基礎から学ぶ制御工学と基本コンバータ回路

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 3

基礎から学ぶ制御工学と基本コンバータ回路

コンバータの制御に使われる古典制御からバッテリーに必須なリップルベース制御までを解説

ジャンル
発行年月日
2024/09/30
判型
A5
ページ数
222ページ
ISBN
978-4-339-01453-2
基礎から学ぶ制御工学と基本コンバータ回路
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定価

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基礎学問の習得に重点を置いた勉強を通して,より高いレベルで議論できるパワエレ技術者を目指してほしいとの思いから「シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用」を刊行する運びとなった。本シリーズは,大学における工学教育と企業における実践教育の橋渡しを想定しており,物理現象のイメージをもとに理論面をやや重視した内容になっている。シリーズ全体を通した学習によってインバータやコンバータなどの設計はもちろん,機器の故障・動作不良に際して科学的な方法で原因を究明し,問題解決にあたる高度な技術者になることを期待している。

コンバータは,外乱による出力電流や電圧の急変があっても,パワー半導体素子のオン/オフのタイミングを調整して所定の出力電圧を維持する制御機構が重要であり,電源回路の設計者は制御理論を熟知しておくことが大切である。コンバータの制御には「古典制御」が多用されていることから,シリーズ第3巻の本書では,制御の範囲を「古典制御」に限定して説明する。

1章では,基礎的なレベルから「古典制御」を詳しく解説する。2章では「古典制御」で重要な伝達関数を説明し,3章では負帰還によるシステム制御における過渡応答やシステムの安定性を説明する。続いて,4章では最適な制御系の選択に使用する根軌跡法,5章では伝達関数が不明確なシステムに適用するPID制御について簡単に説明する。
6章では代表的なDC—DCコンバータの基本回路を取り上げ,その動作概要を説明し,7章ではコンバータのパワー段の小信号等価回路モデルを導出し,それを使って8章では絶縁型,非絶縁型などの各種コンバータの伝達関数を導く。9章と10章ではループ補償回路と負帰還を実用的なコンバータ回路に適用して,その動作の安定性を検証する。11章では,バッテリーを使うスマートフォンやノートパソコンなどでは必須の技術であるリップルベース制御を解説する。

ノートパソコンやスマートフォンを家庭の壁コンセント(実効値100Vの交流)に直接接続すると,これらの機器は発火・発煙して壊れる。電子機器の正常な動作には,それぞれの機器に合ったACアダプタのようなコンバータが必要である。英語のconvertを語源としたコンバータは,直流(DC)や交流(AC)を直流に変換する電源回路であり,変換元の電源形態に応じてDC-DCコンバータ,AC-DCコンバータと呼ばれている。電子機器の多機能化・ディジタル化の進展に伴って,半導体素子のオン・オフ機能に基づくコンバータが複数搭載されている機器も増加傾向にある。

コンバータは,外乱による出力電圧や電流の急変があっても,パワー半導体素子のオン・オフのタイミングを調整して所定の出力電圧を維持する制御機構が重要である。この制御機構に関する理論は,スイッチング電源に限らず,ロボットや車などを自在に動かすために必要な学問である。最近は,シミュレータを使って試行錯誤を繰り返せば,一応,コンバータ設計ができるので,制御理論の学習を疎かにしがちであるが,「制御理論」を理解してシステム設計をすると,無駄な試行錯誤を大幅に削減できる。また,所望の動作をしないコンバータの多くは制御系に問題を抱えていることが多いので,電源回路の設計者は制御理論を熟知しておくことが大切である。

制御理論発展の歴史を振り返ると,「古典制御」の全盛期であった1930~1950年,システム動作を記述する微分方程式をラプラス変換した伝達関数を基に,システムの動作安定性,時間応答や周波数応答などが詳細に研究されてきた。そのなかでも,「ナイキストの安定判別法」(フィードバック制御系の安定性を判別する方法の一つ)はスイッチング電源回路設計の基盤になっている。

マイクロプロセッサが登場してきた1960年代以降は,システムの状態変数の時間推移を逐次計算する「現代制御」も研究されてきたが,コンバータの制御には今日なお「古典制御」が多用されていることから,本書では制御の範囲を「古典制御」に限定して説明する。

1~5章では,基礎的なレベルから「古典制御」を詳しく解説する。

2章では「古典制御」で重要な伝達関数を説明し,3章では負帰還によるシステム制御,その過渡応答やシステムの安定性を説明する。続いて,4章では最適な制御系の選択に使用する根軌跡法,5章では伝達関数が不明確なシステムに適用するPID制御について簡単に説明する。

なお,2章には,制御工学で頻繁に使われるボード線図に関する練習問題を設けて,3章以降の帰還システムの安定動作の説明が理解しやすくなるよう配慮した。

専門外の技術者にとって数学的な記述の多い制御工学は難しい学問と思われがちであるが,本書で例題や練習問題を解きながら制御の考え方を学び取り,地道に復習を繰り返しながら制御工学の本質を理解してほしい。

