CFRTPの塑性加工入門

CFRTPの塑性加工入門

CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)量産加工を実現する塑性加工法について解説する。

ジャンル
発行年月日
2023/03/02
判型
A5
ページ数
192ページ
ISBN
978-4-339-04682-3
CFRTPの塑性加工入門
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定価

3,300(本体3,000円+税)

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1.本書の特徴
 本書は,今後量産加工として期待される,CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)を用いて,板材からプレス成形したり,ビレットから鍛造成形したりする「塑性加工」について解説する.
 炭素繊維強化樹脂(CFRP)は軽くて強度があり,機器の軽量化によって運転エネルギーコストの低減や,身につけた場合の負担軽減などに幅広く活用されると期待されている.しかし,これまでのCFRPは主に熱硬化性樹脂を用いており,成形したものを変形させたり,リサイクルしたりすることが困難である.今後の量産プロセスには,金属の塑性加工のように,目的の形状へ変形できる特性が必要である.これを実現するのがCFRTPである.加熱して樹脂を溶融させれば変形加工ができ,冷却すれば固まる材料である.

2.特にこだわったところ
 「塑性加工」という言葉を用いたのは,これまで金属材料の塑性加工に関わっていた方にも,CFRTPを用いれば,塑性加工のような変形加工が可能であることを知っていただくためである.また世の中の量産加工には,塑性加工が幅広く使われていることを一般の方にも理解していただくためである.
 CFRTPの塑性加工おいては,加工中に炭素繊維がどのように変形するかを理解することがキーポイントである.本書では,一方向炭素繊維,織物炭素繊維のプレス成形における繊維の変形について詳しく解説する.また積層プレートにおける変形についても詳しく解説する.
 次に重要なポイントは,加工後も炭素繊維と樹脂の密着性が保たれるように,変形後の冷却まで圧力を保つことである.この温度・圧力プロセスについて詳しく解説する.
 さらに不連続炭素繊維を用いた加工について,リブ成形や鍛造成形,歯車成形など,具体例を通して解説する.
 続いて,CFRTP塑性加工の発展として,接合,切断,パイプ成形,3Dプリンティングなど,各種の応用加工についても解説する.

3.本書の効用
 これまで金属の塑性加工に関わってきた方は,「塑性加工」の視点から,CFRTPの塑性加工にチャレンジできる.一方,これまでプラスチックの射出成形に関わってきた方は,熱可塑性樹脂の視点からCFRTPの加工にチャレンジできる.そして,繊維に関わってきた方は,繊維の視点からCFRTPの加工にチャレンジできる.ぜひ本書の知見をもとに,「CFRTPの塑性加工」という新しい量産加工にチャレンジして,日本のものづくりの底力を発揮していただきたい.
 そして,地球温暖化を防ぐ材料の切り札である炭素繊維複合材料を用いたものづくりに興味のあるすべての方々の知見となることを期待する.

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

機械の軽量化は,自動車などの移動機械を動かすエネルギーの削減や人間が持ち運んだり身に着けたりする機器の使いやすさ向上のために重要である。軽量化を図る材料として,CFRP(carbon fiber reinforced plastics,炭素繊維強化樹脂)は,最も効果的なものとして期待されている。すでに最新の航空機では,胴体の50%以上がCFRPで製作されている。地球温暖化を防ぐため,二酸化炭素排出削減は喫緊の課題であり,自動車においては,駆動時の二酸化炭素排出削減のためにEV化が急速に進もうとしている。EV自動車では,電池の重量が大きいため,ボディの軽量化がいっそう求められている。ボディの軽量化を進めるため,ハイテン材料(鉄材料)やアルミニウム材料の活用が進ん
でいるが,より軽量化を図る材料としてCFRPが期待されている。

しかし,これまで航空機などに用いられてきたCFRPは炭素繊維の隙間に熱硬化性樹脂を含浸させたもので,成形後は加熱溶融することが不可能で,リサイクルが困難である。そこで,一般のプラスチックに使われているような加熱溶融する熱可塑性樹脂を炭素繊維にしみ込ませたCFRTP(carbon fiber reinforced thermoplastics)が将来的には多用されると考えられている。飛行機に比べて自動車は生産量が圧倒的に大きいため,量産に適した加工方法が必要である。

CFRTPは加熱すれば柔らかくなって変形加工が可能であり,冷却・固化すれば成形品ができることから,これまで金属材料による量産方法として活用されてきた塑性加工のような方法が適用できると期待される。そこで本書では,CFRTP材料を用いた塑性加工について解説する。これまで金属材料の塑性加工を行ってきた技術者や樹脂の射出成形を行ってきた技術者が,CFRTPの成形加工に取り掛かるための基礎知識や具体的な加工方法について解説する。

