レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

代数学と符号暗号理論 - Pythonによる実装 -

代数学と符号暗号理論 - Pythonによる実装 -

代数学の基礎となる初等整数論から始め,暗号理論,符号理論で共通に使われる知識を準備する。また,紹介した理論が応用に耐えうるものかを実感しにくい場面もあるので,Pythonによる演習を入れた。

発行年月日
2025/10/31
定価
3,300(本体3,000円+税)
ISBN
978-4-339-06135-2
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 にせシャム猫ミミ 様 (業界・専門分野:教育業界)】

掲載日:2025/11/05

本書『代数学と符号暗号理論』は工学的な観点による類書も多い中で,代数幾何学を専門とし,日本数学会理事長も務めた純粋数学者による著作という点で非常に興味をそそられた.暗号理論・符号理論という情報科学の実践的内容について,過度に抽象的になることなく,数学が持つ洗練された記述力によってその本質を簡潔に表現することに成功している稀有な一冊である.

本書は,1. 初等整数論,2. 暗号理論,3. 符号理論の3つの章から構成されている.1冊の中で必要な予備知識を含め,暗号理論と符号理論の双方を同時に学べるという点でも大変魅力的である.

第1章「初等整数論」では,ユークリッドの互除法や剰余系,素体,フェルマーの小定理といった基礎事項が,後の章との関連を意識しつつ,厳密でありながらも平易に解説されている.特に,符号理論への応用を見据えて,素数や有限体(ガロア体),それらを係数とする多項式の性質,剰余演算などについても丁寧に扱われている.また,RSA暗号で実際に利用される形式である「素数の積に関するフェルマーの定理」についてもきちんと証明が示されている点や,高速べき計算といった計算上の工夫にも触れられている点も,初学者にとってありがたい配慮である.

続く第2章「暗号理論」では,RSA暗号やディフィー・ヘルマン鍵共有,さらには楕円曲線暗号まで,現代の暗号技術の基本を一望することができる.内容は,重厚で網羅的な理論展開というよりも,基本事項が簡潔に記述されている構成となっているため非常に読みやすい.また,Pythonコードを通して実際に暗号処理を試せるよう工夫されており,理論を実際に「動かしながら」理解を深めることが可能となっている.

第3章「符号理論」では,誤り訂正符号やリード・ソロモン符号など,情報伝達を支える数理構造が取り上げられる.ベクトル空間や線形写像の基本から始まり,巡回符号やBCH符号のアルゴリズムに至るまでが,代数学的枠組みのもとで体系的に記述されており,有限体という純粋に数学的な対象が現実世界へ応用されている様子を垣間見ることができる.

私個人は数学寄りの背景を持つため,本書のこうした記述に親近感を覚える一方,このような抽象性を含む記述は読者によって評価が分かれる部分かもしれない.しかしながら,抽象的な数学が現実の通信技術にどのように生きているのかを知るうえで,明瞭な記述と併せて例題(解答が巻末に付属している)やPythonコードを通じて「手を動かして」学べる設計になっている本書は格好の入門書であり,ぜひ多くの方に手に取ってほしいと思う.

読者モニターレビュー【 pppp4869 様 (業界・専門分野:セキュリティ研究)】

掲載日:2025/10/30

本書は、初等整数論の基礎から出発し、暗号理論や符号理論へと自然に橋渡しして解説しています。
理論の紹介にとどまらず、Pythonを用いた実装で確かめられる点も大きな特徴です。対象は「代数学を学んだことのない学生」と明示されており、用語の定義や背景が一つひとつ丁寧に説明されています。

読み進めるうちに、私自身、暗号理論の学習で多用していた初等整数論の用語を十分に理解していなかったことを痛感しました。また、Pythonのコードを通じて、学んだ理論や数式をどのようにプログラムへ落とし込むかを具体的に理解できます。
掲載コードにはコメントがない箇所もありますが、行ごとに追いながら数式と照らし合わせ、自分でコメントを付けることで理解をさらに深められるでしょう。

