パワーエレクトロニクス学入門 (改訂版)- 基礎から実用例まで -
実用化が広まってきたマルチレベル電力変換技術や電気自動車の技術動向を加筆
- 発行年月日
- 2022/04/30
- 判型
- A5
- ページ数
- 264ページ
- ISBN
- 978-4-339-00980-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
本書の特徴
電気・電子・情報系の学部学生が初めてパワーエレクトロにクスを学ぶ時の入門書(教科書)であり、基礎から始まり、学問体系の全体像が俯瞰できるように書かれている。さらに、後半7章では電気自動車を含めて実用例が詳しく解説してある。
本書の狙い
今後、CN(カーボンニュートラル)の分野がどのように発展しても、読者がこの教科書を使って、パワーエレクトロニクスの全体像を俯瞰しておけば、将来にわたり広い視野を持って活躍できるような人になってほしいとの意図をもって、この本はまとめてある。
改訂にあたり
1章「パワーエレクトロニクスの役割と基礎知識」:写真の追加。
2章「電力増幅と電力変換」:デバイスの追加説明。
3章「直流-直流変換」:電力変換の概念図の追加。
4章「直流-交流変換回路(インバータ)」:変調技術の追加説明。インバータの章を大幅に再構成し,実用化が広まってきたマルチレベル電力変換技術の基礎をわかりやすく書き起こした。
6章「交流-交流直接変換回路」:マトリックスコンバータの追加説明。
7章「システムとしてのパワーエレクトロニクス」:最新の電気自動車の技術動向,ディジタル制御機器や直流送電装置などを追加説明。
付録「PSIMソフトウェアの紹介(サンプル回路例)」:追加,修正
改訂版のまえがき
このまえがきを書いている時点で,東京2020オリンピックは1年遅れで開催され,日本は史上最大数のメダルを獲得した。かたやCOVID-19はまだ抑えきれておらず,地球温暖化の影響で熱い夏の祭典となった。ここ1年半は,空調の効いた空間で情報通信機器を利用したネット会議や,CO_2を削減する電気自動車を次世代移動手段としたいという世界的な要請の高まりなどのように,電気エネルギーを利用する省エネ技術などを核として,人流,物流,情報流が急速に変化してきた。そして,パワーエレクトロニクスはこのように急変する現代社会の社会インフラを構成する基盤技術として必要不可欠となっている。
2009年に初版を発行し,おかげさまで12年間で12刷を発行するに到った。過去12年の間に,電気自動車が発売され,LED照明は大幅に普及した。今後,新しいパワー半導体や再生可能エネルギー関連の新しい技術がますます発展していくと思われる。これからどのようにこの分野が発展しても,読者がこの教科書を使って,パワーエレクトロニクスの基礎を学習し,全体像を俯瞰することで将来にわたり広い視野を持って活躍できるようになってほしいとの意図をもって,新しい内容の追加・修正を行い改訂版を発行することになった。
今回の主たる改訂は,4章のインバータの章を大幅に再構成し,実用化が広まってきたマルチレベル電力変換技術の基礎をわかりやすく書き起こしたこと,および7章に最新の電気自動車の技術動向を加えたことである。これに伴い各分野の分野の専門家2名を著者に追加した。これ以外の修正は,1章での写真の追加,2章でのデバイスの追加説明,3章での電力変換の概念図の追加,4章での変調技術の追加説明,6章でのマトリックスコンバータの追加説明,7章でのディジタル制御機器や直流送電装置などの追加記述,付録でのPSIMの追加・修正記述などである。
この改訂の作業はすべてインターネットを使ったオンライン会議で行った。なお,この教科書に関して,忌憚のないご意見があれば,いつでも編集部までお知らせ下さいますようお願いします。
2021年8月末日
著者代表 河村篤男
まえがき
本書を書くことになったきっかけは,基礎パワーエレクトロニクス(ホフト先生原著,河村ほか訳,コロナ社,1988年)の本が10刷を越えたので,新しい内容を追加して今後20年は使える新しいタイプの教科書を書きたいと提案したことに始まる。パワーエレクトロニクスのパイオニアであるホフト先生の教科書は,基礎を中心に,何年経っても古くならない内容を丁寧にまとめてあったので,20年を越えるロングセラーとなった。著者もこの教科書で大学の講義を続けた一人である。1980年代に米国ミズーリ大学でホフト先生と一緒に仕事をした著者とその研究室の卒業生でこのような教科書を書くことになるとは,感慨深いものがある。折しも,2008年は,パワーエレクトロニクス生誕51年といわれている。1957年にSCR(silicon controlled rectifier)が出現した年を元年とするからである。
