ものづくりの重要な基盤である塑性加工技術は,わが国ではいまや成熟し,新たな展開への時代を迎えている.
当学会編の「塑性加工技術シリーズ」全19 巻は1990 年に刊行され,わが国で初めて塑性加工の全分野を網羅し体系立てられたシリーズの専門書として,好評を博してきた.しかし,塑性加工の基礎は変わらないまでも,この四半世紀の間,周辺技術の発展に伴い塑性加工技術も進歩を遂げ,内容の見直しが必要となってきた.そこで,当学会では2014 年より新塑性加工技術シリーズ出版部会を立ち上げ,本学会の会員を中心とした各分野の専門家からなる専門出版部会で本シリーズの改編に取り組むことになった.改編にあたって,各巻とも基本的には旧シリーズの特長を引き継ぎ,その後の発展と最新データを盛り込む方針としている.
新シリーズが,塑性加工とその関連分野に携わる技術者・研究者に,旧シリーズにも増して有益な技術書として活用されることを念じている.
2016年4月
日本塑性加工学会 第51 期会長 真鍋 健一
(首都大学東京教授 工博)
以下続刊
本書は,新塑性加工技術シリーズの1冊として執筆され,その役割は加工技術者に役に立つ金属学の知識を提供することにある.本シリーズの中に『プラスチックの加工と技術』があり,そこでプラスチック材料ならびにCFRPなどの複合材料について詳しく扱われるので,本書では金属材料に焦点を絞る.また,最近では塑性加工が可能なセラミックスも開発されているが,用途も限定的なので,本書では取り扱わないことにした.
加工技術者と材料の関わりは二つに大別できる.一つは塑性加工を加えることで素材に必要特性を与える,材質作り込みに関するものと,もう一つは提供された素材を塑性加工することで必要な形状の製品を製造することである.前者の塑性加工技術者の代表が圧延技術者であり,後者の代表がプレス成形や鍛造に携わる技術者である.これらの加工技術者は,高度な制御技術やシミュレーションを駆使して高品質・高精度な素材ならびに複雑形状の部品の製造を実現しており,日本の世界に誇るモノづくり技術を支える存在となっている.
一方,材質予測制御技術や超高強度材料の成形技術などの最近の技術の動向を見ると,塑性加工技術と材料技術の融合が今後の塑性加工技術の発展に不可避であることがわかる.すなわち,材料のことを熟知することで加工技術者としての幅が大きく広がり,ますます高度化する技術開発への対応力が強化されることになる.具体例を挙げれば,材料の変形抵抗の本質を知ることで圧延技術者は板厚精度の向上を果たすことができ,また,材料の知識を持つ成形技術者なら,最近注目されているホットスタンピング技術で課題となっている生産性の向上も本書で後述するように適切な解決策を提案できると推察される.
本書は,これからの塑性加工技術者に備えてもらいたいと思う金属材料の知識を集約したものである.また,現場の技術者だけでなく,機械系の学生が社会に出て創造的な仕事ができる生きた材料知識を身につけられるようにも構成した.
1章では,材料の基礎として変形機構,組織とその形成機構について述べ,2章では,強化機構と変形抵抗について言及した.3章では,材料の成形性を,そして4章では,破壊を取り扱う.5章では,材料の(加工)熱処理と称し,熱処理による組織材質の変化について述べる.6章では,材料の評価方法を概説する.本書は金属材料の中で最も多様性のある鉄鋼材料を主体に取り扱うが,7章では,アルミ,チタン,マグネシウムなどの非鉄金属材料について述べる.8章では,加工技術者が最も頻繁に取り扱う鉄鋼材料に関して,材料開発の動向を紹介する.最後の9章では,最初に述べた塑性加工技術と材料技術の融合によって生まれた,組織材質予測制御技術とホットスタンピング技術をトピックスとして紹介する.
2016年9月
「金属材料」専門部会長 瀬沼 武秀
本書は,塑性加工におけるトライボロジーについて,基礎から応用までを網羅したものです。1993年に出版された塑性加工技術シリーズのうちの「プロセス・トライボロジー ―塑性加工の摩擦・潤滑・摩耗」を改訂し,最新の情報を採り入れています。塑性加工における摩擦・潤滑・摩耗について,初学者からより深く学びたい方までを対象としています。さらに,近年発展の著しい,工具表面処理技術,冷間鍛造用の環境対応型潤滑剤,サーボプレスを活用した加工における潤滑やホットスタンピングにおける潤滑についても新たに執筆されています。
2章は,塑性加工用潤滑剤についてまとめています。液体,半固体,固体潤滑剤についてまとめられ,種類,特徴および用途について詳述されています。近年開発が進められている一液型潤滑皮膜処理についても述べられています。
3章は,工具材料と表面処理の特徴や用途について述べられています。この章は,近年の発展がめざましく,改訂を機に新たに独立した章としました。さらに工具と素材の表面テクスチャーが潤滑に及ぼす影響についてもまとめられています。
4章は,摩擦試験法について述べられています。塑性加工における摩擦試験には,汎用的な方法から,特定の塑性加工に対応した方法など,これまでに多くの試験法が提案されており,それぞれの方法の特徴や用途についてまとめられています。
5章は,圧延におけるトライボロジーについて,圧延の力学,冷間圧延の潤滑とそのメカニズム,熱間圧延の潤滑について詳述されています。
6章は,引抜き加工におけるトライボロジーについて,潤滑剤,潤滑のメカニズム,潤滑方法,ダイスの摩耗について詳述しています。
7章は,鍛造・押出しにおけるトライボロジーについて,冷間および温熱間鍛造(押出し)における摩擦・潤滑の特徴や使用される潤滑剤について詳述しています。さらに型の摩耗や表面処理についても述べられています。
8章は,板材成形におけるトライボロジーについて,その特徴を述べています。また,せん断加工やしごき加工におけるトライボロジーについても記述されています。最新の話題として,ドライ加工や金型の表面処理についても述べられています。最後に,ホットスタンピングにおけるトライボロジーについて追加されています。
トライボロジー(Tribology)という用語は,1966年英国のJost,H.P.の主催するFLW(Friction, Lubrication and Wear)委員会で提案され誕生した.その意味は,「すべり合う表面の科学と技術」である.さらに,プロセストライボロジー(Process-Tribology:塑性加工における摩擦と潤滑)という用語は,1976年にプロセストライボロジー分科会〔主査:河合望(名古屋大学)〕の設置に当たり,春日保男教授(名古屋大学)によって提案されて用いられるようになった.これらの用語は,40~50年間使われ続けて,ほぼ市民権を得たように思う.ただし,プロセストライボロジーという一語で表すのはやや抵抗があることから,現在,分科会の名称は,・(中黒)を挿入して,「プロセス・トライボロジー分科会」と表すこととした.
