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基礎から学ぶ電気回路と電子回路

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 1

基礎から学ぶ電気回路と電子回路

受動素子だけで構成されている回路を電気回路,能動素子を含む回路を電子回路と区別し,前半では電気回路の基礎知識,後半では制御回路で使われている電子回路とオペアンプの内部構造の理解からそれを用いた回路の作り方を説明。

発行年月日
2024/02/28
定価
3,740(本体3,400円+税)
ISBN
978-4-339-01451-8
在庫あり

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読者モニターレビュー【 山内 善高 様 半導体業界・アナログIC設計会社勤務(業務内容:アナログIC設計(特にパワーマネジメント関係:DC-DC, LDOなど))】

掲載日:2024/02/26

本書は、パワーエレクトロニクス技術(特にスイッチング電源回路技術)の習得に向けた電気回路および電子回路の基礎に関する教科書です。

電気回路の重要項目の導入順序は、日本語で書かれた伝統的な電気回路の教科書の形を踏襲しています。すなわち、第 1 章:定常状態の回路解析(直流回路の諸定理、フェーザ表示を用いた定常状態の交流回路理論)から入り、次に第 2 章:回路の過渡応答解析(ラプラス変換を用いた定数係数線形微分方程式(時間領域)から代数方程式(s 領域)への変換)という日本の大学・高専の電気系学科で標準的に用いられている導入順序です。

ここで習得すべき電気回路の要点を挙げれば、
1. 回路素子(特にインダクタやキャパシタ)における電流・電圧の時間微分・時間積分の関係と物理的なイメージの一致
2. 微分方程式を扱うツールとしてのラプラス変換(時間領域から s 領域への変換)
3. s 領域の特殊な場合(過渡応答を終えた後の交流定常状態)としてのフェーザ表示
4. s 領域における伝達関数の極・零配置と時間領域応答との関係
などと考えられます。これらをきちんと身に付けられれば、このシリーズ第3巻以降での導入が推測される、スイッチング電源回路に特有の解析方法は、電気回路の基本的な手法の応用と実感できるはずです。

電気回路の章には、基礎的で本質的な練習問題(略解付き)が揃えられているので、自分でしっかり手を動かして解けば、パワエレ回路に進むために必要な電気回路の基礎知識が習得できるはずです。

3 章から 9 章は、「例題形式で学ぶ基礎アナログ電子回路」というような内容になっています。具体的には、トランジスタレベルの回路(トランジスタの小信号等価回路から始まり、オペアンプ内部回路のトランジスタレベルでの構成方法まで)、オペアンプをブラックボックスとして扱う回路(各種オペアンプ回路、能動フィルタ回路、センサ回路、オペアンプ非理想特性が与える影響など)、さらには大信号動作するアナログ回路(コンパレータ、PLLなど)などの重要な項目を、例題を通じて一通り勉強する形となっています。

スイッチング電源回路技術と一口に言っても、対象とする電圧・電流範囲によって、実際の回路実装方法は大きく異なり、必要とされるアナログ電子回路の知識は様々だと思われます。
例えば、入力電圧が数十 V 程度で出力電流が数十 A 程度の DC-DC コンバータであれば、高耐圧 IC プロセス(BCD プロセスなど)を使って、制御回路、保護回路のみならずパワーステージの FET とそのドライバ回路をモノリシック集積することが可能です。こういった電源 IC の、設計開発そのものに直接携わる場合には、トランジスタレベルのアナログ電子回路のより深い知識が必須です。その場合には、デバイス物理も含めたより進んだトランジスタレベルのアナログ電子回路の内容に進む必要があるでしょう。一方、システムレベルの設計で、パワエレ回路の構成要素として、市販の IC を選定する場合、あるいは、IC ベンダに専用 IC を設計委託する場合には、制御 IC やセンサ IC のデータシートを読み解くこと、または、必要な仕様書を記述できることが目標となるかもしれません。

アナログ電子回路は、パワーエレクトロニクスと同様に、専門性の高い技術分野です。本書でアナログ電子回路の基礎体系を例題を通して学ぶことは、自分が関わるパワエレ技術領域とアナログ電子回路との関わりを俯瞰し、目的に応じて深掘りするべき項目を把握するための手助けとなるはずです。