書店様向け
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書店様向けレビュー
フェーズドアレーアンテナの理論と実際
本書はタイトルの通り、フェーズドアレーアンテナに関する要素技術をまとめた良書だ。
感想としては、まえがきにもある通り、特に開口設計や誤差要因解析を中心に説明がなされている印象を受けた。また、本書ではそれらの基本の説明から実用化の話まで取り上げており、内容が広範かつ多岐にわたっている。このため、大変学ぶことが多く有意義な内容である。その分、確実に理解するためには何度も読み返す必要があると思う。そして、煩雑になる式の導出や、各章の主旨を逸脱する概念などを付録にまとめているため、読者側の負担が少なく、本文の構成もすっきりとまとまっている。
個人的に好印象だった所は、実用化の際のアレイの素子数、指向性分布の調整などについて、筆者の知見やコツを説明されていたことだ。一方で、要点を押さえた端的な構成であるため、本書のみでアンテナの設計や実装ができるとは言い難い。必要に応じて本書の参考文献などをあたる必要があると思う。フェーズドアレーアンテナは高機能ゆえに設計、実装が容易ではないため、実務で携わる人にぜひ本書を勧めたい。
ワイヤレスネットワーク概論
本書は、ワイヤレスネットワーク分野の第一線で活躍される3名の著者によって執筆された教科書です。アンテナ、電波伝搬、変復調、MAC、ネットワーク、アプリケーション技術といった、本来であれば個別に学ぶことの多いテーマが1冊に体系的にまとめられています。ひと言で表すならば、ワイヤレスネットワークに関する幅広い知識を網羅的に学べる教科書といえるでしょう。
まえがきでは、無線通信およびネットワーク技術を初めて学ぶ学生や技術者を対象としていると述べられています。しかし、基礎知識を十分に持たない読者が独力で読み進めるには、やや難易度が高いと感じました。一方で、過去に無線通信を学んだ経験のある方にとっては、基礎事項の復習をしながら最新の技術動向にも触れることができる有用な一冊です。また、各章末に演習問題が用意されているだけでなく、その解答が巻末に掲載されている点も、本書の大きな特長といえます。
特に、第5章で扱われる応用技術は、他の教科書にはあまり見られない本書ならではの魅力です。電波の反射特性を制御することで無線環境そのものの最適化を目指すRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)、無線通信の活用領域を空へと拡張するドローン技術、さらに情報伝送だけでなく電力の無線化を目指す無線電力伝送技術について、それぞれの専門分野の視点から解説されています。
評者自身もこの分野を専門としていますが、本書を通じて新たな気づきや発見を得ることができました。大学教育において何が重視され、何が扱われにくいのかという観点から読み進めるのも興味深く、初学者のみならず、専門家にとっても十分に読み応えのある一冊であると感じます。
よくわかるサービスの科学
本書は,これまで現場の個人の感性や経験則に依存しがちであった「サービス」という曖昧な概念を,学術的・体系的に捉え直す「サービスの科学(サービスサイエンス)」についての解説がなされている.
まず,サービスと言われると,お店や宿泊施設などの接客業,観光業を思い浮かべるだろう.また,それらのサービスを科学的に見るというのは果たしてどのようなものなのだろうか,というのが本書を読む前の私自身の印象であった.
そうした中で,本書のレビュ募集に応募したのは,私自身の専門である情報科学と近しき分野である情報工学やAI,及び学生時代に一般教養として履修した選択科目である心理学,社会心理学の概念が含まれていたからである.こうした経緯で今回初めて,サービスサイエンスの分野を知るに至った.
第1章では,最初にも挙げた「サービス」とはそもそも何かということから始まり,サービスサイエンスの概論として,歴史,定義,そして本書の目的やそれに対するアプローチなど,次章以降の内容案内も含めた記述になっている.個人的には,サービスサイエンスという概念を最初に提唱したのがICT分野では有名なIBMであったことにまずは驚きと新たな発見が得られた章であった.
