機械系コアテキストシリーズ A-2
部材の力学 - 設計のためのはり・板・殻の弾性力学 -
弾性力学の理論的枠組みを,典型的なはり・棒・板・殻の各部材に適用し,わかりやすく解説
- 発行予定日
- 2025/08/下旬
- 判型
- A5
- ページ数
- 260ページ
- ISBN
- 978-4-339-04532-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
本書は,典型的なはり,棒,板,殻といった部材に弾性力学理論を適用した枠組みを「部材の力学」としてまとめた。機械構造物を構成する部材から,材料を創成する基本内部構造を構成する部材に至るまで適用範囲は拡がっている。
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
最近,検査データの改ざんや検査項目の不履行等,ものづくりの品質保証に関わるトラブルが散見している。安全・安心に関わるので,厳格な品質管理が求められる一方,多様にカスタマイズされた仕様を満足し,短期間での製品出荷を余儀なくされた競争環境に置かれているのも事実である。強度設計に関わる工程も,その環境の中では,シミュレーションにより最適解をより迅速に見出すことが求められ,AIを活用した解析ソフトの充実がその要求に合致するようになってきた。ただ,その解の妥当性を判断できるのは,設計者や解析者の持っている経験や知識であることはいうまでもない。その経験や知識の根底には,断片的なデータベースでは捕らえられない,連続的な当該分野の学術的基礎があり,理論が示唆する客観的な根拠が,その検証と妥当性確認(V&V)を裏打ちすることになる。
本書は,そのような知識枠の一つを与えることを目的にまとめられたものである。従来より,材料力学,弾性力学,塑性力学という学術的な枠組みがあり,それに基づく書籍は数多く出版されている。その意味では,本書は弾性力学に該当するが,はりや板,殻といった部材を対象にした弾性力学の理論をまとめた内容になっている。弾性力学の体系化には,Stephen P. Timoshenko(1878~1972)の寄与が大きく
S.P. Timoshenko and J. N. Goodier:Theory of Elasticity, McGraw Hill
S.P. Timoshenko and S. Woinowsky-Krieger:Theory of Plates and Shells,McGraw Hill
S.P. Timoshenko and J.M. Gere:Theory of Elastic Stability, Dover Publications,
Inc.
S. Timoshenko:Vibration Problems in Engineering, D.Van Nostrand CompanyInc.
等の弾性力学,構造力学,弾性安定論に関わる不朽の教科書があり,本書はそれらから抜粋してまとめたものにすぎない。それほど,弾性力学の理論的枠組みは完成された域に達しているといっても過言ではない。ただ,その理論を,部材と呼ばれる,形状を単純化させ,それに伴って力学的理論も簡単化され,実用性を著しく向上させる力学的な過程への適用においては,新たな学術的,技術的知見を創り出す余地は十分にある。本書は,典型的なはり,棒,板,殻といった部材に弾性力学理論を適用した枠組みを,「部材の力学(mechanicsof members)」としてまとめたものである。最近では,3D プリンターの普及により,複雑な構造や部材,部品の創成ができるようになった。これらを周期的に配置することにより意図的な内部構造を持つメタマテリアル(metamaterial)と呼ばれる新規材料等も提案されている。金属材料にかかわらず,高分子材料も触媒等の化学反応を利用した自己組織的な構造を具備した新たな膜体も実用化されるようになった。製品としての機械構造物を構成する部材から,材料を創成する基本内部構造を構成する部材に至るまで,この力学理論の適用範囲はさらに拡がりを見せているといえる。その意味では,必ずしも機械工学を学ぶ学生のみならず,他分野の学生や技術者も学べる構成が望ましいので,本文中の式の導出や,演習問題の解答は極力省略せずに執筆している。また,本書は,コロナ社の機械系コアテキストシリーズの[A:材料と構造分野]の一巻で執筆され,A-1材料力学(渋谷陽二,中谷彰宏,共著,2017年)とともに,学部で習得すべき一連の固体力学の基礎に位置づけられる。文中では,適宜当該書籍の「A-1材料力学」を引用しているので,あわせて学ぶことを薦める。
本書は,以上のような背景と意図を持って,学部で習う弾性力学の基礎を学び,部材の概念に展開した内容としている。著者が大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻に在職しているときに担当した,学部での材料力学,固体力学基礎(弾性力学),そして大学院における非線形構造力学の講義資料をもとにしており,その講義を受講したこれまでの学生諸氏から指摘された数多くの質問や疑問が,本書をまとめる上で大きな役割を果たしてくれたことはいうまでもない。ここに,深く感謝したい。
