物理実験のためのアナログ回路入門

物理実験のためのアナログ回路入門

アナログ回路の基礎を学び,必要に応じてより高性能な回路を設計する力を身につける。

ジャンル
発行年月日
2022/03/18
判型
A5
ページ数
200ページ
ISBN
978-4-339-00982-8
物理実験のためのアナログ回路入門
在庫あり

定価

2,860(本体2,600円+税)

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実験科学においては、センサー(検出器)からの情報を毀損することなく、精確に増幅することが成功への鍵を握る。このために必要なアナログ回路はどうあるべきか?本書は、このような問題意識の下に、アナログ回路に初めて挑戦しようとする人々のために書かれた入門書である。
必要とされる知識は大学初年度程度の数学であり,トランジスタについても半導体の理論を前提とせず、簡単な実験に基づいて理解できるよう工夫している。エミッタ接地アンプの原理回路から入って,表紙に掲げたオペアンプまで,具体的な回路例によって設計能力を身に着けることを目標とした。高性能増幅器を実現するには「雑音」の性質を理解しなければならないが,この点でも第一原理からの説明を心掛けた。
本書の後半では,実践力の更なる向上を目指し,実際の実験に用いられた回路の例を多数とりあげて解説した。これにより物理実験を成功させたい―これが著者の願いである。

出版の経緯について本書はアナログ電子回路の入門的解説を目的としており,特にトランジスタ増幅器の動作原理,アナログ信号処理の考え方,ノイズ理論等を中心に紹介を行う。特徴としては
・大学初年次程度の数学および物理の知識を前提とするが,半導体や電磁気学の高度な知識は不要である。
・トランジスタ等は,簡単な実験結果に基づく観測事実から出発し理解する。
・多数の回路設計例を示すことで,実用的に使用可能な回路の設計能力を身につけることを目標にしている。
などが挙げられよう。また,本書は著者の一人である谷口敬(1952~2011)が著した電子回路セミナー用テキストに基づくものである。このテキストに対し,笹尾登と森井政宏が入門的解説と必要な追加修正を加えた。

現在はディジタル回路全盛の時代といわれる。これを反映してか,残念なことにアナログ回路を専門とする研究者や技術者は減少しつつあるように見受けられる。しかし考えてみるまでもなく,検出器からの1次情報を処理するのはアナログ回路である。したがって,検出器からの情報を正確に引き出すことができるか否かはアナログ回路の性能に依存し,その重要性が失われることはない。加えて,アナログ回路の技術も日進月歩である。本書がその面白さを伝え,興味をもっていただける人々を増やすことができるならば,筆者全員にとって望外の幸せである。

謝辞と献辞 本書の多くは,高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所および測定器開発室のサポートにより開催されたセミナーに基づくものです。セミナー開催に対して東京大学大規模集積システム設計教育センター(VDEC)をはじめ多くの大学や研究所に協力をしていただきました。この場を借りて感謝いたします。また支援していただいたエレクトロニクスグループのメンバー,有限会社ジー・エヌ・ディー,林栄精器株式会社,富士ダイヤモンドインターナショナル有限会社の方々に感謝いたします。本書を通じ一人でも多くのアナログ回路を開発する人が増えてくれれば本当にありがたいことです。そういう人たちとネットワークを作り,情報交換などをできれば幸いと考えています。(谷口)

谷口敬氏と私は数多くの実験をともにした仲間である。彼は無類のハードウェア好きであり,自宅も自力で建設する位の能力と情熱の持ち主であった。特にアナログ回路では右に出る人のいない第一人者であった。私が岡山大学に異動した後,彼にも岡山に来てもらったが,誠に残念なことに若くして逝去された。しかし,残された膨大な回路図や試行錯誤の記録が如実に物語るように,さまざまな業者(特に有限会社ジー・エヌ・ディーの宮澤正和氏や富士ダイヤモンドインターナショナル有限会社の武田利光氏など)の支援も得て,多数の回路を世に送り出し,素粒子,原子核を中心とする実験物理学の進展に貢献した。「出版の経緯について」でも触れたが,日本の物理実験分野を見渡す限り,アナログ回路の研究者は減少していると感じられる。そこで,こうした状況を少しでも改善する一石になればと考え本書を上梓することとした。これが谷口氏に対する感謝の意を表す最上の方法であると信ずる。(笹尾)

本書で紹介する実用回路の大半は谷口敬氏の長年に渡る開発・研究から産まれたものです。笹尾・谷口両氏の関わった実験に大学院生として参加した私は「実験に必要な装置はすべて一から設計し,性能を測定して最適化する」という彼らのアプローチに半ば辟易しながらも多大な影響を受けました。実験物理学が実践科学である以上,本で学んだ知識は自分で取ったデータから得られる経験にはけっして及びません。本書を読まれる方には谷口流を踏襲し,ぜひ回路を実際に組み立ててその挙動を確認していただきたいと思います。特に6章で紹介する波形整形回路やベースライン再生回路はその出力波形を見て初めて理解できる性質のものです。自分の手で作った回路が設計どおりに働いたとき,あなたにも谷口氏の天才の一端が垣間見えるでしょう。(森井)

