観測に基づく量子計算

観測に基づく量子計算

量子計算に関して新しい見方をもたらした測定型量子計算を理解する上で必要な知識について,トピックごとに解説した。

ジャンル
発行年月日
2017/03/10
判型
A5
ページ数
196ページ
ISBN
978-4-339-02870-6
観測に基づく量子計算
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量子計算に関して新しい見方をもたらした測定型量子計算を理解する上で必要な知識について,トピックごとに解説し,測定型量子計算モデルの登場によって明らかになった量子計算の諸性質についても解説した。

約20年前,ショア(P.W.Shor)の素因数分解アルゴリズムやグローバー(L.K.Grover)の量子探索アルゴリズムなど,量子コンピュータの高い能力を示す量子アルゴリズムが発見されて以来,量子情報科学は脚光を浴びるようになり順調に発展してきた。そこで用いられている量子コンピュータのモデルは,ある意味で従来のコンピュータモデルからの拡張であった。従来の量子コンピュータモデルにおいて,計算プロセスは「量子的な演算」と「状態を取り出すための観測」の系列で表現されるが,観測操作はむしろ脇役として捉えられていたことと思う。

21世紀になり,すぐに,ラッセンドルフ(R.Raussendorf)とブリーゲル(H.J.Briegel)により従来の量子コンピュータモデルとは異なる測定型量子計算モデルが提案された。測定型量子計算は,最初に準備フェーズとして特殊な量子状態を用意し,計算フェーズとしてその量子状態に対して適応的に観測を繰り返すことにより任意の計算を行うことができる。測定型量子計算の登場により,脇役であった観測操作が重要な役割を果たすことが明らかになったばかりでなく,計算プロセスを物理的操作の観点からも性質の異なる準備フェーズと計算フェーズに分離できるという事実は,量子計算に関して新しい見方をもたらしてくれたといっていいだろう。この新しい見方により,従来の議論からは見出しにくかった量子計算に関するさまざまな性質を追究し易くなった。本書において,測定型量子計算を理解する上で必要な知識についてトピックごとに解説を与えている。また,測定型量子計算モデルの登場によって明らかになった量子計算の諸性質について扱っている。

将来に実現されると期待できる量子コンピュータの実装を考えた場合,測定型量子計算モデルに基づいた方式は有望な量子コンピュータアーキテクチャであると思われる。将来量子コンピュータが実現するに先立って,本書を通じて測定型量子計算の魅力を感じ取っていただければ幸いである。

2017年1月 小柴健史,藤井啓祐,森前智行

1. 量子コンピュータモデル
1.1 量子コンピュータのアイデア
1.2 一様計算モデルと非一様計算モデル
1.3 量子アルゴリズム
1.4 測定型量子計算の登場
引用・参考文献

2. 測定型量子計算の基礎
2.1 数学的準備
 2.1.1 1キュービットの純粋系
 2.1.2 合成系
 2.1.3 混合系
 2.1.4 観測
2.2 従来の量子計算モデル:回路モデル
2.3 新たなモデル:測定型量子計算モデルの登場
2.4 測定型量子計算のメリット
 2.4.1 物性物理との関連
 2.4.2 量子光学,光物質系との関連
 2.4.3 誤り耐性量子計算との関連
 2.4.4 古典統計物理学との関連
 2.4.5 暗号(セキュアなクラウド量子計算)との関連
 2.4.6 計算量理論との関連
2.5 クラスター状態,グラフ状態
2.6 連続変数系
引用・参考文献

3. テンソルネットワーク上での測定型量子計算
3.1 行列積状態
3.2 テンソルネットワーク
3.3 1次元グラフ上での測定型量子計算
3.4 相関空間
3.5 Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki状態
3.6 VBS状態とPEPS
引用・参考文献

4. 測定型トポロジカル量子計算
4.1 誤り耐性量子計算
4.2 スタビライザー符号
4.3 量子ノイズ
4.4 1次元反復符号
4.5 表面符号の定義
4.6 トポロジカル符号とトポロジカル秩序
4.7 トポロジカル誤り訂正
4.8 トポロジカル誤り耐性量子計算
4.9 測定によるトポロジカル誤り耐性量子計算
4.10 応用と関連研究
引用・参考文献

