
理解しやすい制御工学
もう置いていかれない。「理解しやすさ」を追求した制御工学の教科書。
- 発行年月日
- 2025/05/30
- 判型
- A5
- ページ数
- 218ページ
- ISBN
- 978-4-339-03250-5
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
学習者の意欲を低下させる「自明である」「省略する」を排除し,本文や問題,図表,解答に至るまで一つひとつのステップを丁寧に解説。これでもう,置いていかない・置いていかれない。「理解しやすさ」を追求した制御工学の教科書。
自動制御技術はさまざまな産業分野に応用され,工業や科学研究分野だけではなく,農業や水産業,商業などにとっても重要な存在になっている.近年,高度な自動制御技術の進歩により,大型の再使用可能なロケットの打ち上げ,深海探索の成功,通信や金融システムの高度な自動化などの成果が達成された.そのほかにも,エネルギーや環境,化学プラント,生体,社会経済システムなどにその技術が組み込まれている.私たちの日常生活も自動制御技術の幅広い応用に恵まれ,高度な交通,電力・通信と物流システムの自動化により,生活の質の向上に役立っている.そして,自動制御による省力化や福祉工学技術の進展により,労働や介護などでも労力や負担の軽減が実現されつつある.今後は,AIやロボットなどの活躍によりさらに高度な自動化が期待され,そのニーズにより自動制御とそれに関連する技術がますます発展していくと思われる.
自動制御は機械や設備の動作や運転において,制御したいものの目標や目的を設定し,人間の手によらず理論的な推論や判断を通じて検出や対象への操作を実現することである.制御工学はこのような自動制御を実現するための理論や方法,技術を探究・研究する総合的な学問である.
本書は非線形適応制御やインテリジェント制御,医療生体工学の第一人者である田中幹也先生により企画され,非線形システムおよび確率システムの制御理論で著名な西村悠樹,医療ロボットや福祉工学,生体工学研究などで著名な熊澤典良,マンマシンインタフェースやAI応用などで実用的な研究を推進している山本智規,群知能に基づく非線形制御の研究を実現している穆盛林を共著者に迎えている.理工学系の大学生や高等専門学校生はもちろんのこと,初めて制御工学を勉強したいと思うすべての人に対する入門書,あるいはもう一度制御工学を学び直したい人にとって理解しやすい書籍とすることを目指した.このために,各執筆者は自身の教育の経験やノウハウに基づき,読者の立場に立って,どのような例を用いて,どのように表現・説明すればわかりやすくすんなりと頭の中に入ってきて,自分のものとして吸収できるかについて,つねに心を配りながら執筆をしている.
● 古典制御理論の基本項目を重視 本書は古典制御理論を中心とする内容である制御工学の入門書であるため,古典制御理論を理解するための必要最低限の基本項目のみに着目した.
● 多くのわかりやすい例を用いた理解の促進 日常的に体験できるような例や直感的に理解しやすい例を用いて制御理論を説明することにより,わかりやすさを追求した.
● 多様な演習問題と丁寧な解答 理論の理解をより深めるために,演習問題を数多く採用し,それら一つひとつについて丁寧に解説した.
1章は柴田の担当で自動制御の概念を紹介し,関連する専門用語を説明している.2章は西村の担当で,古典制御理論に必要な基礎数学である微分方程式とラプラス変換に関して説明している.制御系の動的な特性を数学的な表現とラプラス変換という数学ツールを導入している.3章は穆,柴田の担当で,制御系の入出力特性を表す重要な表現である伝達関数を説明した.そして,制御系の信号の流れを表すブロック線図とその簡単化について述べている.4章は柴田の担当で,制御系の過渡特性を紹介し,過渡特性を調べるための代表的な信号を印加したときの応答による特性解析を説明している.5章も柴田の担当で,制御系の定常特性を説明している.6章は熊澤の担当で,制御系に周期的な信号である正弦波信号を印加したときの応答,すなわち周波数応答による特性解析について説明している.7章は山本,柴田の担当で,制御系の安定性および安定性に関係する諸量について説明している.8章は穆,柴田の担当で,制御系の設計とそれに関する方法について説明している.
