計量士および計測技術者のための 計量管理の基礎と応用

計量士および計測技術者のための 計量管理の基礎と応用

技術者が信頼できる測定を行うために必要なことは何か。SI 基本単位定義改訂に対応。

ジャンル
発行年月日
2020/06/12
判型
B5
ページ数
304ページ
ISBN
978-4-339-03229-1
計量士および計測技術者のための 計量管理の基礎と応用
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【読者対象】
・計量士をめざす人,及びすでに計量士として活動している人
・生産・研究開発の現場や試験・研究機関等で計測に携わっている人

【書籍の特徴】
 本書は,様々な状況下で行われる計測を効果的に運営・管理するための技術体系である「計量管理」(あるいは「計測管理」)について,広くかつ必要十分な詳細さをもって記述したものである。最近の話題である国際規格の役割の拡大,国際単位系(SI)の改訂,「測定の不確かさ」の導入等を反映した現代的内容となっている。本書一冊で,計量管理の実践のために必要な知識のほとんどを身につけることができる。
 本書は,一般計量士,環境計量士の資格をめざす人の受験用教科書として,またすでに計量士として活動している人があらためて計量管理の技術体系を学び直す教科書としての利用が期待される。同時に,企業や試験・研究機関の中で計測に携わる人々の座右の書としても役立つであろう。

【著者からのメッセージ】
「計測工学」の教科書は少なからず存在しますが,「計量管理」の教科書と言える著作はほとんど見当たりません。そのような状況の中で,計量管理の全体的な考え方から,計測とその信頼性確保に関わる様々な知識・手法等を有機的に関連付けた「教科書」を編纂したものが本書です。「計量管理」とはどのような技術体系かという問いに対して,本書が一つの解答となっていると考えています。

本書『計量士および計測技術者のための計量管理の基礎と応用』は,計量士国家試験における科目「計量管理概論」の内容をカバーすることを意識して作成した教科書である。「計測工学」について書かれた教科書は少なからず出版されているものの,「計量管理」について1冊にまとめた成書は,国内のみならず国外を見渡しても,筆者らの知る限り見当たらない。計量管理について知っておくべき内容をまとめた「教科書」の存在は,計量管理を学ぶためだけでなく,計量管理とはなにかの「定義」としても必要であろうというのが,本書執筆の動機である。したがって,計量士を目指す人が計量管理について基礎からじっくり学ぶことができると同時に,すでに計量士の資格を持つ人が改めて自らの知識・理解を確認し深める目的にも本書を利用いただけると考えている。

ただし,計量管理(あるいは計測管理)という技術分野は,広く計量・計測の目的を効率的に達成するための体系的な管理技術を扱うものであり,単に計量士が知っておくべき内容というにとどまるものではない。その意味で本書は,企業・校正機関・試験機関などにおける計測のマネジメント技術について,計測技術者が知っておくべき内容ともなっている。本書の副題を「計量士および計測技術者のための」としたのはそのためである。すなわち本書は
① 計量士国家試験の科目「計量管理概論」の内容を基礎から学ぶこと
② 測定に関わる技術者が,どうすれば信頼できる測定ができるかを学ぶこと
の二つの目的で利用されることを期待している。

本書は,1992(平成4)年に当時の計量管理協会から発行され,コロナ社から発売されていた『計測管理必携技術者の基礎と実践のために』をもとに,この間の技術や社会の発展を反映させる形で編集した。『計測管理必携』は計量管理の教科書に近いものであるが,それが作成されてからすでに28年の歳月が経過している。この間,1993年には,計量に関わる国際文書として「測定における不確かさの表現のガイド」(GUM)および「国際計量基本用語」(VIM)が出版された。これらは,1997年に結成された計測におけるガイドのための国際合同委員会(JCGM)などの活動を通じて,計量活動の中で共通に使うべきガイド・用語集として国際的に広く認知されるようになった。さらに,これらを規範文書として,国際的・国内的なトレーサビリティ体制が整備されるなど,計量をめぐる情勢が大きく変化している。このような状況の中で,『計測管理必携』におき換わる新しい計量管理の教科書として執筆したものが本書である。

本書を作成するために,日本計量振興協会の中に,つぎの委員会を立ち上げた。

計量管理新教科書作成委員会(委員長:今井秀孝)

さらに,作成委員会の下に,執筆者で構成するつぎの作業部会を組織した。

計量管理新教科書作成作業部会(部会長:小池昌義)

