電気接触現象とその表面・界面 - 接触機構デバイスの基礎と応用 -

電気接触現象とその表面・界面 - 接触機構デバイスの基礎と応用 -

  • 玉井 輝雄 兵庫教育大名誉教授・元三重大大学院教授 工博

表面科学と接触抵抗を柱に据え,微弱電気条件から低電気条件までの範囲の接触部問題を中心に取り上げた。

ジャンル
発行年月日
2019/05/23
判型
A5 上製
ページ数
270ページ
ISBN
978-4-339-00920-0
電気接触現象とその表面・界面 - 接触機構デバイスの基礎と応用 -
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電気接触現象は接触部材料、接触抵抗、放電現象、発熱、汚染気体や塵埃等の環境問題と非常に間口が広く、奥が深い。本書では,表面科学と接触抵抗を柱に据え,微弱電気条件から低電気条件までの範囲の接触部問題を中心に取り上げた。

電気接触とはいわゆる電気接点であって,電気回路を接続したり切り離したりするものである。大きく静止接触部,開閉接触部,摺動接触部の三つに分けられ,すべての電気機器になくてはならない機能を持っている。5mm立方ぐらいの小さなリレー(継電器)から大きな遮断器や,プリント基板に張り付けるテープのような微小なコネクタから大きな電線を遮断機や断路器につなぐコネクタ,マイクロモータのブラシとスリップリングから鉄道の架線とパンタグラフのすり板に至る摺動接触部など,いろいろな形状,大きさやさまざまな形の電気接触部がある。これらは信頼性を高く保つ必要があり,不良が生じては機器本体の特性が維持できないほど重要である。

電気接触部で生じる接触現象の問題の存在の指摘は非常に古く,1800年代の,オームの法則を発見したドイツのオーム(G. S. Ohm)博士や,ストックホルムのエールステッド(H. C. Øersted)教授にさかのぼる。オームはいみじくも一つの提言をしている。それは,接触部が清浄であることが肝要で,錆びたり油で汚れていてはいけないと。これは,人類が電気現象を手中に収めたそのときからついてまわってきているということである。つまり,電気の歴史とともに歩んでいる。それゆえ,電気接触の問題には華やかさはない。「電気接点は古臭い問題で,いまだになにをやっているのか」と。接触部はその構造が一見単純に見られるが,そこで起きている現象は,本書で取り上げているようにたいへん複雑である。振り返って見れば,電気接触部に使われる金属材料やその接触部が関係する電気条件などはたいへん広く,さらに接触部にかかる荷重や摺動は接触部が用いられる機械に多くの場合依存している。このような不特定な状況で,周囲の環境には接触表面に悪影響を及ぼす気体で満ち満ちている。「接触現象の研究は間口を広く取り,深く掘り下げることは犠牲にする」といわれたことがあった。接触部材料の金属材料,電気負荷条件,形状を取ってみても間口が広いので,このようなことがいわれたものと思う。浅く研究せよということでは本質を見誤ってしまう。このような非科学的思想が流布されていた時代があった。また,学会を牛耳り電気接触の世界は自分一人ということもあった。このような状況下では,この分野の学術研究の進展がずいぶん遅れたと思われる。

電気機械が進歩し接触部もその影響を強く受ける。しかし,接触問題がなくなることはなく,200年来の対応が繰り返されるのである。接触不良が出現するとその問題を解決すべく頑張るが,それが解決すると,その周辺を広く研究するが現象や法則の発見につながらない。このように考えれば,電気接触現象は科学でもなく学術問題でもないといわれそうであるが,一つひとつの現象にはその意味があり,突き詰めて究明すれば現象や法則の発見もある。これを系統的にまとめると,学問すなわちサイエンスとしての学術的大系が構築される。

この種の著作には, 古くはホルム(Ragner Holm) 博士の「Electrical Contact」, 最近ではスレイド(P. Slade) 博士の「Electrical Contact -Application and Fundamentals」などの大作はあるが,Slade氏は自身が筆者として,また編者として各章ごとにその道の権威を駆使して総合的にまとめたものである。電気接触現象は接触部材料,接触抵抗,放電現象,発熱,汚染気体や塵埃などの環境問題等々と非常に間口が広く,また奥がたいへん深いのが特徴である。これに対して本書では,筆者の単著としてまとめたので,筆者の専門を中心として表面科学,接触抵抗を本書の内容の柱としてとらえてまとめた。したがって,広く接触問題を勉強しようとする人々にとっては必ずしも十分とはいえないかもしれない。

本書では筆者の専門から,微弱電気条件から低電気条件までの範囲の接触部問題を中心に取り上げた。本書は10年以上前に出版される予定であったが,筆者が転職し,執筆に時間が取れない事情があり,すべての公職から離れて取り組もうとしたとき,すでに遅し,執筆へのエネルギーが減退し始めたのであった。しかし,定年直前にIEEE(アメリカ電子電気学会)からHolm Scientific Achievement Award を受賞(2010年)したので,この際,準備した資料をまとめなければと,コロナ社の皆様にたいへんなご迷惑をおかけしながら,やっとの思いでここに形となることができた。本書の特徴は,広く接触現象全体を網羅することなく,筆者が推し進めた研究を中心にまとめたものである。

読者の皆様方が本書を手に取っていただき,少しでもお役に立てればと望む次第である。間違いなどがあればご指摘をいただければ幸甚である。
本書の企画立案から今日に至るまで,終始お世話になりましたコロナ社の方々ならびに,電子情報通信学会をはじめとする諸学会,研究会,国際会議,Holm会議,筆者が代表を務める継電器・コンタクトテクノロジ研究会を支える賛助会の皆様や毎回の研究会でご講演いただく諸氏に心身より御礼申し上げます。最後に,本書をまとめるにあたり強く後ろから押してくれた妻富子にも感謝いたします。

