計測技術の基礎 (改訂版) - 新SI対応 -

計測・制御テクノロジーシリーズ 1

計測技術の基礎 (改訂版)- 新SI対応 -

計測技術の全体を記し,2019年のSI改訂による再定義と測定精度の向上等を説明した。

ジャンル
発行年月日
2020/12/15
判型
A5
ページ数
250ページ
ISBN
978-4-339-03375-5
計測技術の基礎 (改訂版) - 新SI対応 -
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定価

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 本書では,科学技術の一つとしての計測技術の基本的な方法論を述べるとともに,社会の要請に応じて日々発展を遂げる計測技術が社会基盤となる要素をあわせて横断的に記載した。計測技術開発の目標は計測結果の信頼性の向上にあるものの,結果を得るまでの時間,結果を得るためのコストも同様に重要となる。本書を通して信頼性は不確かさを指標として評価することとし詳説し,また時間,コストは,計測技術を広く社会へ普及するための社会制度とのかかわりの点から計量標準供給,トレーサビリティーの説明を重要視した。これらを計測技術の方法論と併せて読むことにより,読者は社会の様々な局面で計測課題に柔軟に取り組むことができるだろう。
 計測の概説として第1章では,計測の目的を解説し,技術の発展と将来への展望を背景に全体像を示し,特に対象のモデル構築の重要性を強調した。計測のモデルは,計測技術の設計・開発及び評価にとって必須の項目である。また,計測により獲得される情報量の項は不確かさを取り扱う第5章への導入でもある。発展の歴史については時代を画する代表的な計測手法の事例を挙げた。

 冒頭述べた計測の社会的役割について第2章では,計測が社会で果たしている役割と,その中で解決を迫られる課題を述べた。社会の知的基盤としての単位系の進化と維持が強調され後章への導入となっている。計測技術と社会の関係では,科学的研究とのかかわり,産業計測,商取引の為の計測,環境計測,医療計測等とのかかわりを詳述した。読者は,計測に際しての課題解決,本シリーズの他の書への導入にあたって参考とすることができる。

 計測をシステムとして捉えることのメリット,そしてその方法について,第3章では,計測対象を知るための仕組みを示しつつ計測システムを解説し,計測される量や対象に依存せず共通に使われる技術を示した。つぎに信号の変換の基本を解説し,実例として基礎的なセンサの原理や構造を述べた。読者の計測技術開発にあたってのセンサの選択に大いに役立つであろう。

 計測結果の質を高める計測技法の基礎として,第4章では不確かさが増すために計測の障害の原因となるノイズを排除し,得られる情報の質を高める構造や信号処理の基礎を解説した。信号とノイズの関係を概説し,実装上のノイズ低減対策,信号のみを抽出する信号選択処理,アナログ信号処理の技法を詳述した。読者の計測技術の設計や評価にあたっての適用技術の改良に大いに役立つであろう。

 また,計測技術の信頼性評価の具体的方法について,第5章では,従来の誤差に代わって計測の評価を支配する不確かさについて,その原因を見極め,定量化し,正しく表現する手順を解説した。また,信頼性を不確かさによって科学的に記述する必要性を力説し,誤差,偏り,不確かさの関係について実例を基に示した。不確かさ評価は,計測システムのモデルの数学的記述に従って行われることから,第3章との関連は大きい。不確かさの原因は,具体的に分類しそれぞれの事例を示した。不確かさを用いた同じ対象について異なる計測の間の同等性評価についても記載した。読者は,国際標準となりつつある計測結果への不確かさ記述要求へ対応できるであろう。

 計量の標準となる単位及びその利用方法については,第6章では計測結果が正確で客観性をもつための計測標準の確立について歴史的過程や高い安定性を実現する技術,その基礎となる単位系や物理定数など,量の体系について解説した。国際単位系(SI)の仕組み及びそれを社会に実装(供給)するための計量標準について詳述した。メートル,キログラム,秒,アンペア,ケルビン,カンデラ,モルの7つの基本単位の定義とその実現方法は,2019年5月に大幅な改良が施されることにより,技術分野や地域差を超えた普遍性,時代に依らない不変性,科学的根拠からの不偏性が高められた。本書では,その詳述とともに,その他の計量標準との関係についても概説した。
 本書の執筆は1~4章は山﨑5,6章は田中が担当した。