第2章では,第1章でも述べられているが,サービスを受けるのは消費者である我々人間であるため,人間の心や行動を科学的に解明するために心理学的な視点が必要不可欠であるということについて解説がなされている.具体的にそれらを認知心理学,環境心理学,社会心理学などの観点から例示しながら説明されている.個人的には,態度の3成分やハーロウの代理母実験など既知の事例もあり復習も兼ねていたことと,サービスサイエンスとの関わり合いとして再認識できたことが大変に良かった.
第5章では,サービスサイエンスと情報工学の関わりについて述べられている.まずその中でも,AIとは何か,という部分から始まり,AIの歴史,本書での生成AIと従来型AIの定義,AIを用いたサービス解析の実例などについて解説がなされている.個人的には,動線解析AIや再帰型AIなど実用的で面白い事例が多くページを割いて紹介されており,大変興味深かった.AIにディープラーニングを行わせるための学習データは膨大に用意しないといけないものだと思いがちだが,少量のデータを与えて,それに対してAIが出力した結果を再学習に使うというプログラミングにおける再帰処理(再帰型AI)のような考え方には驚かされた.
最後に本書は,何となく感覚や人それぞれのやり方に頼りがちな「サービス」という世界を,心理学による人間への理解と,AIやAHPといった技術の力を使って「科学」として分かりやすく解き明かしてくれる一冊であったように感じた.
インバータ回路とモータの制御
本書は『基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用』シリーズの第6巻であり、インバータ駆動とモータ制御に特化したエンジニア・研究者向けの専門書です。シリーズの基本回路理論を踏まえた上で、パワエレ回路とモータ特性、制御理論がどのように関係するかを深く掘り下げています。全3部構成となっており、数式の導出や回路モデルの解説にとどまらず、具体的な例題が数多く配置されています。手計算を通じて理解度を確認できるため、理論を単なる知識で終わらせず、自力で使いこなす力を養える構成になっています。
Ⅰ部:インバータ
基本となるハーフ/フルブリッジからマルチレベルインバータまでを網羅しています。変調理論の解説だけでなく、寄生容量や電流極性に依存するデッドタイム補償や、実機で問題となるdv/dtによる巻線絶縁破壊・ベアリング電流・パルス反射過電圧に対するフィルタ設計まで詳細に解説されています。
Ⅱ部:各種モータとその動作原理
モータの動作原理に必要な力学と電磁気の説明から入り、5種類のモータが詳細に解説されています。特に近年研究や実務での採用が進む同期リラクタンスモータについて、クロス飽和やトルクリップルといった非線形現象まで踏み込んで説明されている点はとても勉強になります。
Ⅲ部:モータの精密制御
d-q軸の座標変換とモータの電圧方程式を基盤として、標準的なベクトル制御や直接トルク制御、さらにはモデル予測電流制御などのモデル予測制御までを取り扱っています。一般に難解になりがちなベクトル制御も、豊富なグラフを交えて視覚的かつ簡潔に整理されています。なお、古典制御の初歩的な説明は省かれているため、必要に応じて同シリーズの第3巻等を参照するとよいでしょう。
本書は、インバータ・モータ・制御の3分野を体系的に学びたい方におすすめの一冊です。本レビューが本書をご購入予定の方々のご参考になれば幸いです。
インバータ回路とモータの制御
本書は、インバータ回路から各種モータの動作原理、さらに高度な制御技術までを体系的に学べる点が魅力的である。特に、インバータの回路方式やモータ駆動用フィルタ、永久磁石モータや誘導モータなどの構造と動作原理に加え、ベクトル制御や直接トルク制御といった実用的な制御手法まで幅広く扱っている点が優れている。回路の動作だけでなく、モータのトルクが発生する仕組みや制御方法との関係を理解することで、モータ駆動システム全体を捉える力が身につくと考えられる。また、電磁気学や制御工学などの基礎知識を関連づけながら学ぶことができ、大学での学習内容を深めたい学生や、パワーエレクトロニクス分野の技術者にも有用な一冊である。電気自動車や省エネルギー機器の普及に伴い、モータの高効率化と高精度な制御の重要性が高まる中、基礎から応用までを幅広く学ぶための参考書として活用できると感じた。
