共著者でもある,当時同僚で現在東京農工大学教授の毛利宏先生と一緒に開発した「2006年:4輪アクティブステア(4WAS):2007~2008 日本自動車殿堂カーテクノロジーオブザイヤー受賞」は,スーパーHICASの進化版として開発し,モータージャーナリストの試乗評価では「(想像を超えた素早い動きで)ニュートン力学を否定されたような気がする」等の好評を得るも,社内では「まだ社会では,ここまでの性能は必要とされていない」との判断で商品化を見送られてしまったものである。販売まで辿り着けたのは,転職後の後輩たちの努力のお陰である。
システム開発と並行して,4WASを応用した,ヨーレイトと横加速度の両特性を任意に設定できる実験車を作る。これは,具体的な制御則を誰も解けなかったため,実用化できずにいたものであるが,4WAS制御則の導き方の工夫により解くことができ,実現したものである。これを用いて運転しやすい車に必要な特性の研究を進め,「車体横滑り角が及ぼす影響」等を明らかにする。
また,状態速度ベクトル図法や等高線法などの新しい解析手法も開発する。これにより,舵角制御のタイヤ非線形域での効果を,理論的に明確に説明できるようにした。
社外での活動としては,ASV : Advanced Safety Vehicle(運輸省(当時)主導プロジェクト)の日産代表委員や,国土交通省自動車整備士技能検定専門委員などを務める。
学会活動としては,自動車技術会や日本機械学会の各種委員会の委員や委員長を歴任し,学会主催の若手エンジニア向けの講習会では,講師を10年以上務める。
【操縦安定性への想い】
極め尽くされたと言われて久しい,二輪モデルに未だに取り組んでいる。見方を変えると,新たに気づくことが多々あり,シンプルではあるが奥が深い興味の尽きぬ世界である。
具体的なイメージがないと,数式での証明だけでは納得できない性分で,車の運動を考える操縦安定性は,その動きのイメージは勿論,力学的な関係の理解も重要と考えている。
【後輩エンジニアへのメッセージ】
安易にわかったつもりになると,そこで進歩は止まってしまいます。答えを導けるようになっただけでは,わかったことになりません。その答えの力学的全体像を見通せるようになって初めて,「わかった」といえるのです。例えば,OS車の不安定条件を数式で理解している方は多いと思いますが,それで満足せず,そこでの力学的な構造(タイヤの発生力と遠心力のつりあい)がどうなっているかまで知ろうとするエンジニアになって頂きたいと願っています。

毛利 宏

毛利 宏(モウリ ヒロシ)

【学歴】
1982 東京大学工学部機械工学科卒業
1984 東京大学大学院工学系研究科機械工学専門課程修了
2001 東京農工大学大学院工学研究科 博士後期課程修了  博士(工学)
【職歴】
1984~2010 日産自動車
2010~2013 山梨大学大学院医学工学総合研究部 機械システム工学専攻 教授
2014~   東京農工大学大学院工学府機械システム工学専攻 教授
【受賞など】
2001 自動車技術会論文賞
2007 自動車技術会論文賞
2015 日本機械学会交通・物流部門業績賞
【研究開発歴】
日産自動車時代から,自動車の操縦安定性および予防安全システムの研究・開発に従事し,新システムを実用化し,その業績は論文賞としても認められている。代表的な商品例として,レーンキープサポートシステム(2000年:世界初,シーマ),4輪アクティブステア(2006年:世界初,スカイライン),電動パワーステアリングの過渡アシスト制御(2007年:世界初)などが挙げられ,退職後に商品化されたダイレクトアダプティブステアリング(ステアバイワイヤ),インテリジェントパーキングアシスト(自動駐車)の初期開発などにも携わった。いずれのシステムにおいても,最初は周囲の賛同が得られない中で開発をスタートし,それを現実のシステムに纏め上げると共に,理論的な背景を論文などにまとめて,汎用的に使える技術とした。実験車を仕立て,自らの試行錯誤でリアルワールドの現象が理論や仮説に沿うことが分かった時に喜びを感じる。レーンキープサポートシステム開発のきっかけとなった旧建設省プロジェクトAHS(Automated Highway Systems)のデモでは,供用前の上信越自動車道路で磁気マーカーを頼りに自動運転を行い,現在の自動運転に先鞭をつけた。当時は自動運転のレベル分けも存在しない中,ACCと組み合わせて現在のレベル2自動運転車普及の先駆けとなった。
現在は,東京農工大学において事故分析,人間―自動車系解析,自動運転,運転支援に関して教育・研究に従事しており,国の自動運転プロジェクトなどにも参画している。また,各種学協会活動においても,各種セミナーの講師や理事,委員会委員長などを務める。日本機械学会,自動車技術会フェロー。

丸茂 喜高

丸茂 喜高(マルモ ヨシタカ)

【学歴】
1998年 東京農工大学工学部機械システム工学科卒業
2000年 東京農工大学大学院工学研究科博士前期課程修了(機械システム工学専攻)
2006年 東京農工大学大学院工学研究科博士後期課程修了(機械システム工学専攻)  博士(工学)
【職歴】
2000年 財団法人 日本自動車研究所
2005年 日本大学助手    
2007年 日本大学専任講師
2012年 日本大学准教授
2020年 日本大学教授
    現在に至る

掲載日:2021/10/29

日刊工業新聞広告掲載(2021年10月29日)

掲載日:2021/10/11

「計測と制御」2021年10月号広告

掲載日:2021/10/06

「日本機械学会誌」2021年10月号広告