騒音・振動の計測と制御 - 理論から自動車開発の実用例まで -
1冊で計測と解析に必要なディジタル信号処理と振動工学・音響工学を同時に学べる。
- 発行予定日
- 2026/10/中旬
- 判型
- A5
- ページ数
- 312ページ
- ISBN
- 978-4-339-03388-5
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
【内容紹介】
本書の特徴は2つある。1つ目は,自動車の騒音・振動の開発を具体的な実用例として取り上げ,1冊の教科書で計測と解析に必要なディジタル信号処理と振動工学・音響工学を同時に学べることである。2つ目は,騒音・振動のアクティブ制御を学べることである。このような本を執筆した背景を述べておこう。
第一の著者(佐野)は,機械工学の大学院修士課程を修了してHondaに入社し,自動車の騒音・振動を低減する研究開発の仕事に就いた。学生時代,振動工学は学んでいたので振動の知識はもっていたが,音の知識は高校の物理で止まっていた。仕事では,振動工学だけではなく音響工学の知識が必須だった。さらに,計測業務では,FFTアナライザに出てくるパワースペクトル,クロススペクトル,コヒーレンスなどの数多くの難解な専門用語に圧倒された。先輩に音響工学の教科書を教えてもらい,すぐに購入して勉強するとともに,計測器メーカの講習会に参加し,FFTアナライザを用いた計測と解析に必要なディジタル信号処理を学んだ。
なぜ,計測と解析に必要なディジタル信号処理,振動工学,音響工学が一つになった教科書がないのだろう,と疑問に思った。そして約40年が経過した現在もこの状況は変わっていないことがわかった。退職後に時間ができたので,それならば自分で書こうと決め,本書の執筆に至った。
騒音・振動の低減は,外部からエネルギーを注入しないパッシブ制御が基本である。一方,外部からエネルギーを注入して低減する方法をアクティブ制御と呼ぶ。どちらも制御がキーワードになっている。第一の著者は,宇都宮大学社会人ドクターコースで第二の著者である足立修一先生のもとでアクティブ騒音制御(以下ANC)の研究を行った。本書の柱はパッシブ制御とするが,アクティブ制御も記述するという方針を立てた。
足立先生は,フーリエ解析やラプラス変換などを解説している信号・システム理論や,ディジタル信号処理の教科書をすでに書かれており,これらはとてもわかりやすかった。そして,制御がご専門なので,騒音・振動のアクティブ制御の記述でもご助言いただきたかった。そこで,第二の著者を足立先生にお願いし快諾していただいた。第二の著者には,制御工学の立場から振動・音響理論を俯瞰することで,統一的に解釈する手立てを見つけていただいた。そして,キーワードは,振動理論ではラプラス変換による「伝達関数」,音響理論では「制御工学から観たANC」であった。振動工学の章では,伝達関数を用いた振動理論の説明を試み,騒音のアクティブ制御の章では,制御工学の立場からANCを解説した。振動工学や音響工学においても制御工学の考え方を利用すると,計算や理解が容易になることが読者はわかるだろう。
騒音・振動に関する計測,パッシブ制御,アクティブ制御を1冊の本で統一的に取り扱ったのはおそらく初めてだと思われる。第一の著者が自動車の騒音・振動開発の現場で学んだ経験に基づき,騒音・振動の技術者や研究者に必要な理論を1冊にまとめた。本書が騒音・振動の実務や研究に携わる皆さまに少しでもお役に立てば幸いである。
【本書を特に読んでほしい読者】
読者としては,企業や公的機関などで,新たに騒音・振動の実務に就かれる方や実務に就かれてまもない方,そして機械系や電気電子系の大学生・大学院生を想定している。本書では自動車の実用例を記載しているが,対象をシステムとして捉えれば,本書の内容は,自動車以外の工業製品に関する騒音・振動の研究開発に携わっている技術者・研究者・学生に役立つだろう。
【本書を読む前にあると望ましい前提知識】
高校の数学と物理,大学初年級の線形代数を履修していることを前提としている。
【本書を読むことで得られる知識・できるようになること】
● 自動車開発で用いられているV字開発フローを理解できる。
● 難解な専門用語が並んでいるFFTアナライザはもうこわくなくなる。そして,自信をもって騒音・振動の計測と解析を行うことができる。
● 伝達経路解析(Transfer Path Analysis: TPA)や次数比分析を理解できる。
● 振動工学の1自由度系と2自由度系の理解を深めることができる。教科書が非常に少ない防振ゴムについても学べる。
