メディアのための数学 - 数式を通じた現象の記述 -

メディア学大系 16

メディアのための数学 - 数式を通じた現象の記述 -

CG・ゲーム,音声・音響・信号処理,人間社会モデル等の具体例を通して数学の魅力を解説

ジャンル
発行予定日
2025/10/下旬
判型
A5
予定ページ数
220ページ
ISBN
978-4-339-02777-8
メディアのための数学 - 数式を通じた現象の記述 -
近刊

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  • 内容紹介
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CG・ゲーム,音声・音響・信号処理,人間社会モデルなどを題材に,数学理論の具体的な応用例を紹介。高校までに学んできた数学がどのように活用されるのかをわかりやすく解説した入門書。数学の実用性と魅力を再発見できる1冊。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

日本の高校における数学教育は,世界的に見てもトップレベルであると言われることがある。その真偽についてはさまざまな議論があるが,かなり高度な内容を扱うことに異論を唱える人は少ないであろう。しかしながらその一方で,高校までの数学教育では「どんなことに利用できるのか」についてはほとんど触れられないことが多い。

高校までの日本の教育制度は科目間での依存をできる限りなくすように設計されている。例えば,「物理」では微分積分の素養を必要としないように科目内容が設定されており,微分積分を履修していない生徒も物理を選択することが可能となっている。これにより,生徒は柔軟に履修教科を選択することができる一方で,複数科目に渡る共通の概念という存在を意識しないという副作用が生じてしまうという懸念がある。大学に入学し,さまざまな科目で実践的に数学を利用する場面があるが,これまで学習してきたさまざまな数学の素養が生かせないという学生は多い。本書は,抽象的な数学理論が,さまざまな分野でいかに有用なものであるかについて,学生に理解してもらうことを目的として書かれたものである。

1章では分野によらない共通項目を初学者向けに端的にまとめて紹介していく。数学での最も基本的な概念である「集合と倫理」,さまざまな数の種類についてまとめた「数と式」,数学的な処理の中心をなす「関数」,図形や空間の処理に欠かせない「ベクトル」,現代の科学技術においてきわめて重要な存在である「行列」,関数の性質を扱う「微分積分」といった各単元をコンパクトにまとめた。

2章は「CG・ゲームのための数学」と題して,おもにベクトルや行列についての理論を学んでいく。さまざまなメディア処理の中でも,3次元のグラフィックスは最も数学が活躍する分野の一つであり,その主役となるのがベクトルや行列を扱う「線形代数学」という分野である。線形代数学はきわめて有用な理論体系であるが,抽象性が高すぎて初学者にとって理解が困難な分野でもある。2章では,具体的な利用方法をつねに意識しながら学習を進めていくことで,その有用性を実感できることを期待して執筆を進めた。

3章は「音声音響信号処理のための数学」と題して,「フーリエ級数」という概念を中心に学んでいく。音の正体は空気振動の波であるため,波を扱う数学としての三角関数が基本となり,その組合せを理論的に扱うフーリエ級数やフーリエ変換が不可欠である。しかしながら,その敷居は決して低いものではない。3章は,高度な音声音響処理の基盤となる数学理論をまとめたものである。

4章は「人間社会モデルのための数学」と題し,グラフ理論を基本とした理論を学ぶ。グラフ理論とは,複数の頂点と頂点同士を接続した辺による模式図であり,さまざまな問題解決に応用することができる。高校数学まではほとんど扱われてこなかった内容であるが,さまざまな場面で問題解決に役立つものである。

本書を通じて,数学がいかに有用で重要なものであるかを読者が実感することを願っている。

2025年9月
渡辺大地

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1.数学の基礎
1.1 集合と論理 
 1.1.1 集合 
 1.1.2 論理 
1.2 数と式 
 1.2.1 自然数,整数,有理数,実数,複素数 
 1.2.2 複素平面 
 1.2.3 多項式 
1.3 初等関数 
 1.3.1 関数 
 1.3.2 指数関数 
 1.3.3 対数関数 
 1.3.4 度数法と弧度法 
 1.3.5 三角関数 
 1.3.6 三角関数の加法定理 
 1.3.7 極形式 
1.4 ベクトル 
 1.4.1 ベクトルの定義 
 1.4.2 ベクトルの演算 
 1.4.3 ベクトルの長さ 
 1.4.4 行ベクトルと列ベクトル 
1.5 行列 
 1.5.1 行列の定義 
 1.5.2 行列とベクトル,行列と実数の積 
 1.5.3 行列と実数の積 
 1.5.4 行列同士の演算 
 1.5.5 行列の表記方法 
 1.5.6 各種演算の交換法則 
 1.5.7 単位行列と零行列 
 1.5.8 行列式と逆行列 
 1.5.9 行列と連立方程式 
 1.5.10 逆行列の利用 
 1.5.11 非正則行列の場合 
 1.5.12 行列の転置 
1.6 微分と積分 
 1.6.1 微分 
 1.6.2 積分 
1.7 確率 
演習問題