金属加工技術者は,金属材料の変形特性を考慮しながら金属の型を用いて塑性加工し,所望の形状を作成する。CFRTPの塑性加工においても,主な量産方法は,金型を用いて形状を転写することである。しかし,CFRTPの変形メカニズムは金属材料のそれとは大きく異なるため,CFRTPの変形メカニズムを理解した上で形状の転写方法を考える必要がある。「材料の変形特性を知って,目的の形状づくりを行う」ことは共通である。

プラスチック射出成形の技術者は熱可塑性樹脂の特性について熟知している。しかし繊維長の長い炭素繊維と熱可塑性樹脂との複合材料においては,射出成形の方法はとれず,塑性加工のような変形加工の方式をとる。塑性加工においても加熱溶融した樹脂の流動を用いる加工であり,熱可塑性樹脂の特性についての知識が不可欠である。この熱可塑性樹脂の特性についての知識を活用し,CFRTPの「塑性加工」へアプローチするための基礎知識を提供したい。

1章~3章で基礎となるCFRTP材料と炭素繊維,熱可塑性樹脂そして塑性加工について解説する。4章~7章は主として連続繊維CFRTPプレートを用いたプレス成形について解説している。これらの章で,CFRTPの塑性加工を行う基本的な要素と考え方について理解できるはずである。8章は不連続繊維CFRTPを用いた塑性加工について説明する。9章はCFRTPの曲げ加工やせん断加工,接合を取り扱う。10章は発展した内容として,組紐プレス成形,テープ成形,3Dプリンティングについて紹介する。最後の11章で強度試験や組織観察など,CFRTPの評価方法について解説する。

本書はつぎのような読者を想定している。
 ・これまで主として金属加工に関わってきた技術者
 ・これまで主としてプラスチックの射出成形に関わってきた技術者 
 ・繊維技術に関わってきた技術者
 ・これまでも炭素繊維複合材料など複合材料技術に関わってきた技術者
 ・これからCFRTP の量産加工に取り組もうとする研究者や技術者
 ・CFRP の成形加工について学ぶ学生

CFRTPの加工技術は,まだ歴史の浅い加工分野であるが,本書で基礎的な知識について習得し,これからの産業に広く活用される技術開発へチャレンジしていただければ幸いである。

2023年2月
米山 猛・立野大地

1.CFRTP塑性加工の基礎知識
1.1 CFRTPとは
1.2 塑性加工とは
1.3 金属の塑性変形とCFRTPの塑性変形
 1.3.1 金属の塑性変形
 1.3.2 CFRTPの塑性変形
1.4 変形抵抗
 1.4.1 金属塑性加工の場合の変形抵抗
 1.4.2 CFRTPの場合の変形抵抗
1.5 塑性加工の温度と圧力
 1.5.1 金属の場合の温度と圧力
 1.5.2 CFRTPの場合の温度と圧力
1.6 材料の強度
 1.6.1 金属材料の強度
 1.6.2 CFRTPの強度
コラム1 CFRPの歴史

2.炭素繊維と熱可塑性樹脂
2.1 炭素繊維
2.2 熱可塑性樹脂
コラム2射出成形技術
引用・参考文献

3.CFRTPの材料
3.1 一方向繊維シート(UDシート)
3.2 織物繊維シート
3.3 積層プレート
3.4 不連続繊維CFRTP
3.5 CFRTPプレートの強度
 3.5.1 一方向繊維CFRTPプレートの強度
 3.5.2 織物繊維CFRTPプレートの強度
 3.5.3 不連続繊維CFRTPの強度
引用・参考文献

4.連続繊維CFRTPのプレス成形
4.1 CFRTPプレス成形の基本プロセスと関連要素
4.2 一方向繊維CFRTPプレートを用いたプレス成形
 4.2.1 プレス成形のプロセス
 4.2.2 一方向繊維の変形
 4.2.3 成形品形状に対応したシート形状
4.3 織物繊維CFRTPプレートを用いたプレス成形
 4.3.1 織物繊維の基本的な変形
 4.3.2 コーナー部における変形
 4.3.3 変形に伴う厚み変化
引用・参考文献

5.CFRTPプレス成形時の諸現象
5.1 プレス成形時の層間すべり
5.2 プレス成形後の「スプリングイン」
5.3 プレス成形時の圧力
5.4 プレス成形時の温度
5.5 成形時の圧力保持時間と成形後の強度
5.6 成形時に発生する欠陥
 5.6.1 炭素繊維と樹脂の密着性
 5.6.2 樹脂枯れと樹脂リッチ
 5.6.3 ボイド(気泡)
 5.6.4 層間剥離
 5.6.5 繊維のしわ
 5.6.6 繊維の破断
コラム3熱硬化性CFRPの成形プロセス
引用・参考文献

