これなら解ける 電気数学 - 実験でアプローチ -
学んだ数式を実際の現象で確認できる例を掲載するとともに公式の意味や使い方を丁寧に解説
- 発行年月日
- 2022/08/26
- 判型
- B5
- ページ数
- 200ページ
- ISBN
- 978-4-339-00984-2
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
【書籍の特長】
本書の特徴は電気電子工学で使える数学を目指し、①数学を解く手法の説明に重点を置いたこと、②電気電子工学の関係を示すための実験を掲載したことです。
①で目に見えない電気電子の動きを可視化し、理解・解析する手法の1つが電気数学です。従って、電気数学では公式の導出や理論より使えること、すなわち問題を解けることが最重要です。そこで、解くための要点を「解き方」としてまとめ、その使い方を例題で丁寧に説明しました。
②学んだことが使える・役立つと分かれば、学習意欲は自ずと高まります。そこで、章の終りには、電気数学の活用する実験を示しました。とくに、電気電子工学は好きだけ数学には興味が持てないという学生には、電気数学を学習する大きなモチベーションになるハズです。
【各章について】
1章と2章では、行列を取り上げます。高校では行列を学ばないので、学生には修得が難しい分野となっています。1章で2行2列、2章で3行3列以上と2章分を使って習得するよう構成しました。3章は三角関数で、交流波形を三角関数で記述する方法の習得を目指します。4章は指数・対数関数で、ネイピアン数eに関する指数・対数関数と、電気電子工学で重要な時定数について学びます。5章の複素数では、交流回路の記述に使われる複素数を取りあげ、交流をベクトル表示するフェーザについても学びます。6章は微分・偏微分です。各種関数の微分と微分の計算で重要な公式を修得し、多変数の微分である偏微分を学びます。7章は積分です。微分前の関数を求める不定積分と、関数の合計値を求める敵積分について学びます。8章と9章では微分方程式の解法で、8章で1階、9章で2階の微分方程式について学びます。10章と11章はラプラス変換です。ラプラス変換は、電気電子工学科では重要な数学手法なので、2章分をかけて丁寧に説明しています。12章はフーリエ級数です。方形波のフーリエ変換を通して、フーリエ級数の求め方を理解できるように構成しました。13章はベクトルです。ベクトルの内積・外積、さらには勾配、発散、回転までを説明しています。
【読者対象】
本書は、電気電子工学を学ぶ学生を対象とし、とくに大学1, 2年に設定される電気数学のテキストとしての使用を想定しています。同時に大学の3, 4年次生で電気電子の専門科目を学んでいる学生、大学院や企業ですでに研究・開発を行っている研究者・技術者が数学で困った時に容易に自主学習できるように構成してあります。
【著者からのメッセージ】
著者(髙木)は数学が得意ではなく、大学の時に電気数学を修得するのにとても苦労しました。教える立場になってからは、定理の意味や解き方についてじっくり考えました。この過程で、学生が公式の理解や解き方で苦しむところが把握できました。そうしたツマヅキどころの解決方法をふんだんに盛り込んだことが、本書と他のテキストとの決定的な違いです。まずは実験のページからページをめくってもらい、少しでも数学に興味が湧けばと思います。
本書を通して、1人でも多くの学生が電気数学を習得し、電気電子工学部分野で活躍することを切に願います。
電気電子工学科の教員として学生を指導しながら,いつも残念に思うことがある。電気電子工学に強い関心があり,学びたい専門分野も明確に決まっているにもかかわらず,数学が苦手なことで専門科目の理解が深まらないことだ。彼らは大学入学までのどこかのタイミングで,例えば太陽電池やPC,LEDなどの電気電子機器に出会い,この分野の発展性・可能性に強い期待を持ったはずだ。
期待する専門分野の勉強に胸を膨らませて大学に入学してきた学生に,立ちはだかるのが数学だ。電気は目に見えないので,その動きを捕らえて理解・可視化するには数学がとても重要である。しかし,高校ではそんなことは教えてくれない。虚数が交流回路の計算に使われ,交流に対するキャパシタ,インダクタの動作を理解するには微分や積分が必須だとは,夢にも思わない。さらに,高校の物理では,微分や積分を使わなくても済むようにカリキュラムが組まれているため,理系で受験に必要だからというぐらいの意識で数学を学ぶ学生もいるだろう。