総じて、本書は暗号理論や符号理論に挑戦したい学生はもちろん、基礎となる初等整数論でつまずいた学習者にも自信をもって薦められる一冊です。

読者モニターレビュー【 Manny-Lab 様 (業界・専門分野:機械学習や深層学習を用 いた統計モデリング)】

掲載日:2025/10/27

評者の、本書籍の読後の第一印象は「こう来たか!!」という驚きで、いっぱいでした。
本書の特徴は、まず何においても「数学者が、数学的にしっかりと暗号理論・符号理論を解説した」ことにあります。他の多くの類書では、、情報系の著者が”読者の分かりやすさ”を優先し、実例優先で記述する場合が多いと感じています。その中にあって、本書は、数学者によるしっかりとした記述で、評者としては非常に安心して取り組めました。
記載内容は、少々抽象的な数学的概念を過度に採用しなかったことで、非常にイメージがしやすい内容になっていました。その一方で、少々残念なのは、Pythonコードが、コード掲載に留まった印象を受けたことです。Pythonのコードを、スクラッチで作成し、過度に他のライブラリを使用していない点は、非常に参考になります。
しかしながら、もう少しコード内でのコメントや解説の記載など、一般的なプログラミング系書籍のレベルの記載は欲しいと思いました。もし読者がプログラミングに興味があれば、他のライブラリ(galois, bchlib, reedsolo など)との比較などをすると理解が深まると思います。

本書の内容は、数学などの理論的側面に興味が強い読者には、非常に参考になる書籍と言うことができる、おすすめの書籍です。

読者モニターレビュー【 N/M 様 (業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

掲載日:2025/10/27

本書は,符号理論や暗号理論,そしてこれらを学ぶ上で必要となる基礎的な代数学についての記述がなされている.

本書の大きな特徴としては,代数学,符号理論,暗号理論の各種アルゴリズムを,実際にプログラムとして動作させることのできるPythonでの記述がなされている点である.

私自身,学生時代に情報理論を学んだ際,符号理論の一部として,誤り検出・訂正符号の線形符号や巡回符号について学んだ.その際に,線形符号には他にも,CDやDVDに使われているリード・ソロモン符号,BCH符号も挙げられていたこともあり,本書を大変興味深く拝読させていただいた(これが今回のモニタに応募させていただいた一番の動機でもある).

私自身の理解力不足もあり,数式が意味する所の深い理解はできていないように個人的には痛感したが,少なくとも学生時代に,とある講義で言及された「暗号理論には(難解な)数学が多用されている」という意味合いが本書を通じて感じ取ることができた.

最後に,本書で学んだことが確認できるような演習問題が,もう少しあっても良かったのではないかと個人的には思った次第である.

読者モニターレビュー【 たか 様 (業界・専門分野:制御工学 産業応用 セキュリティ)】

掲載日:2025/10/27

本書は、暗号理論、符号理論、そしてそれらの基礎となる整数論から構成されている。「まえがき」にて、"代数学を学んだことのない学生を対象とした講義録とゼミで用いた資料が基になっている"とあるように、全体を通じて初学者に分かりやすく、お薦めしたい印象を受けた。

その理由として、例題や解説内にて数値例を用いて丁寧に説明が展開されている点とpythonでのサンプルコードが豊富な点が挙げられる。前者については、例えば暗号の章では、RSA暗号や楕円曲線暗号における復号演算のmod演算などにて省略されがちな途中式が丁寧に記述されている。後者についても、pythonでのサンプルコードが多数記載されていることから、実際に手を動かして学びたい人をはじめ、技術者や実験系の学生など各種演算を実装したい人の助けになると思われる。

暗号理論や符号理論は、近年重要視されており、機械学習や制御分野など幅広いジャンルと絡めた研究が盛んに行われている。これらの分野を初めて学ぶ学生から、産業応用へ向け学ぶ技術者まで、幅広い方へ一読頂きたい書籍である。