最後になるが,表紙デザインについては岐土幸さんにお世話になった。また一部の回路図作成は水魚堂ソフトウエアを利用した。あわせて謝意を表したい。

2022年1月
著者一同

1. アナログ回路の基礎事項
1.1 電子回路と検出器
 1.1.1 アナログ回路とディジタル回路
 1.1.2 検出器について
1.2 オームの法則とキルヒホッフの法則
 1.2.1 オームの法則と抵抗
 1.2.2 キャパシタとインダクタ
 1.2.3 キルヒホッフの法則
 1.2.4 直列接続と並列接続
 1.2.5 エネルギーの貯蔵と散逸
1.3 電子回路理論における複素数と複素インピーダンス
 1.3.1 複素表示の導入とその有用性
 1.3.2 複素インピーダンス
1.4 伝達関数とその応用
 1.4.1 伝達関数とは
 1.4.2 伝達関数の応用
1.5 電圧源と電流源・入出力インピーダンス・伝送線
 1.5.1 電圧源と電流源
 1.5.2 入出力インピーダンス
 1.5.3 伝送線

2. トランジスタの動作とその特性
2.1 ダイオード
2.2 トランジスタの基本的動作特性
2.3 アンプの基本構成
 2.3.1 電圧増幅段
 2.3.2 電力増幅段
 2.3.3 アンプの基本構成とその種類
 2.3.4 バイアスと負荷線
2.4 トランジスタのより詳しい特性
 2.4.1 電流増幅率
 2.4.2 エミッタ抵抗
 2.4.3 アーリー効果
 2.4.4 温度依存性
 2.4.5 端子間寄生容量
2.5 基本アンプの入出力インピーダンス
 2.5.1 入力インピーダンス
 2.5.2 出力インピーダンス
2.6 そのほかのトランジスタ
 2.6.1 PNP型BJT
 2.6.2 電界効果トランジスタ

3. トランジスタを組み合わせた基礎回路
3.1 差動アンプ
3.2 電流源と電流ミラー
3.3 カスコード接続
3.4 エミッタフォロワとプッシュプル出力回路
 3.4.12 段エミッタフォロワ
 3.4.2 プッシュプル出力回路
3.5 応用5倍差動アンプ

4. オペアンプと帰還回路
4.1 負帰還回路
 4.1.1 非反転増幅回路
 4.1.2 反転増幅回路
 4.1.3 仮想接地
4.2 高オープンループ利得アンプ
4.3 オペアンプの周波数特性と負帰還
4.4 負帰還アンプの発振
4.5 位相補償とスルーレート
4.6 エミッタフォロワの発振

5. 検出器用プリアンプ
5.1 素子が発生する雑音
 5.1.1 熱雑音
 5.1.2 熱雑音の公式の導出
 5.1.3 ショット雑音
 5.1.4 ショット雑音の公式の導出
5.2 等価雑音電荷
 5.2.1 等価雑音電荷の導出
 5.2.2 等価雑音電荷の最小化
5.3 プリアンプの基本回路
 5.3.1 ベース接地アンプ
 5.3.2 エミッタ接地アンプ
 5.3.3 JFET入力アンプ
5.4 BJTアンプとJFETアンプの比較
5.5 波形の整形

6. 回路設計の具体例
6.1 プリアンプの設計
 6.1.1 ベース接地プリアンプ
 6.1.2 エミッタ接地プリアンプ
 6.1.3 JFET入力プリアンプ
6.2 波形整形回路の設計
 6.2.1 ポール・ゼロ補償回路
 6.2.2 低速信号用積分回路
 6.2.3 高速信号用積分回路
 6.2.4 電流帰還を使った波形整形回路
 6.2.5 ベースライン再生回路

7. アンプの周辺回路と実装技術
7.1 プリアンプ入力保護回路
7.2 アナログ・ディジタル変換回路の例
 7.2.1 ディスクリミネータ
 7.2.2 A/Dコンバータ
 7.2.3 フラッシュ型ADC
 7.2.4 複数のA/D変換の組み合わせ同時使用
7.3 回路シミュレーションの有用性と限界
7.4 アンプの性能測定
7.5 検出器・アンプ系の発振
7.6 まとめアナログ回路技術の将来

付録A ラプラス変換とその応用
A.1 ラプラス変換とは
 A.1.1 ラプラス変換の定義
 A.1.2 ラプラス変換の特徴
A.2 ラプラス変換とその性質
 A.2.1 ラプラス対
 A.2.2 ラプラス変換の性質
A.3 ラプラス変換の応用
 A.3.1 微分方程式の初期値問題RC充電回路
 A.3.2 微分方程式の初期値問題直列RLC回路と減衰振動
 A.3.3 複素周波数領域におけるRLC線型素子
 A.3.4 回路解析におけるラプラス逆変換