大学に入学すると,すぐに微分積分や線形代数の授業がはじまる。大学の授業は高校の授業に比べれば難しく,大学レベルの問題がスラスラ解ける学生はそれほど多くはいない。これらの科目が終わると,数学と電気電子工学とを結ぶ授業として,電気数学の授業が行われる。電気数学が終わると,後にも先にも数学関連の授業は行われない。したがって
「電気数学は,電気電子工学を学ぶ学生にとって必要な数学能力を修得する最後の砦」
となる。
こうした状況にもかかわらず,電気数学がカバーする範囲は広く,微分や積分などの主要項目に1回,多くても2回の授業しか充当できない。時間的制約の中で,多くの学生に電気電子工学で必要な数学を理解してもらおうと,授業が終わるたびに振り返り,教え方やその内容についての試行錯誤を繰り返してきた。そして,特に①電気電子工学と数学の関係を理解してもらうこと,②数学を解く楽しみを感じてもらうこと,③電気電子工学で必要となる数学をできるだけ網羅して解説すること,の3点が重要だと考えた。
こうして,積み上げてきたノウハウをテキストにまとめたのが本書である。目的とした3項目については,つぎのような工夫を凝らした。
① 電気電子工学と数学の関係を理解 両者の関係を理解するためには,実際の電気電子工学とそれを記述する数学を示すのが一番と考えた。そこで,数学で記述された現象と実際の実験結果とが一致する例をできるだけ紹介するようにした。具体的な例として,4章では,指数関数のグラフと実際の減衰波形から時定数を理解できるようにしている。
② 数学を解く楽しみ 数学の問題が解けるようになれば,数学への興味も湧き,勉強時間も長くなり,一段と難しい問題にもチャレンジできるという正のループが働く。本書では,難しい証明や理論は可能な限り省き,問題を解く手法に重点を置いた。問題を解く手順,ノウハウ,注意することを「解き方」としてまとめた。解法の手順が長い8,9章の微分方程式では,その大まかな解法手順を最初にStepとして示し,それぞれのStepでの解き方を順次説明する方法で説明した。
③ 電気電子工学で必要な数学の網羅 電気数学は幅広い分野を扱う。半年の授業の場合十分に対応できないため,大学によってはフェーザ,ラプラス変換,フーリエ級数,ベクトル解析を電気数学の授業から除き,関連する専門分野で教えるようにしている。しかしながら,たとえ半年でも授業を受けておけば,いざ必要になったときに,抵抗なく自分で学ぶことができる。そこで,これらの内容もテキストに加えた。
これまで電気数学を教えてきた試みを本テキストに盛り込んだ。このテキストを使って学習した学生が少しでも数学に興味を持ち,電気電子工学の専門科目を学ぶときの数学力に身に付けてくれることを切に望む。そして,大学院や社会人となって,目も覚めるような素晴らしい研究・開発成果を出してくれることを切に期待する。
なお,本書の執筆は以下のように2名で分担した。
髙木茂行:5章,6.4~6.6節,8~12章,各章の導入部,実験で試す
美井野優:1~4章,6.1~6.3節,7,13章,章末問題略解,章末問題詳解
本書に掲載できなかった章末問題詳解はコロナ社のWebページ(https://coronasha.co.jp/np/isbn/9784339009842)からダウンロードができるので答え合わせだけでなく解説を確認して自習に活用してほしい。
2022年6月
著者を代表して髙木茂行
1. 行列(基本編:2×2の行列)
1.1 行列ことはじめ
1.1.1 用語の定義
1.1.2 和・差・スカラ倍・転置
1.2 普通の掛け算とはやや異なる行列の積
1.3 行列計算で最も重要な逆行列(2×2の行列)
1.3.1 定義と具体例
1.3.2 行列式・余因子行列・逆行列の導出
1.4 行列方程式の解法(2×2の行列)
1.4.1 連立方程式への変換を用いた行列方程式の求解
1.4.2 逆行列を用いた行列方程式の求解
1.5 実験で試す:電気回路と行列
1.5.1 回路方程式を行列で解く
1.5.2 回路方程式で解いた電流と実際の値の比較
章末問題
2. 行列(応用編:3×3の行列)
2.1 逆行列(3×3の行列)
2.1.1 小行列式
2.1.2 ここが踏ん張りどころ:余因子・余因子行列・行列式の導出
2.1.3 逆行列の導出
2.2 行列方程式の解法(3×3の行列)
2.3 実験で試す:電気回路と行列
2.3.1 回路方程式を行列で解く
2.3.2 回路方程式で解いた電圧電流と実際の値の比較
章末問題
3. 三角関数
3.1 三角関数の基礎となる三角比
3.1.1 度数法と弧度法
3.1.2 単位円による三角比の一般定義
3.1.3 三角比の公式
3.1.4 微分・積分でも重要な加法定理
3.1.5 (発展)和積・積和の公式
3.2 三角関数
3.2.1 三角関数の定義とグラフ
3.2.2 逆三角関数
3.2.3 電気系学生が毎日目にする正弦波