2.CG・ゲームのための数学
2.1 ベクトルによる線分表現 
 2.1.1 点と座標系 
 2.1.2 位置ベクトルと方向ベクトル 
 2.1.3 直線と線分 
 2.1.4 直線の解析学的表現 
 2.1.5 ベクトルを用いた線分の表現 
 2.1.6 線分表現式の応用 
 2.1.7 線分同士の交点 
2.2 ベクトル同士の掛け算 
 2.2.1 ベクトルの内積 
 2.2.2 内積演算の法則 
 2.2.3 ベクトルの前後関係と内積 
 2.2.4 ベクトルの外積 
 2.2.5 外積の正弦定理 
 2.2.6 外積演算の法則 
 2.2.7 ベクトルの左右関係と外積 
2.3 領域内外判定 
 2.3.1 多角形(ポリゴン)と折れ線(ポリライン) 
 2.3.2 三角形内部の表現方法 
 2.3.3 一般的な三角形の領域表現 
 2.3.4 ベクトルの線形独立と線形従属 
2.4 行列と線形変換 
 2.4.1 拡大・縮小変換 
 2.4.2 行列による回転移動 
2.5 同次座標による線形変換の拡張 
 2.5.1 線形変換の限界とアフィン変換 
 2.5.2 同次座標 
 2.5.3 3行3列の行列 
 2.5.4 線形変換による平行移動 
 2.5.5 同次座標に対応した拡大縮小と回転 
2.6 合成変換とその応用 
 2.6.1 二つの連立方程式と行列積 
 2.6.2 任意位置での図形回転 
 2.6.3 行列による任意位置図形回転 
 2.6.4 合成変換の利用 
2.7 3次元空間での線形変換 
 2.7.1 4行4列行列 
 2.7.2 平行移動変換と拡大縮小変換 
 2.7.3 回転変換 
 2.7.4 回転変換の非可換性 
演習問題

3.音声音響信号処理のための数学
3.1 単振動 
3.2 フーリエ級数展開 
 3.2.1 奇関数・偶関数の積分 
 3.2.2 三角関数の直交性 
 3.2.3 フーリエ級数展開 
3.3 複素形のフーリエ級数展開 
 3.3.1 テイラー展開 
 3.3.2 オイラーの公式 
 3.3.3 複素フーリエ級数と複素フーリエ係数 
 3.3.4 複素指数関数の微分と積分 
 3.3.5 複素フーリエ係数の計算例 
3.4 フーリエ変換 
 3.4.1 フーリエ変換 
 3.4.2 フーリエ逆変換 
3.5 スペクトログラム 
 3.5.1 スペクトル 
 3.5.2 スペクトログラム 
演習問題

4.人間社会モデルのための数学
4.1 グラフとネットワーク 
 4.1.1 グラフ理論の成り立ちと表記法 
 4.1.2 さまざまなグラフ 
 4.1.3 グラフの周遊路と最短経路問題 
 4.1.4 ネットワークと最大フロー問題 
4.2 線形関数で表される最適化 
 4.2.1 線形関数による表現 
 4.2.2 線形計画法 
 4.2.3 誤差最小化と最小二乗法 
4.3 組合せ最適化 
 4.3.1 ナップザック問題 
 4.3.2 厳密解法と近似解法 
 4.3.3 巡回セールスマン問題 
 4.3.4 組合せ最適化問題のメタヒューリスティクス 
4.4 ゲーム理論 
 4.4.1 ゲーム理論とは 
 4.4.2 囚人のジレンマ 
 4.4.3 ナッシュ均衡 
 4.4.4 混合戦略 
演習問題

引用・参考文献
演習問題解答
索引

渡辺 大地(ワタナベ タイチ)

松𠮷 俊(マツヨシ スグル)

大淵 康成

大淵 康成(オオブチ ヤスナリ)

大学では物理学科に所属し、光物性の研究をしていました。その後、会社に入って情報分野に進み、ニューラルネットワークの研究をするようになりました。始めてみてわかったのですが、ニューラルネットワークの世界では、大学で学んだ統計力学の知識が多いに役立ちました。その後、再度研究分野を変更し、音声認識の研究に携わるようになりました。その頃、音声認識にニューラルネットワークを使うのは、やや時代遅れという感じでしたが、それから15年ぐらいたって、深層学習という言葉とともに、ニューラルネットワークが脚光を浴びる時代が再び訪れました。

2015年に大学に移ってからは、音声認識だけでなく、音響信号処理や音楽情報処理など、音に関わる様々な分野を対象に研究を続けています。自分の住み慣れた分野を離れて新しい分野に進むのは勇気がいりますが、これまでの経験から、様々な研究分野は思いがけないところで繋がっていて、他分野の経験はきっとどこかで役に立つと思っています。

私自身は楽器の演奏は全くできないのですが、研究室には楽器が得意な学生さんも多く、自分の演奏を題材とした研究テーマなども提案してくれます。そういったテーマでも、技術や理論の側から支援できることが沢山あります。もちろん、昔からやっている音声認識の分野でも、まだまだやってみたいテーマはあって、あれやこれやと考えながら楽しい研究生活を送っています。