わが国で,プロセス・トライボロジーの課題が,学問として大学等において研究の対象として取り上げられるようになったのは,1950年代になってからである.それ以来,わが国のプロセス・トライボロジーの研究開発は,春日保男教授を始めとする多くの先達のお陰で,たくさんのプロセス・トライボロジストによって引き継がれてきた.そのため,多くの研究課題が解決され,また工具材料,被加工材料,工具表面処理,潤滑剤,素材,潤滑システム等について,イノベーティブな技術開発が行われてきた.その結果,現在,わが国のプロセス・トライボロジー分野の研究や技術開発は,世界の中でもリーディング的成果を上げている.
プロセス・トライボロジーの特異な条件は,工具と接触する摩擦対の一方である被加工材が巨視的塑性変形を伴うことである.これは,接触面の微視的構造や接触面積に独特な変化をもたらし,接触機構,潤滑機構,摩擦特性,焼付き特性,摩耗特性等に特異な影響を与えている.このように特異な条件下のプロセス・トライボロジーについて解説するため,日本塑性加工学会のプロセス・トライボロジー分科会では,1988年に「塑性加工におけるトライボロジ」(コロナ社)を編集・出版した.さらに,1993年には,塑性加工技術シリーズの一つとして,「プロセストライボロジー ―塑性加工の潤滑―」(コロナ社)を編集・出版した.
今回は,その改訂版として,新塑性加工技術シリーズ「プロセス・トライボロジー ―塑性加工の摩擦・潤滑・摩耗のすべて―」を編集・出版することとなった.「刊行のことば」の裏面に表記した専門部会を立ち上げ,改訂版の構成と内容について検討した.その結果,基本的には前著の構成を踏襲することとしたが,新たに独立した章として,「第3章 工具材料と表面処理」を追加した.また,最新の研究開発技術については,それぞれの章に組み入れた.すなわち,「3章 工具材料と表面処理」には,工具と素材の表面構造(テクスチャー)が潤滑に及ぼす影響について,「5章 圧延におけるトライボロジー」には,熱間圧延における酸化膜の潤滑効果について,「7章 鍛造・押出しにおけるトライボロジー」には,振動・サーボプレスによる潤滑効果について,「8章 板材成形におけるトライボロジー」には,ホットスタンピングについて,追加記述した.
最後に,ご多用の中,ご協力いただいた執筆者各位に御礼申し上げるとともに,出版を企画された一般社団法人 日本塑性加工学会に謝意を表する.
2019年12月
「プロセス・トライボロジー」専門部会長 中村 保
好評だった「せん断加工」(塑性加工技術シリーズ)の内容を新たに見直し、高強度鋼板やマグネシウム合金などの新材料のせん断加工技術,進歩の著しいサーボプレス機械などの塑性加工機械の紹介やその活用技術に関する内容を加えた。
塑性加工技術シリーズ『せん断加工』初版の「まえがき」にも記されているように,せん断加工は,塑性加工の現場で最も多く見受けられる加工法である.すなわち,素材製造の現場ではシヤーによるせん断と圧延が繰り返し行われ,最終工程ではスリッターによるトリミングや定尺サイズへの切断がせん断加工により行われる.プレス加工の分野においても,ブランク取りのためのシヤーリングや打抜き,成形後のトリミングや穴あけなどの切断加工が,プレスせん断加工により行われる.このようにせん断加工が多用される理由は,せん断加工が他の切断加工法に比べ,高い生産性を有するためである.そして最近では,金型の加工技術進歩やプレス機械の高精度化や高剛性化とも相まって,せん断加工と他の塑性加工との複合加工が可能となり,加工の高効率化や機能部品のせん断を含む塑性加工への工法転換が進められるなど,せん断加工の需要はますます拡大している.
塑性加工技術シリーズ『せん断加工』は,初版第1刷が1992年に出版され,今日に至るまで,多くの技術者や研究者に購読いただき,新技術の開発や従来技術の改善などに活用いただいた.本書においては,それ以降に新たに塑性加工の対象となった,高強度鋼板やマグネシウム合金などの新材料のせん断加工技術,進歩の著しいサーボプレス機械などの塑性加工機械の紹介やその活用技術に関する内容を加筆した.さらに,塑性加工のなかで唯一破壊を伴う加工であることから,その解析が困難とされてきた,せん断加工のFEM解析についても新たに加筆した.
本書も塑性加工技術シリーズ『せん断加工』と同様に,せん断加工に携わっておられる技術者や研究者に有効な書として活用されることを願って止まない.
本書を発刊するにあたり,現在,国内でせん断加工を中心に研究を行っておられる大学の先生方,塑性加工機械の開発に携わっておられるメーカーの研究開発者の方々にご協力いただいた.ここに改めて御礼申し上げる.
2016年4月
「せん断加工」専門部会長 古閑 伸裕
「プラスチックの溶融・固相加工」(塑性加工技術シリーズ)にて紹介されていた内容を新技術やデータ等の更新の観点から全面的に見直し,さらに複合材料の成形やリサイクル技術に関する内容を加えた。
プラスチックは化学工業の発展とともに,多くの期待と可能性を秘めた材料として著しい発展を遂げ,金属材料と肩を並べる基材の一つとなった.
プラスチックの元祖ともいうべきセルロイドが1869年に誕生し,また,1909年にベークライトの合成に成功し,合成高分子として初のプラスチックが誕生した.これがプラスチックの二大要因(熱可塑性と熱硬化性)の誕生である.
その後,大規模な近代工業として生産されるようになったのは,第二次世界大戦後のことである.以来,石油化学工業の急激な発展と新しい合成技術の開発により,多彩なプラスチック(樹脂)が市場した.中でもポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリ塩化ビニルは,四大プラスチックと呼ばれている.わが国では,1958年頃から国策の後押しで本格的な生産がスタートし,わずか半世紀余の短期間で目覚ましい躍進を遂げ,1999年にわが国は世界有数のプラスチック王国となった.
プラスチックは,他素材に見られないすばらしい特性と可能性を秘めた材料として,多くの期待とともに発展してきた.このプラスチックの代表的な特徴は,軽く,強く,耐食性に優れ,その上いかなる大きさの製品も自由自在に,しかも任意の形状に造形できることである.
