人工知能チップ回路入門

人工知能チップ回路入門

人工知能の情報処理を支える回路技術を,原理から応用までカバーする入門書。

ジャンル
発行年月日
2024/10/07
判型
A5
ページ数
208ページ
ISBN
978-4-339-00992-7
人工知能チップ回路入門
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定価

3,630(本体3,300円+税)

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【対象読者と位置づけ】
 人工知能(AI)の発展が社会に深い影響を与えている中、成長基幹産業である半導体や集積回路に興味を持ち、その知識をもとに特に発展が期待されるエッジ側での人工知能処理に関心のある若手技術者や学生の皆さんへの手頃なページ数の入門書である。

【書籍の特徴と構成】
 人が知的と感じる情報処理を行う技術であるAIによる処理は、深層学習の成功以降、脳の神経回路を人工的に再現することをめざしたニューラルネットワークを用いた処理と一体化して発展している。また、LSIチップ(大規模集積回路)および半導体メモリの技術発展は、より高速、高電力効率、低コストにてAI処理を実行する上で重要である。
 本書では、このAI処理専用の集積回路「人工知能チップ」について、3つの面から入門レベルの内容を学ぶ。本書によって、より専門的な技術内容の理解や関連論文を読むのに必要な知識を得ることができる。

1.人工知能チップ回路の構成(2章~4章)
 ニューラルネットワークを電子回路で組むのが人工知能チップ回路となる。ニューラルネットワークの基本的な説明から始め、電子回路の基本も概説した上で、回路ブロックレベルで人工知能チップの構成を示していく。多数の演算ユニットを搭載し並列処理が可能な構成となっている。また、エッジでの展開をめざして、人工知能チップの低電力化・高性能化の技術を述べる。

2.半導体メモリとコンピューティング(5章、6章)
 人工知能チップの高性能化に重要であるニアメモリコンピューティング、インメモリコンピューティング技術を紹介する。今後の発展が期待されている分野である。ここでは、半導体メモリの基礎説明から始める。次に主要な各種メモリを解説し、これらを人工知能チップへ適用する手法の初歩を述べる。

3.組み合わせ最適化問題を解く全結合型イジングマシン(7章、8章)
 社会の至る所で課題となる組み合わせ最適化問題を解く全結合型イジングマシンは、ニューラルネットワークのひとつであるホップフィールドネットワークと同じ構成となる。この全結合型イジングマシンのLSI実装を詳細に示し、人工知能チップの高性能化を考えるための具体例として示していく。同時に、その重要性から開発が進む全結合型イジングマシンそのものの理解も深める。

1947年12月のトランジスタ基本動作の発見に始まり,1950年代末における集積回路の発明,そして1960年代半ばにムーアの法則が提唱されて以来の約60年間,世界的に半導体技術の発展は長く続いている。その技術革新の速さにより,関連産業を大きく成長させてきたためである。半導体技術はコンピュータ,デジタル通信,PCや携帯電話およびデジタルカメラを浸透させ,そこにモバイル技術が加わることでスマートフォンやタブレット,デジタル音楽プレーヤー,ストリーミングサービスインフラ・機器へとつながり,生活を豊かにしていった。そして,現在はデータセンタでのクラウドコンピューティングと多量データ処理の時代の最中にある。

このような半導体技術の進展の中,近年人工知能分野で大きな技術革新が起きた。2010年代から深層学習と呼ばれるニューラルネットワークの多層化が進み,これを適用した人工知能(AI)の爆発的な普及が起こったのである。画像認識,音声認識,および自然言語処理などの分野で深層学習が大きな進展を遂げ,生成AI含めAIの応用範囲が大幅に拡大している。翻ってこの発展を支えるためには膨大な計算能力が必要となり,半導体技術をさらに推し進めようとしている。現在は特定用途の半導体集積回路であるグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)の進歩が著しい。GPUは高度な並列処理能力を持ち,大規模なデータセットでの計算に適しているが,その一方で消費電力は増大し続けており限界も近く,次なる発展が必要となってきてもいる。また,エッジコンピューティングの普及が進み,AI処理をエッジ側の機器で行う需要も高まっている。データをローカルで処理することで,通信容量や遅延を減らしセキュリティを高める。ここでは使用可能な電力そのものが制限される。

このため,AI処理を高速かつ低電力に効率的に行うために最適化された専用集積回路である人工知能チップ(AIチップ)向けの回路技術がその重要性を増している。これは,おもには結線論理方式でプロセッサとプログラムのみでは到達できないレベルの電力性能比を実現する技術であり,また論理とメモリの融合も狙う技術である。

本書は,発展が期待されている,エッジ側でのAI処理を行うAIチップ回路の入門的な部分を扱う。筆者の研究室では,AIチップ回路やその関連分野をテーマに,卒業研究生(4年生)や修士課程の学生が研究に取り組んでいる。本書は,研究室の学生に知っておいてほしい内容や研究室の学生が実際に行ったいくつかの題材をまとめたものである。集積化された論理回路の構成をプログラムできるFPGAの普及により,AIチップ回路についてのアイデアを検証することも容易になってきている中,本書はこの分野に興味のある理工系の学生や若手の技術者にとっての入門書となろう。

2024年8月
河原尊之

1.人工知能処理とLSI
1.1 AIチップが切り拓く未来
1.2 情報処理用集積回路とAIチップ
1.3 人工知能(AI)処理と集積回路
1.4 エッジAI処理
1.5 本書で述べる内容と構成
1.6 まとめ