環境化学工学 - 環境諸課題と環境技術の体系的な理解 -
地球温暖化や資源枯渇、化学物質汚染など、現代社会が直面する環境問題は複雑化の一途を辿っている。これらの課題に対し、環境負荷低減、LCA、再生可能エネルギーといった概念をもとに論じる機会は多いが、根源的には素材の選定や化学反応など、材料・プロセスに関わる技術課題を避けて通ることはできない。
しかし、システム面からのトップダウン的な視野だけでは、肝要であるこれらの物理化学的・材料工学的な知識が不足しがちになる。一方で、ミクロな化学的要素にのみ集中するボトムアップの視点では、それらが社会や地球全体に対してどのようなインパクトを持つのかが、ともすると見えなくなってしまう。本書『環境化学工学』は、まさにこのミクロとマクロの間に生じるギャップを埋め、現象の本質と全体像を包括的に結びつける一冊である。
本書の最大の特長は、各種環境技術が要請された歴史的プロセスと、それを裏付ける工学的必然性の体系的な融合にある。高度経済成長期の公害問題や水系感染症の克服、最終処分場の逼迫、エネルギー資源の制約といった歴史的背景から、現行の環境法規制や技術体系が成立した論理的文脈を提示。その上で、CO₂の分子振動モードによる赤外線吸収メカニズムや、水銀のメチル化反応機構、排煙脱硫・脱硝における反応工学など、事象の根底にある理論を定量的かつ厳密に解き明かしている。単なる要素技術の暗記にとどまらず、なぜその技術が必要であり、化学的にどう作用するのかという工学的根拠を明確に示している点が優れている。
全7章からなる内容として、地球の物質循環(炭素・窒素・硫黄)に始まり、公害史と環境汚染対策、高度浄水・汚水処理、廃棄物管理・循環型社会(3Rやサーキュラーエコノミー)、エネルギー(S+3E原則、水素・アンモニアキャリア、CCUS等)、放射能・放射線管理、そして持続可能なプロセス設計の指針となるグリーンケミストリー/エンジニアリングまで網羅されている。LCAによる影響評価やPFAS等の最新規制動向も押さえられており、基礎原理から先端的な産業応用までをシームレスに架橋している。
要素技術のミクロな原理理解と、社会実装に向けたマクロなシステム思考を横断する本書のアプローチは、複雑な制約下でデータに基づいた最適解を導き出す思考力を養ってくれる。工学系を学ぶ学生や研究者はもちろん、新素材・新プロセスの開発、エネルギー・環境プラントの設計、あるいはESG・環境マネジメントに携わる多くのエンジニアにとっても、自身の取り組む技術の位置づけとインパクトを再認識させてくれる価値ある必読の書である。
機械工学のための数理モデリングと現象解析入門
本書は応用力学の視点から、機械工学の力学に関わる偏微分方程式に関するトピックスを抽出してまとめられた書籍です。そのため、数理モデリングを考える際の考え方についての説明から始まり、偏微分方程式の基本である1階偏微分方程式や、機械工学と関係性が強い波動方程式や熱伝導・拡散方程式などの代表的な偏微分方程式についての解説がなされています。また、第6章には、偏微分方程式をPythonで解くためのコードの主要部分が示されているため、本書の内容を基に生成AIとバイブコーディングを行うことで読者自身でPythonプログラムを実装できるように工夫されており、数理モデルの基礎からPythonを用いて実装するための基本事項を身に着けることができるように構成されています。
