実験でわかる 触媒のひみつ

実験でわかる 触媒のひみつ

楽しい実験をとおして,触媒のしくみとはたらきを理解することを目指す。実験動画あり。

  • 口絵
ジャンル
発行年月日
2020/03/18
判型
A5
ページ数
168ページ
ISBN
978-4-339-06760-6
実験でわかる 触媒のひみつ
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定価

2,420(本体2,200円+税)

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さまざまな生活必需品の生産に用いられ,豊かな暮らしには欠かせない触媒。難解な理論は避け,楽しい実験をとおして,触媒のしくみやはたらきを直感的に理解することを目指す。講義や実験教室の参考にも最適。実験動画も用意した。

発刊によせて
私たちは沢山のモノに囲まれて生活しています。家や家具の材料となる材木,新聞紙や書籍などの原料となるパルプ,身にまとう衣類の原料となる綿や絹,羊毛などの自然素材を除いて,日常生活用品のほとんどが化学反応により作られています。その化学反応を順調に進めるのに欠かせないのが触媒です。

例えば,レジ袋に使われているポリエチレンは,触媒の働きでエチレンを相互に結合してきわめて長い分子に変化させることで作り出されているし,飲み水やお茶などを入れるペットボトルはエチレングリコールとテレフタル酸ジメチルという物質(化合物)を触媒で相互に結合して合成されています。触媒なしではポリエチレンもペットボトルもできませんし,あらゆる化学製品も合成することができません。

元素の周期表で最初に出てくる原子番号が1の水素はきわめて反応性が高い危険な物質です。水素は酸素と反応して水になりますが,身の回りの温度(室温程度)で酸素と混ぜただけではまったく反応は起こりません。しかし,ごく少量の白金ブラックを加えると,温度を高くしなくても爆発的に反応して水になります。白金ブラックは水素と酸素の反応の触媒としての役割を果たしているのです。

本書では取り扱わなかったようですが,私たちの体の中で起こる化学反応のほとんどは酵素と呼ばれる触媒が重要な役割を果たしており,あらゆる生物の生命維持や繁殖などにはなくてはならない物質です。

では触媒ってなんだろう。どんな働きをするのだろう。どんなところで使われているのだろう。その正体はなんだろう。これらの疑問に答えるために書かれたのが本書です。少しばかりの薬品や実験器具を使って,小学校の中学年以上ならば誰にでもできるやさしい実験を通して,触媒がかかわる化学反応を体験して欲しいと願っています。

第2章「触媒とはなにかを体感する実験」に先立って「触媒」という言葉を辞書で調べてみましょう。まずは自然科学関係の用語を詳しく解説している理化学辞典(第5版)を見ると,「熱力学的にみて化学反応の進行が可能である物質系に,比較的少量を添加して反応を促進させ,あるいはいくつかの可能な反応のうちで特定のものを選択的に進行させる物質。」と説明されていますが,難しい言葉(化学用語)や表現で説明されているので,かえって分からなくなるかも知れません。では,身近にある辞書,例えば,三省堂国語辞典(第七版)には「それ自身はすこしも化学的変化をしないが,それがまじると化学反応の速度が〈はやく/おそく〉なる物質。」広辞苑(第六版)には「化学反応に際し,反応物質以外のもので,それ自身は化学変化を受けず,しかも反応速度を変化させる物質。」などと記されています。要約すると,触媒は自分自身の姿やかたちに変化を起こさないが,他の物質同士の反応を円滑に進める物質であると言えます。

ところが,話はそれほど簡単ではありません。姿かたちを変えてしまう触媒もあり,しかも,ほとんどの触媒は特定の化学反応だけに有効だからです。千の化学反応があるとすれば千種類の触媒があるといえるのです。ところで,化学の英語はもちろんchemistryです。ところが,chemistryの意味するところは「化学」だけでなく「化学的性質」や「化学反応」も含まれており,会話では人と人との相性や共通点など「相性が良い」と言うときにchemistryという言葉を使うようです。一見複雑そうに思える触媒も相性が良い物質同士を結びつけるchemistryなのです。

2020年1月 白川英樹(筑波大学名誉教授,日本学士院会員)


まえがき
本書は子供たちに理科の面白さを知ってもらう実験レシピを提供するために作られました。子供たちに実験する機会を提供するのは,学校の先生,保護者の方,地域のボランティアの方などを想定しています。ただし,化学実験ですので化学の基礎知識がある方でないとわかりにくいこともあるかと思います。読み進める中でわからない物質や用語があった場合は,ぜひ化学の基礎知識がある方にご相談ください。必ずしも化学の専門教育を受けている必要はありませんが,化学物質を扱いますので化学物質を安全に使用するための知識や技能は必要です。

本書では,実験をするのは小学生から一般の大学生や社会人までを想定しています。未就学児の場合には,保護者のサポートが必要です。実験教室というと小学生向けの行事と思う方が多いと思います。しかし,実際に実験教室を行ってみると興味を持ってくれるのは子供たちよりもむしろ保護者の方々であることも多くあります。本書で取り上げた実験レシピはそんな化学の知識のない方でも五感で感じて楽しめる実験です。さらに化学の知識や経験のある方であれば,より一層楽しめます。ましてや化学の専門家の方々は驚きさえ感じてくれるかもしれません。化学を「面白い」と思うことから,化学を「不思議」だと思い,さらに「なぜ,どうして」と考えをめぐらせ,「知りたい」気持ちを醸成できれば,本書の目的を達成できたと考えます。