3.2.4 正弦波の足し合わせ
3.3 実験で試す:交流100Vの電圧波形
章末問題
4. 指数と対数およびその関数
4.1 指数と対数
4.1.1 指数の基本事項
4.1.2 対数の基本事項
4.1.3 電気電子工学の現象を表すのに便利なネイピア数e
4.2 指数や対数を用いた関数
4.2.1 指数関数
4.2.2 理解しづらいが重要な対数関数
4.2.3 ここで理解しておくと便利:対数関数から指数関数への変換
4.3 三角関数と似て非なる双曲線関数
4.3.1 双曲線関数の種類と定義
4.3.2 双曲線関数の公式
4.3.3 双曲線関数の加法定理
4.4 電気回路の指数関数
4.4.1 電気回路の動きを表す指数関数
4.4.2 時定数
4.5 実験で試す:時定数を調べる実験
章末問題
5. 複素数
5.1 複素数の定義と計算
5.1.1 複素数の定義
5.1.2 直交座標表示
5.1.3 複素数の計算
5.2 極座標表示と三角関数表示
5.2.1 極座標表示
5.2.2 極座標表示と直交座標表示をつなぐ三角関数表示
5.2.3 極座標表示の計算
5.3 指数関数表示
5.3.1 極座標表示と指数関数表示
5.3.2 指数関数表示の計算
5.3.3 指数関数表示と三角関数表示
5.4 フェーザ
5.4.1 交流のフェーザと複素数表記
5.4.2 フェーザと複素数
5.5 実験で試す:二つの交流のフェーザによる合成
章末問題
6. 微分・偏微分
6.1 変化量を数学的に記述する微分
6.1.1 微分の定義
6.1.2 初等関数の導関数
6.2 これをマスターすれば大丈夫:微分で重要な五つの公式
6.3 電気回路の微分
6.4 多変数関数の微分を表す偏微分
6.4.1 山の登山ルートと偏微分
6.4.2 多変数関数と偏微分
6.5 偏微分に関する定理・公式
6.6 全体の傾き量を表す全微分
6.7 実験で試す:インダクタ電流波形の微分
6.7.1 インダクタ電流波形の微分と電圧波形
6.7.2 実験でインダクタの電流波形と電圧波形を求める
章末問題
7. 積分
7.1 不定積分
7.1.1 不定積分の定義
7.1.2 基本的な公式
7.2 これが重要:積分を求める三つの公式
7.2.1 部分積分
7.2.2 置換積分
7.2.3 三角関数の積分
7.3 定積分と面積(時間合計値)
7.3.1 定積分の定義と公式
7.3.2 定積分と面積
7.3.3 定積分と時間合計・平均
7.4 電気回路の積分
7.5 実験で試す:キャパシタ電流波形の積分
7.5.1 キャパシタ電流波形の積分と電圧波形
7.5.2 実験でキャパシタの電流波形と電圧波形を求める
章末問題
8. 1階の微分方程式
8.1 微分方程式の定義・分類
8.1.1 微分方程式の定義
8.1.2 微分方程式の解と解の判定
8.1.3 初期条件
8.1.4 微分方程式の分類
8.2 1階の微分方程式の解き方(全体の流れ)
8.3 変数分離法で補関数を求める(Step1)
8.4 定常解あるいは特殊解を求める(Step2)
8.5 一般解と解の決定(Step3,4)
8.6 電気回路と微分方程式
8.7 実験で試す:計算結果の比較
8.7.1 キャパシタ充電の実験
8.7.2 実験と同じ回路の微分方程式を解く
章末問題
9. 2階の微分方程式
9.1 2階の微分方程式の分類と解き方の流れ
9.1.1 2階の微分方程式と同次・非同次
9.1.2 2階の微分方程式の解き方(全体の流れ)
9.2 2階の微分方程式の解き方(=0)は二次方程式を解く問題に(Step1)
9.2.1 2階の微分方程式は二次方程式を解く問題に置き換わる
9.2.2 二次方程式と2階の微分方程式の解
9.3 特殊解あるいは定常解を求める(Step2)
9.4 一般解と解の決定(Step3,4)
9.5 LCR直列回路を2階の微分方程式で解く
9.5.1 LCR直列回路の微分方程式
9.5.2 LCR直列回路における3種類の挙動
9.6 実験で試す:実際のLCR直列回路で電圧を測定
章末問題
10. ラプラス変換
10.1 ラプラス変換の定義
10.2 定義から代表的関数のラプラス変換を求める
10.2.1 ユニットステップ関数u(t)のラプラス変換
10.2.2 三角関数sin atのラプラス変換
10.3 コツをつかめば簡単:変換表を使ったラプラス変換
10.4 最も重要な推移則と微分・積分のラプラス変換
10.4.1 推移則の説明
10.4.2 推移則を使ったラプラス変換の解き方
10.4.3 微分と積分のラプラス変換
10.5 ラプラス逆変換
10.5.1 ラプラス逆変換の定義
10.5.2 変換表を使ったラプラス逆変換の求め方