● 音響工学の波動方程式,定在波,ヘルムホルツ共鳴器などの理解を深めることができる。
● 振動のアクティブ制御,騒音のアクティブ制御を学ぶことができる。
【本書の特徴・工夫した点】
理論と自動車開発の実用例の両方を扱っているので,振動工学や音響工学の理論がどのような場面で具体的に役立っているのかを読者は知ることができる。また,手計算で追えるように式の展開を丁寧に記述した。手間はかかるが,手計算で確認することにより自信をもって理論を実際の研究開発に役立てることができる。
【授業・講義での使用イメージ】
本書の原稿を用いてゼミ・輪講が効果的であることを確認している。また,半期の講義14回で本書全体を説明できる。シラバスの一例を示す。
科目名:「自動車開発を題材にした騒音・振動の計測と制御」(1コマ90分講義を14回)
対象学年:学部4年生,修士1年生
第1回 自動車における騒音・振動課題と学んでおくべき専門科目
第2回 FFTアナライザのための信号・システム理論(連続時間)
第3回 FFTアナライザのための信号・システム理論(離散時間)
第4回 騒音・振動の計測(基礎編)
第5回 騒音・振動の計測(計測編)
第6回 騒音・振動の伝達経路と解析
第7回 振動のパッシブ制御(1自由度系の自由振動)
第8回 振動のパッシブ制御(1自由度系の強制振動とパッシブ制御)
第9回 振動のパッシブ制御(2自由度系の自由振動と非連成化)
第10回 振動のパッシブ制御(2自由度系の強制振動とパッシブ制御)
第11回 騒音のパッシブ制御(波動方程式)
第12回 騒音のパッシブ制御(ヘルムホルツ共鳴器と防音材による騒音低減法)
第13回 振動のアクティブ制御
第14回 騒音のアクティブ制御
【実務・研究で役立つ場面】
自動車開発の実用例を取り上げているので,自動車の騒音・振動技術者が直面する新車開発の目標設定,試作車の計測と解析,目標未達のときの原因解析と対策立案などに本書の内容は役立つ。対象をシステムとしてとらえれば,他の工業製品の騒音・振動の研究開発にも本書の内容は役立つだろう。
【関連キーワード】
振動工学,音響工学,ディジタル信号処理,制御工学,自動車工学,アクティブ振動制御,アクティブ騒音制御
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
第一の著者は,機械工学の大学院修士課程を1986年に修了して自動車メーカに入り,自動車の騒音・振動を低減する研究開発の仕事に就いた。大学で「振動工学」は一通り学んでいたので,振動の知識はもっていたが,音の知識は高校の物理で止まっていた。仕事では,振動だけではなく音の知識が必須だった。会社の先輩や計測器メーカの技術者から「音響工学」の教科書の存在を教えれられ,すぐに購入して学習した。
後になって調べてみると,「振動工学(または機械力学)」は,機械振動の低減がおもな目的なので機械工学科の科目,「音響工学」は,スピーカやマイクロホンの設計法に重点を置くと電気電子工学科の科目,防音性に優れた部屋やコンサートホールの設計法に重点を置くと建築学科の科目であることがわかった。また,機械工学科向けの機械音響学の教科書も存在するが,いずれも波動方程式などの理論重視で実用例が少なかったり,振動工学に基づく低減技術の記述が少なかったりする。さらに,騒音・振動の室課に配属された新人は,すぐに計測業務を身に付けなければならない。計測業務で出会うキーワードは,騒音・振動に加えて,フーリエ変換,周波数分析,伝達関数である。周波数分析は「ディジタル信号処理」,伝達関数は「制御工学」で学ぶ専門用語である。「制御工学」は機械・電気電子工学科双方に必ずあるが,「ディジタル信号処理」は電気電子工学科の専門科目であり,機械工学科に設定してある大学は多くはないだろう。
2018年に宇宙航空の国立法人に転籍し,宇宙航空分野で扱う騒音・振動の課題に接したとき,自動車開発で学んだ振動工学と音響工学の基礎が役に立つことを実感した。たとえば,ロケットエンジンの共振による強度耐久性能,ロケット打上げ時の大音響が衛星にダメージを与える強度耐久性能,環境騒音に優しい航空機のエンジンや機体の研究開発を理解するとき,自動車開発で学んだ騒音・振動の基礎がそのまま使えた。工学の基礎知識は対象によらず普遍的なものであることを改めて感じることができた。
本書の特徴は2つある。1つ目は,上述の経験を踏まえ,1冊の教科書で計測と解析に必要なディジタル信号処理と振動工学・音響工学を同時に学べることである。そして,自動車の騒音・振動の開発を実用例として取り上げた。読者としては,新たに騒音・振動の実務に就かれる方や実務に就かれて間もない方,そして騒音・振動の研究に携わることになった大学生・大学院生を想定している。自動車の実用例を記載しているが,対象をシステムとして捉えれば,本書の内容は,自動車以外の工業製品に関する騒音・振動の研究開発に携わっている技術者・研究者・学生に役立つだろう。