6章では代表的なDC-DCコンバータの基本回路を取り上げ,その動作概要を説明し,7章ではコンバータのパワー段の小信号等価回路モデルを導出し,それを使って8章では絶縁型,非絶縁型などの各種コンバータの伝達関数を導く。9章と10章ではループ補償回路と負帰還を実用的なコンバータ回路に適用して,その動作の安定性を検証する。11章のリップルベース制御は,極低電力(スタンバイ)状態からフル稼働モードにまで瞬時に移行するプロセッサ用電源に使用されている制御法であり,バッテリーを使うスマートフォンやノートパソコンなどでは必須の技術になっている。

なお,本巻では,寄生容量や配線インダクタンスなどの影響がない理想的なスイッチング電源回路を例にして制御の理解を目指す。寄生効果を含めたコンバータの動作解析については,本シリーズ第4巻を参照されたい。

2024年7月
谷口研二

1. 古典制御
1.1 システムの伝達関数
1.2 極の最適配置
1.3 支配極

2. ボード線図
2.1 交流入力信号に対する過渡応答
2.2 伝達関数(周波数特性)のベクトル軌跡と極座標表記
2.3 ボード線図
 2.3.1 伝達関数の周波数応答
 2.3.2 零を含む伝達関数の周波数応答
練習問題

3. 負帰還(フィードバック)
3.1 負帰還システムの伝達関数
3.2 ブロック線図の合成法
3.3 フィードバック制御
3.4 システムの動作安定性の判別法
 3.4.1 ラウスの安定判別法
 3.4.2 ナイキストの安定判別法
3.5 ループ補償
3.6 指令値追随性
3.7 コンバータに適した開ループ伝達関数
3.8 外乱・ノイズの抑制
 3.8.1 外乱・ノイズの影響
 3.8.2 二自由度制御系による指令値への追従性の改善

4. 根軌跡法
4.1 根軌跡の描画法
4.2 根軌跡のイメージ
4.3 根軌跡法の活用例

5. PID制御
5.1 PID制御の概要
5.2 パラメータ調整法
5.3 PID制御器の周波数特性

6. コンバータの種類
6.1 非絶縁型コンバータ
 6.1.1 降圧コンバータ
 6.1.2 昇圧コンバータ
 6.1.3 極性反転コンバータ
6.2 絶縁型コンバータ
 6.2.1 フライバックコンバータ
 6.2.2 フォワードコンバータ
 6.2.3 絶縁型コンバータのまとめ

7. パワー段の伝達関数
7.1 PWMスイッチの小信号等価回路
7.2 連続伝導モード(CCM)におけるパワー段の伝達関数
 7.2.1 降圧コンバータ
 7.2.2 昇圧コンバータ
 7.2.3 各種コンバータの伝達関数
7.3 不連続伝導モード(DCM)の伝達関数
 7.3.1 DCM-PWMスイッチの小信号等価モデル
 7.3.2 DCMの降圧コンバータの伝達関数
 7.3.3 各種DCM動作コンバータの伝達関数
7.4 絶縁型コンバータの伝達関数
 7.4.1 フライバックコンバータの伝達関数
 7.4.2 フォワードコンバータの伝達関数

8. ループ補償回路
8.1 ループ補償回路
8.2 極・零対の導入による位相ブースト
8.3 ループ補償回路の設計手順
8.4 Type-2のループ補償回路
8.5 Type-3のループ補償回路

9. 電圧モード制御
9.1 電圧モード制御系の回路構成
 9.1.1 PWMの伝達関数
 9.1.2 電圧モード制御の開ループ伝達関数
 9.1.3 降圧コンバータの開ループ伝達関数
9.2 降圧コンバータの各種閉ループ伝達関数
 9.2.1 入出力間の伝達関数
 9.2.2 出力インピーダンス

10. 電流モード制御
10.1 電流モード制御
10.2 開ループ伝達関数
10.3 電流モード制御システムの安定性
 10.3.1 コンバータの安定動作条件
 10.3.2 電圧モード制御ループの周波数特性
 10.3.3 二重帰還による安定なシステム動作
10.4 電流モード制御の回路方式
 10.4.1 ピーク電流モード制御回路
 10.4.2 平均電流モード制御回路

11. リップルベース制御
11.1 コンスタントオンタイム制御
 11.1.1 リップル検出回路
 11.1.2 スイッチング周波数
11.2 ヒステリシス制御
 11.2.1 基本動作
 11.2.2 スイッチング動作周波数
 11.2.3 改良版ヒステリシス制御
11.3 リップルベース制御法のまとめ

