IEC 61850システム構成記述言語SCL - 電力システム設計者のための解説と記述例 -

IEC 61850システム構成記述言語SCL - 電力システム設計者のための解説と記述例 -

  • 天雨 徹 東京都市大教授 博士(工学)
  • 坂 泰孝 中部電力パワーグリット(株)

IEC 61850を用いた変電所のフルデジタル化,その中核を担うSCLについて解説。

ジャンル
発行年月日
2025/01/06
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-00993-4
IEC 61850システム構成記述言語SCL - 電力システム設計者のための解説と記述例 -
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定価

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【書籍の特徴】
変電所保護監視制御システムのためのIEC 61850のうち,SCL(System Configuration description Language)の理解に必要な全容を網羅。必要項目と具体例を体系的にまとめた解説書。学生から専門技術者まで,変電所保護監視制御システムをはじめ将来の電力業界を牽引する技術に携わる方必携の一冊。

【各章について】
第1章では,本書のメインテーマであるIEC 61850にて規定されるSCLの概要とSCLを活用した将来のエンジニアリング業務の可能性について述べるとともに,IEC 61850を適用した場合の変電所保護監視制御システムの変遷について述べる。

第2章では,変電所保護監視制御システムにおける従来のエンジニアリング業務のフローについて解説する。次にIEC 61850に規定されるエンジニアリングについて説明し,BAP(Basic Application Profile)について解説する。

第3章では,SCLに基づく設定ファイルによるエンジニアリング業務の効率化・自動化(SCLの利活用),BAP整備の重要性について解説する。なお,本章で解説する事項は,筆者が考える将来展望であり,現時点において,この将来展望を実現するためのツールとして存在しないものもある。IEC 61850適用の利点を最大限享受するために,ツールの開発や海外および国際標準化の動向に注視していく必要がある。

第4章では,IEC 61850-6にて定義されるSCLとSCLスキーマファイルによるSCL本文の構造について,SCLに基づく設定ファイルの構成要素について一つ一つ説明する。SCLスキーマとはSCLの記述ルールを定めるものであり,このSCLスキーマにより,機械可読および構文チェックが可能となる。

第5章では,サンプル変電所を例として,SCLに基づく設定ファイルの記述例について説明する。当該ケーススタディと4章で記述した設定ファイルの各種要素を照らし合わせることで理解を深めていただきたい。

【読者へのメッセージ】
本書は,IEC 61850のうちSCL(システム構成記述言語)に特化した解説と,SCLに基づいたエンジニアリングプロセスの将来構想などを体系的にまとめたものである。電力エネルギー分野の専門技術者だけでなく,電力工学を学ぶ学生にも理解しやすくまとめており,電力システム工学などの参考書として積極的に活用していただきたい。
本書が変電所保護監視制御システム設計者のみならず,これからの電力業界を牽引する技術者,電力ネットワークについて関心をもっておられる方々にとって,少しでも役に立つものとなれば望外の喜びです。

【本書のキーワード】
国際標準,IEC 61850,変電所保護監視制御システム,保護リレー装置,監視制御装置,遠隔監視制御装置,SCADA,論理ノード,通信サービス,ステーションバス,プロセスバス,トップダウンエンジニアリング,エンジニアリングツール,IED,GOOSE,SampledValues,BAP

近年電力システムにおいて,より一層のデジタライゼーションが進展する中で,新たな情報通信技術としておもに変電所保護監視制御システムに適用されるIEC 61850が注目を浴びている。IEC 61850は,変電所保護監視制御システム内の保護リレーや制御装置,あるいは変電所保護監視制御システムと給電・制御所のシステムが相互に連携して電力系統を制御する電力供給システムにおける中核的な役割を担うものであり,その適用範囲が拡大している。

IEC 61850を単なる情報通信の手段としてシステムに適用することも可能であるが,IEC 61850はシステム構成記述言語SCL(system configuration description language)を用いたエンジニアリング手法も包含した規格という特徴がある。IEC 61850は,異なるメーカの装置およびシステム間の相互接続性を担保するための方策の一つとして,規格によりシステム構成記述言語がSCLとして規定されている。SCLにより,変電所仕様やシステム仕様および各装置の設定情報が表現され,設定ファイルとして保存される。このSCLを用いたエンジニアリングこそが,相互接続性だけでなく,システム設計の効率化の大きな利点である。また,このSCLを理解することで,システム設計,ツール開発,運用性の向上を図り,これまでにない新たな装置・システムを構築することが可能となりうる。

