電磁環境工学

電子情報通信レクチャーシリーズ D-16

電磁環境工学

EMC(電磁両立性)の規格を解説し,主な規格値や測定・試験法の具体的な内容を紹介。

ジャンル
発行年月日
2021/03/18
判型
B5
ページ数
206ページ
ISBN
978-4-339-01876-9
電磁環境工学
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定価

3,960(本体3,600円+税)

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電磁環境工学は,電磁両立性(EMC:ElectroMagenetic Compatibility)にかかわる学問分野の用語として使われています。EMCは機器の存在する電磁環境に悪影響を及ぼさず(エミッション),かつ,その電磁環境の中で誤動作しない(イミュニティ)機器の能力と定義されています。機器のEMCを実現するために,国内では,全ての機器からのエミッションが規制され,誤動作すると人命にかかわる自動車や医療機器などのイミュニティが規制されています。そのために,それらの機器の開発者は,エミッション測定やイミュニティ試験を実施して規制値をクリアするための努力をしています。

本書では,CISPR(国際無線障害特別委員会)やTC77(第77専門委員会:EMC規格を作成)などのEMC関連国際標準化組織の役割と歴史的な経緯を説明するとともに,関連するEMC規格の種類を解説します。また,主要なEMC規格値や測定・試験法の具体的な内容も紹介しています。

◆読者対象◆
・機器を開発・製造している企業の従事者,それを目指す学生
➡ EMCの基礎を習得できます
・企業や試験所のEMC技術者,それを目指す学生
➡ EMC関連組織の設立経緯とその後の展開,EMC規格値と測定・試験法の基本を習得できます

◆本書の特徴◆
・CISPR国内委員会の第4分科会(情報技術装置)副主任,Hグループ(エミッション共通規格)主任やTC77国内委員長,TC77国際議長などを歴任した筆者が,経験に基づいたEMC関連組織や規格値を紹介
・九州工業大学と武蔵工業大学(現 東京都市大学)で学部・大学院の学生に授業したEMC関連の内容を盛り込んでいる

◆各章の概要◆
1章:筆者が委員長を務めた電気学会の調査専門委員会での経験を基にして,ホームネットワーク,スマートグリッド,IoT機器などのEMC問題を解説
2章:筆者がNTT線路関係研究所で培った電話線に関するEMC問題のほか,EMC規格値で重要な測定の不確かさも紹介
3章:CISPR,TC77及びACEC(電磁両立性諮問委員会)の設立経緯とその後の展開,また,CISPRとTC77の役割分担を紹介
4章:CISPRのエミッション許容値の根拠,エミッション共通規格値とマルチメディア機器のエミッション規格値の関係を紹介
5章:エミッション測定法の基本を解説するとともに,測定サイトの評価法,エミッション測定の不確かさも紹介
6章:イミュニティ共通規格とマルチメディア機器のイミュニティ限度値を紹介
7章:イミュニティ共通規格に規定されている静電気放電,放射無線周波電磁界など7つのイミュニティ基本規格を紹介

◆さらに学びたい読者へ◆
基礎版の電磁環境工学から,EMCシミュレーション,自動車・医療機器のEMCなどにステップアップしたい方は筆者著の『EMC設計・測定試験ハンドブック』(科学情報出版)を参照してください。

◆キーワード◆
・電磁両立性(EMC: ElectroMagenetic Compatibility)
・エミッション規格値と測定法
・イミュニティ規格値と試験法
・CISPR,TC77,ACEC

ラジオを聴いているとき,近くをオートバイが走るとバリバリという雑音が聴こえてくる経験をしたことがあると思う.以前は自動車でも同じような雑音が聞こえてきたが,最近はそのような経験はほとんどない.このようにラジオに混入する雑音が少なくなったのは,CISPR(国際無線障害特別委員会)がすべての機器から出る妨害波を抑制する規格を作成しているからである.このように機器から妨害波が放出する現象をエミッションという.
一方,自動車が強い妨害波によって誤動作すると人命にかかわるため,ISO(国際標準化機構)のTC22(自動車など)がそのような誤動作を発生しないようにする規格を定めている.このように機器が妨害波の存在する環境でも性能低下せずに動作する能力をイミュニティという.このエミッションとイミュニティの両方を満足させる能力として,EMC(electromagenetic compatibility)という用語がある.すなわち,他の機器に影響を及ぼさず,かつ他の機器からの妨害に対しても影響されないという,聖人のような機器をEMCのある機器という.なお,JIS(日本産業規格)ではEMCを電磁両立性と訳しているが,両立性という用語になじみがないため,本書のタイトルを「電磁環境工学」と称している.

