愉しむ線形代数入門

愉しむ線形代数入門

天下り的な定義や定理の記述と証明という説明を避け,それを考える必要性・動機を説明。

ジャンル
発行予定日
2025/07/下旬
判型
B5
予定ページ数
300ページ
ISBN
978-4-339-06134-5
愉しむ線形代数入門
近刊

予定価格

5,610

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

天下り的な定義や定理の記述と証明というスタイルを極力避け,それを考える必要性・動機を説明し,その問題を解いていくための考え方・方法を説明しようと心がけた。最後に線形代数がどのように適用されているか制御的観点から紹介。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

線形代数は,応用分野が広く多くの工学系科目を学ぶ上で必須のものといっても過言ではない。この意味では,基礎からゆっくり時間を掛けて勉強しても十分に元が取れるといってもよい。また,線形代数は,解析学などと異なり極限操作に関する内容が少なく,基礎的概念から諸定理の導出などを丁寧に記述した書物があれば数学科の学生でなくとも十分自習できる。

本書は,大学1年生,高専高学年レベルの知識があれば読み始めることができ,かつ,一度線形代数を学んだ人にももう一度線形代数を愉しんで勉強してもらうことを目指している。「一を聞いて十を知る」という言葉があるが,これは,本質的にAという概念を知れば,類似しているA1,A2,…,Anにも応用が利くということである。具体的な例題だけの理解で済まそうとすると,A1,A2,…,Anを個別に理解していくが,それらの相互関係,共通部分を意識していないので,An+1には対処できない。これはあまり効率が良いとはいえない。問題P1,P2,…,Pnを理解したとして,新しい問題Pn+1を考えるときに,の問題はいままで考えた問題と関連はないのか,問題Piと関連があるとするとPiを解いたときのアプローチが使えないかなどいろいろ考えながら勉強すると,全体として勉強の効率が良くなる。また,考える力の涵養にも役立つ。このような勉強の仕方は特に新しいものではなく,論語でも『学而不思則罔。思而不学則殆。(学ぶだけで考えなければ本当の理解には到達しない。考えるだけで学ばなければ独断に陥る危険がある。)』といっている。慣れないとおっくう億劫に感ずるかもしれないが,日頃から心がけていると自然にできるようになる。

本書では,愉しんで勉強してもらいながらそのような勉強法の手助けとなることを目指して,天下り的な定義や定理の記述と証明というスタイルを極力避けて,紹介するトピックはそれを考える必要性・動機を説明し,その問題を解いていくための考え方・方法を説明しようと心がけている。例えば,ほとんどの線形代数の本においては,行列式の定義が天下り的に与えられ,その妥当性を次数が2,3の場合の例で示すにとどまっているのに対して,本書では初等的な知識だけを用いて行列式を導出している。さらに,ジョルダン標準形についても,他書籍などで紹介されている単因子など高度な知識を用いずに,本書で説明している知識だけを用いて,ジョルダン標準形を導出している。なお,他のトピックついても本書で説明している知識を引用して導入部分や結果を導くことが多いので,それらをすばやく検索して仮定や結論をしっかり確認できるように,定義・定理・補題・補助定理・例題などについても索引をつけている。

本書の1章から12章は線形代数の部分で,13章,14章は定係数線形微分方程式や定係数線形差分方程式で表される動的システムの安定性と基礎的制御問題への線形代数の知識の応用である。

線形代数で出てくる種々の概念は,図形的・幾何学的に考えると非常にわかりやすいものが多い。しかし,学生諸君にとって,この幾何学的観点は馴染みが薄く,一番基本的な概念であるベクトル空間や部分空間という話になるととたんに腰が引けてしまうということになりがちである。そこで,線形代数の前半部分ではおもに「計算」を主として代数的観点から,行列の和と積,ガウスの消去法を用いた線形方程式の求解,行列式,固有値と固有ベクトルなどについて述べ,後半部分では幾何学的観点も交えながら,ベクトル空間,線形写像とその行列表現,擬似逆行列,二次形式と対称行列,ノルム,ジョルダン標準形などのトピックを取り上げている。慣れてくると,幾何学的観点からの理論展開の方が代数的観点からのそれよりは直感的にわかりやすい。

