実践 機械システムの振動 - 実機振動問題の簡易解析 -
機械振動関係に関わる方必見! 実際にあった機械振動のトラブルとその解決策をまとめた。
- 発行年月日
- 2021/07/21
- 判型
- A5
- ページ数
- 240ページ
- ISBN
- 978-4-339-04670-0
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
【著者からのメッセージ】
著者らがコンサルタント業務の中で実際に遭遇したトラブルとその解決策や,講習会で話題になったテーマを整理しまとめたものです。制御工学を含むより広い視野から振動全般を念頭に執筆しました。機械振動関係の仕事に関わる人にとって,振動問題への遭遇とその解決業務は,ほぼ全員が辿る道と思われ,本書がその役に立つことを望むばかりです。
【各章の説明】
第1章 ロータ振動系の縮小モデル化と精度
実機のモデル化としてモード解析が有名であるが,軸受やシールのように回転数で変化する境界条件には不向きである。代わるものとして,境界条件の変化に強いGuyan法やモード合成法を推奨し,得られたモデルの精度を比較し,両者の優劣を論じた。
第2章 油膜軸受ロータ系の安定限界の簡易近似予測
油軸受の動特性に関し,クロスばねKcはダイレクト減衰Cdに回転数Ωを乗じた剛性のλ倍,すなわちKc=λΩCdと考える。この状況では,クロスばねの振動不安定化要因λΩは回転上昇とともにその勢いを増し,自励振動が発生する。これは「Bently- Muszynskaのλモデル」と呼ばれる。この考えを踏襲,発展させた安定性診断法を提案する。
第3章 翼軸連成系の総合的振動解析
タービン翼振動と回転軸のねじり振動は翼軸連成振動問題として有名で,ISO 22266で規定されている。しかし,この考えは不十分で,軸の縦振動もこの連成に加えることで精度が向上することを本章で例証する。また,羽根車振動と回転軸の横振動の連成振動問題にも言及する。本章では,現行での最高レベルの連成解析の根幹を紹介する。
第4章 振動制御技術者向けメカトロニクスの基礎
最も腐心した章で,本書の特長をなす。ニュートンの運動方程式から始まる従来の考え方に代わって,ここではラプラス変換後のs領域のブロック線図で系を表す。n回微分をsnに頭を切り替えて,システムを伝達関数で表すため機械系の視点は制御系の知見に移る。同時に,従来の固有値解析は開特性(一巡伝達関数)の分析・チューニングに変わる。そして,実機で遭遇するであろう機械系特有の弾性振動問題の解決法が制御系アプローチから解釈される。これを「知能機械の力学」と呼ぶ。
第5章 動吸振器の最適設計
動吸振器は強制振動の共振振幅低減のために有効で,その最適設計理論は広く知られている。しかし,自励振動防止にも有効であることを最近の研究で再確認,最適設計法を導出したので本章で紹介する。
第6章 トラッキング解法
ロータ系では,油軸受動特性が回転数に依存するため,厳密には,複素固有値計算については回転数ごとに実施しなければならない。しかし,その回転数変更のたびに計算する現状の方法では無駄が多いので,回転数・境界定数の変更ごとに特性方程式を満足するように「少しずつ固有値を修正していく」という観点から,固有値解を追跡する手法を開発した。回転数を時間と見て,固有値解を連続的に時刻歴応答のように求める方法である。
第7章 実機振動問題(v_BASE)の事例研究
v_BASE に収められている事例から,モータの音響騒音やTPJB,蒸気タービン制御弁,アクティブ防振制御,モータ駆動系ねじり振動など5事例を選び,演習問題として解説した。
前著『回転機械の振動─実用的振動解析の基本─』,『続 回転機械の振動─実機の振動問題と振動診断─』では,実務にすぐ役立つ理論・技術の応用知識に重点を置いてきた。その後,著者らはコンサルタント業務の中で実際に遭遇したトラブルとその解決策や,講習会で話題になったり,反応のよかったテーマを整理した。その結果が,今回の第3巻『実践機械システムの振動─実機振動問題の簡易解析─』および第4巻『演習機械システムの振動─振動診断力アップの精選問題─』の上梓である。特に,この第3,4巻の書名には「回転機械」の冠を外し,制御工学を含むより広い視野から「機械システム」の振動全般を念頭に執筆した。
