核融合炉入門 - フュージョンエネルギーへの道 -

シリーズ 21世紀のエネルギー 16

核融合炉入門 - フュージョンエネルギーへの道 -

核融合炉開発の経緯,ITERなど最新の研究を解説。核融合炉を発展史から理解できる一冊

ジャンル
発行年月日
2025/05/28
判型
A5
ページ数
176ページ
ISBN
978-4-339-06838-2
核融合炉入門 - フュージョンエネルギーへの道 -
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定価

2,860(本体2,600円+税)

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  • 内容紹介
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  • 目次
  • 著者紹介

【読者対象】
理工系技術者に限らず,核融合の知識を求める大学生やビジネスマンを対象としている。

【書籍の特徴】
核融合炉開発の現状に至る経緯,実用化に近づきつつある最先端の研究をわかりやすく解説する。核融合に関連する原子物理やプラズマ物理の解説から順に書けば,読者が一番知りたい核融合炉の話は本の後半になってしまうので,本書は第1章だけで核融合炉の概要を把握できるように説明し,以降では,範囲を広げつつ内容を深めて解説を進める。普通はあまり語られない失敗の歴史や見えにくい事情にも言及した。なお,名称変更の政府方針に沿い,本書では核融合をフュージョンと記載している。

【各章について】
第1章では,フュージョン(核融合)炉とはどんなものか,最小限の範囲で全体を解説する。
第2章では,第1章を読んで自然と浮かんできそうな,よくある質問への答えを説明する。
第3章では,磁場方式フュージョン炉を,第1章を復習しながら,さらに詳しく解説する。
第4章では,フュージョンエネルギーの資源や,炉の運用に必須の三重水素の増殖の仕組み,燃料に関するフュージョン炉特有の問題とその解決案などを解説する。
第5章では,国際協力で建設中の実験炉ITERの計画について解説する。
第6章では,フュージョン炉実用化に大きな進捗をもたらした過去のイノベーションと,将来に期待されているイノベーションを,磁場方式フュージョン炉の要素技術に沿って解説する。
第7章では,これまでに日本でなされたフュージョン炉の概念設計について紹介する。
第8章では,磁場方式とはまったく異なるレーザー方式のフュージョン炉について解説する。
第9章では,米英のベンチャー企業が10年以内にフュージョン炉を実用化など,最近よく聞く報道について,筆者の見解を述べ,具体的に問題点を指摘する。
第10章では,日本と世界のフュージョン炉開発計画を解説する。日欧が先行し,中国がそれに追いついてきている。
第11章では,実用化に向けた計画への筆者からの提言を述べる。

【著者からのメッセージ】
本書は,フュージョンでなくフュージョン炉の解説書です。この一冊で,フュージョン炉の主要技術,実用化研究の歴史・現状・将来展望がわかることを目指して執筆しました。そのため,プラズマの話から始まる解説書とはまったく異なる構成にしています。網羅,羅列ではなく,実用化に焦点を絞って,簡潔にわかりやすく記述しました。

【キーワード】
核融合,フュージョン,エネルギー資源,超伝導,核融合材料,核融合炉工学,ITER,原型炉

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

核融合はかつては夢といわれてきたが,半世紀以上にわたる研究開発により,いまや手の届くところになった。ただし,最近の報道でしばしば伝えられるような10年で実用化可能,というようなものではない。この本では,核融合技術開発を続けてきた専門家として,核融合開発の本当の現状と将来の見通しについて,わかりやすく解説する。

本書名を核融合入門でなく核融合炉入門としたのには意図がある。核融合の本として,原子物理やプラズマ物理の解説から順に書けば,核融合炉の話になるのは本の後半ということになりがちだ。本書では,それらの解説は最小とし,第1章のフュージョン炉の基本を読み終わるころには,核融合炉とはどんなものか,その概要はわかるようになっている。それ以後の章では,少しずつ内容を深め,範囲も広めながら,さらに詳細がわかっていく構成とした。

本書では,一つ,読者優先で決断したことがある。核融合技術全体を取り扱う解説書では,関係者からの苦情が出ないように,実用化への重要度に関係なく,研究者から見た分野バランスに気をつかって内容を構成することが少なくない。しかし,これは読者には関係がないことだ。本書では,そのような気づかいは一切しないことにし,40年以上にわたる著者の核融合炉研究の経験に基づき,核融合炉の実用化研究に特に重要と著者が考えることを中心に書いてある。そのため,核融合関連の研究のすべてを網羅してはいない。一方で,ふつうは書かないような失敗の歴史や見えにくい事情まで記載した。著者にとっては,読者の皆様に,核融合炉開発の現状に至る経緯や,実用化に近づきつつある最先端の研究などをわかっていただけることが最も重要なので,このような選択をした。それ以外の意図はない。