EMCのある機器にするためには,機器に要求されるEMC規格値,すなわちエミッションとイミュニティに関する規格値をクリアする必要がある.日本国内では,ほぼすべての機器がCISPRのエミッション規格によって規制がなされ,自動車と医用電気機器に関しては当該製品のイミュニティ規格によって規制がなされている.このEMC規格値をクリアするため,機器の開発者は,機器の設計段階からEMCを考慮した設計を行い,試作品に対しては,EMC規格値を満足しているかどうかを確認するために,EMCに関連する測定・試験を実施する必要がある.何度かの試作後に,EMC規格値を満足できる可能性が出てきたら,EMC規格に適合した測定・試験を実施して,試作品がEMC規格に適合していることを確認する必要がある.試作品がEMC規格に適合して初めて市場に製品を出すことができる.

本書では,企業でEMCを考慮した製品を開発・製造している人や,企業内やEMC測定・試験所でEMCの測定・試験を担当している人を対象として,CISPRやTC77(EMC規格を作成)などのEMC関連国際標準化組織の役割と歴史的な経緯を説明するとともに,関連するEMC規格の種類を解説する.また,主要なEMC規格値や測定・試験法の具体的な内容も紹介する.なお,本書は科学情報出版から出版された「EMC設計・測定試験ハンドブック」をレクチャーシリーズ用に内容を厳選して作成したため,詳細な内容を知りたい場合はこのハンドブックを参照されたい.

本執筆の機会を与えて頂いた電子情報通信学会教科書委員会委員長の辻井重男先生,適切なご助言を頂いた同委員会企画委員会委員長の原島博先生,さらに本書をまとめるにあたり辛抱強くご支援して頂いたコロナ社の方々をはじめ,ご関係の皆様に深謝する.

2021年3月
徳田正満

1.電気電子機器のEMC問題
1.1 通信ネットワークにおけるEMC問題
1.2 スマートグリッドの構成とEMC問題
1.3 IoT機器の構成とEMC問題
本章のまとめ
理解度の確認

2.EMCの用語・測定単位・測定不確かさ
2.1 EMC用語に関する国内外の規格
2.2 主要なEMC用語に関する解説
2.3 伝送線路関連用語
2.4 アンテナ関連用語
2.5 デシベルとEMCで使用される単位
2.6 EMC測定の不確かさ
 2.6.1 不確かさの歴史的経緯と定義
 2.6.2 電磁界測定に付随する不確かさの分類
 2.6.3 測定不確かさバジェット
 2.6.4 標準不確かさ
 2.6.5 合成標準不確かさ
 2.6.6 拡張標準不確かさ
本章のまとめ
理解度の確認

3.EMC規格の作成組織と種類
3.1 EMC規格の作成組織の概要
3.2 CISPR(国際無線障害特別委員会)
3.3 TC77(第77専門委員会)
3.4 ACEC(電磁両立性諮問委員会)
3.5 EMC国際規格の種類
3.6 TC77とCISPRの役割分担
本章のまとめ
理解度の確認

4.エミッション許容値
4.1 CISPRエミッション許容値の根拠
4.2 マルチメディア機器のエミッション許容値
4.3 エミッション共通規格の許容値
本章のまとめ
理解度の確認

5.エミッション測定法
5.1 CISPRの妨害波測定用受信機
5.2 周波数150kHz~30MHzの伝導妨害波測定法
5.3 オープンサイト及び電波無響室による放射エミッション測定法
5.4 エミッション測定の不確かさ
本章のまとめ
理解度の確認

6.イミュニティ限度値
6.1 イミュニティ共通規格の限度値
6.2 マルチメディア機器のイミュニティ限度値
本章のまとめ
理解度の確認

7.イミュニティ基本規格における試験法
7.1 静電気放電イミュニティ試験
7.2 放射無線周波電磁界イミュニティ試験
7.3 電気的ファストトランジェント/バーストイミュニティ試験
7.4 サージイミュニティ試験
7.5 無線周波電磁界で誘導された伝導妨害に対するイミュニティ
7.6 電源周波数磁界イミュニティ試験
7.7 電圧ディップ,短時間停電及び電圧変動に対するイミュニティ試験
本章のまとめ
理解度の確認

引用・参考文献
理解度の確認;解説
索引

kishizaw 様

測定不確かさ, CISPR32に則った測定方法, CVP, IEC61000-6-8 など盛り込んであり良書と思います。EMC新任担当者には最適と感じます。

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

徳田 正満(トクダ マサミツ)