これまでの教科書は,「自明のこと」として一部が省略されていることがたびたび見受けられた.しかし,じつはその省略された部分に引っかかって前に進まなくなる読者が経験上多々存在した.読者は,もう少し丁寧に解説してくれれば理解と意欲が進むのに……と,幾度となく思ったようである.本書は,そのような経験をふまえ,理解に対する意欲を低下させる可能性のある「省略されやすい部分」にもしっかりと光を当て,本文や例題,演習問題,図表において一つひとつのステップを丁寧に解説することに努めた.特に学習者がつまづきやすいポイントを意識し,疑問を感じることなく学びを進められるよう細部にまで配慮した構成としている.さらに,本書の特徴として,理論と実践のバランスを重視した.これにより,学んだ内容が実際の現場でどのように役立つのかを具体的にイメージできるようになっている.
この教科書が,学習者の皆さんにとって有意義な学びの一助となり,深い理解と実践的なスキルの習得に繋がることを心より願っている.
2025年3月
柴田 論
1.自動制御とは
1.1 制御とは
1.2 自動制御系の基本構成
演習問題
2.微分方程式とラプラス変換
2.1 システムの数理モデル
2.1.1 動的システムと微分方程式
2.1.2 線形システム
2.1.3 線形システムの例
2.1.4 非線形システムと線形化の例
2.2 ラプラス変換
2.2.1 動的システムの解析
2.2.2 ラプラス変換の定義
2.2.3 ラプラス変換の公式
2.2.4 基本的な関数のラプラス変換
2.2.5 ラプラス変換可能な条件
2.2.6 複素数
2.3 逆ラプラス変換と微分方程式の解法
2.3.1 逆ラプラス変換
2.3.2 部分分数分解と逆ラプラス変換
2.3.3 ラプラス変換による微分方程式の解法
演習問題
3.伝達関数
3.1 伝達関数の定義
3.2 基本的な制御要素の伝達関数
3.2.1 比例要素
3.2.2 積分要素
3.2.3 微分要素
3.2.4 一時遅れ要素
3.2.5 二次遅れ要素
3.2.6 むだ時間要素
3.3 ブロック線図
3.3.1 ブロック線図の描き方
3.3.2 ブロック線図の基本結合法則
3.3.3 ブロック線図の等価変換
3.4 基本的自動制御系のブロック線図
演習問題
4.制御系の過渡特性
4.1 制御系の時間応答の求め方
4.2 インパルス応答
4.3 ステップ応答
4.4 一時遅れ系のステップ応答
4.5 二次遅れ系のステップ応答
4.6 その他の過渡応答
4.6.1 高次系のステップ応答
4.6.2 定速度入力に対する応答
4.7 過渡特性の指標
演習問題
5.制御系の定常特性
5.1 定常偏差とは
5.2 定常位置偏差
5.3 定常速度偏差
5.4 定常加速度偏差
5.5 制御系の型と速度偏差
5.6 外乱に対する定常偏差
演習問題
6.周波数特性
6.1 周波数応答と周波数伝達関数
6.2 ベクトル軌跡
6.2.1 積分要素のベクトル軌跡
6.2.2 一時遅れ要素のベクトル軌跡
6.2.3 二次遅れ要素のベクトル軌跡
6.2.4 ベクトル軌跡の性質と特徴
6.3 ボード線図
6.3.1 積分要素のボード線図
6.3.2 一時遅れ要素のボード線図
6.3.3 二次遅れ要素のボード線図
6.3.4 ボード線図の性質と特徴
演習問題
7.制御系の安定性
7.1 安定と不安定
7.2 特性方程式の根
7.3 ラウスの安定判別法
7.3.1 ラウス法の基本的な手順
7.3.2 ラウス法の特殊な場合
7.4 フルビッツの安定判別法
7.5 ナイキストの安定判別法
7.6 ゲイン余裕と位相余裕
7.7 等MN線図
7.8 MP規範
演習問題
8.制御系の設計
8.1 自動制御系の設計の指針
8.2 ゲイン調整
8.2.1 MP規範によるゲイン調整法
8.2.2 根軌跡を用いたゲイン調整法
8.2.3 位相余裕によるゲイン調整法