一方で、本書のタイトルに「機械工学のための」とあるものの、理学や一般教養で学ぶ内容が中心に記載されており、機械製品に生じる具体的な物理現象の説明が少ない印象を受けました。もし、機械工学を専攻とする読者を想定する場合は数理モデルを製品設計にどのように応用するかの記述があっても良いと思います。そのため、第6章のPythonコードを公開し読者がパラメータを変更した時の出力の変化から数式の理解を感覚的にできるようにすることや、数理モデリングを製品設計に反映する際の著者の考えについて書籍購入者向けに公開をすることで、読者に対して機械工学に数理モデリングを応用するイメージを行いやすいように配慮するとより良くなると思います。本レビューが本書を選択する読者の一助になると幸いです。
広域プラズマ科学入門 - プラズマ特性・診断の基礎と地上から宇宙までの多面的応用展開 -
プラズマ科学の基礎から診断技術,幅広い応用分野までを体系的に学ぶことができ,有意義でした。博士課程で取り組んだ大気圧プラズマの表面処理・分析の経験を振り返るとともに,現在の企業業務においても,材料の表面改質や機能向上に関する技術シーズの理解に役立つと感じました。今後は,大学や研究機関との共同研究テーマの探索や,新たな産業応用の可能性を検討する際に,本講座で得た知見を生かしていきたいと思います。
MIMOアンテナ
本書はタイトルの通り、MIMO通信とそのアンテナ方面からの実装について記載されている。
主に、MIMOアンテナを実際に製造した際に問題となるアンテナ相互結合などについて詳細に記されているだけでなく、書籍後半では実際の測定系について写真等も掲載しながら紹介されている。
一方でMIMO信号処理や理論的な通信路容量などについては比較的あっさりとした記載となっており、関連書籍である西森氏「マルチユーザMIMOの基礎」を副読本としつつ本書を読むことが望ましいように思う。
本書はMIMOの初学者だけでなく、机上解析から実際の測定へステップアップする際に有用と思われる。
ワイヤレスネットワーク概論
まえがきで述べられているように、無線通信技術は多様な要素技術が組み合わさった複雑なものであり、かつ、実用のニーズに合わせて日々「進化」している。そのような無線通信技術の教科書として、本書はまず全体を要素技術や基礎技術にブレイクダウンし、そして、それを体系的に記述することを意図している。
200ページに満たない分量にかなりの情報量が詰め込まれており、無線通信技術の概要をつかむうえでの一定の網羅性を示しているのではないか。ひとつひとつの用語の説明は必ずしも厚くないが、そのぶんたたみかけるように名詞が列挙される書き方にはなかなか迫力がある。限られた分量のなかで包括性を目指している。
また、基礎理論から説き起こして現実への応用まで一貫したパースペクティブでとらえるという姿勢に体系性への志向が感じられる。ただし、結果的に、抽象度のさまざまな話題が密接に接続されていくので、議論はそれなりに複雑である。そこを解きほぐして、簡潔に記述する工夫はいろいろ見られる。そのひとつが数式の使用である。たとえばMIMO方式をチャネル行列を用いて数式で表現し、システム構成図と照らし合わせることで、multiple-input multiple-outputという複雑な状況を直感的に示す。さらに、演習問題では、モデルに数値を当てはめて確認させている。丁寧だと思う。
4章では、OSI参照モデルにMACを位置づけ、通信効率をパケット通信におけるIPスループットで表し、さらに段階的にUDP/TCPレベルのスループットへと進み、それを算出する数式に言及している。物理層の標準的な情報理論の記述を、上位層の性能指標まで接続している点が特徴的である。
本書では、複雑な無線通信技術をわかりやすく伝える試みがなされている一方、抽象度のレイヤーが多少込み入っている印象も受けた。技術体系の複雑さは保ち、提示が込み入っているところは、数式の使用や視覚的表現、演習問題など、さまざまな工夫で和らげている。学生は、数式を理解の補助としながら全体像をつかめば、コンパクトに体系的な知識が得られるし、数式の内容にまで踏み込んでより深い理解を目指すこともできる。また、応用への志向が明確にあるので、実務家が実際の技術の背後にある基礎理論を学ぶのにも使えるだろう。現実の応用への想像力をかき立てるおもしろい教科書だと思った。