2.人工知能LSIの構成要素と基本電子回路
2.1 脳の情報処理およびニューラルネットワークとAIチップ
2.2 人工知能LSI(AIチップ)の構成要素
 2.2.1 人工ニューロン
 2.2.2 人工ニューロンでの処理と人工ニューラルネットワーク
 2.2.3 積和演算
 2.2.4 非線形変換演算
 2.2.5 アナログ回路とデジタル回路
2.3 基本的な電子回路ブロック
 2.3.1 CMOSデジタル回路
 2.3.2 デジタル回路ブロック
 2.3.3 アナログ回路ブロック
2.4 まとめ

3.人工知能集積回路の基本構成とさまざまなニューラルネットワーク
3.1 ニューラルネットワーク推論機能LSI化の構成
 3.1.1 ニューラルネットワークの表現力
 3.1.2 推論機能の基本的なLSI回路化
3.2 ニューラルネットワーク学習機能LSI化の構成
 3.2.1 ニューラルネットワークの学習
 3.2.2 誤差逆伝搬法概説
3.3 ニューラルネットワークの構造
 3.3.1 フィードフォワードネットワーク
 3.3.2 畳み込みニューラルネットワーク
 3.3.3 リカレントニューラルネットワーク
 3.3.4 ホップフィールドネットワーク
 3.3.5 ボルツマンマシン
3.4 より進んだニューラルネットワークの構造とLSI化
3.5 まとめ

4.人工知能LSIの低電力化・高性能化
4.1 エッジAIにおける集積回路
4.2 スパースニューラルネットワーク
4.3 低ビット精度ニューラルネットワーク
 4.3.1 低精度への変換方法
 4.3.2 二値化,XNOR-ネット,三値化
 4.3.3 学習時の課題
4.4 ハードウェア最適化とFPGA
 4.4.1 ハードウェア最適化
 4.4.2 FPGA
4.5 高性能人工知能処理LSI
 4.5.1 スパイキングニューラルネットワーク
 4.5.2 超並列行列演算
4.6 学習機能の搭載
4.7 量子コンピュータ
4.8 人工知能LSIと脳型コンピュータ
4.9 まとめ

5.半導体メモリとコンピューティング
5.1 コンピューティングにおけるメモリの役割
 5.1.1 コンピューティングとメモリ
 5.1.2 メモリの階層構造
 5.1.3 半導体メモリの分類
 5.1.4 不揮発性メモリの不揮発性原理
5.2 半導体メモリの基本回路構成
5.3 各種の半導体メモリ
 5.3.1 揮発性メモリ
 5.3.2 不揮発性メモリ
5.4 まとめ

6.ニアメモリコンピューティングとインメモリコンピューティング
6.1 ニアメモリコンピューティング
 6.1.1 構成と効果
 6.1.2 大容量混載メモリ
 6.1.3 演算回路とメモリの3次元実装
 6.1.4 規格例
6.2 インメモリコンピューティング
 6.2.1 基本構成と動作
 6.2.2 SRAMを用いた構成
 6.2.3 DRAMを用いた構成
 6.2.4 RRAMおよび不揮発RAMを用いた構成
6.3 まとめ

7.組合せ最適化問題とイジングマシン
7.1 イジングモデル
 7.1.1 強磁性体とイジングモデル
 7.1.2 組合せ最適化問題とイジングモデル
 7.1.3 QUBO:制約なし二値変数2次形式最適化
 7.1.4 全結合型イジングモデル
 7.1.5 イジングモデルにおける最小エネルギー状態探索方法
7.2 イジングマシン
 7.2.1 量子イジングマシン
 7.2.2 CMOS集積回路によるイジングマシン
 7.2.3 隣接結合イジングマシンと全結合イジングマシン
 7.2.4 イジングモデルにおける同時スピン更新
7.3 イジングマシンLSIの構成要素
7.4 イジングマシンが応用される問題例
7.5 まとめ

8.全結合型イジングマシンLSI構成例
8.1 全結合型と隣接結合型
8.2 全結合型イジングマシンのLSI化のための基本構成
 8.2.1 基本構成
 8.2.2 シミュレーティッドアニーリング
8.3 全結合型イジングマシンLSIチップの構成例
 8.3.1 分離アレー型全結合型
 8.3.2 相互作用セルの配置方式
 8.3.3 スピンスレッド方式
 8.3.4 複数スピンの同時更新
 8.3.5 512スピン全結合イジングマシン
8.4 スケーラブル化の構成例
 8.4.1 スケーラブル化
 8.4.2 スケーラブル化具体構成例
 8.4.3 スケーラブル全結合型イジングマシンの実装例
8.5 全結合型スケーラブルイジングマシンを用いた求解例
8.6 まとめ

9.今後の展開
9.1 人工知能LSIシステムの発展
 9.1.1 人工知能LSIシステム
 9.1.2 人工知能LSIシステムの発展に影響を与える技術分野
9.2 LSI技術の発展
 9.2.1 半導体加工技術・デバイス技術・新材料・新機能
 9.2.2 光素子技術など
9.3 まとめ

引用・参考文献
索引

河原 尊之(カワハラ タカユキ)

掲載日:2024/09/02

電子情報通信学会誌2024年9月号