レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -

自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -

車両諸元だけで判断できる固有の特性と,運動方程式を導いて求める応答特性とを基に,自動車の運動とそれが起こる理由を説明する。タイヤが力を出すメカニズムや,その力によって生じる運動の物理的な解釈を丁寧に解説した。

発行年月日
2021/10/15
定価
3,850(本体3,500円+税)
ISBN
978-4-339-04674-8
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

amazonレビュー978-4-339-04674-8 自動車の操縦安定性 - 運動性能の力学的理解 -

掲載日:2023/02/14

日刊工業新聞 技術科学図書(2021年12月23日)

掲載日:2021/12/23

読者モニターレビュー【 めっくろぐ 様(業界:自動車業界、自動運転、制御工学)】

掲載日:2021/10/25



本書は、車両運動の基礎的な解析ツールである「二輪モデル」について徹底的に掘り下げ、クルマの操縦安定性を解説する1冊である。自動運転時代が始まり、ハンドルを自動で回すために、クルマが曲がる運動を理解することは非常に重要であるはずだが、車両運動は独学では取っ付き難い世界である。本書では、運動方程式の立式についてイチから順番に解説されているため、制御工学を履修済みであれば初学者でも理解することができるだろう。また個人的には,特に既修者に読んで頂き、二輪モデルがシンプルでありながら実際の現象を良く捉えている優れた表現方法なのだということを、再確認して頂きたいと思う。

車両運動について名著とされる教科書がいくつかあるが、それらに対する本書の特色としては、図をふんだんに使った丁寧な解説が挙げられるだろう。例えば、二輪モデルをブロック線図で表現し、横運動とヨー運動の相互作用について、各成分の効果を一つ一つひも解いていく解説は、多くの読者へ新しい視点を与えると思う。また各所に散りばめられたコラムは、実務家としての本音のように読みやすくまとめられており、おかげで本文の理解も進みやすい。車両運動は、学問のための理論ではないということ、逆に理論を使えば現象を体系的に説明しながらクルマを作れるのだということを、本書を読んで思い知らされた。

著者らは、車両運動の解析を通じて数々の新技術を生み出してきた先駆者であり、その知見が「秘伝のタレ」のように凝縮され、誰でも入手できるようになったことは大変喜ばしい。

読者モニターレビュー【 Hernia Baby 様(ご専門:自動車業界)】

掲載日:2021/10/21

本書は自動車の三大運動性能要素のひとつ「曲がる」を表す操縦安定性について詳細かつ簡潔に書かれたものである。

大きな流れは以下のとおりである。まず0章で旋回運動について必要な性能を説明し、2~3章では車両諸元や運動方程式から各パラメータが車両の挙動にどのような影響を及ぼすのか、そして操安性をどのように評価すればよいか少しずつ粒度を細かくしながら解説している。4章では上記の車両性能を大きく変える制御技術についてわかりやすく説明している。5章からはタイヤがどのようにして曲がるための力を出しているのか解説し、6章では非線形域における車両運動を考えるための解析手法を紹介している。7章では今まで解説してきた操安性が運転しやすさ(ドライバの感覚)にどう影響しているかを図と官能を結びつけながら説明している。

ここからが感想となるが、今まで読んできた本の中でトップ3には絶対入るほどの実用的な名著である。その大きな特徴として図で俯瞰的に見せる工夫やイメージでどのような動きをするのか直感的に理解できるための気遣いが多く散りばめられている点が挙げられる。大体の本が数式で説明して終了とする中、本書では着目しているパラメータを増減させて、図にその変化を示し、車両としてどんな動きになるのかを非常に丁寧に説明している。また2輪モデルやタイヤのモデルから影響する理由をわかりやすく説明してくれるおかげで、感覚的にも腹落ちできるような工夫が随所にみられる。これだけでも十分素晴らしいのだが、加えて長年の経験からくる「相場感」もある程度の根拠を基に書いているので実用性にさらに磨きが入っている。

加えて素晴らしいのがコラムである。「カウンタステアのときタイヤはどこを向いているか」「市販車はなぜみなアンダステアなのか」など実は気になっていた部分を各章の最後で面白く紹介しており、読者を飽きさせない粋な計らいまでしてくれている。

極み付けは関連資料である。ページの都合上まとめきれなかったものをWeb上に置いているが、総ページ数は107ページである。本書が240ページなので半分弱もある。ここでも図やグラフ(しかもカラー!)がこれでもかと用意されている。わかりやすさと簡潔さを優先して240まで本書を切り詰めたのだろう。伝えるストーリーを大事にしている著者は相当な実務経験者であることが、この姿勢からうかがえる。

デザインもこだわっており、これだけ優れているのにも関わらず、価格は税抜き3,500円である。1万円でも買う価値がある。それほど素晴らしい本であった。自動車の操安を専門としていこうと思う人や車がどうして曲がるのか知りたいと思った人はぜひこの本を手に取っていただきたい。絶対に損はさせないと約束できる。