8.3 制御系の補償
8.3.1 直列補償
8.3.2 フィードバック補償
8.4 PID制御
8.4.1 P制御:現在の偏差に基づく制御
8.4.2 PI制御:現在と過去の偏差に基づく制御
8.4.3 PID制御:現在と過去と未来の偏差に基づく制御
8.4.4 PID制御のパラメータ決定法:限界感度法
演習問題
引用・参考文献
演習問題解答
索引
読者モニターレビュー【 元制御系エンジニア 様(業界・専門分野:自動運転・システム制御 )】
本書では主に古典制御(微分方程式・伝達関数・伝達関数に基づく制御系設計等)に関する内容を解説している。「理解しやすい」とタイトルにある通り、初学書では省略されがちな古典制御の基礎内容が網羅されている。例えば,昨今の初学書で省略されがちな伝達関数の代表特性根やランプ応答の定常/過渡特性に関する丁寧な解説がなされている。制御系設計においては,限界感度法だけでなくMp規範や根軌跡を用いたゲイン調整法も解説されている。本書を一通り読むことで古典制御の基礎の理解が進むと考えられる。一方,古典制御の代表的な内容のすべてを解説しているわけではなく,本書のみで古典制御の全てを理解できるわけではない。本書の網羅範囲としてPID制御の設計に留まっており,マクローリン展開に基づくゲイン設計や2自由度制御の設計等の応用的な内容に関しては解説されていない。また,MATLABやPython等の演習用プログラム等は付属していない。したがって,本書で古典制御の基礎を理解した上で他の初学書も併用して勉強することを勧める。
ΦAΦ(ファイ) 様(業界・専門分野:総合電機、制御)
古典制御の基本的な内容がコンパクトにまとめられています。
タイトルの通り、確かに途中式の省略がほぼなく、「どうやってこの式になった!?」となる場面が少なかった様に思います。
また、全編に渡って、ほぼ全てのページに図や表が記載されており、「少しでもイメージをしやすくしよう」と言った著者の方々の気遣いを感じました。
本編についても然る事ながら、演習問題の解答についても同様に省略が少なく、特に社会人になってから独学するような読者にはありがたいのではないでしょうか。
欲を言えばもっと行間を埋められたのではないか、と言った点も見受けられましたが、まだ初版ですので今後の展開にも期待したい書籍です。
読者モニターレビュー【 髙橋 諒 様(業界・専門分野:制御工学 )】
古典制御理論の基礎から応用までを丁寧に解説した、制御工学の入門書として最適な一冊です。微分方程式やラプラス変換といった前提となる数学的知識も丁寧に取り上げられており、初学者でも無理なく読み進められると感じました。ボード線図やナイキスト線図などの具体例を通じて、制御系設計の流れを段階的に理解できる構成となっています。さらに、制御系の安定性判断など理解が難しいテーマについても、例題を用いて手順とナイキスト線図などの図表を示してくれているため理解がしやすくなっています。特に、例題や演習問題の解説が省略されることなく丁寧に記されているため、初学者だけでなく一度学習した方々の復習にも良いと感じました。
読者モニターレビュー【 YM 様(業界・専門分野:制御工学 )】
本書では、制御工学の基礎的な内容を学ぶことができます。これまで数多くの制御工学の書籍に触れてきましたが、これほどスムーズに読み終えられた本は初めてでした。非常に読みやすく、親しみやすい一冊です。図が豊富に掲載されており、それぞれの図に対する説明も簡潔かつ丁寧で、内容が非常によく整理されていると感じました。特に、制御工学の導入部分にあたる第3章・第4章では、多様な制御対象やブロック線図を用いることで、読者の興味を引きつける工夫がなされています。また、他書では文字だけで説明されるような細かな内容も、本書では図解を通じて直感的に理解できるようになっており、学習効果が高まります。さらに、第2章では制御工学に必要な数学的知識が網羅されているため、数学に苦手意識のある方でも復習しながら安心して読み進めることができます。加えて、多様な例題や演習問題が豊富に盛り込まれており、体系的な学習にも適しています。ただし、本書ではあまり高度な内容までは取り扱っていないため、すでに他の書籍で学習を進めている方には、やや物足りなく感じられるかもしれません。今後、より発展的な内容を扱った続編が刊行されることを期待したいと思います。
