協力ゲームの理論と応用

シリーズ 情報科学における確率モデル 11

協力ゲームの理論と応用

複数の主体が関わる協力ゲーム理論の基礎から応用までを自学自習できる良書

ジャンル
発行年月日
2024/08/08
判型
A5
ページ数
284ページ
ISBN
978-4-339-02841-6
協力ゲームの理論と応用
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定価

4,840(本体4,400円+税)

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【書籍の特徴】
複数の主体が関わる状況(問題)に対して,主体の協力によって得られた価値を主体間で分配するための考え方の一つである協力ゲーム理論の初等部分について述べたものです。
本書では「1章 →2章 →3章 →4章 →7章」が基本コースです。1〜4章では,特性関数型協力ゲームとその基本的な解であるコア,シャープレイ値,仁について解説しています。7章で協力ゲームの応用例を紹介しています。本書で紹介している応用例は古典的なものですが,協力ゲーム理論の応用を検討するときには,特性関数の定義の仕方等の参考になると思います。シャープレイ値と仁は単一の分配案を与える解であるので,応用上取り扱いやすいかもしれません。協力ゲームとその解の特徴を把握してもらうために数値例や問を用意しています。
5章は他の解に関する話題を取り上げています。4,5章は著者の関心領域であったので命題等が多くなってしまいました。読者の興味によりますが命題の証明は読み飛ばしても差し支えありません。一方,証明等も含めて理解を深めたい方には文献として紹介している原論文に目を通すことをお勧めします。6章では,協力ゲームの古典的な解である安定集合(von Neumann-Morgenstern解)に関する話題をピックアップしました。非協力ゲームと協力ゲームの関わりに興味のある方は8章が参考になるかもしれません。

【著者からのメッセージ】
本書が協力ゲーム理論そのものに興味のある方,また協力ゲーム理論を活用することに関心を持つ方の役に立つばかりでなく,本書によって協力ゲーム理論に興味を持つ方が増えることを期待しています。線形代数,微分積分,グラフ理論,確率統計等の基礎知識を持っている方やオペレーションズ・リサーチを勉強した方には読みやすい内容であると思います。

本書は複数の主体が関わる状況(問題)に対して,主体の協力によって得られた価値を主体間で分配するための考え方の一つである協力ゲーム理論の初等部分について述べている。

協力ゲーム理論によって問題にアプローチするとき二つのステップに分けられると思う。第1のステップは現実の問題を協力ゲームモデルとして表現すること,第2のステップは得られたモデルの解析を行い,解決策を示すことである。上述のように,協力ゲーム理論によって分配の仕方を与えることを目指すから,第1のステップにおいては,数学のみならずさまざまの視点からの考察を必要とするであろう。一方,著者はこれまで主に第2のステップを研究してきており,本書では第2のステップに焦点をあてることにした。すなわち,あらかじめ特性関数型の協力ゲームモデルとして問題が表現されているとして,これまでに提案されている解(解決策のこと)のうちよく知られているものをいくつか取り上げる。それぞれの解の持つ性質を述べ,解の特徴を把握するために数値例を与えている。解の性質を述べた命題の証明で複雑なものは省略しスムーズに読み進められるように配慮した。応用例(協力ゲームモデル)はこれまでに著者が目にしたものである。問や章末問題を配し,読者の理解の手助けになるとともに著者自身の復習も兼ねるように心がけた。数値例や問はおおよそ3人ゲームを扱っているが,提携が解に及ぼす複雑な影響を知るためには4人以上のプレイヤーを含むゲームの数値例を考えることをお勧めする。

本書で扱っている内容は古典的かつ基本的なものである。微分積分,線形代数,確率の基礎的事項を習得されている読者は理解できると思う。深く学びたい読者は巻末の引用・参考文献に挙げられている文献を参考にしてもらいたい。また,ゲーム理論,数理経済学やオペレーションズリサーチの専門雑誌に目を通すと多数の応用例が見つかると思う。