最後に,2024年3月で定年退職した大阪大学では25年以上に及ぶ教育研究の場を提供してもらい,研究室での活動に携わった教職員,学生,研究生の方々には感謝以外の言葉は見当たらない。本書を通じて御礼申し上げる。また,著者の過ごしてきた日々においては,家族(由佳,文美,惠美)の存在が不可欠で,本書を捧げる。
2024年12月師走の芦屋にて
渋谷陽二
☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
1. 部材の力学とは
1.1 部材とは
1.2 格子構造
1.3 ハニカム構造の力学
演習問題
2. 弾性力学の基礎
2.1 変位—ひずみ関係式(ひずみの適合条件式)
2.1.1 勾配テンソル
2.1.2 ひずみテンソル
2.1.3 主ひずみ
2.1.4 適合条件式
2.2 コーシーの応力と平衡方程式
2.2.1 運動方程式
2.2.2 応力テンソル
2.2.3 平衡方程式
2.2.4 主応力
2.3 一般化フックの法則(応力-ひずみ関係式)
2.4 変位で記述された平衡方程式(ナビアの式)と応力で記述された適合条件式(ミッチェルの式)
2.4.1 変位で記述された平衡方程式(ナビアの式)
2.4.2 応力で記述された適合条件式(ベルトラミ・ミッチェルの式)
2.5 エアリーの応力関数
2.6 ひずみエネルギー
2.7 仮想仕事の原理
2.7.1 仮想変位と仮想仕事の原理
2.7.2 相補仮想仕事の原理
2.8 最小ポテンシャルエネルギーの原理
演習問題
3. はりと棒の力学
3.1 はりの変形(ベルヌーイ・オイラーの仮説)
3.2 はりの断面のゆがみ
3.2.1 y0=0の図心に横荷重が作用する場合
3.2.2 y0≠0の位置に横荷重が作用する場合
3.3 中実棒のねじり
3.3.1 楕円断面棒のねじり
3.3.2 薄膜類似
3.3.3 長方形断面棒のねじり
3.4 中空棒のねじり
3.4.1 ねじり応力関数
3.4.2 薄肉断面棒のねじり
演習問題
4. 板の力学
4.1 板の基礎方程式
4.1.1 合応力
4.1.2 平衡方程式
4.1.3 キルヒホッフの仮説
4.1.4 板の支配微分方程式
4.1.5 ひずみエネルギー
4.2 長方形板の純曲げ
4.2.1 基礎方程式
4.2.2 合モーメントと曲率の変換
4.2.3 例題
4.3 分布荷重を受ける長方形板
4.4 円板の曲げ
4.4.1 極座標系での基礎方程式
4.4.2 たわみの一般解
4.4.3 軸対称問題の例題
演習問題
5. 殻の膜変形
5.1 回転対称殻の基礎方程式
5.2 軸対称荷重を受ける回転対称殻
5.3 内圧や自重を受ける回転対称殻
5.3.1 内圧を受ける円筒殻
5.3.2 内圧を受ける球殻
5.3.3 内圧を受ける円錐殻
5.3.4 内圧を受ける回転楕円体殻
5.3.5 物体力(自重)を受ける球殻
5.3.6 その他の例題
5.4 膜理論における回転対称殻の変形
演習問題
6. 殻の曲げ変形
6.1 回転対称殻の平衡方程式
6.2 回転対称殻の変位-ひずみ関係式
6.3 合応力および合モーメントの構成関係式
6.4 軸対称問題における基礎方程式
6.5 円筒殻の基礎方程式
6.5.1 平衡方程式
6.5.2 変位-ひずみ関係式
6.5.3 合力および合モーメントの構成関係式
6.6 円筒殻に軸対称荷重が作用する例題
6.6.1 ドンネルの基礎方程式と一般解
6.6.2 例題
演習問題
7. はり・板の大たわみと座屈(幾何学的非線形性と力学的不安定性)
7.1 はり柱の大たわみ
7.1.1 平衡方程式
7.1.2 変位-ひずみ関係式
7.1.3 支配微分方程式
7.1.4 境界条件
7.2 はりの大たわみ問題
7.2.1 一定の引張軸力が作用する単純支持はり
7.2.2 両端回転支持の単純支持はり
7.3 板の大たわみ
7.3.1 支配微分方程式(フォン・カルマンの式)
7.3.2 円板の大たわみ
7.4 板の大たわみ問題
7.4.1 単純支持された正方形板の大たわみ
7.4.2 固定支持された円板の大たわみ
7.5 はり柱の座屈
7.5.1 軸圧縮力を受けるはり柱
7.5.2 圧縮力を受ける剛接合されたフレーム
7.5.3 座屈後のはりの挙動(エラスティカの問題)
7.6 板の座屈
7.6.1 面内圧縮力を受ける平板
7.6.2 面内圧縮力を受ける薄肉管
7.6.3 種々の境界条件を持つ面内圧縮力を受ける平板
演習問題
付録A テンソル代数学の基礎
A.1 表記法
A.2 直交デカルト座標系でのテンソル
A.2.1 座標変換
A.2.2 線形演算子
A.2.3 テンソル
A.3 ベクトルとテンソルの微積分
A.4 曲線座標系でのテンソル
A.4.1 円筒座標系
A.4.2 球座標系
A.5 テンソルの時間微分
A.6 テンソルの極分解
付録B Micropolar弾性体のはり
B.1 新規な弾性特性を創造する格子構造
B.2 Micropolar理論とMicromorphic理論
B.3 はり近似と均質化有限要素定式化
B.3.1 2尺度均質化モデル
B.3.2 Micropolarはり近似と有限要素定式化
引用・参考文献
索引
関連資料(一般)
- 『部材の力学』演習問題解答







