量子物質科学入門 - 量子化学と固体電子論:二つの見方 -

量子物質科学入門 - 量子化学と固体電子論:二つの見方 -

量子力学を物質に適用する際,量子化学は分子やクラスターを考え,固体電子論は結晶の周期性を基本としている。本書では,原子から始まり固体まで量子化学の非周期系の取扱いと固体電子論の周期系の取扱いとのつながりを詳述する。

ジャンル
発行年月日
2010/03/25
判型
A5
ページ数
192ページ
ISBN
978-4-339-06617-3
量子物質科学入門 - 量子化学と固体電子論:二つの見方 -
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定価

3,080(本体2,800円+税)

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量子力学を物質に適用する場合には,量子化学もしくは固体電子論の考え方を用いたアプローチが一般的である。近年,多くの研究成果が報告されているナノメートルオーダの物質や,ナノメートルオーダで起こる現象などを考える場合には,ちょうど量子化学と固体電子論の境界に位置するところであり,どちらの立場で考えればよいのかを判断することがきわめて重要となる。したがって,量子化学的非周期系と固体電子論的周期系の両者の考え方を理解した上で,自分が考える立場を明らかにしてから,実際に物質を見ていく必要があろう。本書では,原子から分子,そして固体に至るまで,特に量子化学での非周期系の取扱いと,固体電子論での周期系の取扱いとのつながりを,物質が持つ対称性の観点から結びつけるように心がけたつもりであり,本書のタイトルである「量子物質科学」という用語は,量子化学と固体電子論の両側面をカバーした内容であることを表したものである。本書の構成は以下の通りである。

1章「量子力学の誕生」では,量子力学を原子や分子,固体などの物質に適用することに主眼を置いて,原子模型と物質の粒子性と波動性の考え方を中心に,量子力学が誕生した経緯について述べることとする。
2章「波動関数と波動方程式」では,シュレーディンガーの波動方程式を具体的に適用する方法について,もっとも単純な系(一次元1粒子)を例にとって説明する。
3章「原子の中の電子」では,量子力学の物質への具体的適用のスタートとなる水素原子の中の電子を取り扱い,それを多電子原子に拡張する。
4章「分子の中の電子」では,原子の凝集体としての,分子の中の電子に対する取扱いを分子軌道法を用いて説明する。
5章「物質の対称性」では,物質の持つ対称性に着目し,群論を用いた対称性に関する考え方について整理する。
6章「固体の中の電子」では,結晶としての固体の電子状態の見方について説明する。
7章「電子の遷移」では,電子状態を実験的に考えるために最も有効な方法であり,8章で説明する分光実験(スペクトロスコピー)への量子力学の応用を理解するために,電子の遷移について時間に依存する摂動論を用いた考え方を説明する。
最後に8章「スペクトロスコピーへの応用」では,分光実験によって得られる実験結果から,物質の電子状態を量子力学の力を借りて考えていく方法について説明する。

1.量子力学の誕生
1.1 原子模型
1.2 物質の粒子性と波動性
1章のまとめ


2.波動関数と波動方程式

2.1 波動関数とシュレーディンガーの波動方程式
2.2 井戸形ポテンシャル中の粒子
2.2.1 無限の高さの井戸形ポテンシャルの場合
2.2.2 有限の高さの井戸形ポテンシャルの場合
2章のまとめ


3.原子の中の電子

3.1 中心力場内の粒子
3.2 動径関数と角関数
3.3 量子数
3.4 原子軌道関数
3.5 多電子原子
3章のまとめ


4.分子の中の電子

4.1 分子軌道関数
4.2 変分原理
4.3 水素分子
4.4 等核2原子分子
4.5 異核2原子分子
4.6 分子軌道の軌道成分解析
4章のまとめ


5.物質の対称性

5.1 点群
5.2 対称性を用いた分子の波動関数
5.3 結晶の対称性
5.4 代表的な結晶構造
5.5 逆格子
5.6 X線回折
5章のまとめ


6.固体の中の電子

6.1 自由電子モデル
6.2 ほぼ自由な電子モデル
6.3 強く束縛された電子モデル
6.4 第一原理計算
6.5 固体の電子状態の見方
6章のまとめ


7.電子の遷移

7.1 時間に依存する摂動近似
7.2 光の吸収と放出
7章のまとめ


8.スペクトロスコピーへの応用

8.1 光電子分光
8.1.1 SiO2の価電子帯XPSスペクトル
8.1.2 Siの内殻XPSスペクトルの化学シフト
8.2 蛍光X線分光
8.2.1 SのKβ線スペクトル
8.2.2 SiのKβ線スペクトルとKα線スペクトル
8.3 オージェ電子分光
8.4 X線吸収端近傍微細構造
8.4.1 AlのK端XANESスペクトル
8.4.2 極微量元素のXANESスペクトル
8.4.3 偏光を利用したXANESスペクトル
8.4.4 プリエッジスペクトル
8章のまとめ


付録

A.1 原子価結合法
A.2 励起源の違いによる発光X線スペクトルの形状変化
A.3 結合エネルギー表
A.4 X線吸収端のエネルギー表
A.5 特性X線のエネルギー表

参考文献
索引

HY 様

本書は、量子力学を孤立系の分子と凝縮系の固体に適用する方法を非常にテンポ良く記載している。通常両者の取り扱い方の関係を理解するためにはかなり分厚い本を読む必要があり,息切れしてしまう人も多いと思うが本書ならば要領良く本質をつかむことができると思う。私は化学系で固体物理学をあまり学んでこなかったが,物理系の仕事をするために早急な理解が必要となった際に本書が非常に助けとなった。実際の計算などを行うためにはさらに専門書を読む必要があるが,とっかかりとしては最適である。
ただ,残念だったのは6章の固体中の電子の章が用語の定義も含めて説明の省略が多く読みにくかった。量子化学と固体電子論の見方をメインに据えている書なのでページ数の制約があるのならば8章のスペクトロスコピーへの応用の内容を削ってでももう少し丁寧に説明すべきではなかったかと思う。

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山本 知之(ヤマモト トモユキ)