 本シリーズの中で,本書は第1巻にあたり,計測技術への入門と計測技術の基盤である標準技術を解説する。入門の部分では,すべてを網羅することより技術の基礎を示し,計測の全体像を示すことを重視した。一方,計量標準や不確かさに関する議論を扱うのは本書のみである。標準は国家標準を確立し供給するために,最先端の技術が投入される最も革新的な部分である。

計測技術は,科学技術の分野をはじめとして,社会生活のあらゆる局面で重要な役割を果たしている。計測技術は代表的な横断型の技術である。幅広い分野で活用されるため,それぞれの分野で固有技術として発達し細分化された。細分化された技術の問題点として学問や技術の全体像が見えにくいことが,学習や技術の伝承に問題となり,若い世代の科学技術離れの原因の一つともいわれている。本書は計測技術の基礎を解説するにあたり,計測技術の全体像を示すことを重視した。

計測の目的は対象に関する不確かさを減らし,より明確な情報を得て,対象を正しく把握することである。そこで,不確かさを重要なキーワードとした。

本書の構成をつぎに述べる。1章では,計測の目的を解説し,技術の発展と将来への展望を背景に全体像を示した。特に対象のモデル構築の重要性を強調した。2章では,計測技術が社会で果たしている役割と,その中で解決を迫られる課題を述べた。3章では,計測対象を知るための仕組みを示しつつ計測システムを解説し,計測される量や対象に依存せず共通に使われる技術を示した。つぎに信号の変換の基本を解説し,実例として基礎的なセンサの原理や構造を述べた。4章では,不確かさが増すために計測の障害となるノイズを排除し,得られる情報の質を高める構造や信号処理の基礎を解説した。5章では,従来の誤差に代わって計測の評価を支配する不確かさについて,その原因を見極め,定量化し,正しく表現する手順を解説した。6章では,計測結果が正確で客観性をもつための計測標準の確立について歴史的過程や高い安定性を実現する技術,その基礎となる単位系や物理定数など,量の体系について解説した。

本書の執筆は1~4章は山﨑,5,6章は田中が分担し,事前に協議し,連携をとりながら進めた。それでも,前半と後半の記述の間に差があるのに気づかれるであろう。これは執筆前から予想されたことなので,著者らの考えをここで述べる。

本シリーズのなかで,本書は第1巻にあたり,計測技術への入門と計測技術の基盤である標準技術を解説する。入門の部分では,すべてを網羅することより技術の基礎を示し,計測の全体像を示すことを重視した。一方,計量標準や不確かさに関する議論を扱うのは本書のみである。標準は国家標準を確立し供給するために,最先端の技術が投入される最も革新的な部分である。

改訂版では,まさにこの技術が結実し現在科学的に最も普遍的かつ安定とされる計量標準の単位がメートル条約体制下で2019年5月決議されたこと(SI基本単位の改訂)を機会に,その内容の紹介と産業・社会への影響を取り上げている。

本書は全体像を示した入門書であると同時に,最先端技術を解説する二重の役割を負っている。私たちはこの課題を両立させたいと願い,努力した。

本書を計測技術の教科書として使用される場合について,著者としての希望を述べる。前半については,縦割の工学技術が多いなかにあって,横断型の構造をもつ計測技術の特徴と,その全体像を伝えて計測に対する興味が引き出されることを期待する。後半では,計測の信頼性を評価し社会へ役立てる技術を伝えることが重要で,そのために個々の話題については講義のなかでどこまで踏み込むか,その程度を適宜選択されることを妨げない。

著者らの思いがどのように伝わり,理解されるか,読者の判断に待つのみであるが,計測技術の奥深さと同時に最先端技術としての革新性が伝えられれば,著者らにとって大きな喜びである。

末尾ながら,計測自動制御学会の出版委員会委員として,本シリーズの構築に尽力された田村安孝教授,および原稿に目を通されて貴重なご意見をいただいた黒森健一博士に深く感謝する。また,終始本書の出版に尽力されたコロナ社に御礼を申し上げる。

