分子分光学のエッセンス - 量子化学の基礎から機器分析の実際へ -
化学系の初等大学生が理解できるようやさしく解説。本書で分子分光学の全体を俯瞰できる!
- 発行年月日
- 2022/01/21
- 判型
- A5
- ページ数
- 154ページ
- ISBN
- 978-4-339-06659-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
本書は,初学者向けの分子分光学の教科書である。適切な内容と分量で,本書を読み通すことにより全体像を把握することができるよう,読者が高校数学で理解できる範囲の数式の扱いや理解しやすい言い回し,構成について工夫を施した。分子分光法を断片的には理解しているが,分光法の原理と機器分析の実際を一致させ,頭の中で分子の姿をイメージできるようになりたいという読者にもおすすめの一冊である。
光にはさまざまな波長があり,波長によって分子内で起こる遷移が異なる。本書では,どの光を選べば分子のどのような情報が得られるのかを,理解しやすいように心掛けた。また,分子に先立ち,原子の電子軌道を説明し,原子発光について解説した。その際,量子化学の基礎的事項を整理した。つづいて,光の波長が短い順に,電子遷移,振動遷移,回転遷移,磁気共鳴法と説明し,原理となる量子化学と,実際への応用となる機器分析が,スムースにリンクするよう意識した。
【著者から読者の方々へのメッセージ】
本書では,化学の研究で頻繁に測定する,紫外可視吸収スペクトル,赤外吸収スペクトル,核磁気共鳴法,電子スピン共鳴法の原理をやさしく述べています。これらの測定は,各々,異なる装置を用いて測定しますが,同じような原理に基づいています。実際の測定をブラックボックス化しないように,量子化学をもとに原理を理解しましょう。実際に測定しているけど,いったい何をしているのかわからない人,大学2,3年生で化学を学習しているけど,なかなか理解できない人向けです。高校までは化学が好きだったのに,大学の化学は数式が多くて嫌いになりかけている人も向いているかもしれません。大学初頭までの教科書は,読者が理解しやすいように丁寧,親切に説明してあるものが多いですが,大学後半および大学院生向けになると,依然,手強いものが多いです。それは,何年後かに,教科書の記載内容が覆る可能性があるからかもしれませんし,平易に書くのが難しいためだけかもしれません。本書の記載内容は,権威のある分厚い物理化学の教科書に記載されていますが,その教科書を1つずつフォローすることに挫折しそうになる人もいることでしょう。本書では,量子化学への苦手意識の壁を取り除き,初学者が読み進められることを意識しました。最先端の分子分光学の研究は,もっと専門的です。本書を土台に,より深く知りたい,研究したいという読者が増えたら,大変嬉しく思います。
本書は,岐阜大学工学部化学・生命工学科の3年生を対象に開講している「分子分光学」の講義資料をまとめたものである。分子分光学とは,光を利用して,分子の姿を明らかにする学問である。われわれ人間は,分子を直接目で見ることができないので,光を使って,間接的に分子の情報を知ることになる。化学を専攻する学生は,大学に入学すると,有機化学,物理化学,無機化学といった体系化された化学を学び,実験と演習をこなし,研究室に配属される。配属したばかりの4年生と話すと,分光法の細かい単語は知っているのに,全体が見えていないと感じることがよくある。だが,測定を何度も繰り返すうちに,原理と実際が一致し,研究活動を通じて,頭の中で分子の姿をイメージできるようになる。著者も同じであった。自分で測定し,機器分析の本を読み,疑問に思ったことを物理化学や量子化学の本で調べて,自分なりの理解が進んだように思う。
平成27年から,分子分光学の講義を担当することになり,自身の経験を踏まえ,わかりやすく教えられないかと模索してきた。関連する書物を探したが,分子分光学の重要事項がピックアップされた分厚い物理化学の教科書はあるものの,初学者向けの手ごろな教科書は意外にも見当たらない。一方,インターネットを使えば,比較的容易に学習すべき内容の一部を入手できる。しかし,それは,断片的,表層的な理解にとどまってしまいがちなものが多い。真に全体像を把握するためには,一つ一つの事項を反すうしながら咀嚼する必要がある。ゆえに,教科書の果たす役割は大きく,適切な内容と分量で,読み通せる教科書が渇望されているように思う。
本書では,構成を工夫した。光にはさまざまな波長があり,波長によって分子内で起こる遷移が異なる。どの光を選べば分子のどのような情報が得られるのかを,理解しやすいように心掛けた。分子に先立ち,原子の電子軌道を説明し,原子発光について解説した。その際,量子化学の基礎的事項を整理した。つづいて,光の波長が短い順に,電子遷移,振動遷移,回転遷移,磁気共鳴法と説明し,原理となる量子化学と,実際への応用となる機器分析が,スムースにリンクするよう意識した。本書で扱う数式は,高校数学で理解できる必要最低限にとどめた。少ない入門書の中で,『量子化学II分光学理解のための20章』(中田宗隆 著)と,『高校数学でわかるシュレディンガー方程式』(竹内淳 著)がたいへん参考になった。著者の研究分野は,金属錯体の合成と物性評価であり,分子分光学を専門としていないことを言い訳しておく。門外漢ゆえ,初学者目線で,より平易な言葉でまとめられた教科書になったと思うが,浅学ゆえ,記述や解釈に誤りがあるかもしれない。その場合は,是非ともお知らせいただきたい。