付録B 半導体の視点から見たトランジスタ動作原理
B.1 pn接合とダイオード
 B.1.1 p型半導体とn型半導体
 B.1.2 pn接合
 B.1.3 ダイオード
B.2 トランジスタ
 B.2.1 トランジスタの構造
 B.2.2 トランジスタの動作原理
 B.2.3 トランジスタの動作モード
 B.2.4 アーリー効果

引用・参考文献
問の解答
索引

読者モニターレビュー【 JUY 様(ご専門:機械・電気設計)】

本書は物理現象をとらえる為の、今日常に発展を続ける多種多様なセンサにとって、不可欠な信号の低雑音増幅回路の設計知識を身につけることをゴールとしている。
基本的な構成要素の知識と回路構成の説明を押さえつつ、要所要所にコラムを挟み、前出の理論をイメージとして理解できるよう工夫してあり、物理実験をこれから試みる諸学生向けにとって教書となるよう基礎知識を与える前半部分は、極力シンプルに簡潔に書かれていて無駄がない構成になっている。

とくにユニークなのは、後半から検出器用のプリアンプの雑音の乗り方について、実際の回路設計例を示した上で、解説とともに、実用レベルの知識を詳しく紹介している点である。
その上で、回路の実装についても言及することで、実用を考える上でも抜かりのない構成になっている。

アナログ回路の設計ができる基礎知識を与えた上で、本書のテーマである物理実験に必要な低雑音増幅というテーマに取り組むという回路の実装方法についても言及しながら、物理実験に取り組む学生に包括的な知識を与える試みがなされている。
珍しい試みの書籍と思えた。
この点で非常にユニークな書籍となっている。
これから物理現象の検出に取り組む、大学・高専などの学生にお勧めしたい。

読者モニターレビュー【 Ipce Akitovski(ご専門:センサ用アナログ集積回路設計)】

アナログ電子回路の入門書として、基礎的な解説や定義の導入から始まる。中でもパッシブプローブのインピーダンスの例題や伝送線路の記述は、計測に携わる初学者にとってイメージと計算を関係付けるよいきっかけになるだろう。4章までは、一般的なバイポーラトランジスタをベースとした他の電子回路に関する教科書と大きな差異はないと思う。
一方で、5章以降はノイズを考慮した設計手法として、等価雑音電荷というあまり見かけないパラメータを導入している点や、微小インパルス電流をセンサ出力として想定している点がユニークである(つまり、高速トランスインピーダンスアンプがモチーフ)。等価雑音電荷は、電子数単位でノイズを定量化できるため、物理的な意味を関連付けて理解を促すことができるが、著者らが指摘しているように、1/fのように色のある雑音を扱う際には理論と実測が一致しないという欠点がある。また、設計においても、重み関数と回路の伝達関数の関連付け(素子定数の設定)が容易ではないため、個人的には一般的な要求仕様(信号帯域=ノイズ帯域、ノイズフロア、ダイナミックレンジ等)から各種パラメータを決める方が効率は良いように思う。波形整形も、文脈を変えれば等価器(イコライザ)の設計と捉えることができるだろう。
本書は、他の和書に比べノイズについて非常に丁寧に解説がなされ、また、低ノイズな高速トランスインピーダンスアンプの設計に焦点が絞られている。そういった意味では、一般的なアナログ電子回路設計に関する入門書とは異なるが、実際の物理計測において、そのような用途で小規模な回路(ディスクリートにて実装)を検討している者にとっては参考になるだろう。一方、過去数10年に渡る集積回路(IC)の微細化や多くのアナログ回路技術の発展により、より高速・高性能・高機能な計測用ASICの設計も可能になっている。回路の設計自由度も非常に高いため、興味のある読者は、さらなる可能性探求のために、こういった方面を深堀りしてみるのも良いかもしれない。

谷口 敬(タニグチ タカシ)

笹尾 登(ササオ ノボル)

専門は高エネルギー素粒子実験。深非弾性散乱やパリティ非保存実験(SLAC),K中間子崩壊実験やアクシオン探索(KEK)など多数の加速器実験に従事。近年は原子や分子を利用して宇宙や素粒子に関わる基礎物理実験を行っている。

森井 政宏

森井 政宏(モリイ マサヒロ)

実験素粒子物理学者。京都大学大学院在学時に,共著者の谷口・笹尾両氏より高エネルギー物理学を学ぶ。OPAL実験とBABAR実験に参加した後,ハーバード大学で教鞭を取る。近年はATLAS実験で粒子検出器の改良に携わりつつ,標準模型を超える新しい物理を探索中。

掲載日:2022/03/02

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掲載日:2022/03/01

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掲載日:2022/03/01

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