既刊の「回転機械の振動」2冊をテキストに講習会などを行い,さまざまな機会をとらえ速習講義を行ってきた。大学における機械力学の課目で振動工学を学んできたような技術者の方でも,「ロータ」関連の振動となると,特異な分野風に映るようで,新鮮に聴講していただいた。感想はいつも「難しかった」であった。しかし,現実の振動問題は待ったなしである。聴講者の多くは機械の設計開発に従事し,しかも何人かはすでに機械振動問題を経験し,悩み,まさに現下にその対策に邁進しているなど,聴講者の勉強熱心さや迫力も印象に残っている。まさに,「現場が最強の教師」とはよく聞くが,言い得て妙である。著者らも,企業での機械の振動トラブルシューティング参加がきっかけで真剣に機械振動と制御を学び,それを生業としてきた。現場を説得するためには,簡潔な振動モデルと現象を的確に説明する平易な力学が必要である。そのために本書はまず,機械システムの振動モデル化技術から論を始める。
国内の学協会活動の中で,機械振動のトラブルシューティングということに関しては,日本機械学会のv_BASE活動が質・量ともに群を抜いている。これは産業界で発生した実機振動問題の事例を集めるデータベース化の活動で,それは約30年にわたり,全データは1000件を超えている。各種各様の実機振動問題が取り上げられ,解決への苦心の足跡を物語る事例ばかりである。そこで本書の最終章では,この事例のいくつかを演習問題風に解説し,解決に向けての基本的知識の応用力強化に努めている。機械振動関係の仕事に関わる人にとって,振動問題への遭遇とその解決業務は,ほぼ全員が辿る道と思われ,本書がその役に立つことを望むばかりである。
本書の内容を,以下少しばかり丁寧に説明する。
第1章 ロータ振動系の縮小モデル化と精度
実機のモデル化としてモード解析が有名であるが,軸受やシールのように回転数で変化する境界条件には不向きである。代わるものとして,境界条件の変化に強いGuyan(グヤン)法やモード合成法を推奨し,得られたモデルの精度を比較し,両者の優劣を論じる。今日では,各種の振動・制御の解析コードは揃っており,全分野に共通の課題として,いかに精度および使い勝手のよいモデルを作るかが仕事の効率を左右しているといっても過言ではない。
第2章 油膜軸受ロータ系の安定限界の簡易近似予測
油軸受の動特性に関し,クロスばねKcはダイレクト減衰Cdに回転数Ωを乗じた剛性のλ倍,すなわちKc=λΩCdと考え,例えばλ=0.47などが用いられる。この状況では,「クロスばね」の振動不安定化要因λΩが回転上昇とともにその勢いを増し,自励振動が発生すると考える。これは,「Bently-Muszynskaのλモデル」と呼ばれる。この考えを踏襲,発展させた安定性診断法を提案する。
第3章 翼軸連成系の総合的振動解析
タービン翼振動(節直径数κ=0)と回転軸のねじり振動は翼軸連成振動問題として有名で,ISO22266で規定されている。しかし,この考えは不十分で,軸の縦振動もこの連成に加えることで精度が向上することを本章で例証する。また,羽根車振動(節直径数κ=1)と回転軸の横振動の連成振動問題にも言及する。本章は翼軸連成振動問題の総まとめ編で,現行での最高レベルの連成解析の根幹を紹介する。
第4章 振動制御技術者向けメカトロニクスの基礎
最も腐心した章で,本書の特長をなす。ニュートンの運動方程式から始まる従来の考え方に代わって,ここではラプラス変換後のs領域のブロック線図で系を表す。n回微分をsnに頭を切り替えて,システムを伝達関数で表すため機械系の視点は制御系の知見に移る。と同時に,従来の固有値解析は開特性(一巡伝達関数)の分析・チューニングに変わる。そして,実機で遭遇するであろう機械系特有の弾性振動問題の解決法が制御系アプローチから解釈される。この一連の解釈をメカトロニクス・ダイナミクス「知能機械の力学」と呼び,その核心技術を提案する。
