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人工知能チップ回路入門

人工知能チップ回路入門

AIとニューラルネットワークによる情報処理専用の集積回路「人工知能チップ」について,原理から最新の開発例や動向までを追った入門書。AI処理の高速化・効率化・低電力化に必須のハードウェア技術を紹介する。

発行年月日
2024/10/07
定価
3,630(本体3,300円+税)
ISBN
978-4-339-00992-7
在庫あり

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読者モニターレビュー【 安藤 陸 様(業界・専門分野:電気工学専攻の学生)】

掲載日:2024/10/04

まず、本書は電気電子系の学生が研究室配属の時期に持っている程度の知識がある人向けの本だと思う。電気回路、アナログ電子回路、デジタル電子回路、コンピュータアーキテクチャ、AIの構造などの基礎知識を事前に持っていた方が良いだろう。CMOSや誤差逆伝搬といった用語を聞いて全く理解できないような人には、この本は読みづらいかもしれない。

人工知能チップ回路『入門』とあるように、個々の複雑な回路には踏み込まないが、現在の人工知能チップの様々な例や今後の展望について俯瞰できる内容となっている。また、最後の章ではイジングマシンの構成例についてかなり具体的に述べられている。この構成のイジングマシンをここまで詳細に解説しているのはこの本だけだろう。

第1章から第4章では、AIの構造やAIチップの構成、高速化、低消費電力化についての基礎が説明されている。第5章から第8章は、この本の中で特に力が入れられていると感じた部分であり、第5章と第6章で「メモリとそれを活かしたコンピューティング」、第7章と第8章で「イジングマシンとそのLSI構成例」が解説されている。

著者の河原尊之教授は、日立製作所でDRAMやフラッシュメモリ、STT-RAMなどのメモリの研究に長く携わっていた研究者のようだ。そのためか、第5章ではSRAM、DRAM、フラッシュメモリ、磁気抵抗メモリ(MRAM)、強誘電体メモリ(FeRAM)、相変化メモリ(PCRAM)、抵抗変化メモリ(RRAM)などの各種メモリについて非常に分かりやすく説明されている。

第6章では、インメモリコンピューティングについて説明されている。演算装置と記憶装置を分けたアーキテクチャでは、メモリへのアクセスが性能のボトルネックとなり、電力消費の大部分を占めている。そのため、メモリ内で超並列に積和演算を実行するインメモリコンピューティングが注目を集めている。その構成例がいくつか示されている。

第7章では、組み合わせ最適化問題がイジングモデルとして表せることやその最適解を求めるシミュレーティッドアニーリングと呼ばれる手法について説明したあと、それをハードウェアとして実装したイジングマシンについて説明されている。マックスカット問題や地図塗り分け問題、巡回セールスマン問題などのイジングマシンで解くことのできる問題の例やそれらがイジングモデルではどのようなエネルギーの式として表せるかについても説明されている。

第8章では、シミュレーティッドアニーリングによるスピンの更新方法を数式を用いて説明したあと、それをLSI化する方法について詳しく説明されている。

誤植がいくつか見られ (正誤表が公開されると思う)、読みづらい部分も多少あったが、私個人としては、メモリやイジングマシンで曖昧な理解をしていた部分がすっきりと整理できる有益な本であった。