2つ目は,騒音・振動のアクティブ制御を学べることである。外部からエネルギーを入れない従来からの騒音・振動の低減法をパッシブ制御,外部からエネルギーを注入して騒音・振動を低減する方法をアクティブ制御と呼ぶ。可聴域の周波数を対象にしたアクティブ制御は,大きな重量をかけることなく低周波の騒音・振動の低減が可能である一方,アクティブ制御システムのためのコストがかかる。低炭素化に向け,今後も自動車のさらなる軽量化が必要であることから,継続的にコスト低減を図ることで実用化数は増えていくだろう。
騒音・振動の基礎的な知識は,研究開発で遭遇する技術課題を解決するときに必ず役立つ。砂上の楼閣という言葉があるように,基礎ができていないところにしっかりした建物は建てられない。最初は回り道と思うかもしれないが,初めて騒音・振動に携わるようになった皆さんには基礎をしっかり身に付けていただきたい。それが結果的に近道になるし,基礎があってこそ新しい技術も生まれる。本書が読者の皆さんの騒音・振動に関する知識向上の一助となれば幸いである。
本書の原稿を読み,有益な指摘をしていただくとともに,自動車の画像を提供してくださった株式会社本田技術研究所と本田技研工業株式会社の仲間たちに感謝いたします。
夏休みに本書の原稿を読んで多くの指摘をしてくださった国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門の高石武久博士に感謝いたします。
第一の著者がテクニカルアドバイザをつとめる株式会社小野測器において,本書の原稿を用いた勉強会を企画し,数々の指摘をしてくださった村木亜未香さんはじめ多くの皆さんに感謝いたします。計測器の画像を提供してくださったことにも感謝いたします。小野測器の Web サイトには,FFT アナライザの顧客向けに技術解説が豊富に掲載され,資料室には,音響工学,振動工学,ディジタル信号処理などの蔵書が数多くあり,参考文献として使用しました。
本書の原稿を用いた輪講会を開催し,多くの指摘と議論をしてくださった慶應義塾大学理工学部野崎研究室の大場崇由さん,神津早紀さん,髙倉彬さん,家根和樹さん,大森研究室の村上朋希さんに感謝いたします。彼らの協力のおかげで,学生の皆さんの視点を本書に取り入れることができました。
本書の原稿を読み,表現の一貫性や数式などに多くの指摘をしてくださった新潟大学の管野政明准教授に感謝いたします。
本書の出版の機会を与えて下さったとともに,査読いただいた計測自動制御学会の会誌出版委員会の方々,多くのアドバイスをいただいたコロナ社の皆さまに感謝いたします。
2026年9月
著者を代表して 佐野 久
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1.自動車における騒音・振動課題
1.1 自動車における騒音・振動現象
1.1.1 エンジンに起因する騒音・振動
1.1.2 ロードノイズ
1.2 V 字開発フローと騒音・振動の低減の取組
1.2.1 V字開発フロー
1.2.2 騒音・振動の低減業務の流れと学んでおくべき専門科目
1.3 本書の読み方
2.FFT アナライザのための信号・システム理論
2.1 はじめて接する FFT アナライザ
2.2 信号の分類
2.3 連続時間信号のフーリエ解析
2.3.1 正弦波信号
2.3.2 フーリエ級数
2.3.3 フーリエ変換
2.4 線形システム
2.4.1 線形性と重ね合わせの理
2.4.2 たたみ込み積分と周波数伝達関数
2.5 相関関数とスペクトル
2.5.1 相関技術のはじまり
2.5.2 確率過程
2.5.3 パワースペクトル密度関数
2.5.4 クロススペクトル密度関数
2.6 連続時間信号から離散時間信号への変換
2.7 離散時間信号のフーリエ解析
2.7.1 離散時間複素フーリエ級数
2.7.2 離散フーリエ変換(DFT)
2.7.3 高速フーリエ変換(FFT)
2.8 スペクトル
2.8.1 ピリオドグラム
2.8.2 さまざまなスペクトルの関係
2.8.3 エネルギースペクトル密度関数
2.8.4 アベレージング
2.8.5 リーケージエラーと窓関数
2.8.6 スペクトル推定
2.9 周波数伝達関数の推定
2.9.1 クロススペクトル法による周波数伝達関数の推定
2.9.2 コヒーレンス関数