例えば,代表的な射出成形では,材料のプラスチックを加熱溶融して型に流し込み,冷却するのみで所要の形状の成形品が大量に生産できる.また,技術の複合化によりきわめて精巧で複雑な形状の部品・製品が得られる.近年では,3Dプリンターやナノ・マイクロ成形が市場を賑わしている一方,既存の成形プロセス技術の変革と改良が進められている.さらに,社会的ニーズや環境調和に沿ったものづくりが定着し,部材のプラスチック化(軽量化),小型化,高強度化,コスト低減化が一段と図られている.
このように,あらゆる分野で使用されるプラスチックおよびその複合材料は,それを利用する機械,構造物,その他あらゆる産業,工業分野の設計者,技術者などにプラスチックの広範な知識や情報が要求されるようになった.
本書は,プラスチック材料の種類と特性・物性をはじめ,材料の流動特性,状態変化と結晶化,各種成形加工法(射出成形,押出し成形,ブロー成形,熱成形,粉末成形,圧縮・トランスファー成形など)の概要・特徴・応用,複合材料の成形,塑性加工,接合・接着,金型設計とCAE,リサイクル技術および各種材料試験・評価法などについて,基礎から先進技術まで幅広く網羅し,かつわかりやすく記述した.したがって,これからプラスチック材料や成形加工などを学習する方はもとより,日常的な生産や研究の場において,実際に必要となる種々の加工技術やデータなどは,有効に活用できるものと確信する.
本書は,塑性加工技術シリーズ『プラスチックの溶融・固相加工』(1991年)を基に改編した.編集に伴い一部では旧版を加筆修正し,新技術やデータ等の更新を図り利便性を高めた.旧版の著者におかれては,ご了承賜りたくお願い申し上げます.また,多くの専門書を参考にさせていただき,データ等の引用をご快諾いただいた著者の方々には,深く謝意を表するものである.また,限られた紙面の中では説明や資料不足の箇所もあるかと思われるが,ご理解いただきご指導賜れば幸いである.
終わりに,執筆者の方々には,ご多用中にもかかわらず快くお引受けいただき,ここに改めてお礼申し上げる.さらに出版を企画された一般社団法人日本塑性加工学会ならびにコロナ社には謝意を表する.
2016年8月
「プラスチックの加工技術」専門部会長 松岡 信一
本書は,「引抜き」に関する理論,製造技術,材料,解析方法,機器・設備などを紹介・解説。旧版である「引抜き加工」(1990年,塑性加工技術シリーズ)刊行以降に得られた多くの新しい技術情報を盛り込んだ。
引抜き加工の歴史は古く,有史以前から比較的変形しやすい金属を線に加工する方法として多くの技術が培われてきた.現在では,対象とする形状として棒・線を中心として管などにも適用される加工方法である.また,対象は,鉄鋼・非鉄の金属材料の域にとどまらず,高分子系材料やカーボン系材料,超電導材料の製造などにも適用できる普遍的な技術として発展している.棒・線材の素材(素形材)としての可能性は大きく,二次的加工を経てボルトやばねなどの機能的要素を付加させる素地ともなり得る.そもそも,線や管の特徴である長尺の材料形状は,橋梁吊ワイヤ,送電線やパイプライン,光ファイバーといった例に見られるように,物理的にものを「つなぐ」,「支える」という現代文明に欠かせない重要な役割を担っている.よって,機能性とともに,強く,壊れない,しなやかな機械的性質が求められ,技術開発もそういった基本的な性能向上を目指して行われてきたと考えられる.ただ,近年,さまざまな工業製品での技術の進化や発展の特徴として,機器の小型化と軽量化,そしてトータルエネルギー消費の減少を目指す傾向が挙げられる.棒・線材や管材の用途もいまでは細線・細管,極細線にまで広がっており,将来的にはナノワイヤ・チューブなる未来技術へとつながり得て,その加工方法としてもさらに深化が続いていくものと予想される.
本書は「引抜き」に関する理論,製造技術,材料,解析方法,機器・設備などを一堂に集めて紹介・解説している.また,棒・線材,管材の「引抜き」製造に携わる最前線の技術者,研究者の自らが,おのおのの最新の情報を基に記述している点が特徴である.旧版にあたる塑性加工技術シリーズ『引抜き加工』が出版された1990年からすでに四半世紀以上が経ち,この新版作成にあたっては,その間に得られた多くの新しい技術情報を盛り込むことにも努めた.昨今さまざまなメディアを通じて迅速に情報が得られる時代においても,「引抜き」をキーワードに「棒線から管までのすべて」を参照できる本書は,読者である技術者や学習者に,一本の筋の通った有意な視点を提供するものと考えられる.同時に,古来から脈々と引き継がれてきた「引抜き」技術の本質(変わらない技術)を見いだしていただき,将来来るべき技術ブレークスルーへと昇華していただけるものと確信している.
本書の執筆母体は,一般社団法人日本塑性加工学会の「伸線技術分科会」である.鉄鋼,非鉄,伸線,潤滑などの各メーカーが集まり1976年に開始されたこの会は,現在(2017年)まで40年以上継続しており,定例の研究集会だけでも通算80回以上の実施を数え,その間,引抜き技術に関連する多くの技術者・研究者の交流の場としての役割を担ってきた.その運営委員会には,特に今回の執筆体制に関して多くの便宜を図っていただき,ここに厚く御礼申し上げる.また本書は,旧版のデータや記述の一部を用いており,当時の執筆者および出版部会の御尽力なしには存在し得なかった.厚く御礼申し上げる次第である.また,ご多忙中にさまざまな対応をいただいた執筆者各位に御礼申し上げるとともに,日本塑性加工学会,新塑性加工技術シリーズ出版部会および出版の労をおとりいただいたコロナ社には,原稿や編集方法へのさまざまなアドバイスをいただいたことに厚く感謝する.
2017年3月
「引抜き」専門部会長 齋藤 賢一
『高エネルギー速度加工』(塑性加工技術シリーズ)の内容を見直したものである。初めに加工の原理や特徴を述べ,爆発エネルギーを利用する加工法や放電成形,電磁成形,電磁接合,高速プレス装置についても事例と併せて解説した。
本書は,1993年に社団法人 日本塑性加工学会の高エネルギー速度加工分科会の委員が中心になり,多数の研究や技術開発の成果等を踏まえて執筆,発行された専門書籍『高エネルギー速度加工』に改訂を施したものである.書名については,塑性加工技術としてわかりやすく簡潔な「衝撃塑性加工」に変更した.改訂作業は,現在の分科会の主要委員と当時の執筆者の一部が中心となって行った.