最後に,刊行にお力をいただいたコロナ社の方々に感謝したい。また,書中の美しいスペクトルを快く提供していただいた,日本分光(株)の植原誠之氏と関係諸氏に感謝したい。本書は,コロナ渦の緊急事態宣言下,幼い息子3人が騒ぐ様を見守りながら執筆した。いつか息子達が本書を理解できるように成長することを願い,支えてくれた妻と両親に感謝したい。
2021年11月
植村 一広
1.波と粒子の二重性をもとに解釈するスペクトル
1.1 光(電磁波),スペクトルとは
1.2 プランクの提案とアインシュタインの光量子仮説
1.3 水素原子の発光スペクトル
1.4 ボーア理論によるリュードベリの式の導出
2.波の性質をもつ電子
2.1 波動方程式からシュレーディンガー方程式を導く
2.2 水素原子のシュレーディンガー方程式
2.3 ボーアの振動数条件
2.4 電子の存在しえる場所
2.5 磁石のもととなる電子スピン
2.6 スピンと軌道運動による電子自身の磁気的相互作用
3.電子遷移―紫外可視域の光の吸収―
3.1 電子遷移とは
3.2 二重結合のある分子に見られるπ→π^*遷移
3.3 カルボニル基をもつ分子でのn→π^*遷移
3.4 金属錯体中のd軌道間の遷移
3.5 金属d軌道と配位子p軌道間での遷移
3.6 電子遷移の決まり事
3.7 蛍光と燐光
3.8 溶液の試料で成り立つランベルト・ベールの法則
3.9 固体試料を測定するための拡散反射スペクトル
4.振動遷移―赤外線の吸収と散乱―
4.1 赤外線を吸収する分子の振動
4.2 二原子分子の振動を数学的に考えてみる
4.3 振動遷移,双極子モーメントの変化
4.4 ラマン散乱,分極率の異方的な変化
4.5 三原子分子の振動遷移
4.6 多原子分子の振動の自由度
5.回転遷移―マイクロ波の吸収―
5.1 二原子分子の回転を数学的に考えてみる
5.2 回転運動の物理量である慣性モーメント
5.3 回転遷移,永久双極子モーメント
5.4 二原子分子の振動-回転スペクトル
6.遷移に要するエネルギーの大きさ
6.1 光(電磁波)の種類と対応する遷移
6.2 弱い光で遷移する磁気共鳴
6.3 核磁気共鳴と電子スピン共鳴に用いられる光
7.磁気共鳴―ラジオ波との共鳴―
7.1 核磁気共鳴(NMR)
7.2 NMRの化学シフト,積分強度比,微細構造
7.3 実際の^{1}{HNMR}チャート
7.4 電子スピン共鳴(ESR)の波形と超微細構造
7.5 実際のESRシグナル
引用・参考文献
読者モニターレビュー【子豚のオリバー 様(ご専門:薬学)】
本書は、第1章の電磁波、スペクトルの説明にはじまり、第2章でのシュレディンガー方程式やボーアの振動数条件、磁気モーメントなどの本書を読むにあたっての分子分光学の基礎となる概念の説明がなされた後、それ以降「電子遷移」「振動遷移」「回転遷移」などと各分光別に原理を説明するという章立てになっている。
本書の1つめの大きな特徴として、A5サイズで154頁と比較的コンパクトな書籍なので、鞄がかさばることなく持ち運びが非常にしやすいことである。そのため、電車などでの移動中にも気軽に読むことが出来る。
2つ目の特徴として、仮に数学や物理学が苦手でも、大学受験レベルの数学や物理学さえ抑えておけば容易に読むことが出来る点である。特に現在機器分析学を学んでいて、数式を用いて学びたいが、分厚い専門書に取りかかるには億劫だという方には非常に最適な書籍である。そして本書を読み終えた後により原理を詳しく勉強したければ、物理化学や量子化学などの書籍などに取りかかることで理解を深めていけば良いと思う。
本書籍で1つ残念な点があるとすれば、各分光分析機の構成概略図が載っていないことである。本書では、各分析機や測定用セルの写真は出てくるが、分析装置の構造も併せて載せた方が読者、特に初学者にとっては、より分光分析について具体的なイメージがしやすく学習しやすいのではないかと思った。とは言え分光分析装置の構造について気になれば、適宜分析化学の教科書を確認すれば良いし、本書の携帯性から考えるとこれで良いのかもしれないのかもしれない。
長々と書いたが、本書「分子分光学のエッセンス」は、
・厳密性をある程度省いてはいるものの、一般的に用いられる分光分析法の原理が載っており、持ち運びが非常に容易なためどこでも気軽に読める書籍である
・本書の対象とされている化学系の学生だけでなく、定量的なことを知りたい理工系以外の学生でも容易に読み進めることが出来る
分光分析の原理を少しでも数式を用いた形で理解したい方、あるいは復習したい方ならば、一度は手に取って読んでみてはいかがであろうか。
読者モニターレビュー【理系大学生 様(ご専門:化学)】
「分子分光学のエッセンス」は量子化学の基礎 (水素型原子のシュレディンガー方程式など) をもとに機器分析の手法 (IR,吸光分析,NMRなど) について述べたものである.
量子化学と機器分析の関連がよくわからないという方にこの書籍はおすすめできると思う.
また,量子化学の基礎と機器分析の原理などが一体となっているためはじめて機器分析を行うかた (大学初年度生や高校生) にとっても親切な書籍であると思う.
ただし,書籍は150ページ弱とコンパクトにまとめられているため量子化学の分野における計算過程は省略されている.
そのため,書籍の内容をより詳しく理解するためには「分子分光学のエッセンス」に加えて他の書籍を参照する必要があるのではないかと感じた.
以上に述べたようにコンパクトが故に詳細な議論は省略されているが,分子分光学の要点は揃えられていており,機器分析の原理を理解できるようになっているよい書籍であると感じた.
amazonレビュー
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