応用解析からはじめる弾性力学入門
支配方程式の導出と,その境界値問題での解法の説明を重視。数値解析との関係も意識した。
- 発行年月日
- 2021/06/15
- 判型
- A5
- ページ数
- 224ページ
- ISBN
- 978-4-339-04673-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
大型構造物や輸送機などの設計には弾性力学の基本的な知識が必要不可欠である。機械、土木、航空といった分野では、基礎式から解法までを、卒業するまでにしっかりとマスターすることが社会から強く求められる。それにも関わらず、弾性力学は習得の難しい専門分野の一つとして考えられ、学生に敬遠されがちである。この理由として、大学中級レベルの数学的なバックグラウンドが必要なこと、基本となる理論が抽象的で、どのように使えばよいのかについて見通しが悪いこと、職人芸とも言えるような高度な解法テクニックが必要な点などにある。本書では、まず弾性力学に必要な数学(つまり応用解析のこと)を導入した後に、できうる限り平易な表現で基礎式を導入した。また、これら基礎式の意味を普遍的に議論するよりは、むしろ各種問題に適用し、その解を求めることに主眼をおいた。その際には、導出をできる限り省くことなく、初心者でも論理を追えるように心がけたつもりである。筆者としては、読者に、数学の演習問題を解くような気持ちで、変形が解析的に導出出来ることを楽しんでもらいたい。
大学4年生の夏休みに,せめて何か一つくらい専門をマスターしたいと研究室に籠って弾性力学を勉強した。ただ,ノートや教科書とひたすらにらめっこし,式を追うだけで精一杯で,研究に活かせるほどのレベルには到達しなかったが,それでも,式を変形し,答えが出てくることに,高校数学のときのような面白味を感じた。博士課程での研究は弾性力学の解析解を利用したもので,ああでもない,こうでもないと試行錯誤したことが,いまでも良い思い出となっている。特に,自分だけの近似解が出てきたとき,興奮したことを鮮明に覚えている。教員になり,数値解析がメインになっても,学生との議論では,紙と鉛筆で,簡単化した解析解を利用しており,重宝している。弾性力学との出会いこそが,このようなものの見方を教えてくれたと感じている。今回,弾性力学の講義を受け持つにあたり,できうる限り平易な教科書を書こうと決意した。書くにあたっては,あの夏休みや博士課程学生時に感じた,面白さや興奮を伝えられるような入門書を目指すこととした。
弾性力学の数ある名著は,往々にして天下り的,あるいは職人芸的であり,その解法は初学者にはとても真似ができるような感じがしない。本書では,各自が弾性力学を思い思いの目的にて利用できるようにすることを心掛け,できる限り平易な表現で解説することに注力した。そのため,いわゆる応力,ひずみといった概念の高尚かつ厳密な導入に紙面を割くことはせずに,材料力学の知識はある程度はあるものとして,むしろ,各種問題における支配方程式の導出と,その境界値問題における解法の説明に力点をおいた。これらの導出にはフーリエ級数,複素解析,ベクトル,テンソルといった応用解析の最低限の知識が必要となる。そこで1~3章ではその概要を簡単に紹介した(もちろんこれらは応用解析の基本となる部分を多少粗く紹介したにすぎない)。
昨今の設計や開発の現場では,弾性解を用いるよりは,むしろ有限要素法を初めとする数値解析を利用することのほうが圧倒的に多い。そこで,弾性力学と数値解析とのつながりが明確になるように心掛けた。数値解析に特化した本では,連続体力学を導入し,固体,流体,気体といった解析対象を特定しない表現が好まれる。これらは,流麗ではあるが,抽象的すぎて,学部生などの初学者には向かない。執筆にあたってはこの点を強く留意した。
紙面の関係上,大きな変形による座屈やシェル,積分変換といった内容は省かざるを得なかった。これらについては,またの機会に紹介したい。また,エネルギー原理に関しては,恩師である慶應義塾大学名誉教授の清水真佐男先生に大学院生時代にご教示いただいたものの一部が演習として導入されている。これは内部仮想仕事が外部仮想仕事になることを材料力学的観点にて確認したもので,初学者にも直観的に変分原理が理解しやすいものとなっている。筆者の手元には,清水先生の大部の資料があり,各種ケースが示されているが,残念ながら紙面の関係上,一部の紹介にとどまっている。
本書の執筆にあたり,九州大学の矢代茂樹先生,東北大学の白須圭一先生,川越吉晃先生,南雲佳子先生,阿部圭晃先生,小野寺壮太君(現在,九州大学)にはたいへん丁寧に原稿に目を通していただき,数多くの鋭いご指摘をいただいた。特に,川越吉晃先生には,高橋博子様とともに原稿作成にもご支援いただいた。お二人の多大なるご尽力なしに,本書は日の目を見なかったと思われる。心より感謝の意を表します。
本書が,単位をとるための通過点にとどまらず,構造,材料といったものの変形に興味を持つきっかけとなれば,筆者にとって,この上ない喜びである。
2021年4月
岡部朋永
本書のためにホームページを開設しました:http://www.plum.mech.tohoku.ac.jp/
1.フーリエ級数
1.1 三角関数
1.2 奇関数・偶関数
1.3 周期関数
1.4 フーリエ級数
1.5 フーリエ余弦級数・フーリエ正弦級数