2.9.3 周波数伝達関数計測時の注意点
3.騒音・振動の計測
3.1 騒音・振動計測の現場
3.2 騒音・振動計測の基礎
3.2.1 音波と音圧
3.2.2 実効値
3.2.3 波長と波数
3.2.4 デシベル
3.2.5 音圧レベル
3.2.6 音響インテンシティレベル
3.2.7 振動レベル
3.2.8 音波の重ね合わせとデシベル演算
3.3 騒音の計測
3.4 振動の計測
3.5 ダイナミックレンジと SN 比
3.6 周波数分析
3.7 官能評価
3.7.1 音の官能評価
3.7.2 振動の官能評価
3.7.3 官能評価の重要性
4.騒音・振動の伝達経路と解析
4.1 固体伝搬と空気伝搬
4.1.1 エンジンに起因する騒音・振動
4.1.2 ロードノイズ
4.2 次数振動と次数比分析
4.2.1 回転体の次数振動
4.2.2 エンジンの次数振動
4.2.3 次数比分析
4.3 騒音・振動の発生箇所の解析法
4.3.1 伝達経路解析
4.3.2 動ばね法
4.3.3 逆行列法
4.3.4 バーチャルポイント変換
4.3.5 統計的エネルギー解析法
5.振動のパッシブ制御
5.1 伝達関数の導入
5.2 自由度とは
5.3 1 自由度系
5.3.1 運動方程式による 1 自由度系の定式化
5.3.2 不減衰自由振動
5.3.3 減衰自由振動
5.3.4 伝達関数を用いた振動の定式化
5.3.5 s 平面上の極配置による波形の考察
5.3.6 強制振動
5.3.7 減衰比の求め方
5.3.8 6 種類の周波数伝達関数
5.4 1 自由度系のパッシブ制御
5.4.1 力強制の振動絶縁
5.4.2 変位強制の振動絶縁
5.4.3 振動絶縁の設計法
5.4.4 防振ゴムを用いたときの振動絶縁
5.5 2 自由度系
5.5.1 運動方程式による 2 自由度系の定式化
5.5.2 不減衰自由振動
5.5.3 モード座標を用いた非連成化
5.5.4 減衰自由振動
5.5.5 強制振動と振動モードの重ね合わせ
5.6 2 自由度系のパッシブ制御
5.6.1 2 自由度系のパッシブ制御の例
5.6.2 動吸振器
5.6.3 二重防振
6.騒音のパッシブ制御
6.1 波動方程式
6.1.1 ベクトル微分演算子
6.1.2 3 次元の波動方程式
6.1.3 平面波
6.1.4 ダランベールの解
6.1.5 球面波
6.1.6 変数分離法による波動方程式の解法
6.1.7 比音響インピーダンス
6.1.8 空気中の音速
6.2 平面波の振る舞い
6.2.1 入射音と反射音の干渉と定在波
6.2.2 境界面での透過
6.2.3 管の共鳴
6.2.4 共鳴と低周波騒音
6.2.5 ヘルムホルツ共鳴器
6.3 建築音響に基づく防音材による自動車の騒音低減法
6.3.1 遮音と吸音
6.3.2 質量則
6.3.3 自動車開発における防音材を用いた騒音低減法
6.3.4 自動車開発で用いられる音響実験室
7.振動のアクティブ制御
7.1 自動車における AVC の実用例
7.1.1 エンジン振動とサスペンションのアクティブ制御
7.1.2 自動車における実用例
7.2 外乱抑制制御
7.2.1 エンジン振動のフィードフォワード制御
7.2.2 サスペンションのフィードバック制御
7.2.3 センサとアクチュエータの配置関係
7.3 制御工学から見た 1 自由度系の PVC
7.4 スカイフックダンパ理論
8.騒音のアクティブ制御
8.1 自動車における ANC の実用例
8.2 ANC の原理と簡単な体験実験
8.3 閉空間内の ANC 実験
8.4 適応フィルタ
8.5 フィードフォワード ANC
8.5.1 フィードフォワード ANC のシステム構成
8.5.2 filtered-x LMS 法
8.5.3 フィードフォワード ANC における重要な条件
8.6 フィードバック ANC
8.6.1 フィードバック ANC のシステム構成
8.6.2 ハウリングキャンセラと IMC
8.7 ANC の考え方に基づく PVC
付録
A.1 オイラーの関係式
A.2 三角関数の合成
A.3 一般解による線形 2 階微分方程式の解法
A.4 複素数の公式
A.5 ラプラス変換
A.5.1 ラプラス変換と逆ラプラス変換
A.5.2 ラプラス変換とフーリエ変換
A.6 2 自由度系における力強制と変位強制の等価性
A.6.1 動吸振器の振動伝達率
A.6.2 二重防振の振動伝達率
A.7 非連成支持
引用・参考文献
あとがき
索引
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