6.CFRTPプレス成形の金型設計
6.1 プレス成形の方式
6.2 材料変形特性についての考慮
6.3 金型設計の詳細
 6.3.1 クリアランス
 6.3.2 抜き勾配
 6.3.3 スライド金型
6.4 成形品の取出し
6.5 樹脂と金型表面との接触および付着
6.6 離型剤
6.7 金型の材質,表面硬さ,表面粗さ
6.8 金型の熱膨張・心合せ
6.9 金型の加熱と冷却
コラム4CFRTPの成形解析
引用・参考文献

7.プレス機械と材料加熱技術
7.1 CFRTP成形を行うプレス機械
 7.1.1 油圧プレスとメカニカルプレス
 7.1.2 プレスの剛性
 7.1.3 荷重制御
 7.1.4 位置制御
7.2 CFRTPの加熱技術
 7.2.1 近赤外線ヒータ
 7.2.2 遠赤外線ヒータ
 7.2.3 ヒータプレート
引用・参考文献

8.不連続繊維CFRTPを用いた塑性加工
8.1 不連続繊維CFRTPプレートを用いたプレス成形
8.2 連続繊維と不連続繊維のハイブリッド成形
 8.2.1 リブ付パネルの成形
 8.2.2 ダイクッションを活用したリブ付パネル成形法
8.3 カップ鍛造成形
 8.3.1 金型の設計
 8.3.2 不連続繊維CFRTPビレットの製作
 8.3.3 鍛造成形プロセス
 8.3.4 鍛造過程の材料の流動
 8.3.5 成形後の強度
8.4 歯車成形
引用・参考文献

9.CFRTPの曲げ加工・せん断・接合
9.1 CFRTPの曲げ加工
 9.1.1 連続繊維プレートの局部加熱曲げ装置の試作と試み
 9.1.2 プレスブレーキを用いた連続繊維プレートの曲げ加工
9.2 せん断加工
 9.2.1 金属板材のせん断加工
 9.2.2 CFRTPのせん断加工
 9.2.3 CFRTPのせん断-シェービングパンチによる切断
9.3 CFRTPの接合
 9.3.1 CFRTPの接合方法
 9.3.2 加熱接合における課題
 9.3.3 接合部の強度と接合長さの設計
 9.3.4 接合の例
 9.3.5 接合強度を上げる試み
引用・参考文献

10.CFRTP塑性加工の応用技術
10.1 CFRTPの組紐プレス成形
 10.1.1 組紐とは
 10.1.2 「組紐プレス成形」とは
 10.1.3 組紐プレス成形の詳細
 10.1.4 CFRTPパイプの強度
 10.1.5 CFRTPパイプの応用性
10.2 CFRTPのテープ成形
10.3 CFRTPの3Dプリンティング
コラム5繊維機械
引用・参考文献

11.CFRTPの評価方法
11.1 概要
11.2 曲げ試験
11.3 引張試験
11.4 構造強度試験,圧壊試験
11.5 断面組織の観察方法
引用・参考文献
あとがき
索引

米山 猛(ヨネヤマ タケシ)

設計とものづくりをベースに次のような研究を行ってきた.
(1)塑性加工における工具面圧力・摩擦センサの開発
(2)金属の3D積層造形を用いた射出成形金型の高機能化
(3)医療手術マニピュレータの試作研究
(4)スキーにおけるたわみ・圧力の検出とスキーロボット開発
(5)熱可塑性CFRPを用いた塑性加工
 さらに,設計とものづくりに関わる本を出版してきた。
  「機械設計の基礎知識」:機械設計のプロセスや基礎となる知識を解説している.
  「設計者に必要な加工の基礎知識」(共著)
  「設計者に必要な材料の基礎知識」(共著)
  「人と技術の社会責任」:社会における技術の役割や責任について総合的に考える本

立野 大地(タツノ ダイチ)

学生時代は,スキー板のたわみと圧力計測に関する研究を行っていました.会社員時代は,生産技術開発業務に従事していました.現在は,本書のテーマである熱可塑性CFRPの成形加工法の研究開発に取り組んでいます.板材を用いたプレス成形,切断,接合,ビレット材を用いた鍛造,組紐を活用したチューブ成形など幅広い加工法を取り上げて研究してきました.本書が熱可塑性CFRPを使ったものづくりに取り組もうとされる方の一助となりましたら幸いです.

「ベアリング新聞」2023年3月5日付け 新刊図書欄 (新樹社 発行) 掲載日:2023/04/05

「ベアリング新聞」2023年3月5日号「新刊図書」 掲載日:2023/03/05

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掲載日:2023/02/28

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日本塑性加工学会誌2023年2月号