1967年3月北海道大学卒業。1969年3月同大大学院修士課程了。同年日本電信電話公社に入社。1984年2月同公社茨城電気通信研究所線路研究室室長。1987年7月NTT通信網総合研究所通信EMC研究グループリーダ。NTTの研究所では,光ファイバケーブル,通信装置のEMC等の研究に従事。1996年~2001年九州工業大学電気工学科教授。2001年~2010年武蔵工業大学(校名変更:東京都市大学)情報ネットワーク工学科教授。2010年4月東京都市大学名誉教授。2010年~現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科客員共同研究員。2017年~2019年、東京工業大学工学院電気電子系特別研究員。工博。2004年電子情報通信学会フェロー。2007年IEEE Fellow。2020年電気学会フェロー。

以下に「電磁環境工学」(電子情報通信レクチャーシリーズ D-16)に関連する経歴を紹介。
(1) TC77関連
・1988年~1995年 IEC/TC77/WG6 Member「IEC 61000-2-5(電磁環境のクラス分類)」
・1993年~1998年 IEC/SC77B国内委員会(電気学会)委員長「高周波EMC現象」
・1996年~1999年 JIS/EMC制定委員会(電気学会)幹事
・1996年~1999年 JIS/EMC制定委員会第1分科会(電気学会)主査
・1998年~2005年 IEC/TC77国内委員会(電気学会)委員長「EMC」
・2003年~2005年 IEC/TC77/WG13 Member「イミュニティ共通規格」
・2006年~2011年 IEC/TC77 Chairman「EMC」
(2) CISPR関連
・1992年~1998年 CISPR/S/WG1 Member「エミッション共通規格」
・1992年~1996年 CISPR国内委員会第4分科会(郵政省)副主任「情報技術装置」
・1996年~1998年 CISPR国内委員会第4分科会(郵政省)主任「情報技術装置」
・1998年~2001年 CISPR国内委員会F分科会(郵政省)主任「家電機器・照明装置」
・2001年~2004年 CISPR国内委員会Fグループ(郵政省)主任「家電機器・照明装置」
・2002年~2005年 CISPR/H/WG1 Member「エミッション共通規格」
・2004年~2014年 CISPR国内委員会Hグループ(総務省)主任「エミッション共通規格」
(3) ACEC(電磁両立性諮問委員会)関連
・1992年~1993年 IEC活動推進会議ACEC分科会(日本規格協会)分科会長
・1993年~2001年 IEC活動推進会議ACEC分科会(日本規格協会)副分科会長「正田東京大学教授(当時)のACEC/CA(理事会)承認エキスパート就任に伴い、正田教授が分科会長に就任」
・2000年~2006年 IEC/ACEC SMB Appointed Member
・2001年~2006年 IEC活動推進会議ACEC分科会(日本規格協会)分科会長
・2009年~2011年 IEC/ACEC TC77 Representative Member
(4) 電子情報通信学会関連
・1987年~1989年 電子情報通信学会 環境電磁工学研究専門委員会 幹事
・1991年~1993年 電子情報通信学会 環境電磁工学研究専門委員会 委員長
(5) 電気学会関連
・1994年~1997年 計測技術委員会 情報・通信機器のノイズイミュニティ計測技術調査専門委員会 委員長
・2002年~2004年 電磁環境技術委員会 ホームネットワークとEMC調査専門委員会 委員長
・2004年~2006年 電磁環境技術委員会 高速電力線通信システムとEMC調査専門委員会 委員長
・2007年~2009年 通信技術委員会 高速電力線通信(高速PLC)調査専門委員会
委員長
・2008年~2010年 電磁環境技術委員会 電気電子機器のノイズイミュニティ調査専門委員会 委員長
・2011年~2014年 電磁環境技術委員会 スマートグリッドとEMC調査専門委員会 委員長
・2014年~2017年 電磁環境技術委員会 スマートグリッド・コミュニティとEMC問題調査専門委員会 委員長
・2018年~2021年 電磁環境技術委員会 IoT時代のシステムとEMC問題調査専門委員会 委員
(6) その他
・2008年~現在 日本適合性認定協会 試験所認定委員会 専門委員
・2011年~現在 電磁環境工学情報EMC(科学情報出版) 編集顧問
・2016年~現在 CISPRJ電波雑音委員会(VCCI協会) 委員長
・2017年~現在 VCCI協会評議委員会(VCCI協会) 評議委員長
・2018年~現在 KEC機能試験技術委員会(KEC関西電子工業振興センター) 委員長

『電子情報通信学会誌』104巻,10号,2021/10/1,1120頁,copyright(c)2021 IEICE 掲載日:2021/11/05

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