衝撃塑性加工の代表的なものは,爆薬を用いる爆発加工,コンデンサーに蓄えた電荷の液中放電を利用する放電成形,衝撃電磁力を利用する電磁成形や電磁接合,高圧ガスでピストンを高速駆動して行う高速押出しや高速鍛造がある.衝撃塑性加工に用いるエネルギー源は,爆薬や放電エネルギー,電磁力,高圧ガスと多様であり,通常の塑性加工と変形速度が大きく異なる点が特徴である.それに伴って塑性変形挙動もいわゆる普通のひずみ速度下のものとは大きく異なる.衝撃塑性加工は,高ひずみ速度下の塑性変形現象を積極的に利用し,成形品の高付加価値化や通常の塑性加工法では不可能なことを実現できる加工法ともいえるのである.
本書では,はじめに衝撃塑性加工における加工技術としての特徴や各種加工法について一般的事項を示す.2章では,高速塑性変形の捉え方や考え方をまず述べ,材料が高速変形するときの金属学的あるいは塑性学的な解説と高ひずみ速度下の材料試験法を解説した.3章では,爆発エネルギーを利用する加工法として,爆発加工や異種金属を接合する爆発圧着,金属の表面硬化法,粉末固化や合成法を述べた.4章では放電成形を解説し,薄板の精密成形についても事例を示した.5章では電磁力を利用した電磁成形と電磁接合について詳細な解説を加え,具体的な製品例も含めた.6章では,高圧ガスで駆動する高速プレス装置と代表的な事例を解説した.
ご多用の中,ご協力いただいた執筆者各位に心より御礼申し上げ,発刊に際しご尽力いただいたコロナ社に対して,深く感謝申し上げる.
2017年8月
「衝撃塑性加工」専門部会長 山下 実
『接合』(塑性加工技術シリーズ)で紹介されていた基本技術について内容を見直し,実用上の点を考慮しながらアディティブマニュファクチャリングなど現在注目されている技術を追加した。それぞれの技術の適用例・応用例も紹介する。
日本塑性加工学会編の塑性加工技術シリーズ(全19巻)が発刊されてしばらくになることから,これからの20年を見据え,技術者育成に寄与することを目指し,また若手技術者の教科書・手引書となるよう,2014年度より塑性加工技術シリーズの改編に着手した.その流れを受け,接合・複合分科会を中心に,『接合』(1990年)の改編に取り組んだ.
『接合』が発刊されてから現在まで,太陽光,風力などの自然エネルギーの利用推進,自動車はもとより医療,航空機産業をつぎの成長産業と捉えた取り組み,昨今のAI・IoTの潮流など,技術革新が次々と起こっている.そのような中,内容の陳腐化に伴う見直しをベースとしつつ,新しい技術を盛り込む形で今回の改編にあたった.
接合技術は,当初は建造物や構築物を得るための技術であったが,今では日常使用している身の回りの製品から航空・宇宙産業の先端技術分野まで幅広く用いられ,付加価値の高い部品や製品を生む効率的な技術のひとつとして認識されている.反面,あらゆるものに利用されるため,分野を問わず数えきれないほど多種多様な技術となっている.これらを1冊の本にまとめ上げるというたいへんな作業と努力の賜として刊行されたのが『接合』である.
その流れをしっかり受け継ぎ,新しい技術やことがらを取り入れつつ,議論を重ね進めてきた.それぞれの接合技術を深耕するというよりは,企画設計や加工といったものづくりに関わる際に活用されるよう,どんな接合技術があってどのように使われているのか,生産技術の観点から紹介するよう努めた.
また書籍名については,ものづくりを考えた場合,必ずといってよいほど種々の接合の組合せにより形づくられるが,接合体は基本的には複合(機能体)であり,個々の機能の重ね合わせにより新たな機能も生まれるとの分科会創始者の考えを受け継ぎ,『接合・複合』と題して分科会の思いを込めた.
今回の執筆に際しては,塑性加工学会や接合・複合分科会の方々はもちろんのこと,他の分野の方々にも広くお声掛けし,大学の先生や企業の研究者・技術者の方々より快くご協力をいただいた.執筆者の方々には,普段であれば本1冊に匹敵するような内容を数ページ以内で語るよう,無理難題を承知でお願いした.その結果,コンパクトにそのエキスをまとめていただいた.平易な表現で最新技術を紹介するなど,たいへんご苦労された内容になっている.
一例を挙げると,いまも産業界で用いられる基本的な技術については,装置や応用製品,応用技術をより新しいものになるよう努めた.一方,ここ10年あまりで大きく発展したレーザ溶接,注目のFSW(摩擦撹拌接合)や拡散接合,AM(アディティブマニュファクチャリング)など,本格的に実用化に至った技術も新たに盛り込んでいる.新しいものを取り上げるにあたり,『接合』に比べ塑性加工のトーンが若干薄くなったように感じられると思うが,ご容赦願いたい.
本書が,ものづくりに関わりのある技術者の方々はもとより,学生を含む若手技術者にも接合技術を身近なものとして捉えていただき,ものづくりを行う際の接合技術の選択,あるいは新しい技術を生み出す際の気づきやヒントの一助になれば幸いである.
最後に,お忙しい中,快く執筆をお引き受けいただいた方々や,ご協力いただいた接合・複合分科会の方々に感謝申し上げるとともに,このような機会をいただいた一般社団法人日本塑性加工学会,ならびに株式会社コロナ社に御礼申し上げる.
2018年2月
「接合・複合」専門部会長 山崎 栄一
鍛造技術は,高精度な形の創成から高機能な製品を創出するネットプロパティの領域を目指している。進歩する閉そく鍛造,分流法,温間,板鍛造等の実用例を紹介し、周辺技術のCAE,サーボプレス,環境対応型潤滑剤なども記述。
本書は新塑性加工技術シリーズ『鍛造-目指すは高機能ネットシェイプ-』と題して,先の塑性加工技術シリーズ『鍛造-目指すはネットシェイプ-』からさらに一歩先を睨むことにしたものである.もはや時代の要請は単なる高精度な形を創成する鍛造から脱皮し,高精度で高機能な製品を創出し,ネットプロパティの領域をも目指そうという執筆者一同の気持ちを副題に込めた.