ワイヤレスネットワーク概論
本書では、グラフや表だけでなく、具体的な対象を用いた概念図が示されており、技術の仕組みや利用場面をイメージしやすかった。また、通信方式の違いを人間同士の言語やマナーの違いに例えるなど、初学者にも理解しやすい工夫がされていると感じた。
さらに、ページ下部の注記には、本文の補足に加えて、誤解しやすい概念や計算上の注意点が記載されており、より正確な理解につながった。特に、変調では情報信号によって搬送波のパラメータを変化させるという説明が印象的であり、概念の本質を理解するうえで有益だった。
私は現在、磁界共振結合方式の無線電力伝送について研究しているが、本書ではアレーアンテナを用いたビームフォーミングによる空間伝送型無線電力伝送が紹介されていた。特に、複数端末への給電の可能性が示されており、自身の研究とは異なる方式や応用の可能性を学ぶことができた。自身の専門分野と比較しながら読むことで、新たな視点を得られた点も良かった。
音声器官のメカニズムとシミュレーション - 生体計測とモデル化 -
本書は、人間の発声メカニズムについての専門書であるが、副題にもあるように、特に「測定」と「シミュレーション」にフォーカスした内容となっている。私の研究領域では主に音声知覚に取り組んでいるため、今回はそのメカニズムを詳しく学びたいと思ったことが、本書を手に取ったきっかけである。
全体を通して感じたことは、かなり「実践的」だということだ。測定方法の手順や使用する器具などが詳細に記されており、初学者でも順を追って理解しやすい。また、高精度な測定には高価な装置が必要になることも多いが、本書では複雑で高精度な手法だけではなく、より簡易的な手法についても取り上げられており、それぞれがこの研究分野においてどの程度の位置づけにあるのかが体系的に記述されている。全体の半分はモデリングやシミュレーションについての説明であるが、測定とシミュレーションそれぞれの強みや弱みにも言及されているため、どのような手順で実験を組み立てていくのがよいかを考える上でも、大変参考になった。
また、特筆すべき点として、図表の多さが挙げられる。ほとんどの見開きページに文章を補足する図表が掲載されている。特に、普段実際に目にすることのない発声器官の内部形状や、そもそも目に見えない音声の特徴を可視化し、その理解を助ける上で、これらの図表は大きな役割を果たしている。私自身、普段の研究でも、自分が計測・可視化したもののグラフが、本当に自分の求めているものを表しているのかを疑問に思うことがよくある。そうした際に、本書に惜しみなく掲載されている図を参考にできることは、研究を進める上で大きなアドバンテージだと言えるだろう。
構成としては、第1章が概説、2・4章がそれぞれ計測に関する記述で、3・5章がそれぞれに対応するシミュレーションとなっている。そのため、それぞれの章が独立性を保ちつつ、2・3章、4・5章が互いに補い合う構成になっている。特にシミュレーションの章でも計測に関する言及や比較があるため、実際の生体構造に基づいたシミュレーションについても理解を深めることができる。この点は初学者だけでなく、シミュレーションには慣れているものの計測の経験に乏しい研究者にとっても、知識を再確認する助けになるのではないだろうか。第5章の最後では、昨今とても注目されている機械学習についても触れられており、幅広い範囲のメソドロジーをぎゅっと凝縮した一冊になっている。
人間の音声という、身近でありながら観察することの難しいトピックではあるが、本書を通して体系的に理解することで、明日から自分の声にもっと興味を持てるようになるのではないだろうか。
音声器官のメカニズムとシミュレーション - 生体計測とモデル化 -
