基礎から学ぶ電気回路と電子回路

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 1

基礎から学ぶ電気回路と電子回路

電気・電子回路の基礎的な内容から,パワエレ技術の基盤を短期間に学習できるよう厳選

ジャンル
発行年月日
2024/02/28
判型
A5
ページ数
220ページ
ISBN
978-4-339-01451-8
基礎から学ぶ電気回路と電子回路
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定価

3,740(本体3,400円+税)

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基礎学問の習得に重点を置いた勉強を通して,より高いレベルで議論できるパワエレ技術者を目指してほしいとの思いから「シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用」を刊行する運びとなった。本シリーズは,大学における工学教育と企業における実践教育の橋渡しを想定しており,物理現象のイメージをもとに理論面をやや重視した内容になっている。シリーズ全体を通した学習によってインバータやコンバータなどの設計はもちろん,機器の故障・動作不良に際して科学的な方法で原因を究明し,問題解決にあたる高度な技術者になることを期待している。

シリーズ第1巻の本書は,おもに大学の電気工学科などで学習する電気回路,電子回路の基礎的な内容であるが,パワエレ技術の基盤を短期間に学習できるよう内容を厳選した。
電気回路ではノートンの定理,テブナンの定理と「インピーダンス」を理解することがとても重要である。1章では,コンデンサとコイルの物理的なイメージをもとに電気回路の基礎を説明する。また,スイッチング素子を含むパワエレ回路では,特に過渡解析が重要である。2章では,ラプラス変換を用いた電気回路の過渡解析を説明する。1章と2章にはスイッチング電源回路を扱う技術者が,電気回路の基礎知識を確実に身につけられるよう,練習問題を用意した。
3章以降では,例題を通してスイッチング電源の制御回路で使われている電子(アナログ)回路の理解を深めていく。受動素子(コイル,コンデンサ,抵抗など)で構成される電気回路に能動素子を組み込むことで,さまざまな用途の回路ができ,その応用範囲が拡大する。スイッチング電源の制御回路には,コイル,コンデンサ,パワー素子に加えて,出力電流の計測やパワー半導体素子の温度計測,位相補償などに使用する電子回路が組み込まれている。これらの電子回路の動作が理解できるよう,能動素子の小信号モデルを用いたオペアンプの内部構造の理解から始めて,オペアンプを用いたさまざまな電子回路について説明する。電子回路の学習を通して,パワーデバイス,センサ,ゲート駆動回路や制御IC などに関するデータシートや論文が読み解けるものと期待している。

コンバータやインバータなどのスイッチング電源は,各種の応用システムに応じた電圧,周波数を提供し,システムの負荷変動に対して迅速に電力量を調整する役割を担っている。このスイッチング電源は,図1に示すように,電力変換回路と制御回路から構成されている。





電力変換回路は,電力損失の少ないコンデンサ,コイル,トランス,半導体スイッチを使用し,電力損失(ジュール熱)を伴う抵抗は使用しない。一方,制御回路は,入出力電圧/電流の実測値を基に,スイッチ切り換え信号を生成して主電源から負荷へ向かう電力の流れを制御する。この制御部には,低消費電力のアナログ回路やディジタル集積回路が使われている。

高校の物理では直流電源を抵抗分割して低電圧を出力する電気回路の例を学ぶため,抵抗を使って電圧変換されていると思われ勝ちであるが,コンデンサ,コイル,半導体スイッチの機能とそれらの動作を理解すれば,抵抗を使用せずに電圧変換できる。

電位を水位,電流を水流に例えて電圧変換を考えると,電荷を貯めたコンデンサ(貯水池)から電流を取り出すと電位が下がる。その流出量に相当する電荷をコンデンサに補給すれば電位は維持されるが,電荷補給時に主電源の電圧V_{in}と出力電圧V_{out}との差による電力損失(P_{loss}=(V_{in}-V_{out})I_{out})が避けられない。