総じて、本書は制御工学をこれから学び始める方にとって、非常に優れた入門書です。これから制御工学の学習を始めようと考えている方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。本書の購入を検討されている方の参考になれば幸いです。
読者モニターレビュー【 岡田 昌樹 様 苫小牧高専(業界・専門分野:機械制御 )】
大学や高専では,講義形式の授業を自学自習の時間も含め,2単位で運用しているケースが多いと思われる.このとき,学生たちのつまずきは,本書のまえがきにも記載されているように,「自明のこと」として教科書の一部が省略されていることである.制御工学では,ラプラス変換の式が多く,ベクトルや行列なども出てくることから,このあたりを苦手としている学生にとって,「自学自習」において,複数の教科書で学習していくことは,挫折につながりかねない.
本書は,この「省略されやすい部分」を強く意識され,丁寧に解説しているところが特長であり,良書たるポイントである.例えば,第3章の伝達関数について,基本的な6つの要素について,分かりやすい事例をもとに伝達関数G(s)の形を理解させてくれる.第4章の過渡特性についても,インパルス応答やステップ応答で,ラプラス変換や逆ラプラス変換による結果の求め方を示している.
体裁は好みによるが,私は白黒1色の方が,重要なところにマーカーを引かせたりする上で都合が良いと思っている.本書により,制御工学を得意科目にしてくれる学生が増えることを期待している.
読者モニターレビュー【 宮本 賢一 様(業界・専門分野:製造業 )】
本書は、制御工学の入門書として、豊富な図版と見やすいレイアウトにより、読者の学習意欲を損なうことなく読み進められる工夫が随所に凝らされています。序盤では「制御とは何か」を平易に整理し、続く章で微分方程式、ラプラス変換、伝達関数、時間応答、周波数応答、安定判別、設計論へと段階的に知識を積み上げる構成のため、初学者の基礎固めはもちろん、再入門にも最適です。数式の解説は丁寧で、ブロック線図や日常的な例を挟むことで「抽象」と「具体」を行き来しながら理解を深められる点も魅力です。さらに章末問題も充実しており、学んだ理論を実務に応用するための橋渡しとなります。学生から現場技術者、企業研修や講義テキストまで、幅広く活用できる一冊としてお薦めします。
読者モニターレビュー【 佐藤 希美 様 浜松未来総合専門学校(業界・専門分野:ロボティクス )】
「制御工学」という名前だけを聞くとすごく難しそうと感じる人もいるかもしれません。
しかしこの本は、私の「やってみたい!」という気持ちをまっすぐに受け止めてくれる一冊でした。
私は工学部ではなく、もともとは健康や運動系の勉強をしていましたが、今は情報系分野の学びを楽しんでいます。そして、自分の好きなロボティクス分野をより深く理解したいと思い、制御工学の扉を開きました。
ラプラス変換やPID制御などの言葉と初めて本気で向き合いました。ただ、微分や積分の基礎はやはり大事なのでそこがあやふやな人は一度立ち戻るのもおすすめです。一気に全部分かろうとせず、調べたり立ち止まりながら進めることが大切だと思います。私もこの本を通して、「もっと学びたい!」という気持ちがどんどん広がりました。
分野や経験に関係なく、好奇心がある人にはぜひ手にとってほしいです!