前著「IEC 61850を適用した電力ネットワーク-スマートグリッドを支える変電所自動化システム-」(コロナ社,2020)において,国内初となる本格的なIEC 61850の解説と,特に変電所保護監視制御システムの実態,課題,将来動向などを体系的にまとめている。本書では,IEC 61850のシステム構成記述言語であるSCLに特化した解説と,規格の動向を踏まえつつ,筆者らが描く将来構想などをまとめた。

具体的なSCLの内容は本文で述べることとするが,まずはSCLに関心のある読者が持つ「なぜSCLが必要となるのか,その理由はなにか」といった問いに答える必要があるだろう。変電所構内には保護リレー装置や監視制御装置,遮断器,開閉器,変圧器などに用いられる複数のIED(intelligent electronics device)が存在し,これらが相互に連携してシステムを構成している。IEDは,保護や監視,制御などの機能を担った装置である。IEDは,たとえ異なるメーカ間であっても相互に情報を交換し,シームレスに動作するシステムを構築することが必要とされる。

SCLは,異なるメーカのIED間で相互運用性確保の手段の一つとして使用される共通のシステム構成記述言語である。従来のようにそれぞれのメーカが独自の方法で設定を記述するのではなく,SCLを用いることで統一された仕様に基づいて設定を行うことができるのである。SCLが重要な理由を以下に示す。

〔1〕相互運用性の確保
異なるメーカのIED間でスムーズな相互運用性を実現できる。これにより,変電所内の機器が連携し,信頼性の高い電力供給が可能となる。

〔2〕効率的な設定と展開
異なるメーカのIEDであっても,SCLにて記述される設定情報を各メーカが提供する設定ツールを使い効率的に展開できる。また,大規模な電力システムでも統一された手法で設定を行うことが可能となる。

〔3〕柔軟な拡張性
SCLには拡張性があり,将来的な変更やアップグレードにも対応できる設計になっている。このため,電力ネットワークの拡張や変更に伴う変電所保護監視制御システムの更新にもスムーズに対応できる。

〔4〕標準化の促進
IEC 61850は国際的な標準規格であり,SCLの適用は電力産業全体で共通の枠組みを提供することとなる。これにより,異なる国や地域間でも一貫性のある設計が可能となる。

以上のようにSCLは変電所や電力ネットワークの運用をより信頼性高く,効率的にし,将来の拡張性を確保するために欠かせない要素となっている。SCLは,これまで多大な労力と時間を費やしていた「設計業務」からの解放をもたらすものである。

メーカやエンジニア,運用者,行政府(規制当局)など,電力ネットワークの業務に関わるすべての人々がSCLの重要性を理解し,IEC 61850の適用を進めることで,より安定した電力供給が実現できる,そんな社会の実現が期待できる。

本書は,わが国のこの分野において今後,リーダーシップを発揮するであろう電力ネットワーク専門技術者を念頭において作成したものであるが,こうした技術者だけでなく,電力工学を学ぶ学生にも理解しやすくまとめており,電力システム工学などの参考書として積極的に活用していただければ幸いである。

本書が変電所保護監視制御システム設計者のみならず,これら電力ネットワークについて関心を持っておられる方々にとって,少しでも役に立つものとなれば望外の喜びである。

本書完成にあたっては,田中 立二 氏,浜松 浩一 氏,瀬戸 好弘 氏,大谷 哲夫 氏,漁野 康紀 氏に多大な協力をいただいた。厚く御礼申し上げる。

また,コロナ社の方々には終始貴重な助言と励ましをいただいた。感謝の言葉もない。

2024年11月
天雨 徹,坂 泰孝

1. 序章
1.1 本書のメインテーマ
1.2 SCLの役割と特徴
 1.2.1 SCLの役割
 1.2.2 SCLの特徴
1.3 SCLの将来性とSCLを活用したエンジニアリング業務の可能性
 1.3.1 SCLの将来性
 1.3.2 SCLを活用したエンジニアリング業務の可能性
1.4 変電所保護監視制御システム
 1.4.1 保護リレー装置
 1.4.2 監視制御装置
 1.4.3 遠隔監視制御装置
1.5 IEC61850を適用したシステムの構成
1.6 変電所保護監視制御システム構成の変化
 1.6.1 これまでの変電所保護監視制御システム構成
 1.6.2 IEC61850を適用した変電所保護監視制御システム構成(ステーションバス)
 1.6.3 IEC61850を適用した変電所保護監視制御システム構成(フルデジタル)
引用・参考文献