また,本書には各実験ごとに動画サイトにアクセスできるQRコードがついています。著者は触媒化学を専門にしていますが,論文に書いてある手順をトレースしても実験を再現できないことがよくあります。実験には文字にならないノウハウがつきもので,化学実験は勘と経験によるところが大きいのです。そのような難点を補う役割をしてくれるのが動画です。最近の若い人たちにとって動画を見たり撮ったりすることはごく日常的なことです。そこで本書でも実験動画による解説を取り入れました。文章で実験レシピを正確に紹介し,動画で実験のノウハウを視覚的にとらえることで,実際に実験を指導する先生や保護者,地域ボランティアの方々に,より正しく,安全に実験を指導していただくことができると考えました。この動画情報も有効にご活用いただきたいと思います。

本書のテーマは触媒です。触媒は生活にかかわるエネルギーやモノ作りに欠かせない材料で,そのことは第1章で説明しています。ただ,残念ながら日々の生活の中で触媒の効果を感じることはできません。それは触媒がエネルギーやモノ作りの根幹に関わっていて,おもに化学工場や反応装置の中で働いているためです。そのため2~9章で取り上げた反応は実際の暮らしの中で使われている反応ではありません。しかし,本書では簡単に実験できて効果が目で見てわかる反応を選んだことで,化学の知識の有無にかかわらず多くの人の興味を引くものが提供できたと考えます。

現在,地球温暖化問題が世界中で議論されています。二酸化炭素をこれ以上排出しないためには,資源・エネルギーの新しい使い方を発明・発見する必要があります。触媒はこれまでも資源・エネルギーを安全かつ効率的に利用する技術に大いに役立ってきました。その役割は今後も変わりません。多くの子供たちが,化学の面白さを感じるところからスタートして,触媒を使って持続可能な世の中を作っていく大人になってくれることを祈っています。

2020年1月 里川重夫

1.触媒について知ろう
1.1 私たちの暮らしと触媒
1.2 人工的に肥料を作る
1.3 石油を上手に利用する
1.4 プラスチックや繊維を作る
1.5 空気をきれいにする
ブレイク 私たちの未来と触媒

2.触媒とはなにかを体感する実験―過酸化水素の分解―
2.1 過酸化水素の分解
2.2 実験

3.触媒のしくみを観察する実験―B-Z反応―
3.1 B-Z反応
3.2 実験

4.香りを作る実験―エステルの合成―
4.1 香料合成と触媒
4.2 フィッシャーのエステル合成法
4.3 実験
ブレイク 不思議な酸,固体酸触媒のひみつ

5.光を生み出す実験―蛍光物質の合成―
5.1 光と色にあふれる世界
5.2 蛍光発光と蛍光物質
5.3 実験
 5.3.1 クマリン誘導体の合成
 5.3.2 フルオレセインの合成
 5.3.3 ローダミンBの合成
 5.3.4 アクリジン誘導体の合成
 5.3.5 フルオレセインの合成(固体酸バージョン)
 5.3.6 蛍光発光の強さについて
ブレイク 魅惑の触媒,ゼオライトのひみつ

6.電気をとおすプラスチックの合成―ノーベル賞と触媒1―
6.1 電気をとおすプラスチック
6.2 ピロールの重合反応と触媒のはたらき
6.3 実験

7.Suzukiクロスカップリング―ノーベル賞と触媒2―
7.1 クロスカップリング反応
7.2 突然の解説トークから実験教室まで
 7.2.1 5年前の実験,10年前の予感
 7.2.2 実験教室ができるまで
7.3 実験
 7.3.1 二つの反応とバリエーション
 7.3.2 ビフェニルカルボン酸(別名:p-フェニル安息香酸)の合成
 7.3.3 テルフェニルジカルボン酸の合成
ブレイク ノーベル賞と触媒

8.よごれを分解する実験―光触媒―
8.1 光触媒
8.2 実験
 8.2.1 光触媒によるメチレンブルーの退色
 8.2.2 酸化チタンの合成と光触媒反応

9.工業触媒の実験
9.1 触媒活性評価実験
9.2 反応機構を調べる
ブレイク グリーンケミストリーと触媒

引用・参考文献
あとがき
索引

廣木 一亮(ヒロキ カズアキ)

里川 重夫(サトカワ シゲオ)

「化学」2020年6月号(化学同人) 掲載日:2020/05/26


「現代化学」2020年5月号(東京化学同人) 掲載日:2020/05/01


掲載日:2021/02/17

「現代化学」2021年3月号広告

掲載日:2020/06/03

「化学と工業」2020年6月号広告

掲載日:2020/04/07

読売新聞広告掲載(2020年4月7日)

2章「過酸化水素の分解」


3章「B-Z反応」


4章「エステルの合成」


5章「蛍光物質の合成」


7章「クロスカップリング」


8章「光触媒」


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