作成委員会では,計量管理に関わるさまざまな立場・観点から,新教科書の構成案の検討,作業部会が作成した原稿への修正意見の提示を行った。作業部会では,作成委員会の意見をもとに,原稿の執筆,調整,確認を行った。

各章の執筆担当は以下のとおりである。
1章 小池昌義,根田和朗
2章 小池昌義
3章 四角目和広,二ノ宮進一,榎原研正
4章 城野克広
5章 榎原研正,阿知波正之,四角目和広
6章 中本文男,小池昌義
7章 阿知波正之,小池昌義
8章 植松慶生,吉川勲,中野廣幸
作業部会の幹事である榎原研正氏には,本書作成の準備・実施,原稿内容のとりまとめなど一連の作業をお願いした。

執筆期間中に,計量・計測に関わる大きな動きが三つあった。一つめは,SI基本単位の定義の改訂で,2018年11月に国際度量衡総会で決議され,2019年5月に発効した。これについては,改訂内容を本書の記述に反映させた。二つめは,JISZ8103「計測用語」の改正である。VIM,GUMの用語をとり入れた大改正であり,また,改正後の計測用語JISは,今後の計量士の試験問題に大きく関わると考えられることから,できる限り改正JISの内容に対応した。三つめは,計量行政審議会答申を踏まえた政省令の改正である。具体的には,自動はかりが特定計量器として追加されたほか,指定検定機関の指定に器差検定を中心に行う区分,さらに,計量士の資格認定における一般計量士の実務経験期間の短縮などに関する改正が行われた。これについては1章1.3節の中に反映させた。

このように,新しい技術や知見を盛り込んだ計量管理の教科書を世に送り出すことができ,執筆者,編集者一同の喜びとするところである。最後に,本事業の実施を承認し,推進いただいた一般社団法人日本計量振興協会に深く感謝する。また,出版にあたって多大なご協力をいただいたコロナ社に厚くお礼を申し上げる。

2020年4月執筆者代表   小池昌義

1.計量管理の役割と課題
1.1 はじめに:計量管理で使われる用語
 1.1.1 「はかる」という言葉
 1.1.2 測定,計測,計量などの用語の選択
 1.1.3 測定の分野による計測関連用語の違い
1.2 計量管理の進め方
 1.2.1 計量管理の目的
 1.2.2 計量管理の業務
 1.2.3 測定の計画
 1.2.4 測定の実施
 1.2.5 測定結果の活用
 1.2.6 計量活動のマネジメント
1.3 計量管理と計量法
 1.3.1 計量法の歴史
 1.3.2 計量法の内容
 1.3.3 計量士の役割
1.4 計量管理と国際機関,国際規格
 1.4.1 計量関連の国際機関
 1.4.2 計測技術に関わる会議と規格
 1.4.3 試験所認定・マネジメントシステムに関わる規格
演習問題

2.計量の活用
2.1 社会における測定
2.2 公正な商取引のための測定
 2.2.1 測定結果の一致
 2.2.2 取引の場面
2.3 安全・安心のための測定
 2.3.1 試料のサンプリング
 2.3.2 標準物質によるトレーサビリティ
 2.3.3 規格適合性の問題
2.4 科学・技術のための測定
 2.4.1 科学と技術の目的
 2.4.2 測定と研究のプロセス
2.5 生産活動のための測定
 2.5.1 生産活動と品質
 2.5.2 生産システムと計測
 2.5.3 計測管理システム
 2.5.4 製品の誤差と測定の誤差
2.6 計量の活用のまとめ
演習問題

3.測定の基礎
3.1 量と単位
 3.1.1 量の表し方
 3.1.2 量体系と単位系
3.2 国際単位系(SI)
 3.2.1 SI導入の経緯
 3.2.2 SI基本単位とSI組立単位
 3.2.3 一貫性のある単位系
 3.2.4 SI接頭語
 3.2.5 SIとの併用が許容される非SI単位
 3.2.6 SIの用い方
3.3 測定の仕組み
 3.3.1 尺度
 3.3.2 測定の方式
3.4 測定対象量と測定システム
 3.4.1 測定対象量の選択
 3.4.2 測定システム
3.5 データの取扱い
 3.5.1 有効数字
 3.5.2 演算後の有効数字
 3.5.3 数値の丸め方
3.6 データの伝送と処理
 3.6.1 測定におけるコンピュータの役割
 3.6.2 データ伝送
 3.6.3 データ伝送の概要
 3.6.4 アナログ信号のデジタル信号化
3.7 計測と制御
 3.7.1 自動化とは
 3.7.2 制御系構成の考え方
 3.7.3 制御系の表現
 3.7.4 制御系の安定性と調整法
 3.7.5 信頼性と信頼度
3.8 信頼性・保全
 3.8.1 信頼性の概念
 3.8.2 機能性の設計
 3.8.3 故障と保全の分類
 3.8.4 信頼性の尺度と保全
 3.8.5 ワイブル分布
 3.8.6 システムの信頼性
演習問題