本書の8章は,拙著「確率的ゲーム理論」の3章に続けて読めるような内容になっている。前著においては協力ゲームの内容を含めなかったため,それを補う形でシリーズ書目の一巻として発行することになった。このような事情のため,本書では確率モデルとしての様相が薄いことを承知願いたい。一方,協力ゲームモデルに限らず,検討の対象とする状況に現れるデータ(利益,損失など)は見積もりであることが多い。協力ゲームの特性関数の値を見積もりであると考えることができる場合には,背後にある確率・統計事象を特性関数や協力ゲームの解に反映させて解析する研究も存在するし,理論と応用の両面で今後の研究の余地は十分あると思う。7章,とりわけ7.7節の議論は参考になるであろう。本書では




が基本コースである。前著からの継続に興味のある方は8章を最初に読んでから基本コースに進んでもよい。専門的と思う節や項には目次において*印を,専門的と思う問や章末問題にも*印を付した。また本書において,「定理」と「命題」の間の差異を厳密に考えたわけではないので気にせずに読んでほしい。著者の関心領域でもあった4,5章は命題等が多くなった。証明を飛ばしてもいいし,興味のある読者には証明も合わせて原論文を読むことをお勧めする。

大学院の指導教官であった坂口実先生の著書に触れてゲーム理論の存在を知り,以来約50年が経過した。この間,お世話になった方々,先生方,同僚,ゼミの学生に感謝したい。玉置光司先生は著者の大学院学生時代のゼミの先輩であり学ぶところが多かった。謝意を示したい。また,原稿に目を通してコメントをいただいた土肥正先生はじめ編集委員会の方々,出版に際してお世話になったコロナ社の方にお礼を申し上げたい。最後に,家族に感謝したい。

2024年6月
菊田健作

本書で使用する記号について 

第1章 多人数協力ゲーム
1.1 特性関数型協力ゲーム
1.2 特性関数の性質
 1.2.1 優加法的ゲームと単調ゲーム
 1.2.2 凸ゲーム
 1.2.3 対称ゲーム
 1.2.4 定和ゲーム
 1.2.5 単純ゲーム
 1.2.6 本質的ゲーム
 1.2.7 平衡ゲーム
 1.2.8 (n,n-1)ゲーム
 1.2.9 特性関数のメビウス変換
1.3 特性関数の話題
 1.3.1 部分ゲームと全平衡ゲーム
 1.3.2 双対ゲーム
 1.3.3 戦略的に同値なゲーム
 1.3.4 協力ゲームの被覆
 1.3.5 協力ゲームの多重線形拡大
 1.3.6 費用配分ゲーム
 1.3.7 協力ゲームと確率
1.4 協力ゲームの解
 1.4.1 協力ゲームの配分
 1.4.2 解の定義
 1.4.3 配分間の支配関係
 1.4.4 妥当配分集合
 1.4.5 公理による解の導出
 1.4.6 費用配分ゲームの配分
 1.4.7 解の双対性*
章末問題

第2章 コア
2.1 コアの定義
2.2 コアの存在条件
2.3 凸ゲームとコア
2.4 最小コア
章末問題

第3章 シャープレイ値
3.1 シャープレイによる定義と導出
 3.1.1 シャープレイ値の導出
 3.1.2 プレイヤーの順列による導出
 3.1.3 ダミープレイヤーとnullプレイヤー
3.2 限界貢献性による導出
3.3 ポテンシャル関数の離散勾配
3.4 投票力指数
3.5 有権者のパワーの計算
 3.5.1 シャープレイ値の表現
 3.5.2 有権者のパワー
3.6 凸ゲームのシャープレイ値
3.7 確率的値*
3.8 重み付きシャープレイ値*
章末問題

第4章 仁
4.1 仁の定義
4.2 仁の性質
4.3 (n,n-1)ゲームの仁
4.4 仁と線形計画法
4.5 平衡集合族による仁の導出
4.6 整合性による(準)仁の導出
4.7 単純ゲームと仁
章末問題

第5章 交渉集合とカーネル
5.1 交渉集合
5.2 カーネル
5.3 凸ゲームのカーネルと交渉集合
5.4 妥当配分集合に対するカーネル*
章末問題

第6章 安定集合とコア
6.1 安定集合
 6.1.1 安定集合の定義
 6.1.2 3人ゲームの安定集合とコア
 6.1.3 安定集合が存在しない協力ゲーム
6.2 単純ゲームの安定集合
6.3 安定集合とコアの一致
章末問題

