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実務に役立つ 腐食防食の基礎と実践 - 土壌埋設パイプラインISOポイント解説 -

実務に役立つ 腐食防食の基礎と実践 - 土壌埋設パイプラインISOポイント解説 -

化学,電気化学,電気工学,土壌学,微生物学の広範な分野に跨る土壌に埋設されたパイプラインの腐食防食について,実務に役立つようその基礎と実践を解説。土壌埋設パイプラインに関するISO国際規格の解説も意識的に取り入れた。

発行年月日
2020/09/18
定価
2,970(本体2,700円+税)
ISBN
978-4-339-04667-0
在庫あり

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安全工学会誌 NO,59 Vol5

安全工学会誌 NO,59 Vol5

掲載日:2021/06/30

出典元:安全工学会誌 NO,59 Vol5 2020年 348P
【以下,出典元より転載】

【図書紹介】実務に役立つ 腐食防食の基礎と実践― 土壌埋設パイプラインISO ポイント解説―

本書は,埋設金属体の腐食現象と対応する防食技術に特化した技術書であり,大変珍しい.埋設金属体とは,様々な土壌環境に埋設されたパイプラインや大型インフラ構造物などを指し,その保全管理に携わる技術者の数は,国・地方公共団体から民間企業まで膨大である.これだけ多くの社会的需要があるにも関わらず,このような視点に立脚した技術書がなかった.理由としては,この分野が極めて学際的であることと,その内容をすべて網羅して執筆できる識者がこれまでいなかったことにつきると思われる.筆者の梶山氏は,最前線の現場を熟知するとともに,この複雑な分野を「実務に役立つ」という切り口から一気通貫に語ることができる高い見識を具有された,まごうことなき第一人者といえる.
身近な生活で目にする腐食現象の根源は電気化学反応にあるが,これを引き起こす環境側の要因は多岐にわたる.従って,局所的な腐食部分の電気化学反応の理解のみに目が奪われると「木を見て森を見ず」となり,実環境で起こっている様々な大型鋼構造物の腐食問題を理解し,その有効な解決策を創出することが困難となる.
本書では,埋設金属体の腐食現象の理解に必要な電気化学的,電気工学的,生物工学的内容が複眼的に網羅され,1 冊に必要なものすべてが詰まっている.さらに,それらが分かりやすく整理されており,埋設金属体の腐食を系統的に理解する大きな助けとなる.さらに,カソード防食に関する箇所では,理論と実際の橋渡しとして国際規格の意図やポイントが丁寧に述べられており,本書の大きな特徴であるともいえる.規格上では本質的な説明が省略され,基準や仕様が無味乾燥に与えられている場合が得てして多く,若手実務技術者が規格を咀嚼できないという話を他分野でも耳にすることがある.現代の技術発展のスピードは凄まじく,適用環境や資機材も時代とともに大きく変化する中で,本質的な理解を後回しにして盲目的に技術開発や施工を行っていくと,将来的に大きな問題が生じる可能性もある.従って,この橋渡しの意義は非常に大きい.この分野に関わるあるいは志す多くの技術者に,この橋渡しがなされ,より安全で環境と調和した持続性の高い社会システムが創り上げられていく未来を強く願っている.こういう見方があっているかどうかは分からないが,各章末に設けられたコラムと問答集は,若手技術者の疑問・質問に対して,筆者がその成長と技術伝承を願って語りかけているエールのようにも感じる.
本書は,社会人技術者(特にインフラの保全管理にかかわる方々)にとって,最前線での実務に大いに役立つ座右の書となるであろう.さらに,学生にとっても近代社会における深刻な腐食問題について理解を深めるきっかけとなる良書となるであろう. 
(岡崎慎司)