実務に役立つ 腐食防食の基礎と実践 - 土壌埋設パイプラインISOポイント解説 -
土壌埋設パイプラインの腐食防食に関する希少な解説書。ISO国際規格との関連性にも触れた。
- 発行年月日
- 2020/09/18
- 判型
- A5
- ページ数
- 176ページ
- ISBN
- 978-4-339-04667-0
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
水道管,石油・ガス等のインフラのかなりは,我々が目にすることのない土壌に埋設されており,インフラの土壌腐食はあまり知られていない。本書は,土壌中のインフラの腐食防食に光をあてたものである。化学,電気化学,電気工学,土壌学,微生物学といった広範な分野に跨る知識を必要とする土壌中のインフラの腐食防食について,長い実務経験を持つ著者がその基礎から実践までを解説。インフラの腐食防食に関する最新のISO国際規格の解説も意識的に取り入れた実務者必携の一冊。
【各章について】
1章 腐食の仕組みと分類
腐食の正しい理解につながる基礎的な内容について取り扱う。
2章 直流電食とその防止
電食(迷走電流腐食)は,電食を発生させる電気的干渉(electrical interference)が直流の場合,直流干渉による直流電食(直流迷走電流腐食),交流の場合,交流干渉による交流電食(交流迷走電流腐食)とそれぞれ称する。本章では直流電食とその防止について述べる。
3章 交流電食とその防止
交流電食は,交流迷走電流腐食とも称されるが,ここでは2章と比較するため,交流電食という用語を用い,交流電食を把握するとともにその防止について述べる。
4章 自然腐食
自然腐食は,電食とは異なり,電解質中の電子伝導体として連続な金属が,金属内で形成される腐食電池によって起こる腐食を指す。ここでは,自然腐食をマクロセル腐食,選択腐食,微生物腐食およびミクロセル腐食の四つに分類し,それぞれの内容について述べる。
5章 微生物腐食
土壌は微生物の宝庫であることから,土壌に埋設されたパイプラインの腐食防食は微生物活動と密接な関係にある。本章では,微生物腐食について記述する。
6章 カソード防食
1章で述べたように,土壌埋設パイプラインの腐食にはさまざまなタイプがあるが,すべての腐食リスクは,適切なカソード防食(cathodic protection)によって許容レベルまで低減することが可能である。ここでは,カソード防食の原理,カソード防食適用の変遷,カソード防食基準(cathodic protection criteria)およびカソード防食システム(cathodic protection system)について述べる。
推薦のことば
畏友梶山文夫博士が本書を上梓されたことは私にとって大きな喜びである。私はこのような著書を長く待ち望んでいた。本書を渇望していた読者は多く,社会に貢献するところ大である。
本書の特色は同氏が「まえがき」で言い当てておられる。
インフラ構造体の腐食問題は実務的にはとても大切な分野であるにもかかわらず,正しい知識が流布されていない。また,研究者も少ない。それは異質な 学問領域が絡み合っているからである。埋設構造体の腐食現象には,他の分野 のそれに比べて「土壌」というきわめて複雑な媒体が関与してくる。この媒体 には,物理・化学的な要素の他に,微生物が大きく関与してくる。一つ一つの分野の研究者は多くいるが,総合した研究者は見当たらない。よほどの碩学でないかぎり総合は無理だからである。その意味で,本書の著者は希有な学者といえる。しかし,梶山氏はここにとどまることを潔しとせず,現場に臨むことを率先して行われた。すなわち,この分野に長い実務経験をもっている。したがって,著述の内容は机上論ではなく,具体的である。これだけの重層的な努力の上につくられた本書は後進のバイブルとなるであろう。また,梶山氏につづく著書はこれからも出現しないであろう。