1章では,コンデンサとコイルの物理イメージを基に電気回路の基礎を説明する。

スイッチング電源回路では,この電力損失を抑えるためにコイルの天邪鬼な性質を利用する。コイルに電圧を印加してもすぐに電流が流れるわけではない。逆に,コイルの電流を瞬時に止めることも難しい。この特異な性質を逆手にとってコイルをポンプ代わりに使うと,コンデンサ電位にかかわらず電荷を送出できる。このコイルの働きをイメージできるようになれば,コンバータ回路の理解は大きく進む。

パワエレ回路の動作を理解するもう一つの鍵は,スイッチの切り替え時に生じる過渡的な電圧・電流の変動である。時間とともに変化する物理量は,すべて微分方程式でその挙動が表現できる。「微分方程式…」と聞いた途端,頭がフリーズしてしまう技術者への朗報は,「ほとんどの微分方程式は解析的には解けない」ことである。技術者は,定係数の線形微分方程式をラプラス変換する方法だけ知っておけばよい。2章で説明するラプラス変換は電気回路だけでなく,パワエレ技術を支える別な学問分野(熱伝導工学,信号処理,制御工学など)でも使える優れものである。

3章以降では,図1の制御回路で使われている電子(アナログ)回路について説明する。受動素子(コイル,コンデンサ,抵抗など)だけで構成されている電気回路は利用範囲の制約が大きいが,能動素子を組み込むことでさまざまな用途の回路ができる。この能動素子を含む回路を電子回路と呼び,受動素子だけの電気回路と区別している。

スイッチング電源の制御回路には,コイル,コンデンサ,パワー素子に加えて,出力電流の計測やパワー半導体素子の温度計測,位相補償などに使用する電子回路が組み込まれている。この電子回路の動作を理解すれば,パワエレ技術者はセンサや制御ICなどのデータシートを読み解けるようになる。

電気回路と電子回路の最も大きな違いは,回路に能動素子が含まれているか否かにあるが,処理する信号が微小振幅なら非線形能動素子はバイアス点付近では線形回路とみなせるので,電子回路も電気回路として扱える。

大振幅の信号を扱う場合には,万能アナログ・デバイスのオペアンプ(OPA: operational amplifier)回路を使用する。

本書の後半では,能動素子の小信号モデルを用いたオペアンプの内部構造の理解から始めて,オペアンプを用いた回路の作り方について説明する。

本書では,スイッチング電源回路を扱う技術者が,電気回路の基礎知識を確実に身につけられるよう,1章と2章に練習問題を用意した。しかし,専門性が高くなる3章以降では,例題を通して当該章の理解を深める学習法を重視し,難しくなりがちな練習問題を省略している。

2023年12月
谷口研二

1. 定常状態の電気回路解析
1.1 直流回路解析
 1.1.1 キルヒホッフの法則
 1.1.2 重ね合わせの理
 1.1.3 テブナンの定理とノートンの定理
1.2 交流回路解析
 1.2.1 交流電源のフェーザ表記
 1.2.2 コンデンサのインピーダンス
 1.2.3 交流電圧と電流の位相差
 1.2.4 コイルのインピーダンス
 1.2.5 コイルとコンデンサの共振
 1.2.6 交流電気回路における電力損失
 1.2.7 電気回路の周波数応答
1.3 フーリエ級数
 1.3.1 フーリエ級数展開
 1.3.2 周期波形の実効値
1.4 定常状態の電気回路解析のまとめ
練習問題

2. 電気回路の過渡解析
2.1 線形回路の過渡解析
 2.1.1 回路における複素角周波数応答
 2.1.2 入力信号のラプラス変換
2.2 微分と積分のラプラス変換
2.3 回路方程式のラプラス変換
 2.3.1 一次伝達関数の過渡応答
 2.3.2 二次伝達関数の過渡応答
 2.3.3 無駄時間遅れのラプラス変換
 2.3.4 ラプラス変換のまとめ
 2.3.5 部分分数展開時の係数の求め方
2.4 過渡応答の初期値と最終値
2.5 初期値を考慮した過渡解析
 2.5.1 初期値の取り扱い
 2.5.2 初期値のある回路の過渡解析
2.6 フィルタ回路
 2.6.1 伝達関数G(jω)の周波数特性
 2.6.2 二次の低域通過フィルタ
 2.6.3 高次の実用的なフィルタ
 2.6.4 フィルタ回路実装時の注意
2.7 電気回路の過渡解析のまとめ
練習問題