5. イジング模型分配関数と測定型量子計算
5.1 イジング模型
5.2 分配関数とスタビライザー形式
5.3 VDB対応と双対性
5.4 VDB対応とイジング模型の万能性
5.5 分配関数近似量子アルゴリズム
 5.5.1 定数深さ量子アルゴリズム
 5.5.2 測定型量子計算を経由した量子アルゴリズムの構成
 5.5.3 イジング分配関数近似問題のBQP完全性
 5.5.4 実パラメータ領域への拡張
引用・参考文献

6. ブラインド量子計算(セキュアなクラウド量子計算)
6.1 ブラインド量子計算とは
6.2 古典計算機科学におけるブラインド計算
6.3 回路モデルを用いたブラインド量子計算
6.4 測定型量子計算を用いたブラインド量子計算
6.5 2サーバーブラインド量子計算
6.6 AKLTブラインド量子計算
6.7 トポロジカルブラインド量子計算
6.8 連続変数ブラインド量子計算
6.9 コヒーレント状態を用いたブラインド量子計算
6.10 アリスが測定するブラインド量子計算
6.11 量子計算の検証
 6.11.1 Fitzsimons-Kashefiのプロトコル
 6.11.2 アリスが測定するブラインド量子計算における検証
 6.11.3 グラフ状態の直接検証
 6.11.4 検証と量子論の基礎との関連
引用・参考文献

7. 測定型量子計算と計算量理論
7.1 計算量理論
7.2 BQPの上のクラス
 7.2.1 ポストセレクション
 7.2.2 量子対話型証明系
7.3 BQPの下のクラス:非ユニバーサル量子計算
 7.3.1 深さ4の量子回路
 7.3.2 IQP:交換するゲートのみの量子計算モデル
 7.3.3 DQC1モデル
 7.3.4 ボソンサンプリング:相互作用なしのボソンモデル
 7.3.5 今後の課題
引用・参考文献

索引

読者モニターレビュー 【濵村一航(博士課程学生,専門:量子情報理論)】

本書はタイトルの通り観測に基づく量子計算,いわゆる測定型量子計算を題材としている本です。
測定型量子計算はゲート型量子計算や断熱量子計算とならぶ量子計算のモデルの1つで,その特徴はリソース状態と呼ばれる”量子的”な状態を準備するプロセスと,測定というプロセスの二種類に分けていることで,理論的に非常に扱いやすいというメリットがあります。それだけではなく,実験的にも測定型量子計算に向いている物理系があるため,測定型量子計算は理論・実験の両面から重要なモデルだと言えます。
測定型量子計算は物性物理・誤り耐性量子計算・古典統計物理学・セキュアクラウド量子計算・計算量理論と様々な分野と関係があり本書の話題は多岐にわたります。さらに本書の後半では日本の量子計算理論を代表する著者ら自身の結果にも触れていて,この著者らにしか書けない本です。
量子計算理論に関心がある人は必読だと思います。

読者モニターレビュー 【gyu-don様( ITエンジニア)】

 本書は,従来の量子回路モデルとは異なる,測定型量子計算モデルについて紹介しています。測定型量子計算モデルは計算力の観点から,同モデルが回路モデルと等価で,また,量子状態を作るフェーズと,観測と古典計算を繰り返すフェーズに明確に分けることができるため,これまでとは異なる視点を提供してくれるとされています。
 観測により,まだ観測していない量子ビットの状態を変えながら計算を実現していく過程は,数式を追えば理解はできるものの,不思議で興味深いです。また,量子計算は,一体何を考えながら組み立てればいいのか非常に難しいので,回路モデルとは違う視点で考えることは有用かもしれません。
 本書では,量子誤り訂正符号の一種で,非常に注目されている,トポロジカル誤り訂正符号についても詳しく述べられています。

 興味深いながらも,特に日本語の文献がほとんどない測定型量子計算について網羅的に書かれた,非常に内容の濃い本でした。
 参考文献のリストは各章ごとに丁寧にまとめられているため,深く理解するためにも,それらを読んでみようと思います。

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小柴 健史(コシバ タケシ)

森前 智行(モリマエ トモユキ)

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