第5章 動吸振器の最適設計
動吸振器は強制振動の共振振幅低減のために有効で,その最適設計理論は広く知られている。しかし,自励振動防止にも有効であることを最近の研究で再確認,最適設計法を導出したので本章で紹介する。読後には,振動問題に対し「動吸振器は万能薬だ」と認識するかもしれない。
第6章 トラッキング解法
ロータ系では,油軸受動特性(境界条件の定数)が回転数に依存するため,厳密には,複素固有値計算については回転数ごとに実施しなければならない。しかし,その回転数変更のたびに固有値計算コードを呼び出し,新規に計算する現状の方法では無駄が多いので,回転数・境界定数の変更ごとに特性方程式を満足するように「少しずつ固有値を修正していく」という観点から,固有値解を追跡(tracking)する手法を開発した。回転数を時間と見て,固有値解を連続的に時刻歴応答のように求める方法で,著者らが便利に活用している。
第7章 実機振動問題(v_BASE)の事例研究
v_BASEに収められている事例から,モータの音響騒音やTPJB(ティルティングパッドジャーナル軸受),蒸気タービン制御弁,アクティブ防振制御,モータ駆動系ねじり振動など5事例を選び,演習問題として解説した。実機のトラブルシューティングを担当するつもりで挑戦していただきたい。
付録
ここでは長文の解説3編を加えた。一つは付録3で,回転座標系の翼・羽根車の運動方程式の導出とモード合成法による低次元モデル化である。汎用の3D-FEMコードの計算結果を正しく再認識するための礎となることを期待する。残りの二つは付録4と5で,メカトロニクスにおける振動工学と制御工学を結ぶ共通基礎をあえて設けた。付録4は剛体モード,付録5は弾性モードである。特に後者は他書にはないアプローチで,両モードを俯瞰するような開特性(ゲイン交差周波数と位相余裕)解釈を展開しており,著者らの経験に基づく実践向け知見で,多少とも自負しているところである。
書き終えてみると,筆力の不足から,講義やセミナーのように振動現象の解明と対策のおもしろさを表現できてはいないのではないか,また著者らの浅学非才や独断に基づく誤った説明がなされているのではないかという不安もある。万全の体制で執筆に努めたが,専門の範囲も広く,また奥も深く,山の高さを痛感している。読者の皆様の批判や叱正を得ることができれば著者らの望外の喜びとするところである。
最後に,本書に引用した書物,文献の内外の著者に対して深甚の謝意を表します。また,日本機械学会主催の振動セミナでご活躍いただいている藤原浩幸教授(防衛大学校)らには,終始多大なご支援ご鞭撻を仰いだ。皆様のご厚情に深く感謝の意を申し上げます。また,新川文登様(新川電機株式会社社長)には著作作業に関し終始格段のご鞭撻を賜り感謝申し上げます。
最後に,本書の出版企画にご支援いただいたコロナ社に厚く御礼申し上げたい。
2021年5月
著者代表 松下 修己
1.ロータ振動系の縮小モデル化と精度
1.1 Guyan(グヤン)縮小法の作り方と精度
1.2 モード合成法による縮小法の作り方と精度
1.3 Guyan法とモード合成法の精度比較
1.4 連続体の離散モデル化
1.5 モード分離
2.油膜軸受ロータ系の安定限界の簡易近似予測
2.1 剛体ロータ(1自由度系)と簡易安定判別
2.2 弾性ロータ(2自由度系)と不減衰固有振動数
2.3 弾性ロータ(2自由度系)と簡易安定判別
2.3.1 ζd << 1の場合
2.3.2 ζd >> 1の場合
2.4 3円板を有する弾性ロータ系の計算例
2.5 軸受動特性異方性の影響
2.5.11 自由度系
2.5.2 2自由度系
2.5.3 計算精度の検証
2.6 Muszynska(ムジンスカ)ロータ系の数値計算例
2.7 ケーシングホワールの数値計算例
3.翼軸連成系の総合的振動解析
3.1 モード合成法モデルの連成質量
3.2 3次元有限要素法(3D-FEM)を活用したモード合成モデル化手法
3.3 翼のモード合成法モデル
4.振動制御技術者向けメカトロニクスの基礎
4.1 ブロック線図
4.2 制御対象の伝達関数Gp(s)