第7章 協力ゲームの応用例
7.1 最適化問題と協力ゲーム
 7.1.1 最小費用生成木ゲーム
 7.1.2 トラベリングセールスマンゲーム
 7.1.3 最大流ゲーム
 7.1.4 線形生産ゲーム
7.2 割り当てゲーム
 7.2.1 割り当てゲームのコア
 7.2.2 順列ゲーム
7.3 市場ゲーム
 7.3.1 市場ゲームは全平衡ゲーム
 7.3.2 限界貢献度が概して大きいゲーム*
7.4 資産分配問題
 7.4.1 破産問題と解
 7.4.2 破産問題と仁
7.5 施設使用料決定問題
 7.5.1 空港ゲームのシャープレイ値
 7.5.2 空港ゲームの仁
7.6 在庫管理問題
 7.6.1 需要不確定,1期間モデル
 7.6.2 経済発注量モデル
7.7 確率的特性関数型の協力ゲーム
 7.7.1 達成可能集合
 7.7.2 確率的特性関数型の協力ゲームの仁
章末問題

第8章 双行列ゲーム
8.1 双行列ゲームの共同戦略
8.2 ナッシュの交渉解
 8.2.1 ナッシュの交渉解の公理
 8.2.2 ナッシュの交渉解の存在
 8.2.3 ナッシュの交渉解の他の特徴付
8.3 双行列ゲームにおけるナッシュの交渉解
 8.3.1 固定基準点のナッシュの交渉解
 8.3.2 変動基準点のナッシュの交渉解
8.4 譲渡可能な効用の存在
章末問題

第9章 種々の話題
9.1 NTUゲーム
 9.1.1 NTUゲームの定義
 9.1.2 NTUゲームのコア
 9.1.3 KKMS定理*
 9.1.4 シャープレイのNTU値
9.2 協力ゲームとその周辺
章末問題

引用・参考文献
問および章末問題の解答
索引

読者モニターレビュー【 DHMO様(業界・専門分野:心理学)】

本書は、複数の主体が関わる意思決定問題に興味があり、主な知的道具立てを揃えたい場合に推薦できると思われる。
導入では、細かく問(章末問題とは別に)と例が挟まれ読者が思考することを通した理解が促される点、代表的な問題と解や特徴の紹介では様々ある議論や深入りした証明は参考文献を指定してそちらに譲る形をとっている点など、「いったん理解する」にあたって寄り道を最小限に進められることを意図したものと思われ、それらに好感が持てる(読み手の立場によって好みは分かれるかもしれないが)。
全体に、現実場面の数学的表現に関わる話題は抑えている印象で、上述のことからもある程度の総覧的理解に向いている。そのような位置づけと読めるため、紹介している応用的トピックにも「次に当たる文献」へ適切に案内がなされていることもありがたい。

読者モニターレビュー【 ヤマダ様(業界・専門分野:IT関係)】

本著はゲーム理論における協力ゲームの基礎理論から始まり、基本的な解であるコア、シャープレイ値、仁を説明した後、割り当て問題や資産分配問題などの応用例について解の解説を行っている。
ゲーム理論を扱った書籍の中でも、特に協力ゲームに関する数学的な解説を含む専門書は少ないと感じられる中、文中の豊富な問や章末問題で読者の自学自習を助ける本書のような書籍は貴重である。
ただし、筆者もまえがきで指摘しているように、本著は現実の問題を協力ゲームとしてモデル化することではなく、あらかじめ特性関数型の協力ゲームの解析を行い、解を示すことに焦点を当てているため、前者を期待して読まれる方は留意されたほうが良いだろう。また、著者の前著「確率的ゲーム理論」(コロナ社)から続く形で8章が記載されていることもあり、モデルの定式化に関しては前著と併せて読まれるのがよかろう。
(前著はゲーム理論において古典的な非協力ゲームを取り扱っており、本著とは兄弟のような位置関係にあるため、ゲーム理論を総合的に学習されたい読者にもおすすめである)
更に近年研究が進んでいる確率的特性関数型の協力ゲーム(提携の成員が協力することで得られる価値が確率変数として扱われる)についても若干だが触れられており、豊富な参考文献とともに次の学習の道しるべとなっている。

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