CO_2削減や地球温暖化などの地球環境問題は,世界的な規模での関心事となっており,これを救う技術の一つが,パワーエレクトロニクスであるといわれている。この学問は,電気エネルギーをいかに有効に利用するかを追求するもので,省エネルギー(省エネ)技術といってもよい。言葉としても広く浸透している“インバータ”は,パワーエレクトロニクスの産物である。現代生活を楽しみながら,エネルギーを節約した生活を送り,持続可能な社会を作るには,パワーエレクトロニクスの技術は必須である。1章の写真記事で紹介するように,蛍光灯照明,ハイブリッド車,新幹線,風力発電,インバータエアコン,あらゆる情報通信電気機器の電源装置などを含め,日常生活の中でパワーエレクトロニクスの恩恵を被っていないものはないといっても過言ではない。より一層の電化社会が到来すれば,パワーエレクトロニクス技術により,電気で物理的に動くものから,照明,通信,コンピュータ,IH調理まで電気で静かに動くものまで,省エネで効率よく日常生活を支えることの重要性は増してくる。
この教科書は,電気,電子,情報系の2年生から3年生が初めてパワーエレクトロニクスを学ぶときに,入門書として基礎をわかりやすく説明することを念頭に置いて書いてある。電力増幅の考え方から始まり,直流-直流変換,インバータ,整流器の順で説明してある。1学期で教える場合は,14回程度の講義で完結するように工夫してある。また,章末問題には,その章で学んだことのほかに,PSIMでの演習問題も含んでいる。一部のより詳しい解答などは(株)コロナ社のwebページ(https://www.coronasha.co.jp/)の本書関連ページで公開してある。さらに,この教科書の特徴として,最終章である7章に実用例紹介として,現場のエンジニアの視点から現実のパワーエレクトロニクス技術について書いていただいた。ここだけは内容が高度なものが多いが,現実の技術者の“わざ”を垣間見てほしい。特に,7.9節では,今,話題のパワーエレクトロニクス応用技術に関してまとめた。
著者の数が5名になったが,2回の合宿と4回の会合を実施し,意識あわせを行った。大学の教員(元エンジニア,国内外大学教員経験者)と現エンジニアの多彩な経歴の組合せで異なる観点から原稿をまとめてある。また,著者らの人脈を利用して,いろいろな方々から写真や資料を提供していただいた。特に,写真を提供していただいた,原修次氏(JR東海(株)),山下哲司氏(東芝キャリア(株)),坂本潔氏((株)日立製作所),松本康氏(富士電機アドバンストテクノロジー(株)),安田丈夫氏(東芝ライテック(株)),大森英樹氏(松下電器産業(株)),住吉眞一郎氏(松下電器産業(株)),および,写真と貴重な資料を提供していただいた寺谷達夫氏(トヨタ自動車(株))に厚く御礼申し上げる次第である。また,コロナ社の辛抱強い忍耐力のおかげでここまで仕上がった点も明記しておきたい。
この本の内容に関して,忌憚なきご意見を賜れば,講義に反映してよりよい教育を目指すことができますので,ご意見があれば是非お寄せください。
2008年11月
著者代表 河村篤男
1. パワーエレクトロニクスの役割と基礎知識【河村】
1.1 パワーエレクトロニクスの役割
1.1.1 インバータ電車,ハイブリッド車,LED照明
1.1.2 電力変換の四つの形
1.1.3 パワーエレクトロニクスの効果
1.1.4 パワーエレクトロニクスの要素分野
1.2 応用分野(動くもの,動かないもの)
1.3 基礎知識
1.3.1 平均値と実効値
1.3.2 電力
1.3.3 三相交流,線間電圧,相電圧
1.3.4 フーリエ級数と歪率
1.3.5 力率
章末問題
2. 電力増幅と電力変換【船渡】
2.1 電力増幅と電力変換の相違点と共通点
2.2 可変抵抗を用いた電力変換の原理とその効率
2.3 スイッチを用いた電力変換の原理とその効率
2.3.1 理想スイッチによる電力の変換
2.3.2 実際のスイッチの動作と損失
2.3.3 スイッチを用いた電力変換回路の効率
2.4 スイッチとして用いる半導体デバイス