3. 電子回路の基礎
3.1 MOSFETの小信号等価回路
3.2 ソース接地・ドレイン接地・ゲート接地回路
3.3 抵抗付加MOSFETの小信号特性
3.4 出力容量を考慮した回路の利得

4. オペアンプ
4.1 オペアンプの概要
4.2 オペアンプの電源回路
 4.2.1 カレントミラー回路
 4.2.2 PTAT回路
 4.2.3 参照電圧源回路
 4.2.4 参照電流源回路
4.3 オペアンプ内部の構成
 4.3.1 差動増幅回路
 .3.2 利得段
 4.3.3 出力段
4.4 オペアンプの周波数特性
 4.4.1 寄生容量の影響
 4.4.2 二段構成OTAの内部位相補償

5. 理想オペアンプを用いた回路
5.1 反転増幅回路
5.2 非反転増幅回路
5.3 ユニティゲイン回路
5.4 加算・減算回路
5.5 積分回路
5.6 微分回路
5.7 TIA回路

6. フィルタ回路の実現法
6.1 オペアンプ1個を使用した二次伝達関数の生成法
6.2 オペアンプ3個を使用した二次伝達関数の生成法
 6.2.1 一次伝達関数の実現法
 6.2.2 二次伝達関数の実現法
6.3 バイカッドフィルタ
 6.3.1 Tow-Thomasのバイカッド
 6.3.2 状態変数型伝達関数

7. 現実のオペアンプ
7.1 DC利得の影響
 7.1.1 反転増幅回路の利得
 7.1.2 反転積分回路の利得
7.2 オペアンプの帯域の影響
7.3 オフセット電圧の影響

8. オペアンプ応用回路(センサ信号の計測)
8.1 センサ信号の計測
 8.1.1 電圧信号のセンシング
 8.1.2 電流信号のセンシング
8.2 計装アンプ
8.3 外部位相補償

9. ディジタル機能を生かした電子回路
9.1 インバータ
9.2 インバータ・チェイン
 9.2.1 ディジタル・アイソレータ
 9.2.2 PLL
9.3 コンパレータ
 9.3.1 増幅器型コンパレータ
 9.3.2 正帰還型コンパレータ
 9.3.3 ヒステリシス・コンパレータ
 9.3.4 UVLO回路
9.4 LDOレギュレータ

練習問題解答
索引

読者モニターレビュー【 山内 善高 様 半導体業界・アナログIC設計会社勤務(業務内容:アナログIC設計(特にパワーマネジメント関係:DC-DC, LDOなど))】

本書は、パワーエレクトロニクス技術(特にスイッチング電源回路技術)の習得に向けた電気回路および電子回路の基礎に関する教科書です。

電気回路の重要項目の導入順序は、日本語で書かれた伝統的な電気回路の教科書の形を踏襲しています。すなわち、第 1 章:定常状態の回路解析(直流回路の諸定理、フェーザ表示を用いた定常状態の交流回路理論)から入り、次に第 2 章:回路の過渡応答解析(ラプラス変換を用いた定数係数線形微分方程式(時間領域)から代数方程式(s 領域)への変換)という日本の大学・高専の電気系学科で標準的に用いられている導入順序です。

ここで習得すべき電気回路の要点を挙げれば、
1. 回路素子(特にインダクタやキャパシタ)における電流・電圧の時間微分・時間積分の関係と物理的なイメージの一致
2. 微分方程式を扱うツールとしてのラプラス変換(時間領域から s 領域への変換)
3. s 領域の特殊な場合(過渡応答を終えた後の交流定常状態)としてのフェーザ表示
4. s 領域における伝達関数の極・零配置と時間領域応答との関係
などと考えられます。これらをきちんと身に付けられれば、このシリーズ第3巻以降での導入が推測される、スイッチング電源回路に特有の解析方法は、電気回路の基本的な手法の応用と実感できるはずです。

電気回路の章には、基礎的で本質的な練習問題(略解付き)が揃えられているので、自分でしっかり手を動かして解けば、パワエレ回路に進むために必要な電気回路の基礎知識が習得できるはずです。