本書は音声器官、音の生成に関する幅広い事柄をカバーした手引書である。
解剖学的な初歩から始まり、実験/測定の方法、シミュレーションまで、深層学習など近年の成果を交えて解説がなされている。
特に印象に残った点として以下の2点がある
1点目は第一章に記載されている、人が発声をする機構の解説である。
恥ずかしながら、私は本書を読むまで発声時の喉や筋肉、舌の動きを知らなかったが、
図解付きで解説されており、大まかな原理を知ることができた。
限られた紙面で丁寧に解説されており、私のような初学者でもこの後に必要な知識を得ることができた。
2点目は第二章、五章に記載されているシミュレーションである。
ここでは舌の材料力学的なモデルや音声の音響モデル、子音の流体力学モデル、
深層学習による発声時の声門のモデルなどが解説されている。
私は材料力学や流体力学についてあまり詳しくはないが、実際のモデルへの応用例を知ることができ、
それらの分野を学ぶモチベーションが高まったのを感じた。
まとめると、本書は広範囲の音声に関する内容をまとめた研究への入門書といえる
すべての前提知識を持つのは大変だと思うので、本書を読み進めながら周辺分野を学ぶといった使い方が良いのではと個人的に思う。
そういう意味で長期間お世話になる本だと思う。
機械工学のための数理モデリングと現象解析入門
本書は理工系の大学生に向けた、機械工学の研究に用いる応用数学の基礎に関する教科書です。数学を工学の道具として利用することに慣れていない学生にも理解できるよう、基礎的な事項が丁寧に解説されています。
1章では数理モデルという概念について述べられており、用語の説明や具体例が充実しているため、初学者でもつまずくことなく学習を進められます。2章では、数理モデルの共通の表現である物理量について学びます。これらを踏まえた3章では、現象をモデル化するための偏微分方程式の物理的意味と解法を扱っており、基礎的な用語や演算子に関する丁寧な記述からは、数学が苦手な学生に対する配慮が感じられます。さらに4・5章では発展的な内容として波動方程式、熱伝導・拡散方程式、現象の安定性を取り上げ、最後の6章ではプログラミングコードを例示しながら、コンピュータシミュレーションを用いた解析方法を分かりやすく説明しています。
本書を読むことで、これまで座学の数学と実際の専門科目との間に感じていた壁が解消され、機械工学における「数学の役割」を再認識できます。これから機械工学を学ぶ理工系の学生にとって、大きな助けとなる一冊であると確信しています。
広域プラズマ科学入門 - プラズマ特性・診断の基礎と地上から宇宙までの多面的応用展開 -
物理学者によるプラズマ物理の入門書であり、プラズマの生成と制御を支える原理を簡潔に概説した一冊である。プラズマとは一般に荷電粒子から成る多成分系を指すが、今日これは人工的に生成され、工学的に制御されている。本書はその基礎から応用までを一望できるよう構成されている。
プラズマを制御する―プラズマを操作し欲しい性質や挙動を実現させる―には、その状態を観測により推定する必要がある。これがプラズマ診断であるが、その方法としては本書に詳解されているように様々なものが提案されている。巧みなアイデアばかりで眺めるだけでも興味深いが、当然、どの方法を見てもプラズマ物理の理解が不可欠である。
本書ではボルツマン方程式を基礎に磁気流体方程式を導出し、プラズマ生成・制御に不可欠な性質を体系的に調べている。ボトムアップ的な理解を望む読者にとっては親切な構成である。ただ、未定義の記号を使用したり仮定が明言されていなかったりする箇所もあり、本分野の初学者は行間を埋めるのにやや忍耐を要するだろう。
読者層としてはプラズマを専門とする物理・工学の学生や研究者が想定されるが、個人的には物理の様々な分野の研究者に読んでほしい。プラズマ物理はこれまで、特に宇宙物理との相互作用が盛んであり続けてきた。恒星や高エネルギー天体現象の物理、コンパクト星におけるイオン結晶や圧力電離など枚挙に暇がない。いま、宇宙物理の研究者なら本書をどう読むか。境界領域において、新たな視点を提供しうる一冊であると思う。