付録
A. DCMモードのPWMスイッチのモデル
B. 適正に配置した零と極を持つループ補償回路の位相ブースト

引用・参考文献
練習問題解答
索引

読者モニターレビュー【 Jin 様(業界・専門分野:制御工学)】

本書はシリーズ第3巻で、制御工学とコンバータ回路について書かれた、大学院生や技術者向けの書籍です。
第1章から第5章までは、制御工学の基礎が解説されています。一般的な古典制御の書籍に比べページ数は少なめですが、図や例を多用し、簡潔に説明されているため、実用レベルに達するには十分な内容となっています。特に、ボード線図が他の書籍に比べて多く登場し、その重要性を理解できるでしょう。ただ、システムの安定性に関する説明については、外乱やノイズに対する議論がもう少し深く解説されていれば、さらに良かったと感じました。また、PID制御に関しては、周波数解析だけでなく、シミュレーションを行う例題があった方がより理解が深まるでしょう。
第6章ではコンバータの概要が説明されており、電気回路の知識があれば、コンバータに詳しくない人でも理解できる内容になっています。
第7章から第11章までは、これまでの内容を踏まえ、コンバータの制御手法が紹介されています。電圧モード制御や電流モード制御に加え、近年注目されている固定オンタイム制御やヒステリシス制御についても学ぶことができます。ここでも、回路図やボード線図が多用されており、視覚的にわかりやすいです。ヒステリシス制御については、通常の制御の説明に加え、そのデメリットも解説されており、さらにその改良版も紹介されているため、非常に理解しやすい内容となっています。ただ、電圧モード制御の説明で突然「極零相殺」が出てくるので、この内容については制御に関する章で詳細に説明されていれば、さらに良書になったと思います。
総じて、本書は図や例を多用し、簡潔かつ明快に解説されているため、数式が多い書籍が苦手な方にもおすすめです。また、このシリーズの本を初めて手に取りましたが、他の巻も読んでみたいと思えるような、知的好奇心をくすぐる内容でした。

読者モニターレビュー【 ΦAΦ(ファイ) 様(業界・専門分野:総合電機、制御)】

シリーズの第三巻に当たる本書は、刊行にあたりにも書いてあるとおり、大学院生や企業の技術者に向けた実践的な内容を想定しています。

その宣言通り、第1章は電気回路のステップ応答波形から幕を開け、10頁では既に制御に最適な極配置の話に至ります。
第3章の序盤、40頁程度で制御工学そのもの理論的な話をまとめ、第4章の根軌跡、第5章の産業界で多用されるPID制御を挟んだ後、第6章以降は本格的にコンバータとその制御方法について触れていきます。

コンバータの種類(第6章)、パワー段の伝達関数(第7章)、ループ補償回路(第8章)、電圧モード制御(第9章)は触れている書籍はよく見かけますが、電流モード制御(第10章)、リップルベース制御(第11章)について踏み込む書籍は珍しいのではないでしょうか。

個人的には実務で使用している電流モード制御について、ピーク電流モードと平均電流モードの波形を出しつつ、メリット・デメリットについても解説があったのは助かりました。

昨今は大電力化に伴い電流モード制御を取り入れるにも一筋縄でいかない部分が多く、これらの制御に対する経験の浅いメンバーへの解説や、各自の復習にも役に立ちそうです。このシリーズの他の巻についても手に取ってみようと思います。

強いて要望を挙げるならば、書籍に記載された回路の動作を確認できるシミュレーションファイルなどがあれば良いなと思いました。

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

谷口 研二

谷口 研二(タニグチ ケンジ)

学生時代、大学と大学院に8年間在学しましたが、そのうちの2年間は全く学校には行かず、冬はスキー三昧、それ以外の季節は学生割引を使って一人旅をしていました。その報いでしょうか大学院を中退することになって、あまり気乗りのしない社会人になりました。入社した(株)東芝では11年間勤務し、集積回路製造技術の開発に従事しました。その間、留学先のMITでは会社に縛られない自由を知り、チャンスがあれば会社を辞めようと考えていました。帰国後、(株)東芝超LSI研究所の製造ラインを立ち上げて、お世話になった(株)東芝に恩返しをした後、意を決して1986年に大阪大学工学部に籍を移しました。そこでの25年間、学生と一緒にプロセス/デバイスシミュレーション、半導体デバイス工学、アナログ回路設計などを気ままに研究し、議論を通して多くのことを学生から学びました。すべての公職を退いた現在は、これまでに得た知識を産業界の若手技術者に還元すべくパワエレ回路教育に専念しています。
今から60年前を思い起こすと、当時最先端のトランジスタラジオで使われてた部品は数十個程度であり、電子部品さえ手に入れば、子供でもラジオの作製が可能でした。しかし1980年代の後半からのCMOS集積回路の台頭により、多くの回路がデジタル化されたことで、ハードウエアに加えてソフトウエアも重要視される時代になってきました。
スイッチング電源回路でも、コンデンサ、コイル、スイッチで構成されるコア部を駆動するために集積回路が使われています。さらに制御系全体のデジタル化が進むと、システム全体の動作を理解することは難しく、パワエレシステムの開発・製造には数多くの技術者が関わることになるでしょう。これからの技術者は開発チームのメンバーの一員として、自己の専門性を高めながらも仲間の技術分野を補佐する能力が求められます。技術革新の激しい分野の技術者にとって、技術分野を横断する幅広い知識を獲得して、それを製品に具現化し続けることは、逃れようのない宿命なのかも知れません。積極的に他の技術分野に挑戦し、新産業の芽を創出されることを期待しています。

掲載日:2024/10/01

電子情報通信学会誌2024年10月号