3 章から 9 章は、「例題形式で学ぶ基礎アナログ電子回路」というような内容になっています。具体的には、トランジスタレベルの回路(トランジスタの小信号等価回路から始まり、オペアンプ内部回路のトランジスタレベルでの構成方法まで)、オペアンプをブラックボックスとして扱う回路(各種オペアンプ回路、能動フィルタ回路、センサ回路、オペアンプ非理想特性が与える影響など)、さらには大信号動作するアナログ回路(コンパレータ、PLLなど)などの重要な項目を、例題を通じて一通り勉強する形となっています。

スイッチング電源回路技術と一口に言っても、対象とする電圧・電流範囲によって、実際の回路実装方法は大きく異なり、必要とされるアナログ電子回路の知識は様々だと思われます。
例えば、入力電圧が数十 V 程度で出力電流が数十 A 程度の DC-DC コンバータであれば、高耐圧 IC プロセス(BCD プロセスなど)を使って、制御回路、保護回路のみならずパワーステージの FET とそのドライバ回路をモノリシック集積することが可能です。こういった電源 IC の、設計開発そのものに直接携わる場合には、トランジスタレベルのアナログ電子回路のより深い知識が必須です。その場合には、デバイス物理も含めたより進んだトランジスタレベルのアナログ電子回路の内容に進む必要があるでしょう。一方、システムレベルの設計で、パワエレ回路の構成要素として、市販の IC を選定する場合、あるいは、IC ベンダに専用 IC を設計委託する場合には、制御 IC やセンサ IC のデータシートを読み解くこと、または、必要な仕様書を記述できることが目標となるかもしれません。

アナログ電子回路は、パワーエレクトロニクスと同様に、専門性の高い技術分野です。本書でアナログ電子回路の基礎体系を例題を通して学ぶことは、自分が関わるパワエレ技術領域とアナログ電子回路との関わりを俯瞰し、目的に応じて深掘りするべき項目を把握するための手助けとなるはずです。

谷口 研二

谷口 研二(タニグチ ケンジ)

学生時代、大学と大学院に8年間在学しましたが、そのうちの2年間は全く学校には行かず、冬はスキー三昧、それ以外の季節は学生割引を使って一人旅をしていました。その報いでしょうか大学院を中退することになって、あまり気乗りのしない社会人になりました。入社した(株)東芝では11年間勤務し、集積回路製造技術の開発に従事しました。その間、留学先のMITでは会社に縛られない自由を知り、チャンスがあれば会社を辞めようと考えていました。帰国後、(株)東芝超LSI研究所の製造ラインを立ち上げて、お世話になった(株)東芝に恩返しをした後、意を決して1986年に大阪大学工学部に籍を移しました。そこでの25年間、学生と一緒にプロセス/デバイスシミュレーション、半導体デバイス工学、アナログ回路設計などを気ままに研究し、議論を通して多くのことを学生から学びました。すべての公職を退いた現在は、これまでに得た知識を産業界の若手技術者に還元すべくパワエレ回路教育に専念しています。
今から60年前を思い起こすと、当時最先端のトランジスタラジオで使われてた部品は数十個程度であり、電子部品さえ手に入れば、子供でもラジオの作製が可能でした。しかし1980年代の後半からのCMOS集積回路の台頭により、多くの回路がデジタル化されたことで、ハードウエアに加えてソフトウエアも重要視される時代になってきました。
スイッチング電源回路でも、コンデンサ、コイル、スイッチで構成されるコア部を駆動するために集積回路が使われています。さらに制御系全体のデジタル化が進むと、システム全体の動作を理解することは難しく、パワエレシステムの開発・製造には数多くの技術者が関わることになるでしょう。これからの技術者は開発チームのメンバーの一員として、自己の専門性を高めながらも仲間の技術分野を補佐する能力が求められます。技術革新の激しい分野の技術者にとって、技術分野を横断する幅広い知識を獲得して、それを製品に具現化し続けることは、逃れようのない宿命なのかも知れません。積極的に他の技術分野に挑戦し、新産業の芽を創出されることを期待しています。

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2024年 電子情報通信学会 総合大会プログラム

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日刊工業新聞広告掲載(2024年2月28日)

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