機械工学のための数理モデリングと現象解析入門
物理現象のモデリングは、シミュレーションや制御系の設計など、多くの場面で必要となる手法である。近年、デジタルツインやサイバーフィジカルなどの分野が注目されているように、学術分野の研究者のみならず、産業界の大多数の人が触れたことがあるであろう。このモデリングには、物理現象や対象システムの挙動を数式で表現するための数学的知識が必須である。本書は、それに必要な応用数学の基礎を、実例を交えて学ぶことのできる参考書である。
第1章は、「数理モデリングとは何か」という章題で始まる。哲学的な内容もあるが、リザバーコンピューティングやAIなど最近の話題にも触れられており、「数理モデルとは何か」という知識を俯瞰的に習得できる。第3章では、以降の内容の準備的な内容として、偏微分方程式の基礎的な数学知識が述べられる。丁寧な数式展開の説明、豊富な例題と解説があり、基礎的な内容から復習したい社会人技術者にもおすすめである。こうした準備を経て、第4章以降にて発展方程式や力学の安定性など、モデリングの内容に展開されていく。制御工学の分野でよく目にする自律系や、波動方程式、熱伝導方程式のみならず、例題4.1で触れられるSIRモデルなど、多くの物理現象を例にして、どのようにモデルを構成していくかが丁寧に論述されている。また、安定性についても、説明に沿った章構成や丁寧な解説がなされており、スムーズに読み進めることができた。
本書は、モデリングに興味があり、数学的知識を習得したい学生や社会人技術者に薦めたいと思う。前半の数学的準備を踏まえて、いくつもの例を交えながらモデリングや現象解析が説明される構成となっているため、知識を習得しつつ、この数学的知識がどのようにモデリングへ結び付くのかと理解を深めながら読み進めることができるであろう。
よくわかるサービスの科学
大学で心理学を学んだ私にとっては、心理学用語の懐かしさを感じながら拝見致しました。心理学を知らない心理学初心者の方にとっては、第2章人間科学とは?心理学とは?そして、認知心理学の例といったように例が挙げられておりますので、まずは、第2章を読んだ上で、1章・3~8章を読むと内容が頭に入ってくると思います。これからの時代、人間科学とAIの組み合わせの時代がそこまで来ているのだと、学びになる1冊に出会うことが出来ました。ぜひ、サービス業に関わる皆さんに、読んでいただきたい1冊でございます!
ディペンダビリティ保証入門 - 安全分析・MBSE・アシュアランスケースによる統合アプローチ -
本書では、安全で信頼性の高いシステムを構築するために用いられる安全性解析手法、モデリング手法について解説されています。最もシンプルなFTA(Fault Tree Analysis)から始まり、システム内外での相互作用を含めたより複雑なシステムの解析手法へと順を追って丁寧に解説されています。自動車の例が多いですが、ハードウェア/ソフトウェア、システム規模によらない普遍的手法の解説に重点が置かれているのが特徴です(そのため、全体通して抽象度はやや高いです)。
評者の職域であるソフトウェア開発・運用においても、直接的なエラー波及関係の分析(例:関数Aの出力に誤りがあり、それを受け取った関数Bにおいて不具合が発生)にとどまらず、原因個所を含むより広い範囲を敷衍して「どのような状態であるべきか」「状態の不整合を起こしうる入力とは何か」といった分析を行うことが重要であると言われています。経験的にもそのような分析が後々良い結果(=バグが少なく、見通しも良く、開発しやすいシステム)をもたらすと感じていましたが、本書によってその理論的な裏付けが得られたように思いました。
本書によって安全なシステムを設計するための一般的思考法を身に着ければ、(自動車や航空機のみならず)日常のより小規模なシステム設計や、自分自身の仕事のクォリティ改善にも大きく役立つと思います。