具体的なインフラ構造体の腐食については,断片的あるいはマニュアルとして書かれた著述は多い。しかし,それらが有効なのはきわめて限られた範囲のみである。しかし,腐食現象は多種多様である。とてもマニュアルだけでは対応しきれない。そのときに多くの技術者は本腰をいれて本書を学ぶことになるであろう。
「氷山の一角」のたとえがある。目に見える氷山の下には水に没した莫大な氷がある。本書は莫大な基盤の上に打ち立てられた著述である。本書の内容を味わい,そしてそれを利用するときに尽きせぬ滋味がわき出てくるであろう。本書の著者にお目にかかりお教えを頂くたびに,いつも心に去来する言葉がある。「 高悟帰俗 」である。芭蕉の弟子達が俳諧の本質について,師の教えを収 集整理して世に出した本に「三冊子」がある。その中に,俳諧の提要は「高くこころをさとりて俗に帰るべし・高悟帰俗」であると,記されている。
本質を追究してやまない梶山文夫博士の人格は俳諧にも通じるものであろう。
2020年7月
朝倉 祝治
横浜国立大学名誉教授
株式会社ベンチャー・アカデミア代表取締役
まえがき
昨今,インフラの腐食対策は喫緊の課題となっている。1964年の東京オリンピック開催時に大量に建設されたインフラが半世紀以上経過し,腐食を主原因として劣化してきている。建設時,建設のみに目が向き,その後のインフラの維持管理,補修,更新の概念は希薄であったといえる。
現在,インフラの腐食対策の重要性は叫ばれているものの,高等教育で腐食を教えることはないといっても過言ではない。そもそも腐食を教える講師は,果たして何人いるであろうか。インフラの腐食,なかでも土壌に埋設されたパイプラインの腐食を理解するために適切な教科書がないのが現状である。その理由は,パイプラインの腐食防食は,化学,電気化学,電気工学,さらに土壌が微生物の宝庫ということもあって土壌学,微生物学の広範な分野に跨がるからである。
2015年以降,インフラの腐食防食に関するISO(国際標準化機構)による国際規格化が急ピッチで進んでいる。コーティング材料の高抵抗率化,パイプラインと高圧交流送電線または交流電気鉄道輸送路との並行距離の増大によるパイプラインの交流腐食の発生,が起きていることもその一因である。
著者は,パイプラインの腐食防食に関する広範な分野の基礎力を身に付ける 機会に恵まれ,基礎力をベースにパイプラインの腐食管理および防食関連の実務を,40年以上行ってきた。また,ISO国際規格策定活動を20年以上担務している。本書は,著者の経験に基づいて執筆されたものであり,以下の特徴を有する。
(1) 土壌に埋設されたパイプラインの腐食防食の基礎から実務までを視野 に入れて執筆した。基礎知識の理解は,技術力の習得につながり,間違いのない実務の実行が可能となる。
(2) 本書の発行時点における最新の腐食防食に関わるISO 国際規格を盛り 込んだ。
(3) 目次で初級(印なし),中級★,上級★★と,レベル別に表示した。
本書の発行によって,必ずや関係各位にすぐ役立つ教科書となるものと確信する。本書により,われわれの貴重なインフラを,長期にわたって安全に使い つづけることにつながれば,著者の望外の喜びである。
たくさんの方々のご協力によって本書の発行となりました。ここに改めまして関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
2020年7月 梶山文夫
東京ガスパイプライン株式会社 参与
電食防止研究委員会委員長
東京電蝕防止対策委員会委員長
ISO/TC 156/WG 10日本主査
1.腐食の仕組みと分類
1.1 腐食防止の重要性
1.2 腐食とはなにか
1.3 腐食反応の構成
1.4 腐食はどのように検知できるか
1.4.1 金属の腐食電位と管対地電位
1.4.2 管内電流
1.4.3 地表面の2本の照合電極間の電位差
1.5 腐食はどのように防止できるか
1.6 腐食の分類
1.6.1 腐食原因の解明につながる腐食の分類