『鍛造』では,生産に鍛造を選択し,順に設計して,製造し,検査するという一連の流れに沿って章立てされていた.これに対して本書では,はじめに鍛造の概要を説明したあとに,鍛造の力学に関する章を配置した.これは,昨今のコンピュータ支援技術(CAE)などを使う技術者が増えていることから,工程検討や型設計段階において多くの力学的な用語が登場するようになり,教科書としては早めに読者が用語に触れるほうが便利だと考えたからである.
つぎに,『鍛造』刊行から約20年の間に進歩した,閉そく鍛造,分流法,温間鍛造などについて実用例を追加しており,これらに関する説明を増やし,最近の板鍛造についても記述した.また,この間に非調質鋼や非鉄金属の使用も増加したので,『鍛造』より記述を増やした.
さらに目覚ましい進歩を遂げたといえるものは,鍛造を支えるつぎの周辺技術である1)CAE技術,2)サーボプレス,3)環境対応型の潤滑剤である.いまや,コンピュータ支援を前提にしたCAE技術なしで型設計や工程設計は考えられない.また従来の単一モーションのプレス機械は,コンピュータ制御と相性のよいサーボモーターで駆動され,複雑なモーションで動き,精度向上にも一役買っている.一方で,冷間鍛造におけるリン酸塩被膜のない潤滑剤の開発と実用化は画期的であり,熱間鍛造における非黒鉛化の動向も進んでいる.これらの現状に対しては,今回新しく8,10,12章を設け対応した.
このように,執筆者一同は先達が『鍛造』で築いた思いを継承し,さらにこれまでの進歩を加えて,それらを具体的に書き留めた.本書がこれから鍛造に取り組もうとする技術者にとっても道標となり,中堅の技術者にとっては,より合理的な解決案や,より高精度で高機能な鍛造品を生み出すために役立つことを願っている.
最後に,お忙しい中,鍛造分科会の方々はじめ鍛造に関わる多くの方々には,丁寧に本稿を執筆され仕上げていただいたことに感謝申し上げる.また,多くの貴重な図表データや最新の写真などをご提供いただいた企業にも深く感謝申し上げる.あわせて,このような機会をいただいた一般社団法人日本塑性加工学会,ならびに出版の労をお取りいただいた株式会社コロナ社に厚く御礼申し上げる.
2018年8月
「鍛造」専門部会長 北村 憲彦
粉末成形は優れた材料特性,粉末積層造形やポーラス金属のような三次元複雑形状のニアネットシェイプなどのコスト優位性からも注目される。本書では新しいホットプレス,セラミックス粉末,硬質材料の成形と作製,機能性材料なども加えた。
日本塑性加工学会編の塑性加工技術シリーズ第18巻として『粉末の成形と加工』が出版されたのは1994年のことであった.「粉末冶金」全般に関する書籍とは一線を画し,粉末の成形に関連する事項に焦点を絞り,実際の技術から成形理論までを詳しく解説した.それから約25年が経過し,粉末を原料とする素材や機械部品・製品の製造プロセスは大きく変化しつつある.そこで本書では『粉末の成形と加工』出版後の粉末成形技術の進歩を反映させるために,『粉末の成形と加工』の編集方針を踏まえつつ内容を再検討し,新たな解説を書き加え,また,従来の内容を最近の内容に置き換えて改編した.あわせて,書名をより簡潔な『粉末成形』に変更した.
粉末を原料とする製造プロセスは,原料粉の作製から粉末の混合,成形,焼結,後処理から成り立つ.この製品の完成までの製造プロセスを「粉末冶金法」という.『粉末の成形と加工』の「まえがき」に述べられているように,粉末の製造方法を選択することから始まる製造プロセスを制御することによって,溶製材では実現することができない多様な特性を有する材料が得られ,さまざまな分野で用いられている.
例えば,組織制御が容易であることに基づく特徴ある優れた材料特性,難加工材の成形,自由度の高い三次元複雑形状の付与,ニアネットシェイプあるいはネットシェイプ製品,材料特性と生産性向上がもたらす製造コスト的優位性等があげられる.
最近の動向として,粉末を原料とする製造プロセスは省エネ化や製造の高効率化,次世代を担う新しい素材の創成への寄与が期待されている.特に粉末積層造形やポーラス金属のように,三次元複雑形状や構造を有する材料の製造プロセスとして注目されている.これらの実現のためにはシミュレーション技術の発展も欠かすことができない.
そこで本書は,粉末の成形に焦点を絞る『粉末の成形と加工』の方針を受け継ぎ,つぎのような構成とした.1章では,粉末を用いた素材作製の歴史と粉末成形プロセスから焼結工程までを概説した.2章では,各種粉末成形法の原理と方法,実際の成形挙動から成形の特徴について解説し,新しいホットプレスおよび粉末積層造形について新たな節を加えた.3章では,種々な粉末の成形について,内容を改めて解説した.セラミックス粉末,硬質材料の成形と作製,さらに近年注目を浴びている機能性材料を解説する節を新たに書き下ろした.4章は,個別要素法についての節を加えつつ,本書の特徴である粉末成形の力学を詳細に解説した.
本書は,『粉末の成形と加工』の執筆に携わった方々のご苦労の上に成り立っていることを最初に申し上げなければならない.その上で,『粉末成形』の専門部会を,一般社団法人日本塑性加工学会の「粉体加工成形分科会」の運営委員会が務めた.粉末成形は幅広い分野から成り立っている.執筆に際しては,それぞれの分野に携われている多数の専門家の方々に快くご協力いただいた.厚くお礼申し上げる.
最後に,一般社団法人日本塑性加工学会,新塑性加工技術シリーズ出版部会,および本書の発刊にご尽力いただいた株式会社コロナ社に,出版までにさまざまな助言をいただいたことに深く感謝申し上げる.
2018年10月
「粉末成形」専門部会長 磯西 和夫
本書は,近年における形状に対する要求の厳格化や外見上現れない内部残留応力低減への要求,矯正が困難な高強度材への要求の高まりに際し,FEM解析等高精度な制御方法について最新の動向を可能な限り記述した。
本書は,塑性加工技術シリーズ15『矯正加工』(1992年1月20日初版第1刷発行)の新シリーズ版として発行されることとなった.前版の出版から25年以上の歳月が経ち,矯正加工の基礎から応用までの幅広い視点での改訂を目指した.
矯正加工は,変形量が小さく,弾性と塑性の境界近くの現象が問題となる.形状を修正するという意味では,微小な塑性変形を正確に加える必要があり,ほかの塑性加工とはやや趣を異にした問題となる.また,変形中の材料と工具の接触が限定的で,矯正加工中の材料はほとんど自由面での変形により塑性変形が進行するとの特徴がある.これらの変形の特性に関しても,各章で解説を行う.