2. 変電所保護監視制御システムのエンジニアリング
2.1 IEC61850のエンジニアリング
 2.1.1 SCLにて記述される各種設定ファイル
 2.1.2 SCLに基づく設定ファイルエンジニアリングツール
2.2 工事エンジニアリング
2.3 開発エンジニアリング
2.4 エンジニアリングツールと各種設定ファイルの生成手順
 2.4.1 トップダウン方式
 2.4.2 ボトムアップ方式
2.5 BAPによる機能仕様の定義
引用・参考文献

3. SCLの利活用
3.1 BAP整備の重要性
 3.1.1 BAPの粒度
 3.1.2 BAPの作成イメージ
 3.1.3 BAP整備によるエンジニアリング業務への貢献
3.2 SCLを介した国内のエンジニアリング業務の変化(トップダウン方式)
 3.2.1 工事エンジニアリング(IEC61850適用)
 3.2.2 開発エンジニアリング(IEC61850適用)
3.3 BAPのSCL化
3.4 監視制御卓画面の自動生成
3.5 ポジション情報としてのSCL活用
3.6 単線結線図作成によるトップダウンエンジニアリングの可能性
3.7 制御ケーブル布設図相当としてのSCL活用
3.8 通信ネットワーク構成図としてのSCL活用
引用・参考文献

4. SCLファイルの構造
4.1 SCLとSCLスキーマの概要
 4.1.1 SCLとSCLスキーマの関係性
 4.1.2 SCLおよびSCLスキーマ内で利用される命名規則
 4.1.3 SCLの全体構造
 4.1.4 XSDファイル
4.2 Header要素
 4.2.1 Text要素
 4.2.2 History要素
4.3 Substation要素
 4.3.1 VoltageLevel要素
 4.3.2 Voltage要素
 4.3.3 Bay要素
 4.3.4 ConductingEquipment要素
 4.3.5 PowerTransformer要素
 4.3.6 TransformerWinding要素
 4.3.7 Tapchanger要素
 4.3.8 GeneralEquipment要素
 4.3.9 ConnectivityNode要素
 4.3.10 Terminal要素およびNeutralPoint要素
 4.3.11 SubEquipment要素
 4.3.12 Function要素
 4.3.13 SubFunction要素
 4.3.14 EqFunction要素
 4.3.15 EqSubFunction要素
 4.3.16 LNode要素
4.4 IED要素
 4.4.1 Services要素
 4.4.2 AccessPoint要素
 4.4.3 Server要素
 4.4.4 LDevice要素
 4.4.5 LN0要素
 4.4.6 GSEControl要素
 4.4.7 IEDName要素
 4.4.8 Protocol要素
 4.4.9 SampledValueControl要素
 4.4.10 SmvOpts要素
 4.4.11 ReportControl要素
 4.4.12 TrgOps要素
 4.4.13 OptFields要素
 4.4.14 RptEnabled要素
 4.4.15 DOI要素
 4.4.16 SDI要素
 4.4.17 DAI要素
 4.4.18 Val要素
 4.4.19 Inputs要素
 4.4.20 ExtRef要素
 4.4.21 DataSet要素
 4.4.22 FCDA要素
 4.4.23 LN要素
 4.4.24 AccessControl要素
 4.4.25 Association要素
 4.4.26 ServerAt要素
 4.4.27 KDC要素
 4.4.28 Authentication要素
 4.4.29 SettingControl要素
 4.4.30 LogControl要素
 4.4.31 Log要素
 4.4.32 GOOSESecurity要素
 4.4.33 SMVSecurity要素
 4.4.34 Subject要素
 4.4.35 IssuerName要素
4.5 Communication要素
 4.5.1 SubNetwork要素
 4.5.2 ConnectedAP要素
 4.5.3 Address要素
 4.5.4 GSE要素
 4.5.5 SMV要素
 4.5.6 PhysConn要素
 4.5.7 P要素(Address要素の子要素として使用する場合)
 4.5.8 P要素(PhysConn要素の子要素として使用する場合)
4.6 DataTypeTemplates要素
 4.6.1 LNodeType要素
 4.6.2 DO要素
 4.6.3 DOType要素
 4.6.4 SDO要素
 4.6.5 DA要素
 4.6.6 ProtNs要素
 4.6.7 Val要素
 4.6.8 DAType要素
 4.6.9 BDA要素
 4.6.10 EnumType要素
 4.6.11 EnumVal要素
引用・参考文献