2.4.1 スイッチの機能と分類
2.4.2 スイッチの移行条件と維持条件
2.4.3 ダイオード
2.4.4 トランジスタ,MOSFET,IGBT
2.4.5 組み合わせて逆電圧に対応したスイッチ
2.4.6 サイリスタ,GTO
2.4.7 スイッチのオンオフ判定
章末問題
3. 直流-直流変換【船渡】
3.1 LCの働き
3.1.1 LCの定常状態におけるふるまい
3.1.2 平滑作用
3.1.3 フィルタ作用
3.2 チョッパ回路
3.2.1 降圧チョッパ
3.2.2 昇圧チョッパ
3.2.3 昇降圧チョッパ
3.2.4 各種チョッパの比較
3.2.5 実際のチョッパにおける注意点
3.2.6 双方向チョッパ
3.2.7 出力象限の拡大
3.3 DC-DCコンバータ
3.3.1 フォワードコンバータ
3.3.2 フライバックコンバータ
3.3.3 ほかの絶縁型コンバータ
章末問題
4. 直流-交流変換回路(インバータ)【星,小原】
4.1 インバータの種類
4.2 電圧形インバータの基本回路と基本動作
4.3 単相電圧形インバータ
4.3.1 ハーフブリッジインバータ
4.3.2 フルブリッジインバータ
4.4 三相電圧形インバータ
4.4.1 3レグインバータ
4.4.2 V結線インバータ
4.5 マルチレベルインバータ
4.5.1 ダイオードクランプ方式
4.5.2 フライングキャパシタ方式
4.5.3 カスケード接続方式
4.6 出力電圧の振幅制御方法
4.6.1 低次高調波消去方式PWM制御
4.6.2 正弦波PWM制御
4.6.3 ヒステリシス制御
4.6.4 空間ベクトル変調
4.7 インバータの応用
4.7.1 CVCF
4.7.2 VVVF
4.8 モータドライブ
4.8.1 誘導電動機の制御
4.8.2 永久磁石同期電動機の制御
章末問題
5. 交流-直流変換回路(整流回路)【星】
5.1 整流回路の分類
5.2 他励式整流回路
5.2.1 単相ダイオードブリッジ整流回路
5.2.2 三相ダイオードブリッジ整流回路
5.2.3 単相サイリスタブリッジ整流回路
5.2.4 混合ブリッジ整流回路
5.3 PWM整流回路
5.4 複合整流回路
章末問題
6. 交流-交流直接変換回路【吉野,河村,小原】
6.1 サイクロコンバータ
6.1.1 目的・手段・用途1756.1.2実現方法
6.2 交流位相調整回路
6.2.1 目的・手段・用途1796.2.2実現方法
6.3 マトリックスコンバータ
6.3.1 目的・手段・用途
6.3.2 実現方法
章末問題
7. システムとしてのパワーエレクトロニクス
【吉野,横山,河村,吉本】
7.1 組み合わせた変換回路
7.1.1 間接交流-交流変換
7.1.2 チョッパとインバータの組合せ
7.1.3 多重化変換器
7.2 IGBT回路設計
7.2.1 IGBTの選定
7.2.2 IGBTの電圧・電流ストレス
7.2.3 IGBT回路設計概要
7.3 ゲート駆動回路
7.3.1 ゲート電圧・電流
7.3.2 ゲート回路の要素
7.3.3 ゲート回路によるオンオフ動作制御
7.4 熱設計
7.4.1 IGBT装置の発熱要素
7.4.2 IGBTモジュールの損失
7.4.3 冷却方式
7.4.4 温度上昇計算
7.5 保護回路
7.5.1 故障検出と除去
7.5.2 過大ストレスの抑制
7.6 センサ
7.6.1 電流センサ
7.6.2 電圧センサ
7.6.3 温度センサ
7.7 制御回路(コントローラ)と開発環境
7.7.1 パワーエレクトロニクス用コントローラ
7.7.2 コントローラの構成
7.7.3 ソフトウェア開発環境
7.8 制御理論および制御アルゴリズム(制御手法)
7.8.1 制御の区分
7.8.2 制御理論と制御手法
7.8.3 制御ループの多重性
7.9 応用例
7.9.1 UPS
7.9.2 系統連系インバータ
7.9.3 周波数変換
7.9.4 MMC変換器を用いた直流送電
7.9.5 プリウスやe-POWERなどの電動車両
付録:PSIMソフトウェアの紹介(サンプル回路例)
引用・参考文献
章末問題の略解
-
掲載日:2022/12/01
-
掲載日:2022/09/01
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掲載日:2022/07/04
関連資料(一般)
- PSIMファイルと章末問題詳解