2009年3月,2020年9月
山﨑弘郎・田中 充

1.計測とは
1.1 計測とセンシング
 1.1.1 計測の目的と役割
 1.1.2 計測,測定,計量,センシング
1.2 量の体系と計測対象のモデル
 1.2.1 計測対象のモデル構築と量的表現
 1.2.2 数式モデル,数値モデル
 1.2.3 モデルと実際との差異
1.3 計測により得られる情報量
 1.3.1 情報量
 1.3.2 計測で得られる情報量
1.4 計測技術発展の歴史
 1.4.1 質量の計測
 1.4.2 時刻・時間の計測
 1.4.3 長さの計測
 1.4.4 電信と電気抵抗の計測
 1.4.5 増幅器の利用
 1.4.6 伝送と記録―時空間軸上のデータ移動―
 1.4.7 ディジタル技術の影響
 1.4.8 ディジタル技術導入による計測の自動化と知能化
1.5 これからの計測技術の発展
 1.5.1 計測対象空間の拡大
 1.5.2 計測感度の拡大
 1.5.3 計測対象のパラダイムの変化
1.6 まとめ

2.計測の社会的役割と実例
2.1 知的基盤としての計量標準と単位量の体系
2.2 計測と科学的研究
 2.2.1 火星の位置計測から導かれたケプラーの法則
 2.2.2 火星の大気と土壌の分析
 2.2.3 月までの距離の計測
2.3 産業計測
 2.3.1 産業の品質管理と計測値の整合性
 2.3.2 自動化と計測―プロセス産業の自動制御―
 2.3.3 組立産業における対象認識
2.4 計量と取引
2.5 環境の計測
 2.5.1 計測の広域性と同時性
 2.5.2 地球環境のリモートセンシング―環境汚染の監視―
 2.5.3 大気中のCO2の計測
 2.5.4 自動車排ガスの計測
2.6 医療と計測技術
 2.6.1 人間対象の計測技術の課題
 2.6.2 医療用画像計測技術
2.7 まとめ

3.計測システムの構成―知るための仕組み―
3.1 計測システムの構造
 3.1.1 計測システムのモデル
 3.1.2 計測システムのモデルとノイズ
3.2 計測システムの機能
 3.2.1 計測機器の基本的機能
 3.2.2 センサによる情報獲得と信号変換
 3.2.3 基準量との比較
 3.2.4 結果の表示
 3.2.5 校正とトレーサビリティー
 3.2.6 ヒューマンインタフェース機能
3.3 測定の方式―偏位法と零位法―
 3.3.1 計測の評価―誤差から不確かさへ―
 3.3.2 偏位法
 3.3.3 零位法
 3.3.4 信号の変換と増幅による基本的方式の変化
3.4 センサによる検出と変換
 3.4.1 センサの変換機能
 3.4.2 信号変換とエネルギー変換
 3.4.3 受動形センサと能動形センサ
 3.4.4 受動形センシングと能動形センシング
 3.4.5 信号変換を支配する物理法則とセンサの構造―構造形センサと物性形センサ―
3.5 物理センサによる信号変換
 3.5.1 力,微小変位センサ
 3.5.2 位置,角度センサ
 3.5.3 エンコーダ―増減形と絶対値形―
 3.5.4 速度センサ,角速度センサ
 3.5.5 流速,流量のセンサ
 3.5.6 温度センサ
 3.5.7 光,赤外線センサ
 3.5.8 磁気センサ
3.6 化学センサの信号変換原理と構造
 3.6.1 物質成分計測の課題―感度と選択性―
 3.6.2 感度と選択性を両立させる前処理
 3.6.3 物質成分計測手法と機器の構造
3.7 化学センサによる変換
 3.7.1 赤外線分光によるガス分析
 3.7.2 pHセンサによる液体成分計測
 3.7.3 固体電解質形酸素センサ
3.8 アナログ信号処理―計測信号処理のための電子回路技術―
 3.8.1 アナログ信号処理の基軸,振幅,時間,周波数
 3.8.2 増幅―信号の振幅あるいはパワーの増強―
 3.8.3 インピーダンス変換および電圧比較回路
 3.8.4 線形演算回路
3.9 A-Dインタフェースの信号処理
 3.9.1 信号の符号化―A-D変換とD-A変換―
 3.9.2 標本化によるサンプル値と量子化
 3.9.3 A-D変換
 3.9.4 D-A変換
3.10 まとめ