矯正加工の目的は,平坦度,反り,曲がりなどの寸法精度を修正することにある.これらの形状は製品加工時の重要な特性であり,プレス成形時の成形精度,機械加工の寸法精度,二次加工の自動化ラインでのトラブル防止,溶接時の隙間管理など種々二次加工に影響を与える.このため,素材の一次製造メーカーの最終工程をはじめ,二次加工の前後工程としても広く矯正が行われている.
塑性加工における変形量が小さいため,ほかの圧延,鍛造と比較すると成形荷重が小さい.また,このため,矯正装置は比較的小型で,なおかつ精密な制御を行わなくても,寸法精度を満足するような構造が採用されていた.また,矯正後は平坦度,反り,曲がりは修正されるため,当時のオンラインセンサーでの計測精度では測定が困難であり,目視検査や抜き取り検査での評価に頼っていた.したがって,操業はオペレータによる手動設定やあらかじめ登録された矯正条件を自動設定し,矯正後の寸法を目視や採寸により矯正条件の修正を行うような操業が行われていた.理論的には,弾塑性変形による初等解法を用いて,その変形挙動や平坦度,反り,曲がりの矯正メカニズムが解説,予測されるようになっていた.本書でも,これらの矯正メカニズムや矯正装置に関して,旧版を踏襲して解説を行う.
上述のように,矯正加工は本来,ある程度の精度で矯正装置の設定を行うと,平坦度,反り,曲がり,機械的特性などが所定のスペックに収まるような加工であった.しかしながら,近年では形状に対する要求の厳格化,矯正が困難な高強度材の増加,外観上現れない内部残留応力低減への要求など,矯正加工への要求は高まっている.旧版以降,これらの要求に対して,初等解析からFEMを用いた解析が進むようになり,矯正中の変形挙動がより詳細に理解されるようになった.また,矯正装置においても,高精度なセッティングを行うために矯正装置の弾性変形を考慮したような自動制御が採用されるようになってきた.これらの最新の動向に関しても,本書ではなるべく解説する方針で改訂を行った.
矯正加工は,圧延や熱処理の後工程,プレス成形,鍛造,溶接などの前工程として,一次加工と二次加工の中間的な工程であり,変形量も小さく華やかな工程ではないが,一次加工の最終寸法や形状を決定する重要な工程であり,かつ二次加工の最終製品寸法や形状を決定する工程となる非常に重要なプロセスである.しかしながら,矯正加工の研究者が少なくなる中,できる限り最新の取組みを含んだ形で,矯正加工の全体感を把握できるように考慮した.本書を参考に,矯正加工に関する技術者には,未解決な問題への果敢な取組みを期待するとともに,高品位な製品の安定生産に寄与できることを期待する.
2018年8月
「矯正加工」専門部会長 前田 恭志
転造やスピニングなどの回転成形は、簡単形状な工具を用い小荷重容量機械で成形でき、多品種少量生産に適する。本書では,近年,高強度材や難加工材の成形など、より効率的生産手段への展開が期待される回転成形について詳説した。
日本塑性加工学会編 塑性加工技術シリーズ『回転加工―転造とスピニング―』が刊行されたのは1990年12月であるから,四半世紀以上が経過したことになる.この間,回転しているブランク(被加工材)に工具を押付け,工具との局部的な接触による塑性変形の繰返しによって徐々に全体の製品形状を創成していく,典型的なインクリメンタルフォーミングとしての回転成形(rotary forming)の適用範囲は着実に広がりつつある.
『回転成形―転造とスピニングの基礎と応用―』で取り上げる回転成形の各加工技術の基礎と各加工法における変形機構などは,基本的には『回転加工』の刊行時と変化はないが,この四半世紀の間に数値制御技術などを含む周辺技術の発展に伴って各加工技術も大きく進歩してきている.
『回転加工』から『回転成形』へ改編するに当り,まず,本加工技術が機械加工ではなく塑性加工(metal forming)技術であることを明示するために,書名を『回転成形』へと変更した.ついで,全体の構成についても見直しを行い,『回転加工』は全9章で構成されていたが,他の章に比較してページ数が少ない「回転鍛造」と「ディスクローリング」を『回転成形』では7章「その他の回転成形」に移して,全7章で構成するように章の数を減らした.
7章「その他の回転成形」には「回転鍛造」,「ロータリースエージングおよびラジアル鍛造」,「傾斜軸転造」,「冷間プロフィル転造」および「ディスクローリング」など各種の回転成形技術が含まれており,『回転成形』に含まれている各加工技術は「ドリルの転造」を除いたこと以外,基本的には『回転加工』と同一である.
また,2章「ねじ転造」,3章「歯車・スプライン転造」,4章「クロスローリング」,5章「リングローリング」,6章「スピニング」および7章「その他の回転成形」の各章においては,『回転加工』をベースとして加工技術のディジタル化,フレキシブル化,インテリジェント化や複合化など,最新の応用例や動向を追加して節や項の構成を変更しており,また重要な基本的事項を説明する必要性から構成も含めて全面的に書き改めた章もある.
7章「その他の回転成形」で記述されている各加工技術も含めて,『回転成形』の各章で取り上げている回転成形の各加工技術を単独加工として利用するだけでなく,これらをベースにした新しい加工技術や加工法の開発,また他の加工法との複合化などによる,より効果的な生産手段への展開を期待したい.
回転成形全般に関する特徴や利点は1章「総論」にまとめられているが,近年の技術的動向に基づいた長所を強調するとすれば
( 1 )通常の鍛造やプレス加工に比較して小荷重容量の機械で成形ができ,また簡単形状で安価な工具を用いて,多様な製品をフレキシブルに成形できるので,多品種少量(high-mix, low-volume)生産に適している,
( 2 )工具の運動のディジタル制御が可能であり,これからのディジタル生産システムに適している,
( 3 )加工荷重が小さく,潤滑が容易なため,高強度材や難加工材の成形にも適用できる
ことなどがあり,回転成形はこれからも重要な成形技術の一つである.ただし,高品質な製品を回転成形で製造するためには,適正な成形加工条件(工具運動)の選定,材料変形や材料流れの適切な制御が不可欠で,そのためには各加工技術に特有の知識が必要なため,回転成形の特性をよく理解する必要があり,本書がそのための一助となれば幸いである.
『回転成形』を取りまとめるに当り,前述のように『回転加工』の図表や記述をそのまま使用させていただいた箇所も多くあり,『回転加工』の著者に深く謝意を表する.また,出版を企画された一般社団法人日本塑性加工学会,ならびに出版の労をお取りいただいた株式会社コロナ社に謝意を表する.