4.計量管理における統計的方法
4.1 統計学の基本的な用語と考え方
 4.1.1 母集団と標本
 4.1.2 確率変数と確率分布
 4.1.3 母平均と標本平均
 4.1.4 母分散,母標準偏差と標本分散,標本標準偏差
 4.1.5 確率変数の線形和
4.2 さまざまな確率分布
 4.2.1 正規分布および正規母集団からの統計量の分布
 4.2.2 その他の連続分布
 4.2.3 離散分布
 4.2.4 標本平均の分布
4.3 推定と統計的検定
 4.3.1 推定量と推定値
 4.3.2 母平均の点推定
 4.3.3 母分散の点推定
 4.3.4 母平均の区間推定
 4.3.5 二つの母平均の違いの統計的検定
 4.3.6 二つの母分散の違いの統計的検定
4.4 分散分析
 4.4.1 実験計画法と分散分析
 4.4.2 実験計画法と分散分析の用語
 4.4.3 一元配置の実験計画と分散分析
 4.4.4 多元配置と多段枝分かれの実験計画と分散分析
 4.4.5 直交表を使った実験計画
 4.4.6 分散分析による母分散の推定方法
4.5 相関分析
 4.5.1 相関分析の目的
 4.5.2 標本共分散・標本相関係数
 4.5.3 母共分散・母相関係数
 4.5.4 相関分析の注意点(層別,非直線の関係)
4.6 回帰分析
 4.6.1 回帰分析とは
 4.6.2 直線のあてはめ
 4.6.3 回帰直線による予測と推定
 4.6.4 回帰直線からのばらつきと直線回帰の妥当性
 4.6.5 回帰分析に基づく推定のばらつき
演習問題
4章付録
 付録A変量因子を含む二元配置の分散分析
 付録B直交表を使った実験計画と分散分析

5.測定の信頼性の確保と評価
5.1 測定の信頼性
5.2 測定の信頼性に関わる用語
5.3 測定のトレーサビリティ
 5.3.1 トレーサビリティとはなにか
 5.3.2 トレーサビリティの確保
5.4 測定標準
 5.4.1 さまざまな測定標準
 5.4.2 わが国の標準供給制度
 5.4.3 測定標準の国際整合性
5.5 測定器の校正
 5.5.1 校正とはなにか
 5.5.2 校正・補正・調整
 5.5.3 校正式の求め方
 5.5.4 校正後の測定誤差
 5.5.5 定期校正における点検と修正
 5.5.6 定期校正における校正間隔と修正限界の決め方
5.6 測定の信頼性の指標
 5.6.1 信頼性評価の必要性
 5.6.2 測定誤差
 5.6.3 不確かさ
 5.6.4 測定器の性能指標
5.7 不確かさの評価と利用
 5.7.1 測定モデル
 5.7.2 標準不確かさのタイプA評価
 5.7.3 標準不確かさのタイプB評価
 5.7.4 不確かさの合成
 5.7.5 不確かさの表現
 5.7.6 環境計量における不確かさ評価
 5.7.7 不確かさを考慮した合否判定
 5.7.8 測定結果の同等性
5.8 測定誤差の大きさの評価
 5.8.1 誤差評価と不確かさ評価の違い
 5.8.2 測定誤差の大きさ
5.9 測定のSN比とSN比誤差
 5.9.1 測定のSN比とはなにか
 5.9.2 SN比を用いた測定誤差の評価
 5.9.3 Miの厳密値が不明のときのSN比の評価
5.10 実際の測定環境下での測定の信頼性
 5.10.1 校正時の測定と実際の測定の違い
 5.10.2 実際の測定環境下での誤差の評価方法
 5.10.3 実際の測定環境下での誤差評価の例
 5.10.4 ゲージR&R
 5.10.5 測定の精密さが工程能力指数に及ぼす影響
5.11 測定の信頼性の確保
 5.11.1 信頼性確保の考え方
 5.11.2 環境計量における信頼性の確保
演習問題