1.6.2 埋設パイプラインの腐食の分類
引用・参考文献
2.直流電食とその防止
2.1 電気的干渉
2.2 直流干渉源の分類
2.3 直流電食の最初の発生
2.4 アメリカ標準局による直流電食調査
2.5 直流電気鉄道システムの電圧降下
2.6 直流電食の評価計測
2.7 変動する電流の直流干渉源によるパイプラインの直流電食
2.8 一定電流の直流干渉源によるパイプラインの直流電食
2.9 直流干渉の許容レベル
2.9.1 カソード防食されていないパイプライン
2.9.2 カソード防食されているパイプライン
2.10 直流電食防止の変遷
2.10.1 直流電気鉄道システムの電圧降下の規定
2.10.2 アメリカにおける電食とその防止
2.10.3 アメリカ以外の諸外国における電食とその防止
2.10.4 わが国における電食とその防止
2.11 直流回生ブレーキ車両によるパイプラインの直流電食および過分極リスクの発生とその防止
2.11.1 直流電食および過分極リスクの発生
2.11.2 直流電食および過分極リスクの防止
2.12 車両基地近傍に埋設されたパイプラインの直流電食リスクの発生とその防止
2.13 電食防止委員会の設立
2.13.1 アメリカにおける電食防止委員会の設立
2.13.2 わが国における電食防止委員会の設立
引用・参考文献
3.交流電食とその防止★★
3.1 20世紀初頭の交流電食の理解
3.2 交流腐食防止とカソード防食との関係の認識の変遷
3.3 交流電食の発生
3.4 交流腐食理論
3.5 交流干渉の一般論
3.6 交流電食の評価計測
3.7 許容可能な交流干渉レベル
3.8 交流腐食に及ぼす各因子の影響
3.8.1 交流電圧の影響
3.8.2 交流電流密度の影響
3.8.3 カソード電流密度の影響
3.8.4 コーティング欠陥部の面積の影響
3.8.5 周波数の影響
3.8.6 土質の影響
3.8.7 土壌抵抗率の影響
3.8.8 温度の影響
3.8.9 時間の影響
3.9 交流電食防止方法
3.10 交流電食リスク計測評価例
引用・参考文献
4.自然腐食
4.1 マクロセル腐食
4.1.1 異種環境マクロセル腐食
4.1.2 異種金属接触マクロセル腐食
4.2 選択腐食
4.2.1 黒鉛化腐食
4.2.2 脱亜鉛腐食
4.3 ミクロセル腐食
引用・参考文献
5.微生物腐食とその防止★
5.1 微生物腐食研究史俯瞰
5.2 微生物の特質
5.3 微生物腐食の特異性
5.4 土壌中の鋳鉄の腐食
5.5 土壌腐食に深く関与する微生物
5.5.1 硫酸塩還元菌(SRB)
5.5.2 メタン生成菌(MPB)
5.5.3 鉄酸化細菌(IOB)
5.5.4 硫黄酸化細菌(SOB)
5.5.5 鉄細菌(IB)
5.6 EhとpHの関係および微生物の活性域
5.6.1 Ehの決定因子
5.6.2 EhとpHの関係における微生物の活性域
5.7 微生物腐食速度
5.8 微生物腐食メカニズム
5.8.1 硫酸塩還元菌(SRB)による腐食メカニズム
5.8.2 鉄酸化細菌(IOB)による腐食メカニズム
5.8.3 硫黄酸化細菌(SOB)による腐食メカニズム
5.8.4 鉄細菌(IB)による腐食メカニズム
引用・参考文献
6.カソード防食
6.1 カソード防食達成の原理
6.2 カソード防食適用の変遷
6.2.1 カソード防食の適用開始期
6.2.2 最適防食電位−0.850 VCSEの提唱・普及拡大期
6.2.3 カソード防食の適用拡大期
6.2.4 プラスチック被覆パイプラインへのクーポン導入拡大期
6.3 カソード防食基準
6.3.1 Kuhnによって経験的に提案された防食電位−0.850 VCSE
6.3.2 SchwerdtfegerとMcDormanによるKuhn提案の防食電位の科学的妥当性と腐食抑制効果の実験的証明
6.3.3 カソード防食の効果判定におけるIRドロップ除去の重要性
6.3.4 防食電位と限界臨界電位を指標としたISO 15589-1:2015カソード防食基準