10.5.3 推移則を使った逆変換((s±a)nが含まれる場合)
10.6 実験で試す:インダクタとキャパシタのラプラス変換
10.6.1 実際のインダクタとキャパシタのラプラス変換
10.6.2 微分・積分,複素数,フェーザ,ラプラス変換の比較
章末問題
11. ラプラス変換で微分方程式を解く
11.1 ラプラス変換で微分方程式を解くための二つの準備
11.2 微分定理を理解する(準備その1)
11.2.1 微分定理とその導出
11.2.2 微分定理の意味と使い方(解き方)
11.3 部分分数展開(準備その2)
11.3.1 単純な因数分解の場合
11.3.2 少し工夫が必要:重根がある場合
11.4 ラプラス変換による微分方程式の解法
11.5 実際の回路方程式で解き方を比較
11.5.1 ラプラス変換で解く
11.5.2 ラプラス変換を使わない(8,9章)の解き方との比較
章末問題
12. フーリエ級数
12.1 フーリエ級数で方形波の近似を検討してみよう
12.2 フーリエ級数の定義
12.3 フーリエ級数の解き方(求め方)
12.4 フーリエ級数を確認してみよう
12.5 フーリエ級数展開を容易にする偶関数・奇関数
12.5.1 偶関数・奇関数
12.5.2 偶関数・奇関数とフーリエ級数
12.6 周波数解析(離散スペクトル)
12.6.1 フーリエ級数と電気電子工学
12.6.2 周波数解析の数学的準備
12.7 実験で試す:実際の波形でフーリエ級数
章末問題
13. ベクトル
13.1 ベクトルの基本:空間ベクトル
13.1.1 定義
13.1.2 基本演算
13.1.3 内積(ドット積)
13.1.4 外積(クロス積)
13.2 空間での変化量を扱う:ベクトル解析の基礎
13.2.1 勾配
13.2.2 発散
13.2.3 回転
13.2.4 勾配・発散・回転の比較
13.3 電磁気学とベクトル解析
13.3.1 静電場のガウスの法則
13.3.2 静磁場のアンペールの法則
章末問題
章末問題略解
索引
読者モニターレビュー【 アイスを愛す 様 (ご専門:ディジタル信号処理 )】
まず印象に残ったのは、数学の基本定理などを軽くおさらいした後に電気電子学科の実験でどのように用いていくのかという流れが徹底されていて分かりやすいということです。個人的に、大学数学では「理屈はわかるけど専門分野にどう応用されているか分からない」という点でつまづく人が多い印象があるので、そういう学生さんには電気電子系学科以外の方にもお勧めできるのではないかと思っています。
読者モニターレビュー【 やまけー 様 (ご専門:数学 )】
本書は電気分野で必要とされる数学の基本的な事項について解説したものである。
具体的には、線形代数(行列・ベクトル)、三角関数、指数・対数、複素数、微分・積分、微分方程式、ラプラス変換、フーリエ変換である。難易度としては、基礎中の基礎から解説されており数学に自信がない人でも読み進めることができ、豊富な演習問題を解くことで身に着けることができる。
また、本書の副題にもあるように計算結果を実際の測定結果と比較している箇所があり、イメージが付きやすい工夫がされていると思う。
電気分野に興味のある高校生でも十分に読むことができ、大学初年度程度の数学を復習する目的でも本書を利用することができるため、書店で見かけた際にはぜひ一度手に取ってみてほしいと思う。
読者モニターレビュー【 中村 勇太 様 名古屋工業大学 助教(ご専門:電力システム分野 )】
本書は,電気系大学生にとって特に必要な数学が網羅されており,さらに対応する電気回路計算や実験例も掲載されていることから,他の書籍よりも興味を持って数学を学ぶことができる一冊となっている。
例題や説明,章末問題の解説は細かく掲載されているため,本書を活用することで,数学が得意ではない学生でも十分に自学自習できることが予想される。
また,授業に用いる場合のカリキュラム例も掲載されていることから,教員として授業の編成を検討する際にも参考になり,有用な書籍となるだろう。
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掲載日:2022/10/21
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掲載日:2022/09/05
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掲載日:2022/09/01
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掲載日:2022/08/22
関連資料(一般)
- 章末問題詳解