4.計測の質を高める仕組み
4.1 計測の不確かさを増すノイズ
 4.1.1 信号とノイズ
 4.1.2 ノイズの発生源
 4.1.3 信号対ノイズ比(SN比)
 4.1.4 ノイズの遮へい技術
 4.1.5 耐ノイズ性
4.2 信号選択技術
 4.2.1 静的な選択構造
 4.2.2 補償構造
 4.2.3 差動構造
 4.2.4 動的な選択行動
 4.2.5 時間領域における表現
 4.2.6 時間領域における信号の選択
 4.2.7 周波数領域における表現
 4.2.8 周波数領域における信号の選択
4.3 アナログ信号処理―信号選択のための電子回路技術―
 4.3.1 アナログ信号処理の基軸,振幅,時間,周波数
 4.3.2 差動増幅回路
 4.3.3 差動増幅器の応用
 4.3.4 アナログフィルタ回路―周波数領域の処理―
 4.3.5 変調増幅器
 4.3.6 電圧安定化回路
4.4 まとめ

5.計測の評価と限界―不確かさ,精度,不確定性―
5.1 計測の信頼性とトレーサビリティー
5.2 計測の信頼性と測定の不確かさ
5.3 質量測定の計測システムのモデルと測定量の推定
5.4 計測システムのモデルと推定の偏りと不確かさ
5.5 不確かさの原因
 5.5.1 一様な確率分布と不確かさの起源
 5.5.2 いろいろな確率分布と不確かさ
 5.5.3 測定量の定義が不完全なための不確かさ
 5.5.4 測定量の定義を文字どおり実現することができないための不確かさ
 5.5.5 対象とする測定量を代表する測定資料が選ばれないための不確かさ
 5.5.6 測定に対する環境条件とその影響が十分に知られていないことによる不確かさ
 5.5.7 測定作業者による不確かさ
 5.5.8 機器の分解能または識別限界が有限であることによる不確かさ
 5.5.9 測定に使用する計量標準および標準物質の不正確な値に起因する不確かさ
 5.5.10 測定の方法および手順に組み込まれる近似と仮定に基づく不確かさ
 5.5.11 見掛け上の同一条件のもとでの測定量の繰返し観測の変動による不確かさ
 5.5.12 評価できない不確かさ
5.6 不確かさの評価と表現
 5.6.1 不確かさの表現方法
 5.6.2 電気抵抗校正での不確かさ評価の事例
 5.6.3 質量標準校正での不確かさ評価の事例
5.7 校正と計量標準供給

6.単位と計量標準
6.1 量の体系と単位系
 6.1.1 SIとその仲間
 6.1.2 SI以外の単位
 6.1.3 実用的な単位
6.2 計量標準
 6.2.1 国際単位系(SI)のための計量標準
 6.2.2 時間の単位の定義
 6.2.3 長さの単位の定義
 6.2.4 質量の単位の定義
 6.2.5 電気量の単位
 6.2.6 温度の単位
 6.2.7 測光量の単位
 6.2.8 物質量の単位
6.3 組立量などの国際計量標準
 6.3.1 電離放射線の単位
 6.3.2 圧力標準の単位
6.4 基礎物理定数

付録
引用・参考文献
索引

山崎 弘郎

山崎 弘郎(ヤマサキ ヒロオ)

東京大学 工学部 名誉教授
研究と教育の分野
計測技術 特にセンサ工学 センサの情報処理技術
       センサ応用技術 センシングシステム技術

田中 充

田中 充(タナカ ミツル)

研究分野は、
 ・基礎計量標準
 ・アボガドロ定数、キログラム原器
 ・密度の標準と精密測定
 ・ナノテクノロジーの為の計測
 その他、
 ・ISO活動、「ナノテクノロジー」、「量と単位」、「ファインバブルテクノロジー」

掲載日:2020/11/12

「計測と制御」2020年11月号広告