6.3.5 最小100 mVカソード分極を指標としたISO 15589-1:2015カソード防食基準
6.3.6 ISO 18086:2019が策定した交流腐食防止基準★★
6.4 所要カソード電流密度
6.4.1 腐食・防食時の電流の向きと管対電解質電位の解釈
6.4.2 所要カソード電流密度
6.5 カソード防食システム
6.5.1 流電陽極システム
6.5.2 外部電源システム
6.5.3 ハイブリッドシステム
6.5.4 流電陽極システムと外部電源システムとの比較
6.6 カソード防食効果計測例
6.6.1 鉄細菌(IB)生息下でのカソード防食効果
6.6.2 硫酸塩還元菌(SRB)生息下でのカソード防食効果
6.6.3 鉄細菌(IB)生息下でのカソード防食達成のメカニズム
6.6.4 硫酸塩還元菌(SRB)生息下でのカソード防食達成のメカニズム
引用・参考文献
用語とその定義
索引
出典元:安全工学会誌 NO,59 Vol5 2020年 348P
【以下,出典元より転載】
【図書紹介】実務に役立つ 腐食防食の基礎と実践― 土壌埋設パイプラインISO ポイント解説―
本書は,埋設金属体の腐食現象と対応する防食技術に特化した技術書であり,大変珍しい.埋設金属体とは,様々な土壌環境に埋設されたパイプラインや大型インフラ構造物などを指し,その保全管理に携わる技術者の数は,国・地方公共団体から民間企業まで膨大である.これだけ多くの社会的需要があるにも関わらず,このような視点に立脚した技術書がなかった.理由としては,この分野が極めて学際的であることと,その内容をすべて網羅して執筆できる識者がこれまでいなかったことにつきると思われる.筆者の梶山氏は,最前線の現場を熟知するとともに,この複雑な分野を「実務に役立つ」という切り口から一気通貫に語ることができる高い見識を具有された,まごうことなき第一人者といえる.
身近な生活で目にする腐食現象の根源は電気化学反応にあるが,これを引き起こす環境側の要因は多岐にわたる.従って,局所的な腐食部分の電気化学反応の理解のみに目が奪われると「木を見て森を見ず」となり,実環境で起こっている様々な大型鋼構造物の腐食問題を理解し,その有効な解決策を創出することが困難となる.
本書では,埋設金属体の腐食現象の理解に必要な電気化学的,電気工学的,生物工学的内容が複眼的に網羅され,1 冊に必要なものすべてが詰まっている.さらに,それらが分かりやすく整理されており,埋設金属体の腐食を系統的に理解する大きな助けとなる.さらに,カソード防食に関する箇所では,理論と実際の橋渡しとして国際規格の意図やポイントが丁寧に述べられており,本書の大きな特徴であるともいえる.規格上では本質的な説明が省略され,基準や仕様が無味乾燥に与えられている場合が得てして多く,若手実務技術者が規格を咀嚼できないという話を他分野でも耳にすることがある.現代の技術発展のスピードは凄まじく,適用環境や資機材も時代とともに大きく変化する中で,本質的な理解を後回しにして盲目的に技術開発や施工を行っていくと,将来的に大きな問題が生じる可能性もある.従って,この橋渡しの意義は非常に大きい.この分野に関わるあるいは志す多くの技術者に,この橋渡しがなされ,より安全で環境と調和した持続性の高い社会システムが創り上げられていく未来を強く願っている.こういう見方があっているかどうかは分からないが,各章末に設けられたコラムと問答集は,若手技術者の疑問・質問に対して,筆者がその成長と技術伝承を願って語りかけているエールのようにも感じる.
本書は,社会人技術者(特にインフラの保全管理にかかわる方々)にとって,最前線での実務に大いに役立つ座右の書となるであろう.さらに,学生にとっても近代社会における深刻な腐食問題について理解を深めるきっかけとなる良書となるであろう.
(岡崎慎司)
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