核融合エネルギーは,世界的にはfusion energyと呼ばれるのが普通である。2023年6月8日に,高市早苗大臣(当時)から,日本語名称も「核融合エネルギー」から「フュージョンエネルギー」に変更するとの政府発表があった。遡れば,2002年6月の核融合エネルギー連合講演会の特別講演で,元参議院議長の山東昭子氏が名称の変更を提案されたのがその起点と思う。それから22年かかったが,ようやく正式に変更された。それに沿って,これ以後の本文では,核融合の語は,原則として「フュージョン」と表記している。

本書が,読者の皆様のフュージョンエネルギーの理解に少しでも役立てば幸いである。


謝辞

本著の執筆にあたり,キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志氏には,フュージョンエネルギーへの疑問点のご指摘や,一般に向けた説明の仕方などについて多数のアドバイスをいただきました。この本がまとめられたのは,それらがあったからこそでした。ここに心からの謝意を表します。

また,出版にあたってご尽力いただいたコロナ社様,ならびに21世紀のエネルギーシリーズの一つとして受け入れ,内容の確認もいただいた日本エネルギー学会様に感謝いたします。

2025年3月
岡野邦彦

1. フュージョン炉の基本
1.1 フュージョンエネルギーとは
1.1.1 核分裂反応とフュージョン(核融合)反応の違い
1.1.2 重水素・三重水素の反応
1.2 1億℃を閉じ込める方法(磁場とレーザー)
1.2.1 磁場による閉じ込め
1.2.2 慣性力による閉じ込め(レーザー方式)
1.3 過去の開発史と日本の試験装置 JT-60SA
1.3.1 磁場方式フュージョン炉の基本構造
1.3.2 磁場方式による開発の歴史
1.4 国際協力で建設が進むフュージョン実験炉 ITER
1.4.1 ITER 計画
1.4.2 今後の計画
1.5 フュージョン炉のおもな要素技術
1.5.1 原型炉実現に向けた五つの要素技術
1.5.2 統合装置としてのITERの役割
1.6 実用化に向けた開発計画とコスト
1.7 フュージョン炉の基本のまとめ

2. フュージョン炉に関するよくある疑問と回答
2.1 水爆のように爆発しないのか
2.2 福島の事故のようにならないか
2.2.1 冷却できなくなったらどうなる?
2.2.2 それでも止まらなかったら?
2.3 放射性廃棄物で破綻しないのか
2.3.1 廃棄物の放射能は100年で減衰する
2.3.2 100年後の廃棄物の量
2.3.3 ITERの廃棄物量
2.3.4 安全性と潜在的ハザード比較
2.4 1億℃なのにお湯を沸かして発電するのか
2.5 フュージョン炉を造る材料はあるのか
2.5.1 実験炉ITERの材料
2.5.2 原型炉の材料
2.5.3 実用炉の材料
2.5.4 じつは役に立っている中性子
2.6 フュージョン炉に関するよくある疑問と回答のまとめ

3. 磁場方式フュージョン炉
3.1 閉じ込め磁場の構成
3.1.1 トカマクフュージョン炉の構成
3.1.2 磁力線をねじる方法
3.2 1億℃への加熱と電流の駆動
3.2.1 電磁誘導による電流の駆動
3.2.2 いろいろな加熱方法
3.2.3 電磁誘導ではない電流の駆動法
3.3 日欧の成功と米国の挫折
3.3.1 3大トカマクの時代
3.3.2 Lモードによる危機
3.3.3 Hモードの発見
3.3.4 Hモードへの対応が死命を制した
3.4 プラズマ性能の制約条件
3.4.1 エネルギー閉じ込め指数H
3.4.2 プラズマ圧力指標G
3.4.3 プラズマ密度指数R
3.4.4 原型炉に向けたJT-60SAとITERの役割
3.5 磁場方式フュージョン炉のまとめ

4. 資源量と燃料増殖の仕組み
4.1 燃料資源はどこにあるのか
4.1.1 資源量での比較
4.1.2 重水素濃縮の工業技術はすでにある
4.2 燃料増殖:リチウムから三重水素を作る
4.2.1 三重水素の増殖方法
4.2.2 リチウム6の濃縮法
4.3 最初に三重水素がなくても起動できる
4.3.1 DDスタートとその重要性
4.3.2 DDスタートの副産物
4.4 資源量と燃料増殖の仕組みのまとめ

5. ITER計画の進捗と目標
5.1 ITER計画の進捗
5.2 実験炉 ITER の仕様と構造
5.2.1 ITERの大きさと設計仕様
5.2.2 ITERのコイル構造と建造方法
5.3 ITERの目標と達成の見通し
5.3.1 ITERの物理目標:第1段階
5.3.2 ITERの物理目標:第2段階
5.3.3 フュージョン炉工学技術の統合試験
5.4 ITER計画の進捗と目標のまとめ