よくわかるサービスの科学
2000年代にIBMアルマデン研究所が提唱したSSME(Services Science, Management & Engineering)を契機に、サービスを科学的に捉えようとするサービスサイエンスが注目を集めてきた。本書は、サービスを「人間に対して、人間もしくは人間がつくり上げたシステムによって行われるもの」と定義し、AIとAHP(階層分析法)をいずれも人間の価値観や意思決定力を補強する「賢いツール」と位置づけて、この領域に取り組んだ一冊である。
前半では、サービスサイエンスの定義と歴史に続いて、その基盤となる心理学と経済学の観点が整理される。中盤では、まずAHPを住宅設計の設例と健診施設の完成後評価で、次にAIを店舗の動線解析例で明快に解説する。後半の中心は、サービスサイエンス・AI・AHPを三角形で結ぶ「トライアングルインタフェース」である。著者は、AIの解をAHPで価値観認定する、AHPの解をAIでシミュレーションする、AIにAHPを包含させる、という三つのルートを示し、それらを価値が循環する事業の工程に組み込む。最終章では、AI同士が連携・循環する「スマートサイエンス社会」の到来を展望している。
本書の美点は、AHPの手順を、一対比較から幾何平均による重要度の算出、整合度(CI)の確認まで、表計算ソフトで追える形で丁寧に示した点にある。設例の数値は再計算でき、読者は手を動かしながら理解できる。さらに、AIとAHPを対比し、AHPは計算過程が見えるため重みづけの根拠を把握できると指摘する点は、AIの判断の説明可能性が問われる現在、示唆に富む。事例も住宅、医療施設、小売店舗、観光、地方の製造業と幅広い。とりわけ動線解析では、二つの店舗で計900人近い来店客の動線を実測したデータが用いられており、理論の紹介にとどまらない手触りがある。心理学や経済学の知見を数理的手法と並べて論じ、人間理解の重要性を説く姿勢も、工学的手法の解説書としては特色といえる。各章末のまとめや運用のためのチェックリストは、社内勉強会の教材としても使いやすい。そして何より、抽象的になりがちなサービスサイエンスに、AIとAHPという具体的な分析手法を結びつけようとする問題提起に意義がある。
一方、その結びつきを裏づける実例には物足りなさが残る。健診施設の評価は各課の責任者10名の回答に基づいており、受診者自身の評価を含まない。動線解析も、実測データに基づきながら機能の紹介が中心で、予測精度や導入効果の検証は本書の中では示されていない。また、本書の要であるAIとAHPの統合は三つのルートとして図示されるものの、事例による検証はなく、著者自身も今後の課題としている。動線解析で指摘される経営者視点と消費者視点の評価関数の相反は、まさにAHPで重みづけできる場面であり、今後の展開に期待したい。
総じて、本書はAHPの実践的な入門書として、また、AIとAHPの統合という今後の課題を示した構想の書として読むことができる。サービスの改善に分析手法を取り入れたい企業や行政の実務家に勧めたい。
コンピュータグラフィックス技術の基礎と応用
コンピュータグラフィックスの概要が詳細に載っており、それらに用いられる技術が多数掲載されていた。特に、技術の概要や用途を文章中心で丁寧に説明されていた。用いられる数式の量は他の情報系の本と比較して少なめであり、線形代数や微分積分の知識さえあればある程度理解して読み進めることができる印象を受けた。本書後半にはVRをはじめとした発展的な内容も書かれていた。そのため、コンピュータグラフィックスの初学者からある程度勉強していて発展的な内容を掴みたい人まで幅広く読みやすい本であると感じた。
お問い合わせ先
書籍に関するお問い合わせやご相談は、以下まで、お気軽にお問い合わせください。
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