6.測定システムの設計・評価・改善
6.1 計測設計の概要と運用
 6.1.1 計測設計とは
 6.1.2 計測設計で用いる品質工学の方法
 6.1.3 設計・改善の指標―損失関数とSN比
 6.1.4 実験計画法の活用
6.2 計測の経済性評価
 6.2.1 損失関数と測定誤差による損失
 6.2.2 損失関数の製造工程の管理への応用
6.3 測定のSN比の応用
 6.3.1 SN比の評価手順
 6.3.2 SN比による評価の特徴と計算例
6.4 パラメータ設計
 6.4.1 パラメータ設計とは
 6.4.2 パラメータ設計の手順
 6.4.3 パラメータ設計の事例
6.5 校正方式の設計事例
 6.5.1 校正方式の概要
 6.5.2 校正の種類ごとのSN比誤差の計算事例
演習問題

7.品質管理と計量管理
7.1 品質管理の基礎
 7.1.1 日本における品質管理の変遷
 7.1.2 品質とは
 7.1.3 品質の改善
7.2 品質の改善の技法
 7.2.1 数値データに対する技法
 7.2.2 管理図
 7.2.3 言語データに対する技法
7.3 検査
 7.3.1 検査の役割
 7.3.2 実施段階による検査の区分
 7.3.3 実施方法による検査の区分
7.4 母集団とサンプリング
 7.4.1 基本概念
 7.4.2 サンプリングの方法
7.5 品質管理における計測
 7.5.1 検査における測定
 7.5.2 製造工程における測定
 7.5.3 開発・設計における測定
7.6 標準化
 7.6.1 標準化とは
 7.6.2 産業標準化
 7.6.3 社内標準化
7.7 商品量目の管理
 7.7.1 商品量目とは
 7.7.2 製造事業者における商品量目の管理
 7.7.3 販売事業者における商品量目の管理
演習問題

8.計量管理と国際規格
8.1 計量管理における国際規格の役割
8.2 ISO/IEC 17025
 8.2.1 ISO/IEC 17025の特徴
 8.2.2 ISO/IEC 17025:2017要求事項の概要
 8.2.3 ISO/IEC 17025に基づく試験所認定制度
8.3 ISO 9001と計量管理
 8.3.1 ISO 9001の特徴
 8.3.2 プロセスアプローチ
 8.3.3 要求される計量管理
8.4 ISO 10012
 8.4.1 ISO 10012の特徴
 8.4.2 ISO 10012の使い道
 8.4.3 ISO 10012の構成
 8.4.4 ISO 10012の特徴的な要求事項
演習問題

付表
 付表1標準正規分布の上側確率φと上側100φ%点zφ
 付表2自由度νのt分布の上側確率φと上側100φ%点tφ(ν)
 付表3自由度ν1,ν2のF分布の上側5%点F0.05(ν1,ν2)

引用・参考文献
演習問題正解番号
索引


コラム
1章
 1.A 「計量」と「計測」
 1.B 計測,計量,測定などの計測用語のJISでの定義
 1.C なぜ用語が重要か
 1.D 「指示値」,「測定値」,「測定結果」
 1.E 計量士の沿革
 1.F VIMとGUM
3章
 3.A 量の次元
 3.B SI以外の単位系
 3.C 放射線に関わる量と単位
 3.D 国際単位系の2019年改訂
 3.E 四捨五入でかたよりが生じる場合
 3.F 10進数と2進数の間の変換
 3.G ラプラス変換
 3.H 制御工学
4章
 4.A 離散的な値と連続的な値
 4.B 確率論と統計学
 4.C 独立と従属
 4.D 中心極限定理の拡張
 4.E 分散の不偏性
 4.F 有限母集団修正
 4.G 「回帰」の由来
5章
 5.A 内部校正と外部校正
 5.B 回帰式と校正式
 5.C 点検間隔nと修正限界Dの最適化の例
 5.D 誤差か情報か
 5.E ばらつきかかたよりか
 5.F 「量」,「真値」,「測定値」
 5.G 要因効果の加法性
 5.H βの二乗の推定値とβの推定値の二乗
 5.I 誤差因子の水準
 5.J ゲージR&Rの由来
6章
 6.A 動特性と静特性
 6.B 技術用語の使い方の違い
7章
 7.A QC七つ道具
 7.B 抜取検査の用語
 7.C 合理的な許容差の決め方
8章
 8.A ISO/IEC 17025と試験所認定の歴史
 8.B 試験所認定の国際相互承認

