レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
-
天下り的な定義や定理の記述と証明というスタイルを極力避け,それを考える必要性・動機を説明し,その問題を解いていくための考え方・方法を説明しようと心がけた。最後に制御系の問題に線形代数がどのように適用されているかを紹介
- 発行年月日
- 2025/08/28
- 定価
- 5,610円(本体5,100円+税)
- ISBN
- 978-4-339-06134-5
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
-
読者モニターレビュー【 yk 様 (業界・専門分野:臨床医療, 神経科学)】
掲載日:2025/08/26
工学研究者が実用的な側面を重視して著した線形代数の教科書である。線形代数を自信をもって使いこなせるユーザになりたい方にお薦めできる。基礎概念がその導入の必要性とともに解説されており、基本的な定理はほとんど全て網羅されている。例題や演習問題も豊富で、特にジョルダン標準形の導出は丁寧であり、記号の洪水に耐えることさえできれば、試行錯誤しながら遊び感覚で線形代数を身につけることが出来るだろう。さらに、標準的な内容を超えて、類書ではあまり見かけない定理が述べられているのも目新しいし、また行列ノルム=作用素ノルムの導入は初学者の目にはやや抽象的に映るかも知れないが、実用上重要であるのみならず理論的にも関数解析への序章として役立つ。加えて、証明が詳述されているため定理を安心して参照することが出来、辞書的に用いることもできる。
本書の最大の特徴は、ページ数にして約1/3を占める安定性解析および制御理論のコンパクトな定式化である。線形代数の豊かな世界を垣間見せてくれている。惜しむらくは系の具体例が挙げられていないことであるが、そこは読者が各自で興味ある系に適用して遊んでみるのが良いだろう。なお、一部の定理の証明では位相空間論の知識が用いられており、細部まで理解するには実はある程度の数学的素養が要求されることを注意しておこう。
因みに私の専門分野である神経科学でも理論的考察およびデータ解析で線形代数は必須の道具であるが、残念ながら正確に使いこなせている研究者は多くないようである。理工系の学生はもちろんのこと、生物系、医学系の研究者も、線形代数の確かなユーザでありたい方であれば誰でも、教科書として、辞書として、本書をぜひ手に取ってみて欲しい。
-
読者モニターレビュー【 なつ 様 (業界・専門分野:制御工学)】
掲載日:2025/08/26
本書は、工学系の学問の中でも最も重要な科目の一つである線形代数を丁寧に解説すると同時に、その応用として制御工学を扱った数少ない一冊である。数学と工学を橋渡しする構成となっており、基礎から応用までを通して体系的に学べる点に大きな魅力を感じた。
内容は第1章から第12章までが線形代数、第13章と第14章が制御工学に割かれている。線形代数から制御工学へ自然に接続できるように構成されており、「線形代数の基礎 → ノルム → ジョルダン標準形 → 制御工学」という流れも非常に明快である。まえがきにあるように、本書は「一を聞いて十を知る」ことができるように工夫されており、定義・定理・証明が詳細に記載されているため、初学者でも無理なく読み進められる。
線形代数の章では、特に連立方程式や行列式に多くのページが割かれている。連立方程式の解法については、係数行列が正方行列となる場合とそうでない場合に分けて解説され、加えてアルゴリズムの疑似言語まで掲載されているため、実際にプログラムを組んで解くことも可能である。また、行列式については定義を導出過程から解説しており、理解を一層深める工夫がなされている。さらに、多くの学生が苦手とするベクトル空間についても、具体例を豊富に挙げながら「なぜあるベクトルが特定の空間に属するのか」を解説しており、抽象的な概念を具体的に理解できるよう配慮されている。こうした点からも、本書は大学の授業で教科書として採用されるにふさわしいと感じた。
制御工学の章では、主に現代制御を取り上げており、離散系と連続系の両方の視点から学習できる。基本的には状態空間表現で説明が進むが、途中で伝達関数表現も登場し、現代制御と古典制御の結びつきを理解できる。また、終盤では可制御性・可観測性やオブザーバといった制御工学で重要なテーマを一通り学べる。ただし、「そもそも制御工学とは何か」という導入的な説明や数値シミュレーションは扱われていないため、制御工学を初めて学ぶ人には少々難しく感じられるかもしれない。その場合は、他書で基礎を学んだ上で本書に取り組むことで、数学的な視点から制御工学を整理できるだろう。
全体として、本書は線形代数に関しては初学者にとって非常に分かりやすく、制御工学については中級者以上を対象とした内容になっている。数学的な基礎を固めつつ、その延長線上で制御工学に触れられるため、学習のモチベーションを高めやすい点も魅力的である。学部学生の独学にも役立つだけでなく、大学院進学を目指す人にとっても基礎固めの一冊として十分に活用できるだろう。
総じて、線形代数と制御工学を一貫して学べる数少ない良書であり、本レビューが購入を検討されている方の参考になれば幸いである。