 2019年3月 玉井 輝雄

1.電気接触現象とその解明に尽力した人々
1.1 歴史に見る電気接触現象
 1.1.1 ガルバニーの発見
 1.1.2 オームの接触抵抗の発見
1.2 ラグナー・ホルムの業績と生涯
 1.2.1 若き時代のホルム
 1.2.2 高等学校教師の時代
 1.2.3 ジーメンスでの研究生活
 1.2.4 スウェーデンでの電気接触現象の研究所
1.3 アメリカ時代のホルム
1.4 まとめ
引用・参考文献

2.接触表面の性質
2.1 表面の構造
 2.1.1 表面の原子に作用する力
 2.1.2 表面の原子配列と構成
2.2 固体表面と気体分子との作用
2.3 表面汚染
 2.3.1 乾食現象
 2.3.2 湿食現象
 2.3.3 表面汚染の実例
2.4 合金の酸化
2.5 まとめ
引用・参考文献

3.金属表面どうしの接触
3.1 電気的接触部
3.2 集中抵抗
3.3 まとめ
引用・参考文献

4.接触部の導電機構
4.1 エネルギーバンド構造から見た接触部の導電機構
 4.1.1 金属表面のエネルギー状態
 4.1.2 同種金属どうしの接触
 4.1.3 異なる金属の接触
 4.1.4 皮膜が介在する接触部の導電機構
4.2 厚い皮膜が介在する場合の接触
 4.2.1 半導体と金属との接触
 4.2.2 接触境界部に半導体が介在する場合
 4.2.3 厚いCuの酸化物のような絶縁体で覆われた半導体膜の場合
 4.2.4 非対称形接触部
4.3 ショットキー電流
4.4 まとめ
引用・参考文献

5.接触境界部の発熱現象
5.1 微小な真の接触部金属への熱の影響
5.2 接触境界部での発熱の評価
5.3 通電中の接触面の観察
5.4 まとめ
引用・参考文献

6.接触抵抗の印加電気条件依存性
6.1 低接触抵抗が回復する現象
6.2 接触抵抗に与える電気的作用
 6.2.1 薄膜の導電機構が接触抵抗に作用する場合
 6.2.2 ジュール熱による接触部の破壊
 6.2.3 接触部皮膜の電気的破壊の実例
6.3 まとめ
引用・参考文献

7.接触部皮膜の機械的特性と低接触抵抗の回復
7.1 垂直荷重による接触抵抗値の低下について
7.2 摺動による接触抵抗値の低下について
7.3 実測による検証
 7.3.1 垂直荷重の効果
 7.3.2 水平摺動変異の効果
7.4 まとめ
引用・参考文献

8.表面を覆う汚染皮膜の厚さの測定
8.1 皮膜の厚さの計測
 8.1.1 秤量法
 8.1.2 電解還元法
 8.1.3 光による方法
 8.1.4 皮膜のスパッタによる方法
8.2 酸化皮膜の成長に対するエリプソメトリ
8.3 電界還元法による層状皮膜の組織別の厚さの測定
8.4 秤量法による皮膜の評価
8.5 まとめ
引用・参考文献

9.接触面に対する湿度の影響
9.1 表面に作用する吸着水膜
9.2 清浄なCu面の酸化物の成長に及ぼす湿度の影響
9.3 酸化皮膜の表面へのH2Oの影響
9.4 STM像がとらえるCu表面のH2O吸着による変化
9.5 静止接触抵抗や摺動接触抵抗に及ぼす加湿の影響
9.6 まとめ
引用・参考文献

10.低温下の接触抵抗特性
10.1 低温下における集中抵抗の特性
10.2 超電導を応用した真の接触面積の評価
10.3 まとめ
引用・参考文献

11.めっき表面の接触現象
11.1 めっき層の性質とめっき面の汚染
11.2 Auめっき層の性質とめっき表面の汚染
11.3 Snめっき表面の接触特性
11.4 機能性を持たせためっき面
11.5 まとめ
引用・参考文献

12.真の接触境界部を介しての摩擦と接触抵抗の関係
12.1 真の接触面を介しての摩擦係数と接触抵抗の関係
 12.1.1 接触抵抗の真の接触面依存性
 12.1.2 摩擦係数の真の接触面依存性
 12.1.3 単一の真の接触面での接触抵抗と摩擦係数との関係
 12.1.4 複数の接触面を通しての接触抵抗と摩擦係数の関係
12.2 接触抵抗と摩擦係数の関係の検証
12.3 実際の接触抵抗と摩擦係数の関係
12.4 まとめ
引用・参考文献

13.シリコーン汚染と接触障害
13.1 シリコーン汚染による接触障害とシリコーンの種類(重合度)
13.2 シリコーンの分解過程
13.3 シリコーンの高温度分解の静的生成とその接触抵抗への影響
13.4 シリコーン蒸気の吸着と吸着膜厚
13.5 開閉接触部や摺動接触部に及ぼすシリコーン蒸気の動的影響
 13.5.1 接触抵抗特性に及ぼすシリコーン蒸気濃度の影響
 13.5.2 シリコーン雰囲気中における接触抵抗特性に及ぼす開閉頻度の影響
 13.5.3 接触抵抗に及ぼす電気負荷条件の影響
 13.5.4 接触痕跡における特徴
 13.5.5 フィールドデータと接触不良の発生限界1.6Wラインの相関性について
13.6 まとめ
引用・参考文献

付録
索引

日刊工業新聞 技術科学図書(2019年11月26日) 掲載日:2019/12/04

掲載日:2020/12/03

応用物理学会誌「応用物理」2020年12月号広告