日本計量新報〈計測と科学〉第3293・94号 掲載日:2020/07/06


書評 日本大学 矢野耕也

今から28年も前の平成4年,皆さんは何をしていただろうか。そしてその後「失われた十年」(さらに失われた二十年,と延長)などの言説を克服することなく令和という次世代に移ってすぐ,再び災難が降りかかってきており,何かと色々と見直しを迫られているな,と思っている矢先に,一冊の本が送られてきた。聞けば平成4年に発行した成書の,大幅リニューアルに位置づけられるとのことである。

平成3年の頭をピークに,転げ落ちる石のように堕ちていくのを誰しもが感じた日本経済が本格的に社会問題になってきたのは,平成7年頃からの大手銀行の統廃合などの金融危機が始まってからだろうか。その難しい時代の幕開けの時に,たまたまかも知れないが本書の前身である『計測管理必携 技術者の基礎と実践のために』が(社)計量管理協会により発行された。自分はその当時入社2,3年目の若造で,バブル景気時代の働き方のままのようなところもあり,また先輩社員より先に帰宅できる雰囲気もないために,残業を兼ねてさまざまな自主的勉強をしていた。そんな中,部署の皆で計量士を受験しようと新入社員が言い出したのはいいが,集合形式の勉強会に慣れずに,奇しくもコロナ社が出していた『一般計量士・環境計量士 国家試験問題の傾向と解説』の過去問集のコピーを受け取るだけで,それほど熱心には取り組まなかった記憶があるが,なにかと『計測管理必携』は参考にした。計量管理,計測システム,統計,品質管理,校正方式,実験計画法,工程管理,品質工学といった具合に,管理工学に必要な内容が幅広くかつコンパクトに網羅されており,全体に品質工学が前面に打ち出されていた点は好みが分かれるが,隠れた良書であると感じていた。

その後計量管理協会の統合などもあり久しく絶版になっていたが,28年ぶりのこの6月,コロナ社より判型もA5判からB5判へと大きくなって,新たに計量士国家試験における「計量管理概論」向けの参考書として書店に並ぶことになった。必ずしも前作の改訂版というわけではないが,旧作ではあまり触れられていない計量士の受験には必須の法令関係,その後にできた国際的な用語集やガイド,また国内の法改正への対応が丁寧に反映されている力作である。章立ても計量と測定が主軸となり,本書の性格がより明確となったと感じている。もっとも旧作の良い部分はそのまま残されている点も秀逸であり,その絶妙な割り振りに執筆陣の苦労が窺える。またコラムが多数掲載され,ちょっとした疑問にも回答があり,初級者から上級者までの対応がなされている。特に第8章は国際規格に関するもので,ISOに関する新しい知見が持ち込まれているし,さらに旧版ではあまり触れられていなかった計測の不確かさについても5.6,5.7で詳細に記されており,地道な分野ながらも確実に進化していることがわかる。

ところで大学では担当者の専門外の科目を講義しなければならないことがあり,その際の教科書選定には頭を悩ますことが多い。というのも,科目名が一般的な概念になるほど,これはという適したテキストが少ないためである。本書の筆者がまえがきで述べている,『「計測工学」の教科書はあるが「計量管理」についての成書が見当たらない』というのはまさにそれで,同書の発刊は計量に関わる教員からも歓迎されるのではないだろうか。まれに教科書やテキストの少なさを学問としての弱さの表れだと過激な論を吐く方がいるが,自分の経験からすると,先人が早くに取り組み,すでに社会に根を深く張っていて,より実務的で実学的で,現場中心で市民の目に触れないところで深く使われているものほど,改めて問われて見回すと,そういえば教科書がない,という状況が多々あるのではないだろうか。若干飛躍はあるが,科学の教科書は多いが,技術者の教科書は少ないということである。また教科書となると執筆に際しての読者層の想定も容易ではない。誰がどのような目的で読んでくれるか(さらには買ってくれるか)を絞った上で,それを踏まえた章立てや構成までのコンセプトが要求されることから,同書は国家試験対策のテキストも兼ねるということも含め,その辺にもかなり配慮したのではないかと感じる。決して求めやすい価格ではないかも知れないが,類書も少なく,量・質と共に充実の一冊であることから,計量士の受験者だけでなく,多くの技術者が手に取ることを願うばかりである。

©日本計量新報〈計測と科学〉第3293・94号 2020年(令和2年)6月28日(日)

掲載日:2020/07/31

日刊工業新聞広告掲載(2020年7月31日)

掲載日:2020/05/29

日刊工業新聞広告掲載(2020年5月29日)