5. ケーススタディとSCLサンプル
5.1 サンプル変電所における変電所構内通信ネットワーク
 5.1.1 構成1:ステーションバスとプロセスバスの分離
 5.1.2 構成2:ステーションバスとプロセスバスの分離(Proxy接続)
 5.1.3 構成3:ステーションバスとプロセスバスの統合
5.2 Header要素の記述例
5.3 Substaion要素の記述例
 5.3.1 電圧階級(VoltageLevel要素)の記述例
 5.3.2 変圧器(PowerTransformer要素)の記述例
5.4 Communication要素の記述例
 5.4.1 SubNetwork要素の記述例
 5.4.2 ConnectedAP要素の記述例
5.5 IED要素の記述例
 5.5.1 Services要素の記述例
 5.5.2 AccessPoint要素の記述例
 5.5.3 Server要素の記述例
 5.5.4 ServerAt要素の記述例
5.6 DataTypeTemplates要素の記述例
 5.6.1 LNodeType要素の記述例
 5.6.2 DOType要素の記述例
 5.6.3 DAType要素の記述例
 5.6.4 EnumType要素の記述例
引用・参考文献

付録 AXMLについて
A.1 XMLによる構造表現
 A.1.1 XMLの概要
 A.1.2 特徴
 A.1.3 XMLの構文(記述方法)
 A.1.4 XMLインスタンス
 A.1.5 タグ
 A.1.6 親要素・子要素
 A.1.7 ルート要素
 A.1.8 空タグ
 A.1.9 属性
 A.1.10 名前空間
 A.1.11 要素の名前空間
 A.1.12 属性の名前空間
 A.1.13 デフォルトの名前空間
A.2 XMLスキーマ
 A.2.1 XMLスキーマとしての名前空間の指定
 A.2.2 XMLとXSDの関連付け
引用・参考文献

付録 BUMLについて
B.1 UMLによる構造表現
 B.1.1 UMLの概要
 B.1.2 UMLクラス図の表現
 B.1.3 UMLユースケース図の表現
 B.1.4 UMLシーケンス図の表現
引用・参考文献

索引

天雨 徹

天雨 徹(アマウ トオル)

技術系社員研修の専門家。2023年、中部電力PG退職し東京都市大学特任教授に就任。名古屋工業大学客員准教授、中部大学/愛知工業大学非常勤講師併任。博士(工学)修士(経済学)。
専門は「電力システムネットワーク論」。1962年愛知県生まれ。退職した中部電力PGでは電力ネットワークの技術戦略・開発業務に従事。当時から学生の卒論、修論、学会発表の指導・助言を行う。中部電力PG工務研修所時代では技術系社員約3000人を対象に社内の技術力向上に貢献。
電気学会学術振興賞、優秀技術報告賞、進歩賞受賞。電気学会上級会員。技術士(電気電子部門)。
他に他社企業研修・講演など開催。企業、学生を対象に幅広く活動している。

坂 泰孝(サカ ヤスタカ)

中部電力パワーグリッド株式会社にて,保護制御装置(交流設備・直流設備)の設計・開発・施工に従事。電気学会会員。IEC TC57 WG10エキスパート。

【経歴】
2014年 名古屋工業大学 大学院 工学研究科 創成シミュレーション工学専攻卒業。同年,中部電力株式会社 入社。
2014~2018年 変電所における保護制御装置の保守・更新工事に従事。
2018~2020年 一般財団法人 電力中央研究所 システム技術研究所 通信システム領域に出向。IEC 61850の国内適用に関する研究に従事
2020年~2024年 中部電力パワーグリッド株式会社 基幹系統建設センター変電施設Gにて交流設備および直流設備の設計・更新・増設工事に従事。東清水変電所 自励式FC増設工事の装置設計・工事業務に従事し,海外製の直流システム導入のため尽力。
2024年~静岡支社変電Gにて管轄エリアの設備保守に従事。現在に至る。

【受賞】
2020年 電気学会電気学術振興賞論文賞「IEC 61131-3/IEC 61850準拠PLCによる保護制御機能の実装手法」

関連資料(一般)

  • Web付録:サンプル変電所SCLファイル

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