1.6 一般周期におけるフーリエ級数
2.複素解析
2.1 複素数
2.2 複素関数
2.3 複素関数の微分
2.4 複素関数の積分
2.5 コーシーの積分定理
2.6 級数展開
3.ベクトル/テンソル(指標表示)
3.1 ベクトル
3.2 テンソル
3.3 ベクトル場・テンソル場における微分演算子および発散定理
4.ひずみと応力
4.1 変形勾配テンソル
4.2 ひずみ
4.3 体積ひずみ
4.4 応力ベクトル・応力テンソル
5.弾性力学の支配方程式
5.1 平衡方程式
5.2 モーメントのつり合い(応力の対称性)
5.3 フックの法則
5.4 境界値問題と支配方程式
6.エネルギー原理
6.1 解の一意性
6.2 仮想仕事の原理
6.3 ポテンシャルエネルギー最小の定理
6.4 カスティリアーノの定理
7.曲線座標と有限要素法
7.1 曲線座標
7.2 ベクトルとテンソル
7.3 線素とひずみテンソル
7.4 直交曲線座標
7.5 アイソパラメトリック要素による有限要素法
8.棒の曲げ
8.1 はり理論
8.2 3次元理論
9.ねじり
9.1 丸棒のねじり
9.2 一般形断面棒のねじり理論
9.3 ねじりの応力関数
9.4 楕円形断面棒のねじり
9.5 中空断面棒のねじり
9.6 薄肉部材のねじり
10.棒のせん断曲げ
10.1 問題設定
10.2 曲げの応力関数とせん断中心(半逆解法)
10.3 円形断面棒のせん断曲げ
11.平板の曲げ
11.1 基礎式
11.2 面外負荷qz=Psin(πx/a)sin(πy/b)を受ける四辺単純支持長方形板
11.3 四辺単純支持長方形板のたわみ(フーリエ級数表示)
12.異方性体の弾性論
12.1 直交異方性体
12.2 横等方性体
12.3 横等方性平板の曲げ(単純支持)
13.2次元弾性論
13.1 2次元弾性論とは
13.2 平面ひずみ
13.3 平面応力問題
13.4 エアリの応力関数
13.5 エアリの応力関数の極座標表示
13.6 軸対称問題の解
13.7 円孔を持つ無限板の応力分布
13.8 複素応力関数(平面ひずみ)
13.9 複素応力関数による応力解析
14.ヒルベルト問題
14.1 ヒルベルト問題とは
14.2 均質体のき裂内部に圧力を受ける問題
14.3 界面き裂
15.線形破壊力学入門
15.1 ウェスタガードの応力関数(引張・せん断)
15.2 集中力の解
15.3 ウェスタガードの応力関数(一般形)
15.4 連続分布転位による応力拡大係数の評価
付録:複素応力関数による応力解析
A.1 f(z)の共役関係
A.2 微分の連鎖則
A.3 変位あるいは回転についての複素応力関数表示
A.4 合力,合モーメントの複素応力関数表示
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【ろぼ様(ご専門:情報工学,CAE)】
私は情報工学科を卒業したあとCAEソフトの販売代理店に入社した。ソフトウェアや数値計算についてはある程度知っていたが材料力学や有限要素法については一から独学する必要があった。有限要素法の概念やCAEソフトの操作にはある程度習熟できたと思っているが,理論と実際のソフトの操作との間にギャップを感じていた。そこで,それらのギャップを埋めるために,材料力学の有名な問題について支配方程式を導出して,それを自分でプログラミングし,数値計算をしたい,そういうアプローチの本があればいいと思っていた。
そういうわけで弾性力学の本に今回初めて挑戦してみたが,上記の目的に限って言えば材料力学をきちんとマスターすることが先決で,弾性力学はやや高度すぎると感じた。
ただ,弾性力学を一通り履修した人が,内容を確認するにはよくまとまっていていい本だと思う。私は機械工学を独学しているのでこの本だけで弾性力学を理解するのは難しいように感じた。しかし,エッセンスはつかめたように思う。
なお,数値解法へのつながりについては,軽く述べられているにとどまり,これだけで即数値解法に応用するのは大変だと思う。
この本が理解できる読者であれば,ねじりや曲げといった基本の問題について,支配方程式をプログラミングしたり,CAEソフトで解析して,それらの解を比較すれば理解が深まるだろう。
本の内容としては,1~3章で,弾性力学の支配方程式の導出に必要な数学的基礎が説明されている。このあたりは学部2,3年までの内容で理解できるはずなので,これから弾性力学に挑む人にとってはよい復習となるだろう。4章では材料力学の基本であるひずみと応力について述べられている。5章からが本題であり,弾性力学の支配方程式やエネルギー原理について述べられている。7章で有限要素法との関係について軽くまとめてあり,8章以降で具体例が多数登場する。ここでは棒の曲げ,ねじり,平板の曲げ,引張などを扱っている。また,異方性体や2次元弾性論についても軽く述べられている。14,15章では破壊力学について述べられている。
これからも,この本を傍らに置きながら材料力学を始めとする機械工学の独学を続け,いつか弾性力学を理解できるようになりたい。
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掲載日:2021/06/09
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