13章,14章は,動的システムを対象としており,それ以前の線形代数の部分と少し雰囲気が違うが,通常,学部の現代制御の授業でカバーされる安定解析,可制御性,可観測性,極指定,オブザーバなどの問題が与えられたときに線形代数の部分で学習してきたことをどのように適用して問題を解いていくかということに焦点を当てて説明している。したがって,本書を現代制御の教科書として利用していただける場合は,制御的観点からなぜこのような問題を考えるかということの紹介を補足をしていただけると効果的である。

2025年3月21日
太田有三
和田孝之

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1.記号,表記法
1.1 記号一覧
1.2 命題,同値

2.行列,ベクトルに対する演算
2.1 行列とベクトル
2.2 スカラ倍,和,積,線形性
2.3  ブロック行列
2.4 行列,ベクトルの転置
演習問題

3.消去法,行標準形,逆行列
3.1 連立一次方程式の消去法
3.2 消去法の行列表現
 3.2.1 準備:行変換
 3.2.2 消去法の行列表現
3.3 ガウスの消去法
 3.3.1 ガウス・ランクG-rank(A)=nとなる場合
 3.3.2 ガウス・ランクG-rank(A) < n となる場合
3.4 一次独立性,一次従属性,行標準形
3.5 逆行列
演習問題

4.行列式
4.1 行列式の導出
4.2 行列式を用いた公式
 4.2.1 行列の積の行列式
 4.2.2 転置行列AT,共役転置行列AHの行列式
 4.2.3 クラーメルの公式
4.3 ブロック行列の行列式と逆行列
演習問題

5.固有値と固有ベクトル,対角化
5.1 固有値と固有ベクトル
5.2 相似変換による対角化
5.3 ケーリー・ハミルトンの定理
演習問題

6.ベクトル空間
6.1 群,環,体*
6.2 ベクトル空間,部分空間,基底,次元
6.3 零化空間,値域,行列のランク,次元定理
演習問題

7.行標準形 再論
7.1 一般化ガウスの消去法,行標準形
7.2 零化空間の基底の求め方(一般解の求め方)
7.3 ランクに関する重要な性質
演習問題

8.線形写像とその行列表現
8.1 基底とベクトル表現
8.2 線形写像と行列表現
8.3 不変部分空間と行列表現
演習問題

9.擬似逆行列
9.1 内積,直交,正規直交基底
9.2 誤差最小かつ大きさ最小の解
 9.2.1 rank(A)=n≦mである場合
 9.2.2 rank(A)=m≦nである場合
 9.2.3 rank(A)=r≦min{m,n}である場合
9.3 最大ランク分解と擬似逆行列
演習問題

10.対称行列,エルミート行列
10.1 対称行列・エルミート行列の固有値と対角化
10.2 二次形式,エルミート形式
10.3 マトリックス平方根
10.4 特異値分解,極分解
演習問題

11.ノルム
11.1 ベクトルのノルム
11.2 行列のノルム
11.3 不確かさがある場合の解析
演習問題

12.ジョルダン標準形
12.1 動機的例題
12.2 一般化固有ベクトル
12.3 ジョルダン標準形
演習問題

13.線形時不変システムの解と安定性
13.1 解の公式
 13.1.1 離散時間システムの解の公式
 13.1.2 連続時間システムの解の公式
13.2 安定性
 13.2.1 離散時間システムの安定性
 13.2.2 連続時間システムの安定性
13.3 ラプラス変換と伝達関数
 13.3.1 ラプラス変換
 13.3.2 ラプラス変換を用いた解の計算
 13.3.3 伝達関数
演習問題

14.現代制御理論への応用
14.1 可制御性
 14.1.1 離散時間システムの可制御性
 14.1.2 連続時間システムの可制御性
14.2  可観測性
 14.2.1 離散時間システムの可観測性
 14.2.2 連続時間システムの可観測性
14.3 極指定
 14.3.1 可制御標準形と極配置:1入力系(m=1)の場合
 14.3.2 可制御標準形と極配置:多入力系(m≧2)の場合
14.4 オブザーバ
 14.4.1 同一次元オブザーバ
 14.4.2 最小次元オブザーバ
 14.4.3 オブザーバの一般化
14.5 状態空間表現の変換とカルマンの正準形
演習問題

引用・参考文献
索引

太田 有三(オオタ ユウゾウ)

和田 孝之(ワダ タカユキ)