6. イノベーションの歴史と期待
6.1 プラズマ性能のイノベーション
6.1.1 トカマクの発明
6.1.2 自己駆動電流の発見
6.1.3 期待されるイノベーション:自己燃焼プラズマ
6.2 超伝導コイルのイノベーション
6.2.1 ニオブスズ導体コイルのイノベーション
6.2.2 期待されるイノベーション-1:React and Wind
6.2.3 期待されるイノベーション-2:長寿命絶縁体
6.2.4 期待されるイノベーション-3:高温超伝導
6.3 ダイバータでのイノベーション
6.3.1 ダイバータによるHモードの実現
6.3.2 ダイバータに必要な今後のイノベーション:来る前に冷やす
6.4 ブランケットでのイノベーション
6.4.1 ブランケット構造での過去のイノベーション
6.4.2 ブランケット構造での期待されるイノベーション
6.5 加熱・電流駆動装置のイノベーション
6.5.1 宇宙技術から来たNBI
6.5.2 負イオンNBIのイノベーション
6.6 遠隔保守のイノベーション
6.6.1 ITERの遠隔保守
6.6.2 今後に期待されるイノベーション:上に抜く,横に抜く
6.7 イノベーションの歴史と期待のまとめ

7. 磁場フュージョン炉の概念設計と経済性
7.1 ITER で発電したら正味電力は出るか
7.2 フュージョン炉の概念設計
7.2.1 実用炉の概念設計
7.2.2 原型炉の概念設計
7.2.3 CSコイル容量と装置サイズの関係
7.3 建設コストと発電コストの予測分析
7.3.1 総建設費の分析
7.3.2 発電原価の分析
7.4 磁場フュージョン炉の概念設計と経済性のまとめ

8. 慣性(レーザー)方式フュージョン
8.1 レーザー方式の原理と特長
8.2 米国におけるレーザー方式の進展
8.3 日本の発明:高速点火法
8.3.1 高速点火法と中心点火法
8.3.2 爆縮で発生する不安定性
8.4 レーザーフュージョン炉の概念設計
8.5 レーザー方式特有の技術課題
8.6 慣性(レーザー)方式フュージョンのまとめ

9. ベンチャーによる早期実用化の実情
9.1 いろいろなフュージョン反応
9.2 先進燃料フュージョン実現には高いハードルがある
9.2.1 ヘリウム炉の場合
9.2.2 ボロン炉の場合
9.3 民間投資に関する法的背景の視点
9.4 ベンチャーによる早期実用化の実情のまとめ

10. 実用化に向けた開発計画
10.1 日本の開発ロードマップ
10.2 海外の開発計画
10.2.1 欧州の開発計画
10.2.2 米国の事情と計画
10.2.3 英国の事情と計画
10.2.4 中国は日欧に迫る
10.3 実用化に向けた開発計画のまとめ

11. 今後に向けての提言

引用・参考文献
おわりに

岡野 邦彦

岡野 邦彦(オカノ クニヒコ)

1953年東京生まれ.東京大学工学部原子力工学科卒業.東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了,工学博士.㈱東芝R&Dセンター,電力中央研究所,国際核融合エネルギー研究センター(副事業長),慶應義塾大学機械工学科(教授)を経て,現職は株式会社ODAC取締役.プラズマ物理を基盤に,炉工学まで広く含めた核融合炉の概念設計の研究を続けてきた.Youtubeでも核融合の一般向け解説を多数公開している.文部科学省 核融合科学技術委員会委員,同核融合開発戦略タスクフォース主査などを歴任.中学生時代からオーディオを愛好し,デジタル録音,CD,SACD,ハイレゾの登場を体験した.同じく中学生時代にはじめた天体写真では,新しい画像処理法の「デジタル現像法」や,露出時間を大幅に短縮できる「LRGB 合成カラー撮影法」を開発した天体写真家としても知られている.
 おもな著作に,「デジタル・アイ―冷却CCD でとらえた深宇宙」地人書館(1998),「冷却CCD カメラによる天体撮影テクニック」誠文堂新光社(2002),「プラズマエネルギーのすべて(共著)」日本実業出版社(2007),「天文年鑑(冷却CCD/CMOS・デジタル一眼カメラの項を執筆)」誠文堂新光社(2008 年版以後),「冷却CCD カメラ・テクニック講座」誠文堂新光社(2009),「人類の未来を変える核融合エネルギー(共著)」シーアンドアール研究所(2016),「核融合エネルギーのきほん(共著)」誠文堂新光社(2021),「その常識は本当か これだけは知っておきたい 実用オーディオ学(増補)」コロナ社(2023),「核融合炉入門 -フュージョンエネルギーへの道-」コロナ社(2024)などがある.