2019年3月
「回転成形」専門部会 川井 謙一,団野 敦
管材の事務機器や自動車等構造部材としての利用の増加に伴い,複雑成形を可能にするチューブハイドロフォーミングを含め,近年複雑化,軽量化,高強度化が求められている管材の二次加工技術を普遍的な技術をふまえて体系化した。
チューブフォーミングはその名の通り管の成形加工であるが,ロール成形,ピアシング・圧延,板曲げなどの一次加工により成形された管を加工する「管に関する二次加工技術の総体」であり,切断,曲げ,拡管・縮管,口広げ・口絞り,穴あけ,接合といった複数の加工技術からなる.新塑性加工技術シリーズ『チューブフォーミング』は,この管の二次加工技術を体系化して記した書籍であり,旧版(1992年発刊)をほぼ25年ぶりに改訂したものである.
旧版の発刊より25年遡った時点から旧版発刊までを見ると,日本は高度経済成長期にあり,種々の工業的な技術が進歩した時期であり,加工に耐える材料の開発がなされ,それと相まって加工技術も進歩した時期である.旧版から現在までを見ると,1995年には生産年齢人口が減少に転じ,経済成長が大きいとされる人口ボーナス期(生産年齢人口が従属年齢人口の2倍以上)も終わり,成熟期に入っている.
この25年間を概括すると,チューブフォーミングの適用が配管主体から構造材へと拓けたことが大きな変化である.これは省エネルギー・省資源の観点から軽量化が重要な課題となり,中空なため軽量で剛性・強度を確保できる管がこの課題の解決に適していることによる.直管では構造を形成できないので管の加工が必要であり,チューブフォーミング技術が進化した.材料に関しては,銅管は大きな変化はないがチタン管の適用が拡大し,成形性のよい鋼管・アルミ管が開発され,その後,高強度化が進展した.加工技術は,計算機による複雑で正確な加工プロセス制御や,高精度なコンピュータシミュレーションによる加工条件や加工メカニズムの検討など,計算機の進歩に支えられて発展してきた.チューブフォーミングの分野では,液圧成形がより複雑な一体成形が可能なチューブハイドロフォーミングへと進化したのが大きな発展の好例である.
本書は,このような技術の進展を取り入れるとともに,つぎの25年でも古びないよう普遍的な記述を心掛けた.また,章構成を簡素化し,技術をより体系化して記述することに努めた.新塑性加工技術シリーズでは『曲げ加工』がなくなるため形材の曲げも含めた.さらに今回の改訂では,技術伝承を重要な課題と考え,熟練技術者の加工技術に関する知識を抽出し,アーカイブすることを行った.そのための手法を開発し,元チューブフォーミング社の中村正信氏,株式会社太洋の岡田正雄氏から貴重な知識を開示いただき,本書に残すことができた.両氏のご協力に深謝いたします.
これから益々インターネット上への情報の蓄積が進み,また,それらへのアクセスも容易になると考えられるが,個々の項目の断片的な知識でなく,体系化された情報としての教科書は一定の価値をもつものと考える.今後,さらに人口減少が進み技術伝承が課題となっていく中で,本書が次世代の技術者の参考になれば幸甚である.
本書は,塑性加工学会チューブフォーミング分科会のメンバーを中心に執筆したものであり,執筆者各位に感謝する.とりわけ執筆や担当章の取りまとめだけでなく,本書の全体の構成や記述について討議を重ね形にした,宇都宮大学 白寄篤先生,埼玉大学 内海能亜先生,新日鐵住金株式会社 水村正昭氏に感謝する.私は新日鐵で板・管の一次加工・二次加工の研究開発に携わっていたものの,大学に移ってからは塑性加工以外の研究をおもにしていたため,本書が完成し中継ぎの任をまっとうできたのは,これらの方々によるものである.最後に,全体を通して貴重なアドバイスをいただいた浅川基男先生,遠藤順一先生に感謝する.
2019年3月
「チューブフォーミング」専門部会長 栗山 幸久
1994年に刊行された「プレス絞り加工―工程設計と型設計―」(塑性加工技術シリーズ13)の,26年ぶりの改訂版。旧版は,学会レベルで多くの学術的知見が得られている力学,材料学の部分と,従来学会ではあまりとり上げられていなかった型設計,工程設計,加工機械の特性といった現場的な技術を併せ持つ学術出版物であり,絞り加工の基礎から始まって,設計に至るまで,実際の技術内容をわかりやすく解説するという編集思想に基づいて出版された。今回の改訂版もその基本思想を継承しつつ,その後の技術の発展(国際標準化された材料試験法,各種軽量化材料,成形シミュレーション,ホットスタンピング,インクリメンタルフォーミング,最新の加工機械)を盛り込む形で編集された。さらに,新シリーズでは絞りと曲げを1冊にまとめて出版する方針となったことから,旧シリーズでは独立して刊行された「曲げ加工」から,力学解析や各種曲げ加工における材料の変形メカニズムに関する内容を大幅に組み入れた。本書の新規および改訂執筆された項目は以下のとおりである(〔 〕内は該当する章または節番号)。
• 絞り・曲げ加工の歴史と役割〔1〕(新規)
• 薄板の材料試験法および成形性評価試験法〔2.1~2.2〕(改訂)
• 鋼板,アルミニウム合金,チタン合金,マグネシウム合金板の成形特性〔2.3〕(新規)
• 板成形の力学〔2.4〕(新規)
• 成形シミュレーション〔3.5〕〔4.4〕(新規)
• 曲げ成形〔4.1~4.3〕(改訂)
• ホットスタンピング〔5〕(新規)
• インクリメンタルフォーミング〔6〕(新規)
• 絞り曲げ成形機〔7〕(新規)
【読者へのメッセージ】
板材成形の基礎理論に始まり,金型設計のポイント,先進的加工機械のメカニズム,ホットスタンピング,インクリメンタルフォーミングなどの最先端の加工技術まで網羅し,かつプレス工程設計の最適化に必須な板材成形シミュレーションの最新理論も盛り込みました。高専生・大学生の皆さんの上級レベルの学習用として,またプレス加工の第1線で活躍されている技術者の皆様には基礎理論から最新加工技術の便覧として,幅広くご活用頂ければ幸いです。本書は1994年に刊行された『プレス絞り加工―工程設計と型設計―』(塑性加工技術シリーズ13)の,26年ぶりの改訂版である.旧版を編集された,プレス絞り加工出版部会長の西村尚先生(東京都立大学名誉教授)は,そのまえがきにおいて旧版の編集思想をつぎのように述べておられる.