4.3 制御器の伝達関数Gr(s)
4.4 開特性Go(s) および閉特性Gc(s)
4.5 安定性評価
4.6 振動応答解析
5.動吸振器の最適設計
5.1 強制振動に対する共振振幅低減の最適設計
5.1.1 P,Q点の応答の高さを揃える
5.1.2 P,Q点で極大になる減衰(最適減衰の付加)
5.1.3 注意点:動吸振器の最大振幅
5.2 自励振動に対する安定化シミュレーション
5.2.1 負性抵抗のモデル
5.2.2 動吸振器の最適設計
5.3 自励振動に対する安定化の最適設計指針
5.3.1 運動方程式と実モーダル解析
5.3.2 動吸振器単体での固有周波数ω2の最適な選択
5.3.3 動吸振器のフィルタ特性
5.3.4 動吸振器のフィルタ特性と開特性の関係
5.3.5 開特性とベクトル軌跡
5.3.6 動吸振器減衰定数の最適な選択
5.3.7 動吸振器パラメータのロバストな選択
6.トラッキング解法
6.1 固有値解析の問題点と解決へのアイディア
6.2 アルゴリズムの基本
6.3 計算例
6.4 トレースの定理
6.5 2Dトラッキング解法
6.6 3Dトラッキング解法
7.実機振動問題(v_BASE)の事例研究
7.1 モータの音響騒音
7.1.1 問題モータ電磁振動と動静翼干渉問題の類似性
7.1.2 問題周期構造物系の多点モード加振
7.2 ティルティングパッドジャーナル軸受(TPJB)
7.2.1 問題TPJ軸受試験機におけるオイルホイップ
7.2.2 問題TPJ軸受形ロータのオイルホイップ
7.3 油圧機器などの流力弾性振動
7.3.1 問題蒸気タービンのバルブ制御機構(理想流体)
7.3.2 問題蒸気タービンのバルブ制御機構(体積弾性率を考慮)
7.3.3 問題ポンプバランスピストンの制御機能
7.4 アクティブ防振
7.4.1 問題強制振動の低減策:受動および能動制御(1)
7.4.2 問題強制振動の低減策:受動および能動制御(2)
7.5 パワーエレクトロニクスの弾性振動制御
7.5.1 問題電機子制御形DCモータの速度制御
7.5.2 問題電機子制御形DCモータとねじり弾性振動制御
付録
付録1 式(2.13)および式(2.16)の導出
付録2 式(2.33)の導出
付録3 翼のモード合成法モデル化手法
付録3.1 変数と定義
付録3.2 全翼系の運動方程式
付録3.3 翼のモード合成法モデル
付録4 ゲイン交差周波数と固有振動数
付録4.1 時定数τで表す1次遅れ系
付録4.2 固有振動数ωnと減衰比ζ で表す2次遅れ系
付録4.3 ゲイン交差周波数および位相余裕とオーバシュート評価の関係
付録5 位相余裕と弾性モードの減衰比
付録5.1 システムの記述と問題点
付録5.2 モード別開特性と弾性モード減衰比
付録5.3 Q 値計測
付録5.4 感度関数ピークから見たモード減衰比
付録6 臨界点から見た開特性の距離 D=1+Go
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【ボルテージ 様(ご専門:制御理論,ロボット工学)】
本書は,機械振動の応用について詳しい説明がなされている.
また,機械振動のデータベースであるv_BASEが紹介されていて,事例も豊富である.ただ,内容は玄人向けであるため,初学者は著者の前著である「回転機械の振動-実用的振動解析の基本-」と「続 回転機械の振動-実機の振動問題と振動診断-」を読んだ上で,本書を手にとることをおすすめする.
制御理論の専門家からすると,制御理論を振動系へ適用していて,実応用例を多く紹介している観点から有用である.さらに,機械振動分野ならではの解決法が多々あることから,それらを新しい制御理論の開発へ応用できるのではないだろうか?一方で,制御工学の初心者にとっては,内容を理解することが難しいと思われるので,制御工学の入門書を読んだ上で,本書を読むとより一層理解できるだろう.
「ベアリング新聞」2021年8月5日 掲載日:2021/08/24
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