「従来の学術書では十分に言及されていない工程設計と型設計に,多くのページ数を割り当てた.また,現場の技術書では十分に言及されていない,被加工材の性質,絞り加工の力学についても十分なページ数を割いている.したがって,本書の特色とする点は,学会レベルで多くの情報が集められる力学,材料学の部分と,従来学会ではあまり取り上げられていなかった型設計,工程設計,加工機械の特性といった現場的な技術を併せ持つところにある.(中略)本書は絞り加工の基礎から始まって,設計に至るまで,実際の技術内容をわかりやすく解説した.学術出版物としてはほとんど例を見ない.」
この新版は,上記の基本思想を継承しつつ,その後の技術の発展(国際規格化された材料試験法,各種軽量化材料,成形シミュレーション,ホットスタンピング,インクリメンタルフォーミング,最新の加工機械)を盛り込む形で編集された.さらに,新シリーズでは絞りと曲げを1冊にまとめて出版する方針となったことから,旧シリーズでは独立して刊行された「曲げ加工」から,力学解析や各種曲げ加工における材料の変形メカニズムに関する内容を大幅に組み入れた.本書の新規および改訂執筆された項目は以下のとおりである(〔〕内は該当する章または節番号).
• 曲げ・絞り加工の歴史と役割〔1〕(新規)
• プレス成形の分類,薄板の材料試験法および成形性評価試験法〔2.1~2.2〕(改訂)
• 鋼板,アルミニウム合金,チタン合金,マグネシウム合金板の成形特性〔2.3〕(新規)
• 板成形の力学〔2.4〕(新規)
• 成形シミュレーション〔3.5〕〔4.4〕(新規)
• 曲げ成形〔4.1~4.3〕(改訂)
• ホットスタンピング〔5〕(新規)
• インクリメンタルフォーミング〔6〕(新規)
• 絞り曲げ用成形機〔7〕(新規)
本書は,板材成形の分野で活躍している多くの研究者・技術者の共同執筆により生まれた.諸般の事情により刊行が遅れたことをお詫びするとともに,ご協力をいただいた執筆者ならびに学会関係者各位に深甚なる謝意を表します.またコロナ社には辛抱強く脱稿をお待ちいただくとともに,種々の編集上のアドバイスを頂戴しました.心より感謝申し上げます.
2020年8月
「板材のプレス成形」専門部会 桑原 利彦,小山 秀夫,高橋 進
今も重要性が増す圧延技術を,コンピュータや自動制御技術のめざましい発達,圧延機や潤滑技術などの着実な進歩,環境問題といった社会的課題等を踏まえ,第一線で活躍する執筆陣が今後の技術者にとって必携の書となるようまとめた。
1990年代に日本塑性加工学会編により,塑性加工の全分野を網羅する専門書体系として「塑性加工技術シリーズ」全19巻がコロナ社から発行された.そのシリーズでは,主として加工法ごとに専門書が刊行されたが,圧延に関係する書籍としては,1991年8月に『棒線・形・管圧延』が,1993年2月に『板圧延』が刊行された.両書には「世界をリードする圧延技術」という副題がともに冠されたことからもわかるように,高度経済成長時代を経て,当時世界最高水準となった技術が余すことなく説明されている.
遡れば圧延の歴史は古く,産業革命以降に限定しても鉄鋼を中心として多くの技術者・研究者が新技術の開発や操業改善に携わってしのぎを削り,膨大な数の優れた論文,解説などが相次いで発表されてきた.したがって,圧延の技術者・研究者は,その中から関係する文献を(ドイツ語やロシア語を含めて)探しあてて取り寄せ,それらを読破し理解した後に,自らの課題に取り組む必要があった.しかし,「塑性加工技術シリーズ」によってそれまでの知見が論理的に整理されたので,以後両書は圧延に携わる技術者や研究者必携の書となり,30年間にわたってわが国における圧延技術の発展を支えることとなった.
しかし,過去30年間において計算機や自動制御技術の進歩はめざましく,多くの工場で自動操業が実現し,寸法や形状,あるいは表面性状の高精度な制御も可能となった.さらには操業ビッグデータを収集して,データ科学を活用して解析し,変形抵抗や摩擦係数の推定なども行われるようになっている.また,30年間には有限要素法などの商用コードも著しく普及し,サイバー空間で圧延現象の再現が可能となり,それを利用した最適化が試みられるようになっている.もちろん,圧延機や潤滑技術も着実に進歩してきた.海外に目を転じてみれば,中国の台頭は急激で,生産量では他国を圧倒するようになり,わが国では,大量生産よりも高付加価値材の多品種の小ロット生産,あるいはオンデマンド生産にシフトしつつあるようにも思われる.
最近では,地球温暖化が世界レベルでの関心事となり,CO_2排出量削減のための軽量化を目的に被圧延材の高強度化と薄ゲージ化が進み,圧延荷重とパス回数がともに増加する傾向にある.被加工材としては,軽量材料であるアルミニウムやチタン,マグネシウムなどの合金,耐熱材料であるタングステンやモリブデンの合金,導電材料である銅合金などの重要性は相対的に増している.また,異種材料を組み合わせたクラッド材料も圧延によって多く製造されるようになり,圧延の重要性は今後も不変と考えられる.ロールバイト内には未知の現象が依然として多く存在し,今後の研究課題にも事欠くことはなさそうである.本書も今後30年間にわたって有効にご活用いただくことを願いたい.
今回の「新塑性加工技術シリーズ」の編集に当たっては,まずコンパクト化を試みることとした.すなわち,先の塑性加工技術シリーズで2分冊の『板圧延』と『棒線・形・管圧延』をまとめて,1冊の『圧延』とした.これは,条鋼圧延においてもコンピューターシミュレーションが可能となったこと,世の中のペーパーレス化が進行し,必要な文献が示されていれば,論文アーカイブにいつどこからでもアクセス可能となったことなどの理由による.そして,第一線で活躍する技術者・研究者に執筆をお願いした.
最後に,当初の予定より発行が遅れた点をお詫びしたい.分担著者の皆様,日本塑性加工学会新塑性加工技術シリーズ出版部会委員,出版元であるコロナ社の皆様,および編集作業を手伝っていただいた海上保安大学校の兼子毅先生のご協力が大であることをここに付記し,深甚なる謝意を表します.
2024年10月
「圧延」専門部会長 宇都宮裕